イベントレポート

【CP+】中西敏貴さん「風景のDesignを探す旅」レポート

キヤノンブース写真家セミナーより

写真のテクニックもさることながら、自然の知識も豊富に語る中西さん。

3月3日、CP+2018の3日目。この日のキヤノンブースのトリを飾ったのは、中西敏貴さん。独学で写真を学びながら、2012年より北海道美瑛町に移住。以来、光を意識した作品作りに取り組んでいる。

トークテーマは「風景のDesignを探す旅」。昨年のCP+からの1年間で、EOS 5D Mark IVを使って中西さんが撮影してきた写真が紹介された。

美瑛町は今や「日本で最も美しい村連合」にも加盟しており、「誰が撮ってもきれいに写っちゃう」(中西さん)場所。そんな場所で撮影を続ける中西さんは、「北海道という風景にとらわれずに写真を撮りたい」とのこと。

例えば美瑛町で有名な「クリスマスツリーの木」。有名な撮影スポットで、多くの写真愛好家が訪れる場所だ。ここで中西さんは、ただとるだけではなく、満月が沈んでいくというシーンを氷点下25度の環境下で撮るという。

「クリスマスツリーの木」を、満月を入れて撮影。普通に撮るものとは一味違う作品になった。

「僕は1日に数百枚、多いときで2,000枚くらい撮ります。それを毎日毎日撮るのがルーティンです。犬の散歩と同じなんです。自然を撮るためには、自然に対する感度をあげる必要があると思います。最高の瞬間にシャッターを押すためには、そこにいたるまでのトレーニングが必要です。そのトレーニングを毎日毎日しながら、最高の1枚に出会えるように、毎日撮っていってるんです」

そして昨年発売された写真集「Design」の裏話も披露。水が激しく流れている中に、1枚だけ桜の花びらが写っているこの写真。写真集の表紙に使われた写真だが、実はお蔵入りするはずの1枚だったという。

右下に1枚、桜の花びらが写っている。

「この写真はさすがに受けないだろうなと思って、お蔵入りにしていたものなんですよね。ところが、友人のデザイナーがわざわざ僕のアトリエまで来てこれを堀り起こしてくれました。それだけではなくて、さらに表紙にまでした写真なんです」

撮影地も、何の変哲もない水路。そんな場所でこのような素晴らしい作品を生み出してしまうのだから恐れ入る。

純粋な風景写真だけでなく、人の営みが映されているものもあった。この写真は、人がいるからこそ完成している写真だ。

アスパラは焼かないと次の年に育たないそうだ。

「日本には前人未到の場所は少ないでしょ?う? アメリカやヨーロッパのような、誰も行ってない場所は少なくて、こういった人の営みがあって、日本の風景ができあがっている。人がいることで成立している風景、その美しさも描いてきたいんです」

もう1枚、ダブルレインボーと農家夫婦の写真が表示された。アスパラガス農業を営んでおり、中西さんとも交流があるそうだ。

「アスパラを燃やしていると、雨雲がやってきてました。これは虹がかかるなと思い、虹のかかる方向にカメラを向けました。ちょっとしたこだわりなんですけど、ご夫婦2人と2つの虹と、そのシンクロにこだわって撮っています」

2本の虹とご夫婦2人。

それにしても、写真のテクニックもさることながら、中西さんの自然の知識量にも驚かされる。虹は雨上がりの空で、太陽とは反対方向を向くと見える現象。ダブルレインボーは虹がかかる時に必ずかかっているが、2つ目の虹は光が弱いので、暗い背景でないと視認できない。そういった知識を持ち合わせ、かつ絵になる構図を瞬時に作り出す判断力の高さ。それらが相まってこの1枚が完成したのだろう。ちなみに、虹については、時間帯によってできる高さ、見られる色の違いなども説明していた。

その知識は虹だけにとどまらない。次に写されたのは紅葉の写真。太陽の光芒も美しく伸び、まさに「絶景」と言える一枚がスクリーンに映し出された。2017年の秋に撮影された、大雪山の紅葉だ。

2017年の紅葉は、例年にない美しさだったようだ。

「9月に入ったら大雪山は日本で一番早く紅葉が始まります。これは大雪山の三国峠で撮影しました。本当にきれいですね、2017年の紅葉は、ガイドに言わせると今世紀最高らしいです。葉っぱがまず傷んでいないことと、発色がよいこと。特に赤がきれいに残っているのは珍しいです。気温が冷えて一度霜がおりると、赤色はくすんでくるんですよね。この写真を撮った翌日にもう一回いった時には、もう色はくすんでました」

そして、美瑛といえば外せないのはダイヤモンドダストだ。

「朝方で-25℃〜-30℃くらいになると出てくるのが、ダイヤモンドダストです。ダイヤモンドダストは空間に舞っている水蒸気が凍りついて落ちてくる現象なので、空気中の手前からずっと奥まで舞っているんですよ、ですので、ピントを外して絞り解放をとってあげると、こういった玉ボケになります」

他にもいくつもの美しい写真を見せてくれた中西さんだが、これらは決して最高傑作ではないと語り、ステージを締めた。

「今日お見せした作品は、私にとって最高傑作ではないですね、1年前の作品は自分の中では過去の作品だと思っています。去年より今年、昨日より今日、今日より明日と、作品を作り続けていきたいと思っています。昨日の自分をいかに超えていくかが自分の課題。だから1日何百枚と撮りたいんです。撮らないと怖いんです。スポーツでも誰にも負けないくらい撮って、誰にも負けないくらい練習をして、はじめてオリンピック出られますよね。それと同じように、誰にも負けないくらい写真を撮らないと、こういう場に立てないと思っています。今日のステージが終わって、これから1年間精進して、来年またこの場所に立てればいいなと思って、今日の話を終えたいと思います」

中村僚

編集者・ライター。編集プロダクション勤務後、2017年に独立。在職時代にはじめてカメラ書籍を担当し、以来写真にのめり込む。『フォトコンライフ』元編集長、東京カメラ部写真集『人生を変えた1枚。人生を変える1枚。』などを担当。愛機はNikon D500とFUJIFILM X-T10。