イベントレポート

風景写真家・中西敏貴さんの「プリントを1,000倍楽しむ! with Canon PIXUS XKシリーズ セミナー・体験会」

中西さんのデータをプリントして学ぶサプライズも

講師の中西敏貴さん

11月19日、神保町にあるインプレスセミナールームにて「プリントを1,000倍楽しむ! with Canon PIXUS XKシリーズ セミナー・体験会」が開催された。

講師を務めるのは、光を強く意識した印象的な風景写真で知られる中西敏貴さん。最近では8月から9月にかけ、恵比寿の広重ギャラリーで開催された写真展「Design」と同名の写真集が記憶に新しい。

撮影:中西敏貴
撮影:中西敏貴
撮影:中西敏貴

参加者1人1人がPIXUS XKを使用

今回はまず、風景写真家である中西さんが作品を作っていくうえでのプリントの大切さ、また、色鮮やかでドラマチックな作品プリントを仕上げるための中西さんならではのノウハウなどが披露され、それを踏まえたうえで実際にプリントを楽しんでもらおう、という運びで進められた。

本セミナーの醍醐味は、参加者それぞれに1台ずつプリンターが用意され、セミナーの内容に沿って贅沢にプリントを体験できるところにある。

当日会場に用意されたプリンターは、キヤノンのインクジェットプリンター「PIXUS XK70」と「PIXUS XK50」の2機種。

キヤノンPIXUS XK70
キヤノンPIXUS XK50

PIXUS XK70とPIXUS XK50は、ともに9月に発売されたA4複合機の上級機だ。新開発の「プレミアム6色ハイブリッドインク」によって高い写真画質をもちながら、L判写真が1枚約12.5円という大幅な低ランニングコストを実現しているのが特徴である。

中西流撮影術とは?

セミナーは、中西さんから参加者の方々への「皆さんプリントはしたことがありますか?」と「JPEGだけでなくRAWでも撮影していますか?」の2つの質問から始まった。

ちなみに、中西さんご自身はほとんど毎日何らかの目的で写真をプリントされているとのこと。「撮影しただけの画像はまだデータで、写真をプリントすることで始めて作品と呼べるようになります。最終段階のプリントに向け、撮影時から一貫したワークフローを確立することが大切です」と中西さん。

そんな中西さんが、撮影のとき特に意識しているのが「光の明暗差」「主役と脇役」「光の向き」「色で撮る」の4点だという。

「光の明暗差」というのは、文字通りにハイライトとシャドウの露出差のこと。主題となる被写体が明るい光に照らされ、シャドウの黒とそれに続くミッドトーンの中に浮き上がっている印象的な状態を思い起こすとよいだろう。

「主役と脇役」というのは、主役となる主要被写体と、脇役となるそれ以外の構成要素を、上手く配置して構図を作りましょう、という話。

風景写真家である中西さんの場合、主役を引き立たせるための場所選びや撮影時間の重要性、時には脇役の登場を待ちタイミングを見計らうこともあるといった話がされた。

「光の向き」というのは、主に逆光であるか順光であるかということ。逆光であれば被写体の形をドラマチックに表現でき、順光であれば被写体の色を忠実に表現できる。

中西さんご自身は「自分は80%逆光で撮る逆光写真家です」というが、それでも被写体によっては順光で撮る必要性があることが作例をもって丁寧に説明された。

「色で撮る」というのは、時として画面を構成する色の調子や並びを重視して写真を撮ることも作品の幅を広げる意味で大切になるという話。

例えば、画面全体を青一色で表現するために、霧が立ち込めた低輝度の森をデイライトで撮影する、といった独自の撮影法が説明された。

中西流作品作りのためのワークフローを披露

ひきつづき、中西さんの作品が生まれる工程を知るための座学がつづく。ここからは具体的な、作品撮りのためのワークフローの説明である。

中西さんが、カメラ設定で重要視するのは「可能な限り豊富な情報を記録する」「潰さず飛ばさずを意識する」「ヒストグラムは必ず確認」「プリント前提での撮影を心がける」の4点。

「可能な限り豊富な情報を記録する」というのは、最終的に不要となる明るさや色の情報は、最終的(プリント時)な段階までに追い込めばよいので、撮影時のデータにはなるべく多くの情報が内包されている方が後々有利に作業を進めることができるという話。

黒く潰れたり白く飛んだりした部分はデータがない(復元できない)状態なので、慎重に「潰さず飛ばさずを意識」したカメラ設定が必要であるし、カメラのモニターで表示されるプレビューでは黒潰れや白飛びを正確に判別できないので、数量的に表示される「ヒストグラムを必ず確認」する必要がある。

「プリント前提での撮影を心がける」という意味では、どれも非常に大切なことと言えるだろう。

これらを遂行するためには、前述のRAWでデータを保存する必要があり、「コントラストや彩度が高いピクチャースタイル『風景』はあえて避ける」必要があるのである。中西さんが最近、積極的に使用しているピクチャースタイルは「ディテール重視」だそうだ。

そして、ここからが今回のプリント体験会でも特に重要となる「現像からプリントまでのワークフロー」の説明である。

まず、中西さんの場合、現像からプリントまでは「RAW現像(必要に応じて適切なRAW現像ソフトを使用するとのこと)」→「Lightroomで管理」→「Photoshopでフィニッシュ作業」→「用紙を意識した仕上げ」の順で作業をするという。

ここで面白かった、というか参加者の方々も強く興味を抱いていたのが、最初のRAW現像処理時では「100%まで仕上げない」ということであった。

では何%で仕上げればいいの? と思うのであるが、中西さんの場合、それは「80%」程である。80%程の完成度で仕上げておけば、「Camera RAWフィルター」を使った「Photoshopでフィニッシュ作業」において「用紙を意識した仕上げ」ができるのだ。

写真プリントは同じデータであっても、プリント用紙の違いによってコントラストや発色などが変わる。それを残り20%で目的に合わせた微調整を行えばよいということである。

もし、最初の現像時にPCモニター上で100%に仕上げてしまうと、「用紙を意識した仕上げ」を行う際に、RAW現像からやり直さなければならなくなる。ところが中西さんの方法であれば、最終調整までにいつでも80%の仕上がり状態に戻れるという訳だ。

RAW現像時は80%にとどめ、用紙を意識した仕上げで、残り20%の微調整を行うというのは目から鱗であった。

「中西さんの写真」をプリントする

さて、ここからは参加者がPIXUS XK70/XK50を使ってプリントを楽しむ体験会の時間である。「PIXUS XK70/XK50の『進化した発色』『使い勝手』『鮮やかな仕上がり』をしっかり味わってくださいと中西さん。

PIXUS XK70/XK50はPCに接続して普通にプリントすることもできるのであるが、SDカードをプリンター本体に差し込んでダイレクトプリントを行うこともできる。

今回は気軽にプリントを楽しんで欲しいという趣旨のもと、事前に運営サイドに送られていた参加者の画像データ入りSDカードとインデックスプリントがあらかじめ用意されていた。

と、ここでサプライズ。なんと、自身の画像データが入ったSDカードの他にもう1つ、中西さんの画像データが入ったSDカードも用意されていたのである。中西さんの画像データとは、写真展/写真集「Design」のなかから今回のセミナーのためにより抜いたもの。プリントした中西さんの画像は持ち帰ることができる。これはなんとも有意義な企画だ。

SDカード内の中西さんの画像データは、A4サイズプリントで見本として並べられており、PIXUS XK70/XK50の自動補正機能を使うとどのように写真が変わるかなどの説明もされた。

ひととおりプリント時の注意点などを聞いたところで、さっそく中西さんの写真をプリントしてみる。まずはPIXUS XK70/XK50にSDカードを挿入。

PIXUS XK70/XK50のモニターで気に入った写真を選び、指示に従って設定するだけでプリントが始まる。タッチで簡単に操作できるので、取扱説明書など見なくても簡単にプリントが可能だ。

出力されてくる、自分が印刷指定した中西さんの作品。

写真家・中西敏貴のファンの方が多く参加していただけに、つい先ほどプリントに至るワークフローが解説されたばかりの写真を、自身の手でプリントできて感慨深そうだった。

自身の写真をプリントしてみる

中西さんの作品をプリント体験した次は、いよいよ自身の画像データをプリントして作品とする作業である。まずはPIXUS XK70/XK50にSDカードを自身の画像データが入ったものへと交換。

自身のプリント体験では、プリント用紙をキヤノン純正の「光沢 プロ[プラチナグレード]」か「微粒面光沢 ラスター」から選ぶこともできるので、プリント前に中西さんから「用紙による仕上げの違い」について説明があった。

「光沢紙のプラチナグレードでは黒が力強く締まるのに対して、微粒面光沢紙のラスターでは黒の中にトーンが柔らかく表現されます。どちらの用紙がプリントする画像に向いているか、また、それに対して残り20%の画像調整をどうするべきか考えながらプリントしてみてください」

参加者は事前に用意されたインデックスプリントの中から思い思いの画像を選んでプリントを開始する。自身の画像をプリントする場合も、PIXUS XK70/XK50のモニターをタッチ操作することで簡単にプリントできる。

ただし、用紙を2種類から選択できるため、印刷設定で用紙の種類を間違えないように注意が必要だ。

PIXUS XK70/XK50は画質が向上しただけでなく、プリント速度がとても速い。参加者の方々もストレスなく簡単にプリントできる性能に喜び、さまざまなプリントを試していた。

また、多くの方々が、自身のプリントをじっくり見比べ、座学の段で中西さんから教わったことをよく確認していた。

作品プリントのチェックと講評

時間いっぱいまで参加者にプリントを楽しんでもらったところで、各自、2Lサイズのプリントから3枚ほどを選び、講評会が始まった。

とはいっても、内容はみんなで作品が並んだ机を囲み、中西さんからアドバイスや感想をもらうという、和気あいあいとしたもの。

講評を終えお気に入りの1枚を選んだ参加者には、運営サイドからフォトフレームがプレゼントされた。

これは、「写真はプリントして作品となる」という中西さんの考えを体験してもらうために企画されたプレゼント。セミナーでプリントして選んだ大切な1枚をぜひ自宅に飾ってもらいたいという願いだ。

「SNSなどが普及したこともあって、写真は端末のモニターなどで画像として見ることが増えました。しかし、プリントした写真にはモノとしてのリアリティがあります。よりダイレクトに感情を伝えることができます。プリントすることで家に写真を飾ったり、写真展を開いてみたりなど、自分だけでなくたくさんの方と写真の楽しさを共有することができます」

「だから、写真のフィニッシュはプリントであってほしい。そんなことが今日のセミナーで理解してもらえたなら嬉しく思います」というのが中西さんの最後の言葉。

その想いはきっと十分に伝わったことだろう。

参加者の声

福田夏妃さん

基本的なRAW現像などはしていますけどSNSに写真をアップするのが主で、プリントはときどきお店でする程度でした。高画質なプリンターでプリントすると、やっぱり形として写真が作品になり、飾っておきたいという気持ちが強くなるのだなと思いました。中西さんの写真が好きで「Design」展には2回も行ったほどなので、今日の中西さんのワークフローはとても納得できて参考になりました。

小林正宣さん

いままでプリントはほとんどしたことがなくPCモニターで鑑賞して終わってしまっていました。プリント自体には興味があったのですけど、よく分からないままプリンターを買って失敗するのも怖かったので、今回のセミナーに応募しました。実際にプリントすると、液晶画面とは違って、自分の写真が作品になるので感動しました。今日はPIXUS XK50の方を使わせてもらいましたけど、画質はもちろん、大きさやデザイン、操作性もすごく気に入りました。ぜひ導入を検討してみようと思います。

尾崎ゆりさん

今日1日とても勉強になりました! もともと中西さんのファンでしたので、中西さんがプリントまで考えて実際の撮影に臨んでいるワークフローを丁寧に説明してもらえてうれしかったです。先生の素敵な写真を自分でプリントできるという体験はとても貴重でありがたかったです。普段からプリントはよくしていますけど、なかなか思うようにならなかったので、今日教えてもらったことを参考に、もっと頑張っていきたいと思います。

TAKEYUKI TOGASHIさん

いままでは気に入った写真だけを選んでプリントする程度でしたが、プロの中西さんがどういったワークフローで撮影からプリントまでされているのかに非常に興味があって参加しました。特に、RAW現像までで80%までを仕上げて、残り20%を用紙や媒体に合わせて調整するというお話はとても参考になりました。次の撮影から中西さんの方法を実践して、プリントしてみるのが楽しみです。

岩永亜希子さん

スマートフォンやPCでしか写真を見たことがなく、ずっとプリントをする意味が分からないでいました。でも、写真教室に通うようになって、写真展も観に行くようになり、初めて写真はプリントで見ることを知って購入したのがキヤノンのPIXUS PRO-10Sです。ただ、PIXUS PRO-10S以外でプリントしたことがないので、他のタイプのプリンターの画質や便利さを知ってみたくなったことと、中西さんのプリント方法を詳しく知りたかったのが、今日参加した理由です。PIXUS XK70/XK50は画質もいいのに、とても速くて静かでいいですね。デザインと大きさも好みなので欲しくなってしまいました。

平井真理子さん

写真は大好きなのですがプリントはお店でしていました。昔のプリンターのイメージがあって、自宅で飾れるような作品と言えるほどのプリントができると思っていなかったからです。でも今日はPIXUS XK50で満足できる綺麗なプリントが自分でできることを体験できました。中西さんの写真をプリントできたり、用紙を変えてプリントしたものを比較できたりが、とても楽しくて気に入りました。私も中西さんのファンで、これまでも撮影ツアーにも参加して教えていただいたのですけど、今日はPCソフトの使い方など、プリントの詳しいところも教えてもらうことができ、すごく参考になりました。

制作協力:キヤノン

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。