写真展レポート

中西敏貴写真展「Kamuy」レポート

「ウチから見た自然の姿」 目に見えない“気配“を味わう演出

中西敏貴さん。会場入り口の前で。

品川のキヤノンギャラリーSで10月31日まで開催されている、写真家・中西敏貴さんの写真展「Kamuy」の現地レポートをお届けする。

写真展のタイトルにもなっている「カムイ」とは、北海道の先住民族であるアイヌ民族の言葉で、一般的な日本語では神様と訳されることが多い。しかし実際には、森羅万象に存在する、自分たちに“役立つもの”や“苦しめるもの”に対して○○様と敬意を込めて「カムイ」と呼ぶのだという。自然の中から発せられる“気配”が、アイヌの人々が感じている「カムイ」に集約しているのではないかと中西さんは語る。

本写真展は、自然の中から感じられる“気配”がテーマの一つとなっている。自然をモチーフに撮影している中西さんは、自然に対して感じる恐怖や幸福、美しいと思う気持ちが、「カムイ」という言葉に総括されると感じているという。

極端に照明を落としたギャラリーに足を踏み入れると、暗闇の中に作品が浮かび上がるように見えてくる。数分もすれば徐々に目も慣れてくるが、“夜に星を撮っているときにだんだんと見えてくる感覚”を演出したかったという。さらっと流し見していくのではなく、ゆっくりと森の中をさまよい歩くようなイメージで鑑賞していくことで、その空間に漂う“気配“を感じてほしいと中西さんは話す。

会場のBGMには、アイヌ民族から「コタンコロカムイ(村を守る神)」と呼ばれるフクロウの声を流している。コタンコロカムイが作った森を一人で歩いているような世界観に入り込んでもらうための演出だ。

展示作品は38点。これまで開催した写真展と比較しても少ない数に設定しているという。それは作品と作品の間に生じる黒い空間にも、なにものかの“気配”を感じてほしいという狙い。ひとつの写真を見ているときに、隣の写真がわずかに見えるかどうかの空間を意識して作り上げている。

2012年に大阪から北海道美瑛町に移住した中西さんは、当初と比較して北海道での撮影に対する考え方が変わっていったという。以前は自然に対する憧れや好きだという気持ち、“こんな写真を撮ってみたいというイメージ”が先行していたのだと語った。

移住して2~3年経った頃には、虹やダイヤモンドダストなど、自然現象も狙い通りに撮れるようになっていた。しかし次第に、本当に自然のことを理解して写真を撮れているのだろうかと、疑問に感じるようになったという。その場所の水を飲み、空気を吸い、暮らしているうちに、自然を対象物として見られなくなってきたのだという。それは「ソトからじゃなくウチから見ている感覚」。すると、写真の撮り方も変わってきた。無意識の中で自動的にシャッターを切っている感覚に変わってきたのだそうだ。

そうして直近の2年ほどは、「目に見えないもの」「自分の中の風景写真の概念を再構築する」「無意識で撮る」をテーマに撮影。それが、今回の写真展「Kamuy」に繋がったのだという。

作品の中には、水を撮影しているのに宇宙のように見えたりと、実際に撮影したものとは違うイメージを感じさせる写真も展示している。中西さんは、見た瞬間に答えがわかる写真ではなく、じっと考えてイメージを膨らませてもらう写真の方が面白いのだと語った。作者がどう考えていたのかということにも想像を膨らませて自由に解釈してほしいと、キャプションやタイトルもつけなかったのだという。また、そこに漂う“気配“を感じとり、その先のストーリーを自分で作ってほしいと語る。

本写真展を鑑賞して、暗闇に浮かび上がる作品から、えも言えぬ迫力を感じた。自然に対する敬意や畏怖の念が、この空間に漂う“気配”から感じられるような気がしたのである。自分の知っている自然界を切り取った姿とは到底思えない作品を見ていると、中西さんの「自然をウチから見ている感覚」という言葉を思い出した。人間と自然という切っても切れない関係、そこにどうやって線を引くのか、あるいは引かないのか。人間と自然の共存の道について、想いを馳せる時間となった。

どう解釈するかは見る人次第だと中西さんは語る。ぜひ来場して、そこに漂う“気配”を感じ取ってほしい。

写真集やトートバッグの販売も実施。作品の購入も受け付けている。
中西さんが在廊している際には、写真集にサインをしてくれる。

中西敏貴写真展「Kamuy」

開催期間:9月19日(土)~10月31日(土)
開催時間:10時00分~17時30分
会場:キヤノンギャラリーS(東京都港区港南2-16-6 キヤノン S タワー1階)
休廊:日曜日・祝日

本誌:宮本義朗