新製品レビュー

SIGMA 28mm F1.4 DG HSM|Art

待望の28mmが追加 Artラインならではの高画質

「SIGMA 28mm F1.4 DG HSM | Art」は2018年1月に発売された単焦点レンズで、これによりシグマのArtライン広角単焦点レンズは14mm、20mm、24mm、28mm、35mm、と隙の無い5本のラインアップとなった。

シグマArtラインの単焦点レンズはどれも最高峰の描写性能を誇り、この28mm F1.4に期待していた人も多いだろう。今回キヤノンEFマウント用を使う機会を得たのでさっそくレビューしていきたい。評判通りの描写性能を発揮し、より高画素なカメラが欲しくなると感じたレンズだ。

様々な場面で使いやすい焦点距離28mm

28mmという焦点距離はちょうどスマートフォンのカメラに近い画角であるため、スマートフォンで撮影をよくこなす人にとっては親しみを感じやすく、すんなり受け入れられる焦点距離だろう。一方、標準ズームレンズの広角端に近い画角で、様々なものが写りこんでくるため50mm前後の画角が好きな人にとっては取っつきづらいと苦手意識を持っている人も少なくないはずだ。

多くの人が使うスマートフォンのカメラがこの画角に近いことから分かるように、28mmという焦点距離は工夫次第でどんなシーンでも活躍できる。スナップであれば街全体の雰囲気を取り入れながら画面構成ができるし、ポートレートなら親密な距離感での寄りのカットから全身のカットまで、自分の足を使い被写体の距離感をコントロールすることで様々なバリエーションを作り出すことが可能だ。

さらに本レンズの場合は、開放F1.4で最短撮影距離28cmとしっかり寄れるため、広角でありながら大きなボケを生かした写真も撮りやすい。開放から非常にシャープなレンズだが1~2段絞るとさらに解像感が高まるため、高画素機と組み合わせて風景に使うのも良いだろう。

仕様と特徴

レンズの光学設計としては、特殊低分散ガラスのFLDガラスを2枚、SLDガラスを3枚と贅沢に使い、さらに非球面レンズも3枚使用することで色収差を徹底的に排除しており、非歪曲も大きく低減させている。全体としては12群17枚構成で865g(SAマウント用)、フィルター径は77mmだ。最短撮影距離は28cmと、しっかりと寄って撮影することができる。最大撮影倍率は1:5.4(0.19)となる。

他のArtラインのレンズと同じくかなり存在感のあるレンズで、単焦点としては重いと感じてしまうかもしれないが、今回組み合わせたEOS 5D MarkIVとのバランスは悪くない。EFマウントユーザーならEF24-70mm F2.8L II USMとほぼ同じくらいのサイズ感だと思ってもらうとイメージしやすいだろう。

今回はEOS 5D Mark IVとの組み合わせた。

フィルター径は77mmに抑えられているため一般的なカメラバッグへのレンズの収まりも問題ない。

外観は他のArtラインレンズと同じ統一感のあるデザインで、鏡筒は金属製。フォーカスリングは十分な幅をもつラバー製でMF操作もやりやすい。

本体にはAF/MF切り替えスイッチと距離目盛りも搭載されている。その他、高速なAFを実現する超音波モーター(HSM)や防塵防滴機構も採用され、付属する花形レンズフードにはロック機構が搭載され細部までしっかりとした作りだ。

EFレンズ用はカメラ内でのレンズ補正(歪曲、周辺光量、色収差)を使用することが可能にもなっており、JPEG撮って出しでも補正の効いた結果を得ることができるのもポイントだ。

ライバル

EFレンズ用の28mm単焦点レンズとしては純正の「EF28mm F2.8 IS USM」、「EF28mm F1.8 USM」が存在するが、どちらも軽量、コンパクト路線の非Lレンズのため利用シーンとしては本レンズと重なることは少なそうだ。描写性能を重視するか、コンパクトで軽快な撮影を重視するか、という所で明確な棲み分けができるだろう。

28mm F1.4というクラスで真のライバルと言えそうなのは、ZEISS自ら「世界最高の広角レンズ」と表現する「Otus 1.4/28」だろう。サイズ感もお値段もまさに弩級のスーパーレンズだが、本レンズはそれに迫る性能を有するとも言われる(今回撮り比べは行っていない)。Otusと比べるとサイズ、価格ともにリーズナブルで、しかもAF付きとかなり実用的なレンズと考えることもできる。

作例

開放F1.4を謳うレンズでも開放時の描写は甘く、解像感を出したいなら結局F2.0付近まで絞って撮影しなければならないレンズが多いけれども、本レンズに関してはその心配はいらない。全く躊躇することなく開放F値F1.4から使用することが可能だ。

EOS 5D MarkIVの約3,040万画素をしっかりといかす解像感で、より高画素なローパスフィルターレスのカメラで使えば、さらなるキレを体感できそうだ。

背景のボケ感も実体をイメージできる程度にちょうどよくボケてくれるため街の中でのスナップ感覚のポートレートに重宝しそうだ。

EOS 5D Mark IV / SIGMA 28mm F1.4 DG HSM | Art / 28mm / 絞り優先AE(1/800秒・F1.4・-0.7EV) / ISO 100

モデルから数m離れれば、全身とともに街の様子を入れ込んだ構図での撮影ができる。広角で全身を入れると背景がうるさくなりがちだが、程よくボケて情報量を落としてくれるため、しっかりと被写体にフォーカスさせる絵作りが可能だ。

この作例は周辺光量のカメラ内補正をOFFにしているが、被写体が中心付近にいるならあえて周辺光量落ちを残しておき視線を中央に誘導させる効果を狙うのもおすすめだ(以降の作例はすべて周辺光量補正ON)。

EOS 5D Mark IV / SIGMA 28mm F1.4 DG HSM | Art / 28mm / マニュアル露出(1/1,250秒・F1.4) / ISO 100

モデルに右手でフードの一部を持ってもらった。本レンズでバストアップくらいの、寄りの写真を撮るなら手の届く距離感での撮影になる。28mmでポートレートを撮る場合は、一歩踏み込んだ距離感で撮影することでさまざまなバリエーションをつくる事ができる。

充分に寄っていながらも画角が広いため、空いたスペースにしっかり背景を配置できるのもポイント。

EOS 5D Mark IV / SIGMA 28mm F1.4 DG HSM | Art / 28mm / マニュアル露出(1/640秒・F1.4) / ISO 100

広角レンズならではの1点に消失点が収束するパース表現も楽しみたい。このように背景に奥行きがあるシーンなら簡単に大きなパースを作ることができる。ローアングル気味に撮影することで脚を長く見せることができるのも、広角レンズならではの特徴だ。

EOS 5D Mark IV / SIGMA 28mm F1.4 DG HSM | Art / 28mm / 絞り優先AE(1/1,250秒・F1.4・+0.3EV) / ISO 320

最短撮影距離に近い距離感で撮影。ここまで寄るとレンズフードがモデルに当たりそうになるくらいの距離感となる。近接域でも開放からシャープな描写となり、非常に浅い被写界深度を楽しむことができる。

ただし、寄りすぎると広角特有のパースにより周辺部の形がゆがみやすいため、モデルの配置に注意したい。

EOS 5D Mark IV / SIGMA 28mm F1.4 DG HSM | Art / 28mm / マニュアル露出(1/500秒・F1.4) / ISO 100

ロウバイの黄色い花を前ボケにしてハイアングルで撮影した。前ボケも質感も見事でしっとりと柔らかなボケ感を楽しむことができる。厳しいことを言えば、後ボケは前ボケと比べると若干ザワつく感じがあり、もう少し柔らかくなってくれると最高だった。

手を上に伸ばしてライブビューを見ながらのやや無理をした態勢で撮影したが、AFのレスポンスがよく、カメラとのバランスも良好だったのが助かった。撮影時の天候はどんよりとした曇り空だったため、画面右側からストロボをいれてメリハリを出している。

EOS 5D Mark IV / SIGMA 28mm F1.4 DG HSM | Art / 28mm / マニュアル露出(1/640秒・F1.4) / ISO 100

太陽を直接画面に入れるような逆光状態での撮影も試したが、この程度であればフレアやゴーストはほとんど気にしなくて良い。F5.6での撮影だが合焦面では枝の1本1本がとても良く解像していることも分かる。

EOS 5D Mark IV / SIGMA 28mm F1.4 DG HSM | Art / 28mm / 絞り優先AE(1/500秒・F5.6・+1.3EV) / ISO 100

広い景色をF8まで絞って撮影。解像のピークはF4前後で、F8以降は少しずつ回折の影響で甘くなってくる。ただ、これは開放付近の解像感が高すぎるため相対的に絞ったときの回折の影響が大きく感じるといっても良いかもしれない。広角のためF5.6程度でも遠景であれば被写界深度は稼げるが、しっかり絞り込みたいときは悩ましい選択となりそうだ。

本レンズはカメラ内で歪曲の補正も可能だが、広角でありながらもともと歪曲の非常に少ないレンズで補正無しでもほとんど違和感を感じることはない(この作例は歪曲補正なし)。

EOS 5D Mark IV / SIGMA 28mm F1.4 DG HSM | Art / 28mm / 絞り優先AE(1/400秒・F8.0・+0.3EV) / ISO 100

シグマのEF用レンズの良い所はマウントコンバーター「MC-11」(EF→E)でソニーEマウントでも使える事だ。MC-11を介してソニー「α7R III」で使用してみたが問題なく使用できた(MC-11のファームアップが必要)。

EFマウントボディに付けた時よりAFに若干のぎこちなさを感じたが、厳しいAFが求められるシーンでなければ問題なく使用できそうだ。最短撮影距離が短いためテーブルフォトなどにも活用しやすい。

α7R III / SIGMA 28mm F1.4 DG HSM | Art / 28mm / 絞り優先AE(1/100秒・F2.8・+0.7EV) / ISO 100

まとめ

シグマArtラインの広角単焦点として5本目のレンズとなるSIGMA 28mm F1.4 DG HSM | Artの使用感をまとめた。事前の予想通り非常に高い解像度を発揮し、本レンズの性能をフルに生かすならEOS 5Ds Rなどさらに高画素機を使用しても良さそうだという印象だ。レンズの開放F値を解像面での心配をすることなく使えるというのは非常に気持ちがいい。

価格も10万円台前半と開放F1.4のレンズとしてはリーズナブルなのもポイント。一方で多くのArtラインレンズと同じようにサイズ感はそれなりにあることは覚えておきたい。

後ボケに若干のザワつきを感じる人もいるかもしれないが、総合的に見れば抜群の写りといって良く、あとは他のレンズと共にこのサイズ感のレンズを持ち歩く覚悟があるかどうか、28mmが好きかどうかの問題になるだろう。

多少大きくてもOKで28mmが好きな人であれば本レンズは迷わず手に入れるべきレンズだと感じた。

モデル:いのうえのぞみ

中原一雄

1982年北海道生まれ。化学メーカー勤務を経て写真の道へ。バンタンデザイン研究所フォトグラフィ専攻卒業。広告写真撮影の傍ら写真ワーク ショップやセミナー講師として活動。写真情報サイトstudio9を主催 。