交換レンズレビュー
TAMRON 70-210mm F/4 Di VC USD(Model A034)
短い最短撮影距離と強力な手ブレ補正 軽量な鏡筒が撮影の幅を広げる
2018年4月12日 12:00
足早に駆け抜けていく桜前線を追いかけるように、タムロンから新たな望遠ズームレンズの70-210mm F/4 Di VC USD(Model A034)が発売される。開放F値がズーム全域でF4となる、いわゆる小三元ズームレンズで、ニコン用は4月2日、キヤノン用は4月26日の発売だ。
発売日:2018年4月2日(ニコン用)、2018年4月26日(キヤノン用)
実勢価格:税込9万5,000円前後
マウント:キヤノンEF、ニコンF
最短撮影距離:0.95m
フィルター径:67mm
外形寸法:約76×176.5mm(キヤノン用)
重量:約860g(キヤノン用)
概要
レンズ構成は14群20枚で、異常低分散レンズを3枚使用。軸上色収差と倍率色収差を良好に補正している。絞り羽根は9枚で円形絞りを採用。加えて簡易防塵防滴構造およびレンズ前面に防汚コートが採用されているため、雨や滝の近くなど、アウトドアでの撮影でも心強い。
タムロンの手ブレ補正機能、VC(Vibration Compensation)といえば、その強力な威力で定評があることはいわずもがなのこと。本レンズには約4段分の手ブレ補正効果が得られるVCが搭載されている。
ニコンD850に装着して被写体にレンズを向け、レリーズボタンを半押しすると、ファインダーの周囲に張り付くように画面がピタリと止まる。
カメラをあえて揺らしてもファインダーの画像が微動だにしないのは、さすがタムロンのVCだ。ニコンD850やキヤノンEOS 5Ds/5Ds Rなどの高画素モデルはわずかなブレでも目立ってしまうが、強力なVCが搭載されることで手持ちが余儀なくされるシーンでもとても心強い。
大三元レンズともいわれるF2.8クラスの大口径ズームレンズと比べると、開放F値で1段分F値の違いがあるものの、大幅に小型軽量なことが大きな特徴だ。
小型軽量であることと強力なVC搭載の恩恵で、長時間・長距離を歩くような撮影はもちろん、積極的に手持ち撮影で被写体にアプローチできるだろう。
最短撮影距離が短いことも大きな特徴だ。メーカー純正のF4クラスの望遠ズームレンズは1mないし1.2mほどだが、本レンズは0.95mと抜きんでている。被写体との距離感を選ばないことはもちろんだが、最大撮影倍率が0.3倍を超えており、望遠マクロ表現を思う存分楽しめる。
デザイン
同社SPレンズの洗練されたデザインコンセプトを踏襲。レンズ鏡胴のなめらかな手触りやスイッチの操作感、ルミナスゴールドのブランドリングの採用など"上品さ"を感じさせてくれる。
レンズ鏡胴は起伏の少ない直線的なデザイン。最大径が76mmほどなのでしっかりとホールディングできる。
ホームページなどで見ると、大きなサイズのようにも見えるが、実際に箱から取り出して眺めてみると、開放F値がF4のズームレンズならではの小型軽量なサイズ感に感じられる。
実際に持ってみれば約850g(ニコン用。キヤノン用は約860g)ほどの"軽さ"を実感できる。メーカー純正のF2.8クラスの望遠ズームに比べると、約半分弱程度の軽さだ。
長距離の携行や手持ち撮影では重量のあるレンズは体への負担が大きくなり、それだけでモチベーションも下がってしまうが、本レンズのように軽量であればモチベーションも維持できるというものだ。
レンズフードは深めの花形フードが付属。レンズ先端に装着する際にカチリとはまって心地よい。早朝や夕方の斜光でもしっかりと有害光を防いでくれる。深めのフードだが、くぼみの部分から人差し指を入れてPLフィルターの操作も容易に行える。
本レンズには別売の三脚座を装着することができる。アルカスイス互換雲台に対応しているなど使い勝手も良好だ。本レンズならではの小型軽量というメリットを損なわないよう、マグネシウム合金の採用によって剛性と軽量を両立させている点も嬉しい配慮だ。
三脚を使ってスローシャッターを使うシーンでも、三脚座を使うことで重量配分が最適化され、ブレの少ない撮影が可能となる。簡単に着脱できるのでシーンに応じて使い分けたい。
操作性
幅広のズームリングが採用されている。スリットの入ったゴム巻で指の先端によくなじむ。ズームリングの回転操作は重すぎず軽すぎず、適度なトルク感が心地よい。
重量の移動が少ないインナーズーム方式を採用していることもあり、手持ちでズーミングしながらの撮影でも自重移動が少ないのでしっかりホールディングできる。そのため、強力な手ブレ補正機能と相まって安定してブレを抑えた撮影ができる。
一方、ピントリングも幅広で操作性が良い。動きが滑らかでシビアなピント位置の調整も容易に行える。
たとえば花の撮影で最短撮影距離付近で撮影するようなシーンでは、ピントリングの動きが悪いとしべの先端に合わせることが難しくなるが、そういったストレスを全く感じさせない良好な動きだ。
スイッチはシンプルにAF/MF切り替えと手ブレ補正機能スイッチの2つ。
新デザインになってから踏襲されている幅広のスイッチで、ホールディングしながら左手の親指を使った操作も容易に行える。手袋をはめても操作性を損なわない点もありがたい。
AF
レンズシステム制御専用と手ブレ補正処理専用のデュアルMPUの採用と、DSP(Digital Signal Processor)ブロックの内蔵により、高性能なAF性能と手ブレ補正効果を両立している。
加えてリング型超音波モーター USD(Ultrasonic Silent Drive)の採用により高速性と高い精度が得られている。
動きのある被写体に対してレンズを向け、オートフォーカスを実行すると、すっと被写体を素早く追従してくれる。野鳥や鉄道など動きのある被写体でも心強い応答性能だ。
作品
ピントが決まった時のピリリと切れ味よいシャープ感が心地よい。開放F値で積極的に被写体に近寄り、ボケを活かした撮影も存分に楽しめる。むろん、絞ったときのシャープ感も良好で、ズーム全域で画像の中心から周辺にかけてシャープな描写が得られる。
桜と月を絡めて撮影するため、望遠端210mmで撮影。開放F値で撮影しているが、月面のクレーターにいたるまでしっかりとシャープに写っている。
135mmを選択し、F11まで絞り込んで撮影。画面のごく四隅に花を配置して撮影しているが、花のしべもしっかりと解像している。画面の周辺に至るまで、ピリッとシャープに写すことができた。
112mmで開放F値で撮影。ズームリングは滑らかでありながら適度なトルク感があるので、構図をピタリと決めやすい。とても快適に扱える。
フレア、ゴーストの少ない画像を得ることができた。早朝の光で撮影しているため、被写体に近い位置に太陽があったが、深めのフードによってしっかりと有害光を遮光することができた。
100mmで撮影。徒歩でアプローチするような撮影では、小型軽量な機材をチョイスしたいところ。その点、小形軽量な本レンズは持ち運びも容易で、体への負担も最小限に抑えることができるだろう。
210mmで撮影。比較的距離の近い被写体を狙っている。背景のボケも柔らかく美しいグラデーションで表現されている。
最大撮影倍率となる210mm、最短撮影距離で撮影したヒメオドリコソウ。草丈10cmほどの小さな草だが、ご覧のように画面に大写しできる。産毛もしっかりと表現されており解像感も十分だ。マクロレンズの代替えとしても十分利用できる。
口径食をみるため、画面の右側に玉ボケを配置して撮影。背景までの距離は7mほど。右上隅の玉ボケをみると、開放絞りではラグビーボール状だが、F5.6、F8では半月状となる。F11まで絞るとほぼ正円に近づく。
焦点距離210mm、F8で撮影。被写体から背景までの距離は20mほどだったと記憶している。被写体までの距離と背景までの距離によって玉ボケの大きさは変化するが、このシーンでは背景の玉ボケも美しく表現されている。
焦点距離70mmで撮影。F8を選択したときのピント位置のシャープ感は切れ味のよさを感じる。D850などの高画素モデルの解像力を存分に引き出せるクォリティーだ。
焦点距離135mmで撮影。逆光での撮影だが、フレアを起こすこともなく鮮明に表現されている。絞り込んだときのシャープ感も心地よい。
焦点距離102mmを選択し最短撮影距離で撮影。ピント位置のツクシのシャープ感はもちろん、前ボケ、後ボケがとても柔らかく描写されている。
VC機能をチェックするため焦点距離70mm、1/4秒で手持ちで撮影。定評あるタムロンの手ブレ補正機能だが、1/8秒ならともかく、よもや1/4秒のシャッタースピードでも手持ち撮影ができるとは正直思っていなかった。手持ちでなければ撮影できない渓流や滝の撮影では心強い。
まとめ
5,000万画素前後の高画素カメラは、三脚を使うことがとかく推奨される。もちろん、ブレ対策が大きな理由の1つだが、F2.8クラスの大口径望遠ズームレンズと組み合わせたときの総重量が重く大きくなるため、手持ちよりも三脚のほうが扱いやすいということも理由だ。
70-210mm F/4 Di VC USDは小型軽量かつタムロンらしい強力なVC機能の搭載により、手持ち撮影で有利であることはいうまでもない。実際、D850に装着したときのバランスも良好だ。
もちろん、長距離、長時間にわたる携行でも体への負担が少なくなるし、小型なカメラであればよりいっそう軽量化を図ることができる。朝から夕方まで持ち歩いても、疲労が軽減されることで撮影に対するモチベーションも維持できるというものだ。
さらにリーズナブルな価格も嬉しいポイント。1段分の開放F値のボケの差は、F2.8クラスの大口径ズームレンズでは到底近づけない距離まで近づけばカバーもできる。
風景は一期一会。出会った瞬間にさっと手持ちで撮影できる、シャッターチャンスに強いレンズといえるだろう。