新製品レビュー
SONY α9(実写編)
20コマ/秒のAF性能をテスト レッドブル・エアレースでの撮影も
2017年6月26日 07:54
24メガピクセルで約20コマ/秒、そしてブラックアウトフリー。ソニーのセンサー技術がとうとう実現させた新次元スペックのα9は、カメラに携わる仕事や趣味を持っている方ならばどんな人でも興味が沸く存在だろう。
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/review/newproduct/1062149.html
前回の記事では簡単ながら機能や外観を説明したが、今回は実際に撮影を行った作例をもとにその所感をお伝えする。限られた期間でのレビュー撮影とあって、主要機能に絞らざるを得なかったことをお詫びするが、別次元のスペックを持ってして臨む撮影は、久々に機材を使いこなそうとする高揚感の中で続けられた。
撮影結果にとらわれず、カメラ機器を自らの表現手段の1つとしている人にはこの高揚を解っていただけると思うが、そんな充足を味あわせてくれるカメラであったと、まずはお伝えする。
このα9を、6月上旬に幕張海浜公園で行われた「レッドブル・エアレース・千葉2017」にも持ち込み、数シーンを撮影した。イベントの主役であるアクロバット飛行のみならず、レッドブルがサポートする新種のエクストリーム競技のエキシビションもいくつか行われていたので、そんなシーンも織り交ぜてお送りする。
連写
今回の作例は基本的に電子シャッターでドライブモードはH、AFはAF-Cのレリーズ優先。AFエリアは拡張フレキシブルスポット/ロックオン。JPEGのエクストラファイン。画質設定のクリエイティブスタイルはスタンダードである。
シーン1
フリースタイルBMXの中でも、設置されたジャンプランページに勢いよく進入し、宙に浮いた時間の中で技を決めるエア。技が決まる瞬間をある程度余裕のあるフレーミングとしながらもパンフォーカスにならず、AF追随性が見て取れるように中望遠となるFE 70-200mm F2.8 GM OSSを装着した。
普段はRAWで撮ることが習慣になっている私だが、高速連写によるファイル容量の増加を避ける意味で、JPEG最高画質であるエクストラファインのみの設定にした。
環境輝度は安定した晴天ながら、背景もライダーの姿勢も変わって行く状況。AEを使いたかったものの約20コマ/秒を引き出すためにマニュアル露出を使い、被写界深度による合焦エリアと見違えないよう絞りは開放気味のF3.5した。シャッターはある程度の動きなら止められる1/1,250秒。AFは主要被写体が画面上のどこに動いても追い続ける、拡張フレキシブルスポット/ロックオンモードで撮影に臨んだ。
ジャンプの頂点で、ハンドルグリップだけで車体を保持しながら全身を後方へ伸ばす「スーパーマン」を決めるライダーは大西勘弥選手。ジャンプのためにランページへ加速し始めるタイミングでAF-ONするが、その追い始めでは70mmの焦点距離とあってまだまだ彼の姿は小さい。
着ている黒のTシャツが、背景の森林の影部や後方のオートバイ用ランページの黒い部分と区別がつかないようで、半拍ほどおいてからの合焦作業に感じられる。
しかし、一度合わせてしまえば、ロックオンの食いつきは確かなもので、その後に続く複雑な技の動きにも追随した。Exif情報から判断できる連写枚数は20コマ/秒。キッチリ、カタログスペック通りの連写を果たした。
その反面、主要被写体との区別が難しい場合に背景の森林部へ合焦してしまうことも時折あり、明確な差異が認められた時点でのAF-ONが効果的だと理解した。
シーン2
弾力を持つように張られた平たい紐の上を歩くなどして楽しむ「スラックライン」。このラインの上でトランポリンのようにバウンスし、再び紐の上に降りて技を決める競技版のスラックラインシーンだ。僅か5cm程の幅しかないスラックラインの上を自在に飛び回るのは林英心選手、なんと9歳!
紐のたわみ、ジャンプの高さをわかりやすくするためにフレーミングを固定させる。狭い観客エリアとあって、三脚が使用できない状況である。元来の一眼レフカメラならミラーアップのたびにフレームが大きく動いてしまう心配があったが、ブラックアウトフリーとなって、手持ちながら安定したフレーミングによる約20コマ/秒での撮影ができた。
数分間に続く演技の中で続けて繰り返される大技を逃さないようシャッターを押し続けるが、20コマ/秒でJPEGエクストラファインの画像を約18秒間受け入れるバッファメモリの豊富さには助けられる。
ただ、SDカードへのデータ書き込みが終わらない限りには、メニュー表示や設定、撮り終えた最新画像の確認ができないのはかなり残念だった。しかし、メニュー操作に至っては4つのカスタムボタンやファンクションボタンなどに予め割りあてておけば、書き込み中でも呼び出すことができる。もちろん変更も可能なので、AF関連の項目など頻繁に変える可能性のあるものを設定しておくべきだろう。
シーン3
ドッグランにてボーダーコリーのバニー(3歳♀)がフリスビーをキャッチする瞬間を狙う。
後ろ足も画面内に入れたかったのだが、口を大きく開けフリスビーに近づく際、バニーはやや縦方向に飛ぶために縦位置に構えた。こんな時こそ安定したフレーミングが得られる縦位置グリップの存在が頼もしい。
カメラから20~30m離れた飼い主の元から、フリスビーを追いかけカメラ側に走り出すバニーを確認し、AFをONにする。綺麗な白黒の毛並みが向かってくるが、捉えはじめは中型犬とはいえ70-200mmのレンズでは画面内で小さく、シーン1と同様に背景の樹木に合焦してしまうこともあったが、指を離して一度停止させ素早くAF-ONをやり直し、合焦させてからのロックオンで見事に納められた。
ダイナミックレンジ
龍ヶ崎飛行場の格納庫に納められた、里帰りプロジェクトの一環で立ち寄ったゼロ戦である。ハイライト部は扉の外から差し込む外光が機体に反射する部分。シャドー部はその光のあたらない濃緑の機体。
色味のないコントラストのついた厳しい状況であるが、ハイライト、シャドー部をRGBのポインターで追いかけてみると、白飛び、黒つぶれの部所が僅かにしか存在しない粘りのある階調を出していることがわかるだろう。
高感度
許容できるであろう感度と最高感度の2通りを掲載する。なお、拡張設定ではISO204800まで選択可能となるがあくまで緊急用途であり、今回はメカシャッター時の常用最高感度となるISO51200で撮影した。
いずれもRAW+JPEG設定での撮影のため、JPEGはLサイズの「ファイン」となり、JPEG最高画質の「エクストラファイン」に比べ圧縮率が一段階大きくなっていることに注意して頂きたい。高感度時のノイズリダクションは「弱」と「標準」、そして「OFF」が選べるがデフォルトの「標準」に設定した。
シーン1
ノイズ感が目立たず、コントラストの上昇も抑えられている印象だ。後方飛行機のノーズにあるハイライトの白飛びも僅かで、続くグラデーションも自然に再現されている。
等倍表示で見ると、手前機体の側面にある中間から暗部にかけては輝度ノイズ、カラーノイズとも発生しているがわかる。照明の色とカラーノイズとして乗ってくるオレンジ色っぽいノイズとの区別が付かない不利な状況ながら、カメラ側の背後にある照明が小さく反射し濁りなく写っているのを見ると、艶やかに表現できていると思う。
アンチディストーションシャッター
最高1/32,000秒を実現した電子シャッターは、一方で動体の歪み(ローリング歪み)を極力抑えられるという「アンチディストーションシャッター」と謳っている。そこで、ローリング歪みをα7R IIの電子シャッターと比較した。
時速70~80km/hで通過するモノレールを50mほど離れて真横から狙った。違う列車なので厳密には速度が違う可能性もあるが、この地点はアクセルにあたるノッチが切られ、断流器から発せられる「パコン」という音が聞かれる数秒後の直線部分なので、惰行に入り加減速をしないある程度一定速度を保つ区間と判断できる場所だ。
α7R IIでは最高シャッター速度である1/8,000秒で電子シャッターとなるサイレントモードを選ぶ。α9も電子シャッターの1/8,000秒に設定。両機種ともレンズによる湾曲を避けるためレンズ補正の全項目を「オート」にした。
結果はご覧の通り一目瞭然。α9にも僅かながらの歪みが確認できるが、α7R IIに比べると気にならないと言える。
Aマウントレンズを使う
500mm F4 G SSMをマウントアダプターLA-EA3を介して装着し、レッドブル・エアレースの決勝ラウンドで飛ぶ室屋義秀選手のスラロームをAPS-C相当のクロップモードで撮影した。35mm判換算750mm相当で解像度は約1,030万画素となる。
LA-EA3によるAマウントレンズ使用時はいくつかの制限を受ける。LA-EA3の場合、AFはSAM/SSMのモーター内蔵レンズの場合にのみ使える。またAFエリア設定は、この500mmレンズだと拡張フレキシブルスポットのロックオンなど最新のモードには対応できていない。連写速度も落ちる。
連写速度がなるべく落ちないよう、露出モードをマニュアルとしたが、Exif情報から確認すると11コマ/秒ほどに落ちていることが判明した。
シーン1
室屋選手が駆る機体が曇り空にも映える色だったので、AFエリアを「ワイド」モードに設定しても、追随性を「粘る」にしておくことで、画面上を横切ることになるパイロンにも惑わされずに合焦し続けた。
機体を画面の一定位置に留められなかった証拠をここでお見せするのは恥ずかしいが、これでも“ミラード”(ミラーレスの反意語として)カメラに比べれば要所要所で留めることができたと前向きに考えている。
動画
シーン1
スチールの35mm判(3:2)から上下を切り取った動画判フルサイズ(16:9)から1.2倍相当のクロップとなる4K30pモードで撮影。
70-200mmで70mm側に固定し(84mm相当の画角)、Aマウントの連写シーンと同じ城南島で向かってくる航空機をフォローし、パンをしながら逃がしていく。
マニュアル露出ができるので、ISO800、1/100秒、F8とやや絞り気味に設定。一面を覆う灰色の雲に若干のノイズが乗っているが、機体に映し出される夕陽の反射や翼下面のフラップなどのディテール描写には4Kながらの再現性が表れている。
FE 70-200mm F2.8 GM OSS / 1/100秒 / F8 / マニュアル露出
シーン2
同じく4K30pで感度をISO12800にまで上げた。1/30秒、F5.6、ホワイトバランスは4000K。まだまだ感度設定で明るく表現できたが、夜間であることを感じさせながら、見た目の感覚に近づけるためにこの明るさ(感度)とした。
高感度でもザラザラとした印象はなく、尾翼のロゴマーク、赤く点滅するアンチコリジョンランプで照らし出されるメインギヤの細部もハッキリとわかる。シーン1にも言えるのだが、パンで追いかけてはいるものの、画面を動いて横切っていくような被写体にはやはり60pのフレームレートが欲しいところだ。
FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS / 1/30秒 / F5.6 / マニュアル露出
シーン3
露出モードダイヤルに独立して設けられた「スロー&クイック」モードで、30pの再生に対して4倍のスローとなる120fps撮影をFE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSSを装着して行った。
怪我や選手寿命にも影響する踵からの着地になっていないか、フォーム改良に励む陸上長距離選手の足着き具合を、解析のために正面から撮影した。
向かって左側の選手が足裏全面からの理想的な着地に近く、右側の選手は踵からドスン、つま先にかけてパタンと着地し負担が掛かっているのが良くわかる。尺の後の方こそAFを外しているが、それまでは上下動のある難しい被写体ながらフォーカスを追随させていた。
FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS / 1/320秒 / F5.6 / マニュアル露出
作品
今年も千葉の空を制した地元出身の室屋義秀選手。レース前に公開された浦安の岸壁に作られた仮設飛行場のハンガーにて。
日陰で輝度の比較的低い場所なのだが、陽がさんさんと注ぐ周りの明るさに惑わされ、その場が暗くなっていることに気が回らなかった。いつの間にかスローシャッターになっていたが、優秀な手ブレ補正に大部分で助けられる結果となった。
だが、同シーンでの他カットでは被写体ブレを量産してしまい、ミラードの一眼レフカメラならそのシャッター音でスローシャッターに気付くものの、無音シャッターのために気付くのが遅れてしまった。
◇
電子シャッターでの下限スピードとなる1/8秒での流し撮り。流し撮りに対応した手ブレ補正のモード2を使う。
光学ファインダーでは、たとえ尾翼灯を点灯させる機体でも暗くて追いにくく、ましてやブラックアウトのある一眼レフだと消滅した瞬間に見失ってしまう。
一眼レフでは毎回ヒット率が低く自身の技量に落胆していたが、ブラックアウトフリーである程度の明るさに見えるEVFならば、格段に成功率が上がった。
◇
ハンガー内にたたずむフランス人パイロットのミカエル・ブラジョー選手にカメラを向け、瞳AFを試す。
瞳AFは画面内でまず、顔認識をさせることが条件となるが、この写真のブラジョー選手ほどの大きさだと顔は認識するものの、瞳までは認識しないことが多い。
さらに近寄り、頭部のパーツでも鼻の先端から耳にかけてにおいて、ピントをどこに持ってくるかを判定させるような場合に有効だ。
◇
レッドブル・エアレースを海岸沿いの会場から撮影する場合は南を向くことになり、日中はずっと逆光となるため、ボートに乗って順光側から撮影を試みた。
しかし、今年は規制線がレースコースより遠目に設定され、500mmレンズをクロップしてもこの大きさに写すのがやっとだった。
背景のマンション群から浮き出させるために1/200秒以下のシャッタースピードを多用したが、被写体ブレさえ抑えられればイメージセンサーによる手ブレ補正でも流し撮りを上手に行えることがわかるだろう。
◇
ハンガーで翼を休める、フアン・ベラルデ選手が操縦するエッジ540モデル。
カメラを地面すれすれの位置から、上方にチルトさせた液晶モニターで確認してシャッターを切った。開放F4とする比較的コンパクトな広角ズームレンズ、Vario-Tessar T* FE 16-35mm F4 ZA OSSの描写をオートホワイトバランス設定で撮る。
カメラボディ側にも手ブレ補正機構搭載とあって、シャッター速度を上げることなく躊躇なく撮影に踏み切れた。
細部にわたって緻密さが達成されたレンズとうかがえる。カメラの背後は雲のない青空が広がるが、格納庫内は日陰で蛍光灯が照らしている条件下。この場合での白い機体の再現を見る限り、オートホワイトバランスの忠実度は及第点を与えることができる。
◇
複数人が入る集合写真的な要素がある中で瞳AFを試した。
それぞれの顔を認識し、どの瞳を探し出すかと目論んだが、瞳のアルゴリズムに入る前にお目当てのレースクイーンにフォーカスしたために、そこでシャッターを切った。
顔認識→瞳認識と順序だてての行程となるが、それぞれに僅かながらの時間を要するため、待ちきれずに「まずは切ろう」となることが多かった。
◇
龍ヶ崎飛行場に駐機されていた復元ゼロ戦のエンジンである。
残念ながらこのエンジンはオリジナルのものではなく、米プラット&ホイットニー社の星形空冷エンジンに積み替えられている。
絞りを開放気味にしたので空冷のためのエンジンフィンにまでピントが合っていないが、階調の豊富さから質感描写が達成できている。
◇
雨の降りしきる中、1,500m競争のスタートシーンを狙った。
コントラストのあるコース面や背後の色味に引っ張られ、中抜けしやすいシーンであったが、拡張フレキシブルスポット/ロックオンで狙うことで、走り始める選手の足に追随できた。
雨粒がファインダーのアイセンサーに落ちると、それに反応してしまい、再生確認のために背面液晶に表示をさせたかったのだが切り替わらないという現象も経験した。
まとめ
ミラーレス機を常用しない者にとって、やはりミラーレス機は曲者との先入観がある。いや、実際に曲者だった。この「α9」に触れるまでは。
特にキヤノンやニコンのフラッグシップ機を多用していれば、歴然と存在する操作感や、レスポンス、スタミナの差に閉口し、いくらコンパクトでも、いくら高画素の撮像素子を積んでいても、頭の中での存在感は薄かった。
そこへ現れたα9が高らかに謳う数々の高スペックに、「じゃ、そろそろ手にしてみますか」となったのだが、たっぷりと触れることのできた今回のレビューでの感想は、無音撮影が必要なフィールドや、スポーツシーンで活動するカメラマン、そして動画も押さえる撮影者には、「ここでミラーレスの流れに乗っておくべきでしょう」と判断できるカメラであった。
ブラックアウトフリー
EVFが前提となるため、慣れていない場合にはまだまだ敬遠されるだろうが、動画撮影も行う私にとっては違和感が大きくなく、動き回る被写体の追随という命題に対して、そのメリットが大きく感じられた。
長時間の使用においては、撮影後半に目に刺激を感じないわけではなかったので、この点がどのように改善されるかはメーカーにも要望を伝えたく、また自らにも何らかの課題として考える必要があるだろう。
約20コマ/秒連写
バットがボールに当たるインパクトの瞬間を狙う野球シーンなどにおいて、撮影できる可能性を大きく引き上げてくれる強力な武器であることは間違いない。
JPEGであればシャッターを押し続けて18秒近く撮れてしまうバッファメモリーの量もかなりのもの。ただ、幾度も記すがメモリーカードへの書き込みが遅いことが唯一の欠点。書き込み中はメニュー画面へ入れないのもつらい。
なぜ、XQDメモリーカードを採用しなかったのかと問いたいが、結局のところ、使うべきスチール画像が同じシーンで数十枚に及ぶことなどまずないので、連写が必要な要所要所で細かく撮影していく、という頭に切り替えることも必要だと感じる。
プロの世界でも存在感を増していくのではないか
総合的に見て、24メガピクセルあれば、よほどのポスターやコルトン(電飾看板)などの広告撮影でなければ十二分な解像度が得られ、高感度ノイズの現れ方もキヤノン、ニコンの両フラッグシップ機に引けを取らない。
Aマウントにはやや古めのレンズもあるが、最新のEマウントレンズの解像感は満足できる仕上がりになっていることも確認できた。
現状で50万円ほどの価格には、レンズを揃えることを加えるとますます躊躇してしまうが、このカメラのパフォーマンスで得られる結果を考えると、二の足を踏んでいる場合ではないだろう。
舞台撮影、動画同録の現場、そしてスポーツシーンなど、スチール写真の存在が大きく影響される表現世界で、より一層その存在を知らしめることができる可能性を感じるα9であった。