インタビュー

キャリブライトのカラーマネジメントアイテムとは?

新たに国内総代理店になったヴィンチェロに聞く

ヴィンチェロが扱うキャリブライト製品の一部

キャリブレーターの「i1シリーズ」などで知られる米エックスライト社の写真業界向け製品が、新設の米キャリブライト社に移管された。それに伴って、株式会社ヴィンチェロが国内総代理店となった。

そこで今回、ヴィンチェロ設立の経緯や取り扱い製品の概要、またエックスライトからキャリブライトへの移管についてヴィンチェロ 代表取締役の井上哲さん、同ソリューション事業部長の川田弘文さん、同マーコム ダイレクターの横澤史佳さんに話を聞いた。

社長は異色の経歴の持ち主

エックスライトの事業が産業用市場にフォーカスすることにより、既存の民生用機器が米MACグループと英LUMESCAグループによる映像関係の商社を基盤とするキャリブライトに移管された。

一方キャリブライトは、グローバル展開する上で日本の代理店を探しており、そこで関係者から白羽の矢が立ったのが2021年4月に創立したヴィンチェロだった。

話を聞いたヴィンチェロのスタッフ。左からマーコム ダイレクターの横澤史佳さん、代表取締役の井上哲さん、ソリューション事業部長の川田弘文さん

ヴィンチェロの代表取締役である井上哲さんに⾒覚えのある⽅も多いかもしれな い。フィリップ モリス ジャパンで副社⻑を務め、加熱式たばこ(アイコス)の拡販に尽⼒した⽅だ。当時、多くのメディアに取り上げられている。

その井上さんが定年退職を機に、自分の会社として作ったのがヴィンチェロだ。当初はコンサルティング業務を予定して設立したが、キャリブライト製品輸入の打診を受けてコンサル事業は別会社に移し、現在はキャリブライト製品の輸入にほぼ特化した会社となっている。

同年9月にキャリブライトと代理店契約が結ばれた。キャリブライト製品の話を井上さんに持ち込んだのが川田弘文さんだ。旧キヤノン販売やプロフォトの日本法人など、写真業界で活躍してきた川田さんが培った販売網を活用し、11月25日に販売を開始した。実は、お話を聞いた3人ともかつてアップルの日本法人に勤務していた旧知の仲だ。

キャリブライトとの資本関係は無し

ヴィンチェロという社名はイタリア語で、「私は勝つ」や「勝者」といった意味があるそうだ。「手段を選ばずに何が何でも勝つということではなく、最近話題になっているSDGsやサスティナビリティへの想いもあり、会社として勝っていくけれど、社会全体が良い方向に向かうように貢献できたらと考えて決めました」と井上さんは言う。

キャリブライトとヴィンチェロとの間に資本関係は無い。とはいえ、マーケティング活動を本国企業が行うケースも多い中、ヴィンチェロはその点も自社の予算で行っているという。例えば展示会に出展して製品を訴求したり、通常、総代理店がやる必要が無いというWebサイトの日本語化も行った。こうした活動を通じて、国内でのブランド育成まで自社でしっかりやっていきたいとのことだった。

今後は、製品を体験してもらえるワークショップなどのイベントを開催したり、国内のプロによる動画のコンテンツを提供するといった活動も予定している。すでに、海外のプロによる解説動画が数本Webサイトに掲載されている。

パシフィコ横浜で開催された「PHOTONEXT 2022」のヴィンチェロブースに並んだアイテム

サポートに関しては、エックスライトのレガシー製品も対応可能なものは正規品に限り受け付ける。サポート可能なアイテムについてはWebサイトに記載がある。一方ソフトウェアについては、キャリブライトがアップデートした最新版が公開されている。

ディスプレイの色を合わせる定番アイテム

キャリブライトのアイテムは、「キャリブレーター」と「カラーチャート」に分けられる。現状では、キャリブライトの製品はいずれもエックスライト時代のものをリブランディングしてそのまま引き継いでいる。そのため使われている技術もスペックも従来と全く同じで、新製品と呼べるものもまだ無い。ただ、「何も変わっていない」という部分は、従来のユーザーには安心できるポイントだろう。

キャリブレーターはディスプレイ専用の「ColorChecker Display」「ColorChecker Display Pro」「ColorChecker Display Plus」と、プリンターやスキャナーにも対応する「ColorChecker Studio」の計4機種。

ColorChecker Display Plus
ColorChecker Studio

機種によって白色点がカスタム設定できたり、計測できる最高輝度(HDR対応)などが異なっている。またColorChecker Display ProとColorChecker Display Plusは環境光モニタリング機能を搭載しているのが大きな特徴なのだそうだ。

環境光モニタリング機能は、キャリブレーターが環境光を分析し、その場の光に最適なカラープロファイルを適用してくれる機能だ。特にノートPCを持ち運んで使う場合は場所によって光が異なるため、この機能が付いているモデルがお勧めということだった。室内であっても、時間による自然光の違いまでシビアに合わせたい場合にも対応できるという。

よく売れているのはColorChecker Display Proで、ColorChecker Displayがそれに続くという。いつも同じ環境光下で使うなら、ColorChecker Displayで十分だそうだ。

PCによっては最初から綺麗に表示される機種もあるが、「綺麗に見える」のと「正しく見える」ことは別の話。クリエイティブな作業ではディスプレイのキャリブレーションは重要と言える。デザイン会社から、「各スタッフの環境が異ならないように色合わせをしたい」といった引き合いも来ているとのことだ。

業界標準のカラーチャート

カラーチャートは用途に合わせて10数種類のラインナップがある。よく使われているというのが、基本的なカラー配色を採用した「ColorChecker Classic」シリーズだ。大きさ別に「Classic」「Classic mini」「Classic nano」などがある。

ColorChecker Classicは原型となったタイプで、長辺30cmほど。miniはそれより小さく長辺10cm強。nanoは最も小さいサイズで長辺4cmだ。Classicなら人物撮影でモデルに持ってもらうとちょうど良いサイズ。miniは小さな被写体のブツ撮りに。nanoは宝石など特に小さな物の撮影に適するとのことだ。特殊なものでは、畳ほどもある「Classic Mega」といったサイズもある。

大きい方がColorChecker Classic。小さい方がClassic mini

「ColorChecker Digital SG」は色数が一番多いタイプ。高精度な色合わせが必要な場合に向く。コマーシャルなどのブツ撮りでは「ColorChecker Classic Mini」または「ColorChecker Classic Nano」が使用される場合が多いようだ。

ColorChecker Digital SG

そのほか、反射率18%の「ColorChecker Gray Balance」やホワイトバランス設定のための「ColorChecker White Balance」といったチャートもある。

また、複数のチャートをまとめて持ち運びしやすくした「ColorChecker Passport」シリーズはチャート数の割りには安価なため、ハイアマチュアレベルのユーザーにもお勧めということだった。

ColorChecker Passportの外観

そのなかで、一般的な写真撮影に対応したのが「ColorChecker Passport Photo 2」だ。Classic mini、Gray Balance、White Balanceなどが含まれている。ケース一体型なので比較的劣化も起きにくいそうだ。ミラーレスカメラでの動画撮影にも使えるとのことだ。

ClassicシリーズやPassportシリーズは、各ソフトウェアとの連携も可能。キャリブライトの純正ソフトで補正プロファイルを作ることもできるほか、「Adobe Lightroom Classic」やBlackmagic Designの動画編集ソフト「DaVinci Resolve」上でチャートを読み込んで補正することも可能となっている。

左がColorChecker Passport Photo 2、右は動画向けのColorChecker Passport Video
それぞれ別の面にはWB調整チャートなどがある

Passportシリーズはカメラ系量販店でよく売れている一方、Classicシリーズはプロ向け機材店でよく出ているそうだ。プロの現場ではClassicシリーズを消耗品としてどんどん使うイメージだとのこと。いずれのカラーチャートも経年変化で色が変わるため、メーカーでは2年での買い換えを推奨している。

チャートの価格は最初に聞くと少々驚く。Classicが税込1万7,380円、Passport Photo 2が同2万2,550円となかなか高価だ。その点について聞いてみると、カラーサイエンスの世界基準のひとつであるPANTONEに基づいた顔料を使っていて、バラツキが無く全て同じ色になるように品質管理されているという。

顔料の詳細は非公開だが特殊なものであるそうで、先ごろはコロナ禍で顔料の調達ができず、チャートの製造が止まったこともあったそうだ。同じ色の塗料で作っても同じ精度になるわけではなく、それなりの製造コストが掛かった結果だそうだ。

高価であっても、プロがこうしたカラーマネジメントシステムを採用するのは後の編集作業が早くなるためで、その利便性を理解しているからだそう。編集やレタッチのしやすさは効率、すなわちコスト減に繋がるため、こうしたアイテムの活用が求められるということだ。

カメラマンからよく聞く話として教えてくれたのは、クライアントから色について指摘されたときに、「信用できる機材でカラーマネジメントしている環境で制作を行っている」と言えるかどうかで仕事の進み具合や信用力も違って来るということ。今日では動画の制作者もカラーマネジメントを知っているかどうかで、仕事の生産性や効率性、品質の担保に大きく影響するということだった。

H&Yフィルターの流通も担当

今後は写真・映像業界向けの販路を生かして、そこにマッチした商材の扱いを増やす。海外で面白いアイテムがあれば、国内に紹介して行きたいということだ。

キャリブライト以外では、レイクプラッツが輸入しているH&Yブランドのフィルターを量販店に卸すルートを担当する。すでに、ヨドバシカメラで一部のH&Yアイテムから取り扱いを開始した。

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。