交換レンズレビュー
Milvus 1.4/50
シャープネス、ボケ味とも期待通りのカールツァイス新ライン
Reported by 大浦タケシ(2016/3/11 07:00)
カールツァイスの新シリーズ「Milvus」。価格や携帯性などにも妥協を排除した「Otus」シリーズと異なり、“比較的”手頃な価格とハンドリング性にも重きを置くシリーズである。今回紹介する「Milvus 1.4/50」は、その第一弾として発売されたレンズだ。
ちなみにシリーズ銘のMilvusとは、鳥類のトビ(鳶)のことである。本シリーズもOtusシリーズ同様コシナ製ツァイスレンズであるが、コシナ製というと同じ焦点距離、同じ開放値の「プラナーT* 1,4/50」との違いが気になるところだろう。
光学系からいえば、新しいMilvus 1.4/50はレトロフォーカスタイプのディスタゴンレンズで、よりデジタルの特性に最適化されたものといえる。さらに、プラナーT* 1,4/50が6群7枚の全てが球面レンズであるのに対し、本レンズは非球面レンズ1枚に異常部分分散性の特殊ガラス製レンズ4枚を用いた8群10枚とし、より現代的な光学系としている。
本レンズのフォーカスはマニュアルのみ、マウントはキヤノンEF(ZE)およびニコンF(ZF.2)が用意される。
デザインと操作性
鏡筒のデザインはわずかにレンズ先端が広がっているものの、そのほかの部分は凹凸がなくシンプルな円筒状。Otusシリーズほどはないが鏡筒は太い部類に入るもので、どことなくずんぐりむっくりとした感じだ。
鏡筒全体の雰囲気は先に発売されている「Loxia」シリーズなどに近いといえば近いが、まったく同じというわけではなくMilvus独自のものとしている。
レンズフードに関しては、鏡筒のシェイプに合わせた一体感あるものだ。鏡筒のサイズは83×86.3mm、質量は840gとする(いずれもZE)。鏡筒各所には徹底したシーリングが施され防塵防滴性能が高いのもありがたく思える。
フォーカスリングはこれまでのツァイスレンズ同様適度な重さのトルク感とスムーズさを兼ね備える。しかも回転角が大きくじっくりと緻密なピント合わせが楽しめる。回転角については人によって捉え方は様々だろうが、被写体とじっくりと対峙しているときなど大きいほうが使いやすく感じることが多い。
対応マウントにより回転方向が異なるのはツァイスらしいところ。コストの関係もあり回転方向をそれぞれのマウントに合わせられないレンズメーカーが多いなか、同ブランドのこだわりであり何よりユーザーフレンドリーな部分である。なお、絞りリングを持つZF.2のみ、動画撮影時に有効なデクリック機構を搭載する。
遠景の描写は?
画面中央部に関していえば、開放絞りから不足のない描写である。シャープネスは高く、コントラストも良好。絞り込んだ画像と比較しなければ、これはこれで十分に感じられる。
もちろん絞り込むとさらに描写は向上し、絞りF8でピークを迎える。画面周辺部、特に四隅に関しては開放から絞りF2.8あたりまでわずかに緩さを感じさせるものの、それ以上に絞り込むとエッジが際立つようになる。
色にじみに関しては、その発生は皆無といってよい。ディスタゴンタイプのレンズは、一般にディストーションが大きくなる傾向があるが、本レンズに関していえば良好に補正されている。これは非球面レンズを採用した結果といえるものだろう。周辺減光に関しては、絞り開放では意外に大きいものの2段ほど絞ると解消される。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
※共通設定:EOS 5Ds R / -0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 50mm
ボケ味は?
焦点距離的にボケ味に期待する向きは大きいと思われるが、その期待に見事に応えるものである。
まずは合焦面からはじめるボケであるが、極めて滑らか。特にボケはじめはナチュラルで不自然さのようなものはない。さらに大きくボケると重なり合った被写体同士が溶けるように滲み合う。
ボケが濁るようなことも少なく、ポートレートなどボケの美しさを際立たせたい撮影に最適な交換レンズと述べてよい。前ボケに関しても、強いクセなど感じられず良好。絞りを常に開いて撮りたくなるボケ味である。なお、最短撮影距離は0.45mだ。
逆光耐性は?
画面のなかに太陽が入る条件でも、画面外に太陽がある場合も良好な結果だ。いずれもフレアの発生は最小限に抑えられ、ゴーストの発生は作例を見るかぎり目立つようなものは見受けられない。
ツァイスご自慢のT*コーティングが内面反射など良好に抑えた結果だろう。太陽の位置によってはいずれかの発生があるのかも知れないが、今回の結果だけみると文句のないものといってよい。
なお本題と逸れるが、太陽に直接カメラを向けるような撮影は可能な限り手短にすませたい。人間にもカメラにも重大な支障を及ぼすことがあるからだ。
作品
気持ちがよいほどキレ、ヌケともよい描写である。画面周辺部も周辺減光や解像感の低下などなく、さらにディストーションも見受けられない。文句の付けどころの無い結果といえるだろう。
開放絞りでのボケの様子を見てみた。合焦面から乱れることがなく滑らかにボケが大きくなっていくことが分かる。デフォーカスとなった部分の被写体の滲み具合もよい感じだ。
絞りはF8。このレンズの描写のピークといってよいものである。壁のタイル一枚一枚を緻密に再現する。画面周辺部も色のにじみなどなく良好な描写特性だ。
焦点距離50mmといえども開放F1.4では、非常に浅い被写界深度である。MFのためフォーカシングには気を使うことも多いが、掲載した写真は何とか合格点だろうか。
金網越しに被写体を狙ってみた。金網が大きくボケてしまわないよう開放から3段絞っているが、結果はナチュラルなボケ味。後ボケ同様、前ボケが美しいのもツァイスらしいところ。
開放絞りでもコントラストやピントの合った部分の解像感は高いが、やはり1段絞るとさらに増す。光学ファインダーでのピント合わせはやはり気を使う。(モデル:三嶋留璃子)
まとめ
写りのよいレンズである。優れた描写特性はツァイスらしい生真面目につくられたものと述べてよい。ただし、このレンズの描写特性を存分に引き出そうとするならば、マニュアルであるフォーカシングに気を払う必要があることはいうまでもない。
風景撮影などの場合、ライブビューの拡大機能を使いピントを合わせることをおすすめしたい。もちろんその場合三脚も使いたいところだ。
冒頭に記したこれまでのコシナ製ツァイスの一眼レフ用レンズも、新たに「Classic」という名が付き継続して発売されるという。Otus、Milvus、Classicと充実したライナップとなったツァイスの一眼レフ用レンズ。価格的な開きはあるものの、あれこれ選択に悩んでみるのも悪くなさそうだ。