写真展レポート

国立新美術館「古典×現代2020ー時空を超える日本のアート」展内覧会レポート

写真分野で川内倫子氏が参加 8名の作家は古典作品をどう捉えるのか

世界的に猛威をふるっている新型コロナウイルス感染症の感染予防・拡散防止を目的として、国内の美術館や博物館、ギャラリー等の休館が続いている。国立新美術館(東京・六本木)も例外なく、2020年2月29日より臨時休館となっているが、企画展のひとつ「古典×現代2020ー時空を超える日本のアート」展(会期は6月1日までの予定)に関して、4月12日に展覧会のオフィシャルWebページ上で展示風景を公開した。臨時休館中で、展覧会の開幕日はまだ未定という状況が続いているが、緊急事態宣言以前に開催された内覧会の模様とともに展覧会の概要をお伝えしたい。

現代作家と古典作品との対話がテーマ

本展に参加する現代作家は、菅木志雄氏、川内倫子氏、棚田康司氏、鴻池朋子氏、田根剛氏、しりあがり寿氏、皆川明氏、横尾忠則氏の8名。それぞれの作家が、平安時代や江戸時代などの各期で制作された絵画、彫刻、刀剣といった古典作品と向き合い、作品を制作している。

内覧会での説明に参加した作家の方々。展覧会場入口にて

各作家が向き合う古典作品とその作者は前記したとおり様々。菅木志雄氏は仙厓義梵、川内倫子氏は伊藤若冲、棚田康司氏は円空、鴻池朋子氏は刀剣(平安・鎌倉・江戸の各時代のもの)、田根剛氏は仏像(日光菩薩像・月光菩薩像)、しりあがり寿氏は葛飾北斎、皆川明氏は尾形乾山、横尾忠則氏は曾我蕭白だ。

本展の企画意図について、同館学芸課長の長屋光枝氏は、“古い時代の名品と現代の表現を組み合わせ、時代を超えた類似や親和性を浮かび上がらせるとともに、過去の偉業に対する現代の側からの応答を、さまざまな観点から示そう”というところにあると説明している(同展展覧会図録の解説より)。

また今回の展覧会で各現代作家と対置されている古典作家・作品は、江戸時代で区切られている。この区分けについて、古典と現代の間に時間的な隔たりを設けることで、“時代を超えた類似や親和性をいっそう際立たせようと考えた”ことが、その理由のひとつだと、同じく展覧会図録の解説中で説明している。

長屋光枝氏(国立新美術館学芸課長)

写真分野では川内倫子氏が参加

平面から立体に至るまで、様々な作家が参加している本展覧会。写真の分野では川内倫子氏が参加している。同氏が向き合っている古典作家・作品は伊藤若冲や河村若芝らの花鳥画だ。

展示されている若冲の作品は「鳥禽図」や「雪梅雄鶏図」など。これに対して、川内氏の作品は『AILA』や『Halo』などで制作されたものが展示さている。命の誕生や死といった生命のサイクルをテーマに据えた作品群だ。

展示室風景。手前側が花鳥画、奥側が川内氏の作品
奥側に向かって展示室が続く。暗幕内の展示室には映像作品が上映されている

展示にあたり、川内氏は「ふだんの作品制作では作品性であったり、高みを見ていたいという思いで進めていますが、今回の展示に参加して、他の現代作家の皆さまと目指しているところが近いのかなと思いました。尊敬している現代作家の方たちと肩を並べて、自分がその中のひとつのパーツとして展示に貢献できたことを光栄に思っています。まさに時空を超えるアートという言葉のとおり、新しい体験ができました」とコメントしている。

川内倫子氏

両者に通底するものについて、小林忠氏(国華主幹)は同展展覧会図録の解説で若冲の作品がみせる生命の輝きと儚い衰微の宿命が川内氏の写真作品に通底している、と言及している。

奥側の大きなスクリーンで映像作品が上映されている

「古典」を「いま」の視点で捉える

企画時はうまく展示ビジョンが描けなかったという長屋氏。古い時代の美術は、いま生きている私たちの目の前にも存在している。その意味で、それらの作品は当時だけのものではなく、私たちのものでもあるのではないかと思うと、内覧会冒頭の挨拶で企画内容を振り返った。

そうして今回、それら古典美術作品に8名の作家が対峙しているわけだが、各作家がどのような視点の持ち方をしているのかにも注目してほしい、と続ける長屋氏。古典美術作品と、それに向き合う現代作家、そしてそれを見る「私たち」。それらの関係性により、過去のものが現在にまで接続している、のだと続ける。そして、各作家の作品やアプローチを通じて、“こういうものの見方もあったのか”といった気づきを提供できる場になれば、とコメントした。

鴻池朋子氏の作品展示室風景
しりあがり寿氏の作品展示室風景
皆川明氏の作品展示室風景

内覧会の開催後、展覧会の開催に関する報を待つ状態が続いていたが、このほど緊急事態宣言が出されるなど、新型コロナウィルス感染拡大抑制に向けた情勢は厳しさが増し続けている。開幕に向けた日程は不透明な状態が続いているが、具体的な開催日程が判明しだいお伝えできるようにしていきたい。

当面の休館情報については、「国内美術館・博物館における写真関連展覧会、開館・休館状況まとめ」として集約しているので、あわせてご覧いただければ幸いだ。

開催概要

展覧会名

古典×現代2020ー時空を超える日本のアート

会期

未定〜2020年6月1日(月)
※国立新美術館は臨時休館中。開幕日については国立新美術館および展覧会HPで確認してほしいとしている。
国立新美術館HP:https://www.nact.jp
展覧会HP:https://kotengendai.exhibit.jp

休館日

毎週火曜日
※5月5日(火・祝)は開館、5月7日(木)は休館

開館時間

10時00分〜18時00分
※毎週金・土曜日は20時00分
※5月30日(土)は「六本木アートナイト 2020」5月開催中止のため、20時00分で閉館
※入場は閉館30分前まで

会場

国立新美術館 企画展示室2E
東京都港区六本木7-22-2

本誌:宮澤孝周