新製品レビュー
OLYMPUS Tough TG-5
グッと画質が向上したタフネスデジカメ 環境センサーログ機能も充実
2017年7月20日 08:00
どんなに過酷なフィールドでも確実に撮影ができることは、従来のプロ機に求められてきた条件である。その資質をコンパクト機に押し込め、コンパクト機であるが故、いつでも持ち歩ける利点を活かしたのが、OLYMPUS Toughシリーズであり、その最新機種「OLYMPUS Tough TG-5」だ。従来機よりも大幅に画質が向上した点が何よりの特徴だ。
タフ性能
防水15m、防塵、耐衝撃2.1m、耐荷重100kgf、耐低温-10度、耐結露が、本機単体での外界に対する性能だ。
中でも面白いのは耐結露性能だ。レンズ前面の保護ガラスを二重にすることで、カメラ内部と外部の温度差を効率的に遮断し、レンズの結露を防いでいる。現実に存在する撮影環境をよく考えた真摯な設計である。
また、アクセサリーには本機専用の防水プロテクターPT-058も用意され、水深45mにも対応している。
デザイン
デザインは直線を基調とし、ネジやプロテクター部を見せることでハードな環境に耐えるボディーを表現している。イメージカラーの赤黒の組み合わせとよくマッチし、クォリティー感も高い。
重さは、電池、カード込みで約250gであり、その大きさとともにいつでも持ち歩けるカメラに仕上がっている。ズボンの尻ポケットやワイシャツの胸ポケットにも無理なく収まるサイズと重さであり、真夏の薄着でも持ち歩きに特別な配慮はいらない。
本機の位置付けを物語るのは、メニュー画面だ。ほぼ、同社ミラーレス機と同じユーザーインターフェースのメニュー画面となっている。
本機の機能が大変に多いこともその要因であるが、「カメラ」に興味のない層を対象にしたものではないことがわかる。撮影者の意思を最大限生かすためのメニューは、レンズ交換式カメラを使う層のサブ機として十分な資質である。
フィールドセンサーシステム
Toughシリーズの特徴の1つにフィールドセンサーシステムの搭載があげられる。これは、GPS(GLONASS、QZSS)、方位センサー、圧力センサー、温度センサー、加速度センサーといった5つの環境センサーを備え、それらの計測値を写真と同時に記録し、撮影者自身の行動記録や環境の計測に役立てるものだ。
これらの記録は写真のExifデータに記録されるだけでなく、単体のログデータも記録されるので、データとしてのハンドリングも良い。フィールドセンサーシステムでは、初期設定で現在位置の標高を入力する。
なおGPSはアメリカ、GLONASSはロシア、QZSSは日本の衛星測位システムである。
本体上面には、単独のログスイッチが新たに設置された。本機では、このスイッチをONにしておけばカメラ電源OFF時にも、フィールド情報を数秒から数分ごとに記録したログファイルが記録される。いわゆるGPSロガーとしての機能だ。この機能により、シャッターを切った瞬間以外の行動と環境の記録も残すことができるのだ。
ログ情報を見るには、背面にある再生ボタンを押し、撮影画像を表示すると撮影された写真に付加された位置、温度、方位、標高、気圧の5つの情報が確認できる。
また、カメラ電源OFF時に、背面にあるinfoボタンを短く押すと、一瞬遅れるが、現在のフィールドセンサー情報が表示される。
また、infoボタンを長押しすると、AF補助光が点灯状態となり、懐中電灯としても使えて重宝する。
ログスイッチをONにして、ログファイルを得ておくと、ONにした時点からOFFにした時点までのログファイルが記録されるが、それはPCから利用できるほか、同社のスマホアプリ「OI.Track」で撮影した写真とともに、行動と環境の記録を確認することができる。
TG-5の画像をWi-Fi機能でスマホに取り込み写真を選ぶと、OI.Trackの地図画面では地図上に移動記録が青線で表示される。その中でグリーンのピンが立っているところが、表示した写真を撮影した場所だ。標高画面では、移動経路の標高変化が示される。
もう1つ、オーバーレイ表示では写真を大きく表示するとともに、フィールドセンサーからの複数の情報が表示される。
ボタン類
カメラ上面のボタンはシンプルでわかりやすい。シルバーのボタンがシャッター、同軸のレバーがズーム、一番右の黒いダイヤルはコントロールダイヤルと呼ばれ、撮影時には絞り値の変更や露出の補正、メニュー選択時には項目の選択に使う。
背面のボタン類は、配置や機能割り当てなど、コンパクト機ではなく、レンズ交換式カメラの風情だ。撮影モードにM(マニュアル)がない程度で、現実の撮影で何かしらの不自由を感じることは全くない。
撮像素子
イメージセンサーは新開発の1/2.33インチ、有効画素数1,200万画素。従前の機種TG-4に対して、有効画素数は1,600万画素から1,200万画素へと減っている。このことは1画素のサイズが大きくなったことを意味するが、画素の大きさはS/Nを左右する。無論、1画素の大きさは大きい方がノイズは少ない。
同時に画像処理エンジンも最新のTruePic VIIIとなり、大幅に画質が向上した。画質の向上はS/Nの向上でもあるので、高感度性能も大きく向上し、最高感度はISO12800となっている。
使い勝手として面白いのは、JPEGの画像サイズ、圧縮率を組み合わせて4パターン登録できる点だ。高画質で使いたいなら、画像サイズL、品質をFに設定する。
ところで画質は解像力とグレイン感、ノイズのバランスから判断されるが、特に細かな被写体の解像力の向上が目覚ましい。解像力は概ね、画素数が同じであればセンサーのサイズで決定されてしまうが、TG-5はより大きなセンサー、例えば1型クラスのセンサーを使ったカメラにも迫るような画質だ。
液晶モニター
液晶モニターは、ガラス面と液晶面に隙間があるため、夏の直射日光下ではフレアっぽく見えてしまう。この仕様は耐結露を優先したものであろう。しかし、輝度は十分で夏の直射日光下でも十分に見え、フレーミングに困ることはない。
記録メディアスロットとバッテリー室
バッテリー室はごく一般的な配置で、カメラ下部にカードスロットとともに配置されている。防水構造であるため、蓋のロックは二重、パッキンが厚くなっている。使用バッテリーはLI-92B、撮影可能枚数はCIPA準拠で約340枚。ロガーを使用しても、およそ1日使えるという印象だ。
対応するメディアはSDXC/SDHC/SDメモリーカード、Eye-Fiカードであり、SDHC/SDXCについてはUHS-I規格対応となっている。4K動画や高速連写を楽しみたい場合はUHS-Iのメディアが良い。
端子
外部インターフェースはマイクロUSBとHDMIマイクロである。ここも二重ロックでパッキンの厚い蓋となっており、防水性への配慮が行き届いている。
マイクロUSB端子はPCとの通信やバッテリーの充電に使う。このため、バッテリー充電器ではなく、USBケーブルとUSB-ACアダプターが付属している。
深度合成機能
顕微鏡モードは、レンズ前1cmまで被写体に寄ることができる超接写モードであり、Toughシリーズの大きな特徴だ。ズーム全域に対応しており、大きな拡大率を得られるが、一方で被写界深度が極端に浅くなってしまう。
そこで、ピント位置を少しずつずらして、高速連写を行ったカットをカメラ内で合成し、被写界深度の深い画像を得るのがカメラ内深度合成機能である。高速連写が前提であるため、手持ちでも撮影できるのがポイントだ。
また、TG-4の深度合成機能は800万画素に制限されていたが、画像処理エンジンの高速化により、TG-5ではフル画素の1,200万画素での撮影が可能になった。
動画
動画撮影も4K(3,840×2,160、30p)に対応した。動画にも高画質化が効いており、解像力が高い。センサーサイズが近いホームビデオやスマートフォンの動画よりも高画質だ。
マクロ撮影用アクセサリー
アクセサリーの充実もTG-5の面白い点だ。レンズ周りの飾り環はバヨネット式になっており、照明アクセサリーと交換できる。
まずは、LEDライトガイドLG-1だが、こちらはいわゆるリングライトだ。影の少ない柔らかな照明効果を得ることができる。
もう1つの照明アクセリー、フラッシュディフューザーFD-1では柔らかいが方向性のある光となる。顕微鏡モード時に、被写体のディテール感を活かすのに向いている。
また、バヨネットを利用してコンバーターアダプターCLA-T01を取り付けると、テレンコンバーター、フィッシュアイコンバーターの利用ができるほか、市販の40.5mmフィルターの取り付けが可能になる。NDフィルターやPLフィルターを使いたい時にも困らないのだ。
作品
午後7時、夏の遅い夕暮れ時に海の見える灯台にやってきた。夕映えに染まったオレンジ色の雲も、飽和していない。シャドー部もギリギリだがディテールを残している。撮影したままのJPEG画像であるが、小さなセンサーとは思えない幅広いダイナミックレンジを持っていることがわかる。TG-5ではRAW撮影も可能だ。RAWデータから丁寧に現像すると、シャドー部も階調よく表現できるだろう。
最高感度はISO12800である。ここでは解像感を優先して、ISO3200とした。高感度であっても、シャドー部のディテールを維持している。広角側なら開放絞りがF2なので、かなり暗い環境まで手持ちで撮影できる。
水中撮影モードを試してみた。ひと気のない静かな池に、手に持ったTG-5を入れてみた。何枚かシャッターを切ってフラッシュを光らせているうちに、魚が寄ってきた。ブルーギルらしいが、どうやら、餌と思われたようだ。
ワイド端、顕微鏡モード。とはいえ、撮影距離は10cm程度。TG-5の通常撮影と顕微鏡モードでの撮影範囲は重複範囲が広く、シームレスに使える印象だ。絞りも開放として、ボケを活かしたが、自然で良いボケだ。
テレ端、顕微鏡モードでの撮影。被写体までは約10cm。沈む太陽を画面に取り込んだので、ゴーストが発生した。フレアは少ないので、内部処理やコーティングは作り込まれているのだろう。耐結露のための2枚の保護ガラスがゴーストの発生原因と思われる。しかし、作画上は1つの画面効果であり欠点ではない。
まとめ
昨今手にしたカメラの中で、写真を撮る行為がこれほど楽しくなるカメラは久しぶりだ。機能としては「全部入り」と言えるが、その多くの機能が使いやすく、それぞれが結びついており、活き活きと実用的だ。
ことに顕微鏡モードでの撮影は、意味なく目につくものを撮影してしまう面白さがある。また、ロガーとしても実用的で、写真とフィールド情報を合わせることの意味を再考させてくれた。
しかし、これらの楽しさもカメラとしての本質が備わっていなければ、何の意味もないし、楽しいカメラと思わなかったろう。TG-5の画質は小さな、つめ先に乗ってしまうほどのセンサーから作られているということを忘れさせてしまうほどだ。レンズ交換式カメラユーザーの多くも満足できる画質だ。
この画質と実用的で楽しいガジェット感は、決してスマートフォンでは味わえないものだ。カメラがあって写真が生まれる。そこに行われるフィジカルな行為そのものが写真なんだと、強く思わせてくれるカメラであった。