交換レンズレビュー

FE 70-200mm F2.8 GM OSS

高い解像力と美しいボケ味を両立 フルサイズユーザー待望の1本

Gマスターシリーズのいわゆる“大三元”の1つということもあり、Eマウントユーザーにとっては待望のレンズだったのではないか。α7シリーズ、特に高画素モデルのユーザーはぜひ揃えておきたい1本である。

今回は、公式サイトで「目を見張る描写とAF性能」と紹介されているFE 70-200mm F2.8 GM OSSを使って、女性ポートレートを撮影した。その作例を見ながら、本レンズの魅力を体感していただければと思う。

発売日:2016年9月30日
実勢価格:税込32万円前後
マウント:ソニーE
最短撮影距離:0.96m
フィルター径:77mm
外形寸法:88×200mm
重量:約1,480g

デザインと操作性

筆者が仕事でポートレート撮影をする際に持ち歩いているのは、35mm、50mm、85mm、70-200mmの4本である。35mmで引き絵を撮り、50mmで大半の撮影をし、85mmで背景をボカして被写体の存在感を強調する、という使い分けをしている。

では、70-200mmは何に使っているかというと、被写体の存在感をより強調する必要がある「決めの1枚」を撮影するときに使う。望遠レンズならではの圧縮効果で、前後を大きくボカし、被写体を浮かび上がらせることができる。

また、街中など、背景がゴチャゴチャした場所で撮影しなければならないような場合に活用している。大きな圧縮効果を生かし、背景を整理できるからだ。

加えて、遠くにいる被写体を狙うようなときも使う。組写真にメリハリをつけるため引いた画を入れることはよくあるが、広角レンズで撮影すると被写体が小さくなりすぎる場合、70-200mmの望遠端で撮影するとちょうどよいサイズ感になることがある。

以上より、70-200mmは35mm、50mm、85mmなどに比べればやや使用頻度は下がるが、「決めの1本」として、私にとってポートレート撮影になくてはならないものである。

本レンズは、優れた解像力と美しいぼけ味を誇るソニーのプレミアムレンズシリーズ「Gマスター」の一員としてラインナップされている。そのGマスターを冠するにふさわしく、目を見張る描写性能だけでなく、F2.8通しの望遠ズームに求められる機能を非常に高いレベルで実現している。

FE 70-200mm F2.8 GM OSSのレンズ構成は18群23枚。美しいぼけ味を損なうことなく高い解像性能を実現する、新開発の超高度非球面XA(extreme aspherical)レンズのほか、色にじみを抑えるED(特殊低分散)ガラスやスーパーEDガラス等を贅沢に使用して、諸収差を徹底的に補正している。

また、ソニー独自のコーティング技術であるナノARコーティングの採用により、逆光時に発生しやすいフレアやゴーストを軽減している。

さらに、αシリーズのレンズとしては最多となる11枚の円形絞り羽根を採用し、とけるような美しいボケ表現を可能にしている。

同じ焦点距離のレンズとしては、2014年に登場したFE 70-200mm F4 G OSSがある。こちらは、FE 70-200mm F2.8 GM OSSが発売されるまでは、FEレンズ唯一の純正望遠ズームであった。F4とやや暗いが、価格とコンパクトさではFE 70-200mm F2.8 GM OSSに勝る。

当レンズは、αシリーズのズームレンズとしては初めてのフローティング機構を採用している。結果、近接撮影能力が向上し、最短撮影距離0.96m、最大撮影倍率0.25倍を実現した。ここまで寄れる望遠ズームレンズは貴重だ。

また、光学式手ブレ補正機構が内蔵されており、暗い場所や近接撮影時でも手持ちで使用することができる。加えて、5軸ボディ内手ブレ補正機構搭載のαボディに装着すれば、ボディ内蔵の手ブレ補正の効果も得られるため、ポートレート以外にも撮影領域はさらに広がる。

そして、ほこりや水滴の浸入を防ぐ設計を採用しており、屋外の厳しい環境下でも安心して使用できるよう考慮されている。望遠レンズらしく、鏡筒は白と黒を基調とした、親しみやすいデザインに仕上がっている。

フィルター径は77mm。最大径×長さは88×200mm。質量は約1,480g(三脚座除く)。ズーミングやフォーカシング時にレンズの全長が変化しない作りが嬉しい。

約625gと小ぶりなα7R IIに装着すると巨大かつフロントヘビーに見えるが、他社の一眼レフ用望遠ズームレンズと比べるとほぼ同等のサイズである。α7R IIのような小さなボディの場合には、バッテリーグリップを装着するとバランスを取ることができる。後ほど紹介する作例もすべてバッテリーグリップをつけて撮影している。

手持ちで撮影をしているとじわじわホールドしている左手に疲れが溜まる感覚はあったが、ボディのコンパクトさに助けられ、そこまで辛さは感じなかった。

スイッチ類はだいたい鏡筒の左側面にまとまっているので、手の小さい筆者でも、レンズをホールドしながら左手親指で簡単に操作できた。しっとりとした鏡筒が手に馴染み、心地よいホールド感だと感じた。リング操作も滑らかだ。

ピントリングとズームリングの間には「フォーカスホールド」ボタンが90度ごとに3つ配置されている。コンティニュアスAF中においても瞬時にピント位置を固定することが可能だ。

また、「フォーカスモード」「フォーカスレンジリミッター」「手ブレ補正」「手ブレ補正モード」の4つのスイッチを搭載し、プロユースに応える高い操作性を実現している。

フォーカスホールドボタンのアップ

三脚にレンズを装着した状態から、素早く手持ち撮影に切り換えられる着脱式の三脚座をαレンズで初めて採用。縦横構図を簡単に変更できるリボルビング機構や、レンズの脱落を防止するロック機能も備えている。さらに、三脚座の突起部を分離できるため、持ち運び時の収納性も向上している。

パワーの強いリングドライブSSM(前側)と2つのリニアモーター(後側)が大口径F2.8の重いフォーカスレンズを高速、高精度で駆動させている。AFは高速かつ静かで、撮影時の集中力を阻害されることはなかった。

同梱のフードを装着したところ

作品

望遠端200mmと開放F2.8の組み合わせでモデルに近づいて撮影した。奥行きのない背景だったが、圧縮効果により、被写体にクローズアップすることで空気感を演出できた。ピント合焦部の描写は非常にシャープだが、そこからなだらかに始まるボケ味が美しい。風になびくモデルの髪をやわらかに表現している。

α7R II / 1/400秒 / F2.8 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / 200mm

F4に絞り、100mm程度の画角で少し引いて撮影をした。適度に背景が整理され、自然な雰囲気の1枚に仕上がった。背景の木漏れ日の点光源がきれいな円形ボケとなって描写されている。

α7R II / 1/640秒 / F4 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / 104mm

モデルに花のアーチの下に立ってもらい、やや寄ってワイド端70mmと開放F2.8の組み合わせで撮影した。前ボケはクセがなくナチュラルな印象だ。望遠ズームレンズといえども、このくらいの自然な距離感の写真を撮ることもできる。70-200mmはさまざまな画づくりに対応できて非常にありがたい。

α7R II / 1/400秒 / F2.8 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / 70mm

先ほどと同じ場所で、モデルの全身が入る位置まで引き、ワイド端70mmと開放F2.8で撮影した。筆者は、α7R IIの「顔検出」を「入」にし、さらにAFLボタンに「瞳AF」を割り当て、撮影時にはAFLボタンを押している。この両方を使えば、このように絞りが開放、かつ引いて撮影するときでもモデルの瞳にしっかりとピントを合わせることができる。

α7R II / 1/500秒 / F2.8 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / 70mm

望遠端200mm、開放F2.8で最短撮影距離0.96mまでモデルに近づき撮影した。望遠ズームレンズでここまで寄って撮影できるのは新鮮で、嬉しい。組写真にしたときにインパクトのあるアップを撮ることができる。左目にだけピントを合わせたが、合焦部の描写は非常にシャープで、そこから始まるボケのグラデーションは非常に滑らかだ。

α7R II / 1/1,250秒 / F2.8 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / 200mm

望遠端200mm、開放F2.8で最短撮影距離0.96mまで寄り、草花を撮影してみた。マクロレンズばりの描写に驚く。ポートレート以外の撮影にも十分使える。

α7R II / 1/1,250秒 / F2.8 / 0EV / ISO640 / マニュアル露出 / 200mm

モデルに木の下に立ってもらい、F5.6まで絞って画面の下に寄せて撮影をした。像が流れたり解像感が落ちやすい周辺部も、モデルが手にとっている葉を見ても非常にシャープで解像感が高いことがわかる。

α7R II / 1/800秒 / F5.6 / 0EV / ISO640 / マニュアル露出 / 70mm

まとめ

圧倒的な解像力と美しいぼけ味を両立しているソニーのGマスターの名に恥じない仕上がりのレンズだと感じた。αユーザー必須の1本だろう。

画質は絞り値に関わらず、ズームレンジ全域で素晴らしい。ぼけ味は自然で美しいので、寄って背景を大きくぼかすときも、引いて背景の適度なぼけ味を楽しみたいときも、どちらのシーンでも活躍すること間違いなしだ。

また、最短撮影距離0.96m、高速で高精度なAF、光学式手ブレ補正機構の内蔵、防塵・防滴に配慮した設計など、F2.8望遠ズームに求められる機能を非常に高いレベルで実現している点が素晴らしい。

今回はポートレートがメインだったが、ポートレート以外の撮影にも十分使えると感じた。

気になるのはその価格だ。高価だが、防塵防滴やフッ素コーティングが施されていることを考えるとメンテナンス性が高いといえるので「長く付き合えるレンズ」と捉えれば納得できる。

モデル:華凜

大村祐里子

(おおむらゆりこ)1983年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。有限会社ハーベストタイム所属。雑誌・書籍での執筆やアーティスト写真の撮影など、さまざまなジャンルで活動。『デジタルカメラマガジン』にて「カメラおじさんをたずねて三千枚」連載中。