写真展レポート

マグナム写真家 クリス・スティール=パーキンスの考える“良い写真”とは

ライカギャラリー東京「スポーツのある風景」によせて

クリス・スティール=パーキンス氏。ライカギャラリー東京にて

ライカギャラリー東京および京都でスポーツをテーマにした写真展「スポーツのある風景」が開催中だ。ライカギャラリー東京はマグナム・フォトの写真家であるクリス・スティール=パーキンス、同京都ではエリオット・アーウィットがこれまで撮影してきた写真から「スポーツのある風景」をセレクトした。

二人ともスポーツを専門に撮る写真家ではないので、一流のアスリートが見せる“瞬間のドラマ”は出てこない。中には街のジムや公園で遊ぶ子どもたちを写したものもある。スポーツをすることは人権の一つであり、誰もが差別を受けることなくスポーツをする機会を与えられる。

本展はかなりシリアスなテーマを投げかけてくる場なのかもしれない。写真展の開催にあわせて、クリス・スティール=パーキンス氏に話を伺う機会を得た。

ルポルタージュを撮る写真家を目指した

パーキンス氏は大学で心理学を専攻し、卒業後はルポルタージュを撮る写真家を目指した。「写真家には二通りあって、メディアが求める写真を撮る人と、自らの興味を掘り下げて自分が求めるイメージを撮る人がいる。僕は後者になれなければ違う職業に変わろうと思っていた」とパーキンス氏は語る。

イギリス国内が人種問題で揺れていた1978年、「サンデー・タイムズ」の依頼で同国中部の村を取材した。その10年前、右派の議員であるイーノック・パウエルが移民に反対する演説を行ない、注目を集めた場所だ。

パーキンス氏はその時の様子をこう話す。「僕らは余所者だから、最初は『出ていけ』とか『撮るな』と言われる。それでもしばらく居続けると警戒心を解いて、普段通りに行動し始めるんだ」。

道で遊ぶ子どもに聞いて訪れたのは、教会だった建物をスポーツ施設代わりに使っている場所だったという。そこには運動するための器具や用具は何もなかったが、様々な人種の人が共に汗を流していたのだそうだ。

Wolverhampton sport club, England, 1978 © Chris Steele-Perkins

最初の写真集「The Teds」(1979年刊)は、新しい若者文化のテッズを雑誌で取材したことがきっかけだった。「取材は半日ぐらいで終わったけど、面白いテーマだと感じた。これは絶対モノにしてやろうと思い、その後、何度も通って写真集ができたんだ」とパーキンス氏は振り返る。

2019年に出版した写真集「New Londoners」ではイギリスで暮らす移民の家族たちを取り上げた。さまざまな出自を持つカップルが登場し、そこには日本人もいる。パーキンス氏自身、イギリス人の父とビルマ人の母の元、ビルマで生まれ、幼少期にイギリスへ移住した。パーキンス氏は「実は自分自身が移民であるとずっと思っていなかった。数年前に気づいて撮り始めたんだ」と笑う。

“良い写真”とは?

良い写真とは?という問いに対し「自分の中の何かを変えてくれるもの。そうしたイメージはその人の記憶の中に残り続ける」と答えた。ではそうしたイメージを捕まえるにはどうしたらいいか。

「何かを抽出することかな。正直な反応というか。こうしたらこう、こうなったらこうというような公式に当てはめるのではなく、もっとずっと直感的で、柔軟なものなんだよ」。彼の言葉を記すとこうだ。「I think if you try to...you are trying to extract something from the situation, which is an honest response. Not using a formula that categorize, to say, you know, do X, do y, do z. It's more intuitive, more flexible.」

写真を撮ることは、目の前にある莫大な情報をextract(エキスに)することだと言い、さらにhonest response(正直な反応)、intuitive(自らの直感的な行為)、flexible(柔軟さ)と表現を重ねている。

今は日本をテーマにプロジェクトを進行中だ。小さなデジタルカメラを手に、日々目にした風景を撮影中だが、どんな形になるかはまだ本人にもわからない。「スポーツのある風景」は、そんな写真家のエッセンスが感じられる写真展だ。

スポーツのある風景 by Chris Steele-Perkins

所在地

東京都中央区銀座6-4-1 ライカギャラリー東京

会期

2021年6月2日(水)~8月24日(火)

開催時間

11時00分~19時00分

休館日

月曜日

ブランドキャンペーン「The World Deserves Witnesses」

ライカカメラ社が「社会や人生での決定的瞬間を独自の視点で写真という記録に残すフォトグラファーを称え応援する」というコンセプトの元展開するブランドキャンペーン。

スローガンは「The World Deserves Witnesses」。日常に潜む美しさ、慈愛、詩情、そして絶え間なく繰り広げられる人生のアイロニーやドラマなど、ほとんどの人が見過ごしてしまうような「瞬間」を切り取るフォトグラファーを「ウィットネス」と称し、精力的に活動するフォトグラファーを讃えるという趣旨。また、現在は写真を撮ることが容易になったが、写真を撮るという行為から、より意義のある視点で社会を、世界をみつめるということに焦点を当てているという。

本キャンペーンのビジュアルに、今回インタビューをしたクリス・スティール=パーキンス氏の作品も起用されている。

© Chris Steele-Perkins

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。ここ数年で、新しいギャラリーが随分と増えてきた。若手写真家の自主ギャラリー、アート志向の画廊系ギャラリーなど、そのカラーもさまざまだ。必見の写真展を見落とさないように、東京フォト散歩でギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。