デジタルカメラマガジン
「夜の絶景写真 工場夜景編」の小林哲朗さんにインタビュー
撮り始めた経緯、イチオシの撮影地、カッコよく撮るコツなど
2017年1月17日 12:02
弊社刊「夜の絶景写真 工場夜景編」の著者、小林哲朗さんのインタビューをお届けします。前回は担当編集者に作り手の思いを聞きましたが、今回は撮り手の小林さんが工場夜景に魅せられた経緯や、誰でもカッコよく撮るコツなどを聞きました。
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——どのように工場夜景を撮り始めたのですか?
そもそもカメラにハマったきっかけが長時間露光でした。コンパクトデジタルカメラをミニ三脚に載せて夜桜を撮ったら、昼間のように写りました。カメラを通すと人間の目には見えない画像を撮れるのが面白くて、そこで夜景撮影に興味を持ったんです。
同様に"機械的なもの"が好きで、廃墟巡りもしていました。アニメやSFのような世界観を現実で見られるのが面白くて機械などを撮っていたら、あるときに「夜が面白い」と教えてくれた人がいて、「夜景」と「工場」への興味が組み合わさり、10年前から工場夜景を撮るようになりました。
——そこから10年間、ずっと撮り続けているんですね。
1冊目の写真集を出した時、当時は務めていて仕事が忙しかったこともあり、一度は満足して工場夜景の撮影から遠のいていました。しかし、やがて工場夜景に世の中の関心が集まるようになり、撮影を依頼されるようになったんです。
それまではマニアックに"構造美"だけを追い求めていましたが、依頼によっていろいろ撮っているうちに、例えば「冬は水蒸気がよく出るな」といった季節感など、新たな魅力に気付きました。
最初は西日本ばかりを撮っていたのが、今では全国のほとんどを回りました。まだ撮っていない小さなスポットも、近くまで行った際に立ち寄るなどして撮り続けています。
——10年前に撮り始めた頃と今では、作品作りに違いはありますか?
RAW現像をしている点が違います。かつてはホワイトバランスのことも考えていませんでしたが、派手なHDR画像が流行った2年ぐらい前から、LightroomでRAW現像をやり始めました。 深く調整すると一層面白いということに気付いたんです。
ホワイトバランスは、1枚ごとに調整スライダーを操作して色味を探っています。煮詰まると一旦「初期化」(Lightroomで調整パラメーターをリセットする)ボタンを押したりもしますが(笑)、それが楽しいんです。いわゆる"JPEG撮って出し"の至上主義もありますけど、RAW現像はやってみると簡単なので、それを伝えたいですね。
工場夜景ブームというのも「実際に撮ってみたら面白かった」という点で認知が広がってきたんだと思います。特に写真愛好家の方々は中高年でもSNSをやっているので、そこで浸透してきた印象があります。
——撮影場所のロケハンはどのようにしていますか?
行ったことない場所はGoogleマップで見ます。最近は3Dでも見られるようになり、撮る角度までアタリが付けられるようになりました。とはいえ自分の脚で探すのが大事ですし、それ自体がまた面白いんです。結局は現場に行かないとわからないんですが、あらかじめ場所の目星をつけられることで、現地での時間を有効活用できるようになりました。
——手始めとして、公共交通機関で行きやすい場所はどこですか?
山口県周南市のスポットがわりと行きやすいと思います。新幹線も停まりますし、駅から徒歩15分ぐらいの距離です。工場夜景のスポットは、地域によっては観光タクシーで回ってくれる場所もあります。
——いわゆる"ゲームっぽい"工場夜景が撮れるスポットはどこですか?
ゲームっぽいというと、和歌山県の有田だと思います。ここは、いかにも工場夜景!というフォルムをしていて、広いので望遠レンズさえあればどこを切り取っても絵になる気軽さがあります。場所も全体的に明るく、撮りやすいです。
——あえて、小林さんのお気に入りスポットを挙げるならどこですか?
福岡県苅田町ですね。ひとつの工場としての複雑さ・デカさに圧倒されます。山からも海からも見えますし、なんせ大きいです。エリアでは岡山県倉敷市の水島ですが、単品ではここです。
——工場夜景をカッコよく撮るコツは何ですか?
まず多くの方は広めに撮るので、散漫にならないよう「寄って、切り取ってみましょう!」とアドバイスします。工場のいいところを見せるような撮り方をしてほしいです。
——"工場夜景ブーム"について、今後の発展に期待していることはありますか?
工場や地域の取り組みについてはどこも模索している印象がありますが、やっぱりツアーだと思います。外から撮るしかない工場に、限定的でもちょっと中に立ち入れるチャンスなんかがあるといいですね。そういう取り組みの例が全くないわけではないんですが、どこも実施されている時間帯が夕方までなので、ぜひ夜にやりたいです。