交換レンズレビュー

LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S.

準マクロレンズとしても使える標準ズームレンズ

今年2月にパナソニックから発売されたマイクロフォーサーズの標準ズームレンズ「LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S.」。このレンズは今後シリーズ化される「LEICA DG VARIO-ELMARIT F2.8-4.0」シリーズの第一弾。この後、広角ズーム(8-18mm)と望遠ズーム(50-200mm)の発売も予定されている。

本レンズを装着したLUMIX GH5とともに秋田県と山形県の日本海沿いエリアをまわる、春のみちのく1人旅で撮影して来た。

発売日:2017年2月
実勢:税込11万円前後
マウント:マイクロフォーサーズ
最短撮影距離:0.20m(広角端)、0.24m(望遠端)
フィルター径:62mm
外形寸法:68.4mm×86mm
重量:約320g

デザインと操作性

最大径68.4×長さ86mm、質量は約320gとマイクロフォーサーズ用の標準ズームレンズとしては若干重めとなっているが、その分しかりとした造りで防塵、防滴、防寒仕様になっていて安心感がある。

望遠側(60mm)へ繰り出した状態

パナソニックにはLUMIXシリーズとして昨年発売済みの同じ焦点距離を持つLUMIX G VARIO 12-60mm / F3.5-5.6 ASPH. / POWER O.I.S.があるが、そちらを本レンズと比較するとサイズ感はほんの数mmの増加だが重量は約1.5倍となる。

開放F値が明るくなっていることやLEICAブランドの認める品質基準などの表れが構造的にも反映されているわけだ。今回、ボディーは大きなグリップが備わったLUMIX GH5に装着して撮影したので、右手でボディーをホールディングし左手でレンズを支えると、はじめから専用に設計されたのかと思えるほどジャストフィットしている感じだ。

ボクの場合、ズームレンズ使用時には頻繁に焦点距離を変えて撮影するのだが、ズームリングのトルクの具合はちょうど良い重みで、とても滑らかな動きで心地よい。殆どの場合はAFだが、ごくたまに使うMFにおいても違和感やがたつきはなくスッと動いてくれる。

レンズ鏡胴本体から高級感ある贅沢な構造であることが感じられる。専用のレンズフードをセットするとハレーションに強くなるのはもちろんだが、見た目も精悍になりホールディングもさらに安定感が増していく。

そして、手ブレ補正機能(POWER O.I.S.)の搭載はもちろん強い味方である。

広角側では20㎝、望遠側で24㎝と被写体までの最短撮影距離が近いので準マクロ的なクローズアップ撮影が可能だ。

金属製のマウント部はしっかりとした頑丈な造りで安心してスムーズなレンズ交換ができる。

AF/MFのフォーカス切替えスイッチ、手ブレ補正機能(POWER O.I.S.)のスイッチ類はホールディングした時に自然に左手親指が触れる位置にあり、迅速に操作できてとても使い易い。

同じく今年春に発売されたLUMIX GH5との相性はバッチシだ。

専用のレンズフードを装着することで、余分な光線カットだけじゃなく、ホールディングも向上し見た目もグッと引き締まって精悍になる。

作品

線路沿いの道路を走っていると踏切りが鳴り電車が近づいていることを知らせてくれたので急いでカメラをセット。羽越本線の特急「いなほ」、”鉄分”の多い方たちはE635系と呼ぶらしいけどボクは門外漢なので……(笑)。ワイド端12mmでF11まで絞り込んで撮影。青空を見てもわかるとおり周辺減光は見られない。

LUMIX GH5 / 1/640秒 / F11 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 12mm

望遠側60mmでの開放値のF4で撮影。9枚羽根円形絞りを採用していることもあってか前後のボケともに滑らかなグラデーションで柔らかい描写になっている。

LUMIX GH5 / 1/1,250秒 / F4 / +0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 60mm

被写体へ思いっきり寄ってのクローズアップ撮影。このレンズは望遠側で24㎝の近接撮影ができるので準マクロ的な撮影が可能だ。それだけに美しいボケ味も楽しめるのも特徴だ。

LUMIX GH5 / 1/500秒 / F4.5 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 60mm

ちょっと意地悪な実験として超逆光条件での撮影を試みた。結果は広角端側で太陽の中心部分だけを水門の鉄柱の陰に入れての撮影をしたがご覧のとおりに美しい虹彩さえ見られる。耐逆光性の高さが感じられる。

LUMIX GH5 / 1/640秒 / F11 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 12mm

絞りを中間値のF5.6に設定して望遠側でも同じく逆光撮影をしてみたが、水面の光の反射がキラキラした描写で、滲みもあまりない良好な描写だった。

LUMIX GH5 / 1/4,000秒 / F5.6 / -0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 56mm

庄内地方の海岸線をクルマで走っていて以外に思ったのは砂丘というか砂地が多いことだった。風でできた模様が面白い。松ボックリは風で運ばれてきたのか鳥が落としたのか、良い具合のオブジェになっていた。砂のマテリアル描写も良い。

LUMIX GH5 / 1/1,000秒 / F8 / +0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 60mm

最近ではなかなか見かけなくなってきた自治体消防部の小屋。赤いペイントが素敵だったので標準域である焦点距離25mmでF11まで絞り込んで撮影。画質、色乗りともに文句の付けようがない。

LUMIX GH5 / 1/200秒 / F10 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 25mm

海辺の町にネコはつきもの。今日も東北の片隅の小さな漁師町で撮影をしていたら悪そうなヤツが現れた。そのくせカメラを向けると慌てて逃げていくのだった(笑)。

LUMIX GH5 / 1/2,000秒 / F4 / -0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 60mm

なるべく半端な焦点距離でなるべく難しそうな被写体を探していたら、思いついたのは堤防の上にある金属製のロープ留め。その合間から見える遠方の海面を撮ってみた。

LUMIX GH5 / 1/2,500秒 / F3.9 / +0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 40mm

まったく同じ位置からフォーカスポイントだけを手前にした。40mmなので35mm判換算で80mmという中望遠での開放だと思えば、ポートレートでの前ボケなども想像ができる。

LUMIX GH5 / 1/2,500秒 / F3.9 / +0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 40mm

コチラも中間域36mm。被写体までの距離1mほどで雨に濡れた芝生の感触も感じられる描写だ。暗部のトーンも巧く再現されている。

LUMIX GH5 / 1/125秒 / F4 / 0EV / ISO800 / 絞り優先AE / 36mm

普段の生活ではあまり感じないものだが、旅先で空を見上げているといろんな鳥が飛んでいることに気が付く。真っ青な状態ではないが青空の隅の部分を確認してもF11で均一でフラットな画質が望遠側でも得られている。

LUMIX GH5 / 1/1,250秒 / F11 / -0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 60mm

望遠端60mmを縦位置にして前後の家々の瓦屋根を1枚に入れ込んで撮影してみたら圧縮効果も手伝って望遠レンズ特有の表現も楽しめる。F8くらいから急速に画質描写も向上した感がある。

LUMIX GH5 / 1/160秒 / F8 / -0.7EV / ISO400 / 絞り優先AE / 60mm

線路を見つけたので撮影場所をもとめて電車が来るのを待っていたら長い編成の貨物電車がやってきた。35mm判換算で標準レンズになるの焦点距離50mm相当でやや高い場所から見下ろしてみる。標準レンズでも広がりが出た、みちのくの風景を眺めながら今さらながら「旅しているんだな~」って思った(笑)。

LUMIX GH5 / 1/500秒 / F8 / 0EV / ISO400 / 絞り優先AE / 25mm

紅色のつつじの花が終わろうとしている。中間の焦点距離、F5.6の中間絞りで見下ろして撮影。フォーカスの合っている部分と背景の芝生での分離感も良好だ。

LUMIX GH5 / 1/250秒 / F5.6 / -0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 25mm

訪れた小さな漁師町で陸付けされた漁船で見つけた体長10㎝程のミイラ化寸前の小さな河豚をクローズアップ撮影。乾燥した魚の肌やこびりついた小さな砂粒の部分まで克明なディティールの描写。

LUMIX GH5 / 1/160秒 / F8 / 0EV / ISO400 / 絞り優先AE / 60mm

金属、わかめ、ロープ、ビニールテープ、プラスティックと違う素材をミックスして撮影してみても、それぞれの質感が十分感じられる描写力だ。

LUMIX GH5 / 1/125秒 / F8 / +0.7EV / ISO400 / 絞り優先AE / 40mm

逆光線下での透けた葉っぱの描写がリアルに浮き上がる。

LUMIX GH5 / 1/2,500秒 / F8 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 40mm

雲間にある太陽を画面に入れ込んでの撮影でもごくわずかなフレアはあるものの、シルエットに近い暗い部分も潰れることなく染みも少ない。解像力はまったく問題無いレベルの高さだ。

LUMIX GH5 / 1/2,000秒 / F11 / +0.7EV / ISO400 / 絞り優先AE / 12mm

農道をパンフォーカス気味に絞って収める。東北の田園地帯の遅い春は、緑や黄色の色味に包まれて春らしい暖かさが感じられる。ここははじめて訪れる場所なのだが、不思議と遠い子供時代に田舎道を走って遊んでいた記憶が甦ってきた。

LUMIX GH5 / 1/250秒 / F11 / -0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 60mm

ホワイトバランスを高めに設定して撮影。夕陽を受けて金色に反射しているビニールハウスの色味を強調して、遅い午後から夕方の雰囲気を出してみる。

LUMIX GH5 / 1/800秒 / F8 / -0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 12mm

「電柱」と「電線」は、「線路」や「踏切」と共に好物の被写体だ。見つけるとカメラを向けないわけにはいかない性分である。夕暮れていく空の深いトーンに現れた月の白さ。

LUMIX GH5 / 1/640秒 / F5.6 / -0.7EV / ISO400 / 絞り優先AE / 16mm

パチッ、また1つパチパチッと外灯に明かりが灯る時間だ。八郎潟の水面には色鮮やかな残照が映り込み、空と水の中と2つの雲が浮かんだ風景が美しかった。

LUMIX GH5 / 1/15秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO400 / 絞り優先AE / 12mm

今夜の宿がある終着地が近づいてきた。あたりはすっかり暗くなっていたが、手持ちで1/3秒での撮影。このような条件下でも1段絞るだけで画質はグッと向上する。

LUMIX GH5 / 1/3秒 / F4 / -1.3EV / ISO400 / 絞り優先AE / 12mm

旅先で線路や電車を見かけると必ず思い出してしまい、撮影したいなーって思うのが幼い頃に読んだ宮澤賢治の「銀河鉄道の夜」の挿絵や、谷内六郎画伯が描いた週刊新潮の表紙絵に出てくる電車のシルエットだ。ボクはまったくもって鉄チャンではないのだが、この光景だけはこれからも鉄道がある限り日本中の各地でずっと追いかけていくのだろうなァ~♪

LUMIX GH5 / 1/1,000秒 / F8 / -1.3EV / ISO400 / 絞り優先AE / 12mm

まとめ

さすがLEICAブランドを名称に使うだけあって一般的な標準ズームレンズと比べると見た目もそうだが、動きの滑らかさや仕上げと部位の高級感など価格に見合った安心して使える印象が強い。

それでいて比較的コンパクトなサイズや重量に抑えられているのはF2.8通しのように無理して開放値を明るくしなかったという選択やELMARITの設計意志が表れている。準マクロ的な撮影も可能なので35mm判換算でクローズアップ機能が備わった「24-120mm」という日常使いの高級ズームレンズといった位置づけだろう。

LEICA VARIO-ELMARITシリーズとしてすでに計画発表されている残りの2種類のレンズ、広角ズームの8-18mmと望遠ズーム50-200mmが出揃って、高性能かつコンパクトなズームレンズ3本セットで撮影旅行に行ける日が待ち遠しい。

HARUKI

(はるき)1959年広島生まれ。写真家。ビジュアルディレクター。九州産業大学芸術学部写真学科卒業後、上京しフリーランスで世界各国でのスナップショットやポートレートを中心に活動。第35回・朝日広告賞・表現技術賞、100 Japanese Photographers、パルコ ”第3回・期待される若手写真家展” などに選出。プリント作品は国内外の美術館などに収蔵。著書に写真集 「The Human Portraits ~普通の人びと ~1987-2007~ 」、「遠い記憶。」、「Automóvil Americanos “Cuba Cuba Cuba”」。 個展、グループ展多数参加。長岡造形大学非常勤講師。日本写真家協会(JPS)会員。

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