交換レンズレビュー

SIGMA 16-28mm F2.8 DG DN | Contemporary

小型軽量な大口径広角ズーム 解像力&ボケも魅力

今年の6月にシグマから発売された「16-28mm F2.8 DG DN | Contemporary」は、フルサイズミラーレスカメラ用として開発された超広角ズームレンズになります。シグマ・ライカ・パナソニックが採用するLマウント用と、ソニーのEマウント用が用意されています。

このレンズの大きな特徴のひとつは、焦点距離16mmスタートの超広角ズームでありながら、非常にコンパクトに出来ているところ。しかもF2.8通しの大口径ズームです。

これで画質が良ければ言うことなしの魅力的なレンズなのですが、実際のところはどうでしょう? 今回はそうしたところに注目しながら、見ていくようにしたいと思います。

使用した機材は、ソニーのα7R IVとEマウント用レンズの組み合わせです。

サイズ感および質感

本レンズの外径寸法・質量は、77.2×102.6mm(最大径×長さ)・約450gとなっています。テレ端が28mmと控え目なことを差し引いても、焦点距離16mmスタートの大口径ズームとしては驚きの小ささと言っていいでしょう。実際に本レンズを装着したカメラを手に持った感じは、超広角ズームというより標準ズームといったイメージです。

ちょっぴり心配していた鏡筒の作りも、工作精度が高いからかガタツキなどは全くなく、質感の良さが手から直に伝わってきます。外装は樹脂製なのですが安っぽさは全然なく、使っていると「そういえば金属でなく樹脂だったっけ」となったりするほどです。

レンズ構成は11群16枚。前玉に配置された2枚の大口径非球面レンズをはじめ、非球面レンズが計4枚、FLDガラスが5枚と、なんだか豪勢な構成となっていて、実際の写りがどうなのかますます気になるところ。

前玉が突出していないので、はめ込み式のフロントフィルター(径72mm)が普通に使えるのも便利です。

同梱のレンズフード「LH756-01」を装着したイメージ。

レンズフードもかなり質感の高い造りで、着脱もとてもやりやすいです。

操作性

感心したのが、同じく樹脂製のローレットが施された、ズームリングとフォーカスリング。ローレットのエッジが効いていて指がかりが良いこともありますが、何よりトルクが最適に調整されていて、ズーミングするにしても、MFでピントを合わせるにしても、非常に上質な心地よさを感じることができます。

ボタン・スイッチ類としては、「フォーカスモード切換えスイッチ」が装備されています。ボディ側でも切り換え可能ですが、やはり物理的で直感的な方がイザというときの安心感があるというもの。

解像性能

ここから実写結果に移ります。小型化しながらも、豪華なレンズ構成で頑張っている本レンズの実力はいかに? まずは解像性能を見ていきます。

こちらはテレ端28mmで撮影した画像。絞りは開放のF2.8です。

α7R IV/SIGMA 16-28mm F2.8 DG DN | Contemporary/28mm/絞り優先(1/2,500秒・F2.8・-0.3EV)/ISO 160

心配なんてどうでもよくなるくらい、画面の隅々まで良く解像しています。むしろ非常に高い解像性能と言ってもまったく問題ないでしょう。

ワイド端16mmも素晴らしい写り。

α7R IV/SIGMA 16-28mm F2.8 DG DN | Contemporary/16mm/絞り優先(1/1,600秒・F2.8・-0.3EV)/ISO 160

厳密にいえば画面の四隅でわずかに像が甘くなっていますが、極わずかですのでほとんど気になりません。シグマのレンズらしい、シャープでハイコントラストな写りが心地よいくらいです。

少し気になりましたので、ボディ側の「レンズ補正」をすべて「切」にしてみました。

すると、周辺光量は落ち込み、建物のラインに歪みが生じ、拡大してよく見ると色ズレも見られます。

「レンズ補正」すべてOFF
α7R IV/SIGMA 16-28mm F2.8 DG DN | Contemporary/16mm/絞り優先(1/1,600秒・F4.0・±0.0EV)/ISO 160

これは恐らく、ある程度ボディ側のデジタル的な補正を前提にして、光学設計をしているのだと思います。

しかし、ボディ側のレンズ補正を前提にするというのは、ミラーレスカメラ用レンズではいまや普通のこと。しかも、開放F2.8の超広角レンズとしては、いずれも補正量はわずかです。と言うより、レンズ補正なしでも十分に高性能と言えます。

周辺光量落ちは作画によってはむしろプラスに働くこともありますし、画面中に歪みが気になるものがなければ歪曲収差補正なしのほうが画角は少し広くなります。倍率収差補正のみ常に補正「入」にして、「周辺光量補正」と「歪曲収差補正」は状況に応じて切り換えるくらいで大丈夫だと思います。

最短撮影時のボケ

本レンズの最短撮影距離はズーム全域で25cm。現行で発売されている超広角ズームの中では、標準的な部類と言ったところでしょう。インナーズームにしてインナーフォーカスのレンズですので、ズーミングしてもフォーカシングしても全長が変わらず、とても使いやすいです。

ワイド端16mmの最短撮影距離で撮影。

α7R IV/SIGMA 16-28mm F2.8 DG DN | Contemporary/16mm/絞り優先(1/400秒・F2.8・±0.0EV)/ISO 100

この構図だと、もうちょっと大きくセミの抜け殻を写して、暑い夏のワンシーンであることを強調したい、と思うところですが…

そこで、同じ位置から28mmまでズーム。なかなかイイ感じの大きさで写すことができました。

【2022年11月8日】「テレ端35mmまでズーム」との表記が誤りだったため修正しました。撮影データについても「16mm」から「28mm」に変更しました。

α7R IV/SIGMA 16-28mm F2.8 DG DN | Contemporary/28mm/絞り優先(1/200秒・F2.8・-0.3EV)/ISO 100

被写界深度の深い超広角といっても、被写体によって写せば、背景のボケはかなり大きくなります。撮影していて「おや?」と思ったのですが、このレンズ、ボケ味がなかなか良いではないですか。

そう思い、分かりやすい背景を選んで撮ってみたのがこちらの画像。

α7R IV/SIGMA 16-28mm F2.8 DG DN | Contemporary/16mm/絞り優先(1/800秒・F2.8・-0.3EV)/ISO 100

超広角レンズといえばボケ味がギスギスして、お世辞にも綺麗とは言えないものでしたが、最近は光学技術も進化して、超広角レンズでもボケ味の良いレンズが増えていると思います。なかでも本レンズのボケ味は、イヤ味がまったくなく自然で素直。そのように感じて感心してしまいました。

テレ端28mm付近(27mm)もボケ味は綺麗です。

α7R IV/SIGMA 16-28mm F2.8 DG DN | Contemporary/27mm/絞り優先(1/1,250秒・F2.8・-0.3EV)/ISO 100

16mm時に比べちょっとワイルドに見えるかもしれませんけど、それは被写体の違いや距離感によるもの。これだけ二線ボケが出やすいシーンであっても。乱れることなく素直なボケ味を演出してくれていることが、小さく出た玉ボケの質からも分かります。

動画対応

小型軽量な大口径超広角ズームとくれば、広角域をよく使うVlogなどの動画撮影では需要が高いことと思います。もしかしたら、こちらの方が注目度高いかも?

ということで、主にブリージング(ピント位置の違いによる画角変動)とAF駆動音がどれだけ記録されるかを見てみました。

結果から言いますと、ブリージングはテレ端28mmではほとんど見られないのですが、ワイド端16mmではわずかに見られます。動画撮影ではむしろワイド端をよく使うので、これはちょっと気になりました。

特に、ピントが近距離になると、AFが迷ってしまうためか画面が振動しているかのようになることがあり(静止画撮影時はコンティニュアスAFでもこうしたことはありませんでした)、このとき、わずかだったブリージングが強調されてしまいます。ワイド側で動画撮影するときは、よくよく確認して気を付けるようにしたいところです。

一方で、AF駆動音のほうは、見事なくらいありません。これは本レンズがステッピングモーターを採用しているためだと思われます。静止画撮影でも駆動音は静かな方が良いですよね。

作例

以下、ここまでに説明しきれなかった内容を含めながら、“その他”の作例を紹介していきます。


α7R IV/SIGMA 16-28mm F2.8 DG DN | Contemporary/16mm/絞り優先(1/80秒・F2.8・±0.0EV)/ISO 400

焦点距離16mmの超広角で適切な被写体を得るのは正直、かなり難しいと思います。言うならばヒット率が低い。

でも、この画像ではうちの猫が上手く動きを合わせてくれたおかげで、何とか画になりました。ヒット率が低いだけにヒットすると、とても嬉しいものです。

背景ボケだけでなく前ボケ(猫の前脚)も自然、ボディ側の機能である「動物瞳AF」が本レンズでも普通に有効なのは、ポイント高いですね。


α7R IV/SIGMA 16-28mm F2.8 DG DN | Contemporary/25.5mm/絞り優先(1/250秒・F5.6・-0.3EV)/ISO 100

超広角レンズは宿命的に強い光源(この場合は太陽光)を拾いやすいため、逆光性能の能力は重要。ですが、いろいろと試したほとんどのシーンで、作画を邪魔するような、逆光によるゴーストやフレアの類は発生しませんでした。シグマ独自のスーパーマルチコートが施されているだけに、逆光性能は優秀と言えます。


α7R IV/SIGMA 16-28mm F2.8 DG DN | Contemporary/28mm/絞り優先(1/100秒・F5.6・-0.3EV)/ISO 400

中間の焦点距離である28mmで、風にたなびく水辺の草の葉を撮ってみました。ハイライトからアンダーまで、階調性の豊かさが重要なシーンなのですが、見事に情緒豊かに写し止めてくれています。


α7R IV/SIGMA 16-28mm F2.8 DG DN | Contemporary/22mm/絞り優先(1/200秒・F8.0・-1.3EV)/ISO 200

絞りをF8として直線の目立つ被写体を撮影してみました。焦点距離は22mmになります。ボディ側のレンズ補正を使えるので、超広角とは思えないほど端正に直線を配置できています。

単焦点の超広角だと、思ったように構図を作れないことがままありますが、そこはズームレンズの良いところ、ファインダーを見ながらイイ具合のところでズームを止めて、画になるように画角を探すことができました。


α7R IV/SIGMA 16-28mm F2.8 DG DN | Contemporary/21.8mm/絞り優先(1/400秒・F8.0・-0.3EV)/ISO 100

少しずつ秋の気配が感じられるようになった時期、夕方にはこうした穏やかな空の表情を撮影できました。本レンズで撮影したこの画像は、繊細な空のグラデーションや、ともするとトーンジャンプを起こしかねない微妙な雲の階調を見事に表現してくれています。

まとめ

以上のように、本レンズ「16-28mm F2.8 DG DN | Contemporary」は、超広角ズームらしからぬ小型軽量化に挑みながら、描写性能、操作性、造りの良さ、いずれも満足できる優等生レンズでした。最近のミラーレスカメラ用レンズは小型軽量化がトレンドですが、それにしても素晴らしい出来のレンズだと感じました。

似たようなスペックのレンズとしては、同じくサードパーティーのタムロン「17-28mm F/2.8 Di III RXD」があります。

違いはシグマが16mmスタートであるのに対し、タムロンは17mmスタートであるところ。

ただし、タムロンはワイド端での最短撮影距離が19cmと格段に寄れるうえ、レンズの質量も約30g軽いです。超広角の1mmの差からくる画角の違いは数値以上に大きいものですが、最短撮影距離の短さも数値以上に大きいです。どちらも選べるEマウントの場合、どちらにすべきか最高に悩むことになりそうですね。

ただ、この手のレンズで、別な意味で悩ましいのは、テレ端が28mmであることでしょう。大幅な小型軽量化を達成するためには仕方のないことですが、筆者のように、準標準レンズとも呼ばれる35mmを多用しながら、たまに訪れる広角・超広角向けのシーンのために単焦点でなくズームを使いたい、という人間には不向きなタイプのレンズかもしれません。

とは言っても、24mmや28mmからスタートする標準ズームを主体として交換レンズシステムを考えると、ズーム域のダブリが少なく、カメラバックの占有容積を抑えることのできる本レンズの存在はやはり魅力的です。すでに所有しているレンズから、ズームでカバーできる画角範囲を広げたいと構想したとき、有力な候補となるのは間違いありません。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。