新製品レビュー

FUJIFILM XF10

ポケットに収まるAPS-Cセンサー搭載コンパクト

FUJIFILM XF10(以下 XF10)は富士フイルムがこの8月に発売したばかりの新型コンパクトデジタルカメラである。文字通りコンパクトでスリムでありながら、搭載する撮像センサーは2,424万画素のAPS-Cサイズセンサー。1.0型センサーのコンパクトカメラが世を席巻する中、ひとまわり以上も大きなセンサーのコンパクトデジタルカメラが登場したことが何よりものトピックと言えるだろう。

しかも、焦点距離18.5mm(35mm換算で約28mm相当)の単焦点レンズを固定搭載するという、実に玄人好みなスペックである。

富士フイルムの焦点距離28mmのコンパクトデジタルカメラと言われて、ファンならハッとなるのが、名機と言われたX70とXF1の存在だ。X70は本機XF10と同じくAPS-Cサイズのイメージセンサーを搭載するカメラだが、こちらは「X-Trans CMOS」を搭載したバリバリの本格派"X"だった。一方で、XF1はXシリーズを象徴するような優美なデザインが人気のコンパクトデジタルカメラであったものの、搭載イメージセンサーはずっと小さな2/3型であり、レンズも35mm判換算24-100mm相当のズームレンズであった。

こうしたX70とXF1を足して割ったような名前で登場したXF10。今回はその実力の程をシッカリ確認してみようと思う。

ライバル

まず、焦点距離28mmで対抗機種となるカメラは何かを確認しておきたい。というのも、このクラスには名高いライバル機として、リコーの「GR II」が存在するからだ。コンパクトなボディに、APS-Cサイズの撮像センサーを搭載し、焦点距離18.3mm(35mm換算で約28mm相当)の単焦点レンズを固定搭載している。

ほぼ同じスペックのライバルであるGR IIは、銀塩時代からスナップシューターとしての名高い歴史を積んでいるだけに、正直言ってしまえば分が悪い勝負だと思う。

だが、富士フイルムには「フィルムシミュレーション」に代表される画作りの良さと、「フジノンレンズ」の名で語られる高い光学設計技術がある。XF10はその富士フイルムが出した最新鋭機だけに、価格や使い勝手も含めた総合評価でどちらが勝るかは未知数だと言えるだろう。

デザイン

デザインは前述の通り、APS-Cセンサー搭載機とは思えないコンパクトでスリムな外観を特徴としている。外形寸法は、幅が112.5mm、高さが64.4mm、奥行きが41.0mmとなっており、これはライバルとして挙げたGR IIとほぼ同じサイズ感である。

全体はエッジの利いた直線基調でまとめられているが、手にあたる角部などは絶妙な曲線で仕上げられており、オーソドックスなスタイルながらも、ホールディングした時の手に馴染む感覚はなかなか秀逸で感心できるものがある。片手で構えることも多いコンパクトデジタルカメラだけに、この手に馴染む感覚のよさというのは重要だ。

カラーバリエーションには、シャンパンゴールドとブラックの2つが用意されている。高級感に関してはどちらも上手く演出されているが、優雅でエレガントなシャンパンゴールドと、そこはかとなく精悍さを醸し出すブラックと言ったように、同じデザインながらここまで異なるイメージの使い分けができるあたり、富士フイルムはカメラの見栄えがよく分かっているメーカーだなと思える。

基本装備

搭載する撮像センサーは、2,424万画素のAPS-Cサイズ。繰り返しになるが、コンパクトデジタルカメラに搭載されるイメージセンサーとしては非常に大面積であることに注意してもらいたい。同じ画角であれば、イメージセンサーサイズが大きくなる程に背景ボケが大きくなるため表現の幅が広がり、階調再現や高感度特性に対しても有利となる。

ただし、上述のX70を含めたXシリーズの上位機種などに搭載されている、富士フイルム独自の「X-Trans CMOS」(独特なカラーフィルター配列により、センサーサイズを超えた高い解像感を特徴とする)の採用は見送られており、一般的なデジタルカメラに搭載されているのと同じ、いわゆるベイヤー配列の撮像センサーである。

これが、スペック的にはX70に近くとも、ネーミングはXF1寄りな所以であるのかも知れない。

固定搭載するレンズは、焦点距離18.5mm、開放F2.8の「フジノン」単焦点レンズ。特にオリジナルの名称は付けられていないが、イメージセンサーと一体で開発・最適化された専用設計のレンズである。

焦点距離18.5mmは、35mm判換算で約28mm相当であり、スナップ撮影に最適とされて昔から愛用されてきた画角である。いわゆるパンケーキレンズやキャップレンズと呼ばれるレンズのような薄型を実現していながら、F2.8という明るさは立派と言えるだろう。

このレンズスペックを採用したあたりから、本機のターゲットユーザーが見えてくる。

XF10で使用できる記録メディアは、UHS-Iまでに対応したSDXC/SDHC/SDメモリーカード。4K連写やマルチフォーカス撮影、動画を撮影する場合は、スピードクラス3以上のメモリーカードの使用が推奨されている。

バッテリーはボディ底面に格納されており、メモリーカードスロットと同室である。同梱のリチャージャブルバッテリー「NP-95」1個で撮影できる標準枚数は約330枚(CIPA規格準拠)となっている。

端子類は(カメラを構えた状態で)ボディ右側面にある。カバー内には3つの端子が設けられており、一番上がマイク/リモートレリーズ端子で、中央がHDMIマイクロ端子(TypeD)、一番下がマイクロUSB端子(Micro-B)となっている。

操作性

カメラ上面には、モードダイヤル、シャッターボタン、シャッターボタンと同軸上に配されたフロントコマンドダイヤル、リアコマンドダイヤル、および電源ボタンが並んでおり、X70やXF1とも異なった独特のレイアウトが特徴となっている。

富士フイルム製のレンズ交換式カメラ、X-T100やX-A5に近い操作体系のようにも見えるが、コマンドダイヤルの配置が全く異なる(XF10ではコマンドダイヤルが2つある)ので、本機のために新たに策定されたレイアウトと見た方が良いだろう。

上面の操作系以外にも、機能の設定を簡単に変更できるコントロールリングや、好みの機能を割り当てることができるFnボタンなどを装備しているため、コンパクトなカメラながらも、カメラ設定のスムーズさや自由度は十分に高い。

面白いのはドライブダイヤルならぬドライブボタンが備えられていること。このボタンを押すと液晶モニターがドライブモード選択画面となる。「1コマ撮影」や「連写」などの他、「AEブラケッティング」や「動画」と言ったモードも、ここで選択できるので、覚えておくと便利に使える。

背面モニター

背面モニターには約104万ドットの3型が採用されている。タッチパネル機能を搭載しており、スマートフォンからのステップアップユーザーでも違和感なくタッチ操作ができる。最新のコンパクトデジタルカメラとして相応な機能だろう。しかしモニターは固定式。X70では上下チルト式モニターを採用していたため残念に思えるが、XF1寄りに仕様を寄せたということだろうか。

ただ、それに代わるかのように、フォーカスレバーを新搭載してくれているので、先に述べた無念もさっぱりと解消される。フォーカスレバーは新型のXシリーズ上位機種も搭載している機能で、名前の通り、フォーカスエリアを自由に動かせたり、設定の設定などの時に直感的な操作を可能としてくれたりする。コンパクトデジタルカメラでの同様の機能の採用は珍しく、嬉しい英断をしてくれたものである。

ワイヤレス通信

充実したワイヤレス通信機能を搭載しているのもXF10の特徴だ。Wi-Fiによる無線LANはもちろん、現代カメラで標準となりつつあるBluetooth 4.2(BLE:Bluetooth Low Energy)にも対応している。BLEによって簡単にスマートフォンやタブレットなどとペアリングすることができ、撮影した画像をスマートフォン側に自動で転送するなどといったことが可能だ。

無料の専用アプリ「FUJIFILM Camera Remote」(iOS・Android)をインストールすれば、リモート撮影、画像受信、カメラ内閲覧、リモートレリーズなどのワイヤレス機能も簡単に操作できる。

その他機能

XF10は、ほかにもちょっと目を引く新機能がある。背面モニターのタッチパネルをスワイプするだけで、1:1のスクエアな画角に切り替わる「スクエアモード」だ。スクエアと言えば、昔からの写真愛好家なら、中判銀塩カメラの6:6を連想するものであるが、当節流のコンパクトデジタルカメラがこの新機能で意識しているのはInstagramへの対応であろう。

前述の充実したワイヤレス通信機能を使えば、スクエアで撮影した画像を即座にスマホに転送することができる。そして、そのまますぐ希望するサイトに投稿できるという訳だ。

この他、XF10がスナップ撮影を意識したカメラであると感じるポイントが「スナップショット」機能である。焦点距離18.5mmという広角レンズの特性を活かし、目測による素早い撮影をしたい時に便利な機能。撮影距離と絞り値が固定されることで、ほぼパンフォーカスな被写界深度となる。撮影距離は5mまたは2mから選択できる。

作例

センサーサイズや新機能も大切だが、富士フイルムのデジタルカメラで忘れてはならないのがフィルムシミュレーションだ。同社のフィルム再現をシミュレートした仕上げ設定を、他のXシリーズ同様に選びながら撮れるのもXF10の魅力のひとつだろう。

柔らかく階調を再現しながらも鮮やかな発色の「ASTIA」で花の群生を撮ってみた。

XF10 / 18.5mm(28mm相当)/ 絞り優先AE(1/70秒・F2.8・±0EV) / ISO 200

28mm相当の画角とスナップ撮影はやはり抜群の相性だと思う。無理のない広角で、目についた光景をパシパシ気軽に撮ることができる。コンパクトなボディなので、気負うことのない軽快さも好印象だった。フィルムシミュレーションは「PROVIA」を選択。

XF10 / 18.5mm(28mm相当)/ 絞り優先AE(1/105秒・F8.0・+0.3EV) / ISO 200

高感度特性を見てみたいと思い、ISO感度を6400に上げて撮影した。結果はご覧の通り、拡大すれば多少のノイズも見てとれるが、ほとんど気にする必要のない優れた高感度耐性を見せてくれた。大型センサーだからと言うこともあるが、富士フイルムのカメラは総合的に見て画像処理が実に巧みだ。

XF10 / 18.5mm(28mm相当)/ 絞り優先AE(1/640秒・F4.0・-0.3EV) / ISO 6400

最短撮影距離10cmの近接撮影能力を持つため、被写体に近づいて撮影できる。絞り開放F2.8で撮影したが、ピント面は画面の隅々まで極めてシャープ。この画質なら、X-Transでなくとも、A3サイズを優に超える大判プリントにも十分耐えることができるだろう。逆光にもかかわらずゴーストやフレアが皆無であることにも注目してもらいたい。フィルムシミュレーションは「Velvia」を選択。

XF10 / 18.5mm(28mm相当)/ 絞り優先AE(1/110秒・F2.8・±0EV) / ISO 200

一切の歪曲がない端正な写りに驚いた一枚。撮像センサーに最適化した専用設計と言うこともあるかもしれないが、広角レンズにしてこの歪みのなさは驚異的だ。SNS等への画像アップロードも意識したカメラではあるが、描写性能は間違いなく本物なので、それだけで終わってしまってはもったいないと思えてくる。

XF10 / 18.5mm(28mm相当)/ 絞り優先AE(1/1000秒・F5.6・-1.4EV) / ISO 200

XF10は動画撮影もできる。HDから4Kまでの撮影が可能であるが、記録画質は4K/15pが最高となるため、被写体はパラパラした動きになってしまう。もとより広角単焦点を固定搭載したカメラなので、ズームインやズームアウトも撮影者が足で行うしかない。

身近な友人や家族の記録撮影用として、無理せずFull HDやHDでの動画撮影を基準とするようにしたい。

まとめ

X70の系譜なのかXF1の系譜なのか、一見するとどっちつかずに思えるXF10だが、その立ち位置は、現代のデジタルカメラ環境の中で空白となっていたニッチな部分を見事に探り当てたカメラであることが分かった。

X70はシャッター速度ダイヤルや絞りリングを備えるなど、確かに通好みの高級感溢れるコンパクトデジタルカメラであったが、XF10は決してその後継機を目指している訳ではない。日常使いのコンパクトデジタルカメラに必要な機能を突き詰めた結果(=削ぎ落し)としてのスタイルをもち、これからのデジタルカメラに必要な最新機能を付与した結果(=進化)としての名前が与えられた。

画質はAPS-Cサイズセンサー搭載機として十分、というより高画質である。フォーカスレバーやコントロールダイヤル/リングの搭載により、操作性も良好。サイズは、X70の特徴を継承して、まぎれもないポケットサイズを維持している。何より、ボーナスプライスとも言える価格を見れば、誰もがその実用性の高さに納得できるのではないだろうか。

XF10は間違いなく高い資質をもった、現代の"スナップシューター"なのである。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。