交換レンズレビュー
Sigma 135mm F1.4 DG|Art
ポートレート撮影にどんな世界をもたらすのか 135mm初の開放F1.4
2025年10月6日 07:00
世界初の135mm F1.4の交換レンズとして誕生した「Sigma 135mm F1.4 DG|Art」は、35mmフルサイズセンサー対応の大口径中望遠レンズ。一般的な135mm F2クラスの製品の追従を許さない大きなボケと、85mmを超える圧縮効果をポートレート撮影にもたらすことだろう。
今回試用したソニーEマウント用の他に、Lマウント用が用意されている。
サイズ感
外形寸法は約Φ111.7×137.5mmで、質量は約1,420g(ソニーEマウント用)。お世辞にも小型・軽量なレンズとは言い難いが、世界初の135mm F1.4を実現したことを考えれば、この大きさと重さは必然ともいえるだろう。むしろこのサイズに収めたこと自体が驚きであり、設計力の高さを感じさせる。
金属製の鏡筒の存在感は圧倒的でありながら、バランスよくまとめられており、見た目の威圧感のわりに取り回しは素直な印象だった。
操作性
リング類は撮影者の手元から、「絞りリング」「フォーカスリング」の順に配置されている。いずれもしっかりしたトルク感があり、精密なピント合わせや絞り値の設定において、思う通りの操作に応えてくれた。
絞りリングはクリックON/OFFの切り替えが可能。静止画撮影では段階的に操作できるクリックON、動画撮影では滑らかに動かせるクリックOFFと、用途に応じて使い分けられる。
鏡筒左側には「フォーカスモード切換えスイッチ」と「AFLボタン」、そして先ほどの「絞りリングクリックスイッチ」が並ぶ。「AFLボタン」はAFロック機能に加え、好みに合わせてさまざまな機能を割り当てることが可能だ。135mmの単焦点レンズであってもこうしたボタンをきちんと装備しているのは、シグマの良心を感じるところ。
鏡筒右側には「絞りリングロックスイッチ」が装備されている。絞りリングを「A」ポジション(絞りオート)で固定したいとき、あるいは誤って「A」ポジションに入らないようにしたいときに便利な機能だ。
三脚座も装備されている。取り外しはできないが、それだけに安定性は高い。ロックナットを緩めれば位置を回転させることができ、縦位置・横位置の切り替えも容易。特にビデオ雲台に取り付けて動画撮影をする際には、その効果を実感できるだろう。
付属のレンズフードは丸型の「LH1126-01」。前玉に合わせてサイズも大きめだ。
解像性能
解像性能を確認するため、あえて開放絞りのF1.4で建物を撮影した。被写界深度が浅いため、前面の樹木や背景のビル群はボケ始めているものの、被写界深度内に収まった建物は画面の隅々まで見事に結像している。全体の解像感も十分に高く、絞り開放から完璧といえる描写性能を発揮している。

当然、絞り込めば被写界深度が増し、奥行きのある被写体やシーンでその解像力を生かすことができる。いずれの絞り値でも申し分ない解像性能であり、撮影時には被写界深度だけに注力してコントロールできる安心感がある。
近接撮影性能
最短撮影距離は110cmで、そのときの最大撮影倍率は約0.145倍となる。それほど寄れるわけではないが、光学性能を重視した35mmフルサイズ対応の大口径中望遠レンズとしては、妥当な数値と言えるだろう。感覚的には、人物の顔を画面いっぱいに収められる程度と考えておけば間違いがない。
最短撮影距離で撮影しても描写やボケ味にまったく破綻が見られないところは、さすがである。
作例
焦点距離135mmでF1.4ともなると、ピントは極めて薄く、背景のボケは予想以上に大きくなる。それでいてピントを合わせた瞳は克明に描写され、そこから滲むように柔らかくボケへと移行していく様子は実に魅力的だ。これまで見たことのないような表現を可能にしてくれるポートレートレンズ、それが本レンズというわけだ。
全身を写すポートレートでは、正確に人物の瞳へピントを合わせるのは意外に難しい。しかし本レンズは、カメラボディ側の瞳認識を問題なくAFに活用できる。また、AF駆動にはリニアモーターのHLAが採用されており、大口径レンズでありながらも高速かつ高精度なAFを実体験できた。
少し絞り込めば、人物の輪郭がさらに明確になるとともに、ボケ量が抑えられて周囲の光景も一緒に写し込める。単焦点レンズながら設定の幅が広く、スナップ撮影的な楽しみ方ができることも、本レンズの魅力の1つだ。
日没が近づき暗くなってきた時分に、ウエストアップで撮影したカット。絞りはF2に設定したが、13枚羽根の円形絞りを採用しているため、背景の玉ボケは円形をしっかり保っている。さらに巨大な前玉の効果もあってか、画面周辺でも玉ボケが大きく口径食を起こしていない点は注目に値する。
まとめ
世界初の135mm F1.4でありながら、絞り開放から驚くほど高い光学性能を示す本レンズ。135mmならではの適度な圧縮効果、そしてF1.4の明るさが生む豊かなボケによる独特の立体感は、他に代えがたい表現力を生みだす。ポートレート撮影において唯一無二の存在といえるだろう。
質量1,400gを超えることから、決して軽量とはいえないものの、高いビルドクオリティと良好な操作性が相まって、実際の撮影ではサイズや重さが気になる場面はほとんどなかった。
さらに、本来ならピント合わせに苦労するはずの大口径中望遠ながら、優れたAF性能のおかげで安心して扱える。
描写性能と扱いやすさを兼ね備えたこの135mm F1.4を、シグマArtラインの到達点の1つと呼んで良いだろう。
モデル:透子