ニコン D850×NIKKORレンズ 写真家インタビュー
光と影のコントラストでドラマを描き出す/富士山写真家・成瀬亮さん
D850 × AF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VR
2018年12月25日 17:20
昨年9月に発売され、2017年のカメラシーンを席巻したニコンD850。この一台を愛機として重宝する写真家たちにインタビューを敢行し、写真家になったきっかけ、写真への考え方、そしてD850の魅力などを存分に語ってもらうのが本連載だ。
第7回目となる今回は、独自の視点で富士山を撮り続ける成瀬亮さん。第65回ニッコールフォトコンテストにおいて最優秀賞に相当する「長岡賞」に選ばれたことで、一躍有名になった写真家だ。
そんな富士山に魅入られ、会社勤めをこなしながら毎週撮影を重ねる成瀬さんに、作品を撮り続ける理由、作品に対する意気込み、そして愛機について話を聞いた。
成瀬亮
1983年に東京都で出まれる。幼い頃から横浜で暮らし、中学時代はラグビー部、高校、大学時代はアメリカンフットボール部に在籍。現在は物流施設を扱う不動産会社に勤務しながら富士山の撮影を続けている。2014年から富士山を撮り始め、以来様々な写真コンテストに入賞。2017年に第65回ニッコールフォトコンテストで長岡賞を受賞。サラリーマン富士山写真家として取材を受けるほか、カメラ誌への記事掲載も多数ある。
赤富士に魅せられて富士山通いが始まった
――写真家になったきっかけをお聞かせください。
2013年の夏に会社の上司に写真を見せられて「きれいだな」と思い、その年の夏休みに山中湖へ行くことになりました。そのとき、「どうせならカメラを買って撮ってみよう」と思って、ニコンD5100のダブルズームキットを買ったんです。するとタイミングよく赤富士を見ることができたんです。日の出の1時間前、いつもなら寝ている時間から準備しはじめて、真っ暗な空がだんだん青くなり、オレンジに色づいていく。うまく撮れなかったんですけど、そのインパクトが強くて今も撮り続けています。
富士山そのもののドラマを切り取る
――撮影に出かけるときは車ですか?
そうですね、場合によっては車中泊です。金曜日に仕事を終えたら、帰ってシャワーを浴びて仮眠し、夜の間に東京から静岡・山梨に移動して、夜中から朝にかけて撮影します。昼は日陰に移動して睡眠をとり、夕方と夜にまた撮影、翌日の朝に帰ると。今の妻とは出会った頃からカメラを始めていたので、理解はしてくれています。妻の父も商業カメラマンなんですよね。ただ、一緒に撮影に行くことはあまりないです。
――撮影を始めてからいろいろな季節や時間の富士山を撮影されていると思います。一番好きな富士山はどんな姿ですか?
富士山なら全部好きです。撮影するごとに毎回感動しています。そういう存在ですね。逆光や斜光のときを狙うなど、撮り方については考えますが、好き嫌いとそれは別の話です。
――富士山の中でもさらにテーマはあるのでしょうか?
「富士山そのもの」を捉えることを意識しています。富士山自体がドラマティックな存在だと思っていて、その一部を望遠レンズで切り取ることが多いんですね。他の方は「富士山と〇〇」と、要素を組み合わせて撮ることが多く、もちろん私もそうやって撮影することはありますが、基本的には富士山そのものを撮ることを意識しています。
雲や雲海、朝日・夕日などの自然現象はよく観察して画角に入れますが、桜や紅葉、夜景と組み合わせるという写真はあまりないですね。自分の心に刺さるのは、富士山そのものから感じるドラマです。
撮影仲間との交流が刺激になる
――撮影場所はどのように決めていくのでしょうか?
ある程度は開拓しますが、撮影ポイントに頼る作品にはしたくありません。富士山そのものを写すために、光や風などを見ながら撮影ポイントを変える、というスタンスです。そこが結果的に有名な撮影ポイントになることもあります。自分の中の緩急も大事で、気合を入れて「ここぞ」というポイントで根詰めて撮る時もあれば、移動しながら気楽に撮ることもあります。
――富士山に登ることもあるんですか?
20代中ごろに登ったきりですね(笑)。登ってしまうと撮れなくなるので。ただ、秋口に5合目まで行って撮影した写真はあります。
――富士山を撮影される写真家は多いと思いますが、その方々との交流はされますか?
デジタルカメラマガジンで共演させていただいた橋向真さんはツイッターで知り合って、現地でも話したりします。一緒に山に登って雲海を撮ったときは感動しました。それぞれ頑張っているので、彼らと交流することでお互い高め合うことができるます。個展を開催しようとしている人、コンテストに入賞しようとしている人……、努力を重ねて結果を出そうとしている人がまわりにいるのは刺激になります。
それと、仕事が終わってから撮影に遠出するのが辛いときがあるんですね。それでも「あの人もいるだろうから行くか」と仲間に会いに行く感覚で行けることもあります。そうやって仲間と撮るとまた違った作品になったりするのも面白いんですよね。成長を促してくれる存在です。
モノクロ作品を仕上げる目
――成瀬さんはモノクロで富士山を撮影されています。こちらもとてもきれいですね。
富士山の撮影をしていると、既視感のある写真になりがちです。魅力的な被写体だからこそ多くの人が撮っているし、仕方のないことではあります。その中で「自分が撮りたい富士山はなんなんだろう?」と考えた時にモノクロに行き着きました。光と陰にフォーカスして、色の情報を遮断した方が富士山の表情がより分かりやすくなると感じました。富士山をカッコ良く撮るためにモノクロにしてみて、より良いモノクロ作品を仕上げるために光と影をより意識するようになった、という感じですね。
――なるほど。肉眼で見てる時にもモノクロ目線で見るわけですね。
シャドウやハイライトはものすごくイメージしますね。僕も写真は始めたばかりですが、光と影のコントラストは被写体を美しく写すための本質だと思います。目で見るよりも写真にする方が感動的な世界があるので、それはシャッターを切る時から意識します。特に朝焼け・夕焼けの横から光が入る時間がいいですね。
――最初からモノクロで撮影するのでしょうか?
いえ、RAWデータで撮影して、後でモノクロに補正します。撮影時は頭の中のイメージです。補正もそんなに劇的に変えるわけではなく、調整程度です。
撮影の時は、事前にメージを固めつつも、現場の状況に合わせて臨機応変に対応していきます。富士山はイメージ通りにいかないことも多くて、現場に来てからどう撮るかを決めることが多いんです。「嵐の後に回復傾向にあるからいい形の雲が出そう」と想定できても、正確な形や明るさまでは想定しきれない、ということですね。
――天候次第ではまったく撮れない日もありそうですが……。
あります。あんまり数えたくないですね(笑)。月に1回程度くらいでしょうか。続く時は続きます。
影の階調表現で画素数の向上が役立つ
――使用カメラはどのように遷移していったのでしょうか
D5100を使っていましたが、そのうち35mm判フルサイズがほしくなりました。階調の粘り強さがあると聞きましたし、先輩もフルサイズを使っていたので、自分も欲しいと思っていました。それで買ったのがD610です。そのあとにD810を使い、2017年のニッコールフォトコンテストの賞品でD850をいただいて、いまはD810とD850の2台を使っています。賞品がD850だったのはサプライズだったんですよね。
――D850はそれなりに大きいカメラですが、使用感はいかがですか?
もともとD810を使っていたので、サイズに対する抵抗感はないですね。絵作りに関しては、画素数が大きく上がったこともあってか、半段か1段分ほど明るく撮れるようになった気がします。階調も粘り強くて、光と影でコントラストを高めるために必要です。私の作品は富士山にフォーカスさせたいので、そのためにも影の階調は大事なんです。逆に空は明るいので白飛びを起こしやすいのですが、その階調もしっかりと表現してくれていると思います。
気になる撮影時の設定は
――撮影時の設定などを教えてください。
基本的にはライブビューで撮影します。ピント合わせは夜間はMF、昼間はAFです。AFは精度が上がって、チルト液晶にもなったので、ピント合わせはとても楽になりました。シャッターは「サイレント撮影」を使います。今までのカメラだとシャッターを切った衝撃でブレていたりしましたが、D850は無音で撮れるので。
露出は絞り優先で撮れるときは絞り優先、他はマニュアルです。特に暗い時とフィルターを使うときはマニュアルです。ホワイトバランスはオート、ピクチャーコントロールは「風景」です。アクティブD-ライティングもオート、ノイズ低減は長秒時、高感度ともにON、歪み補正もONです。測光モードは「マルチパターン」です。
――カメラの防塵防滴機能はいかがですか?
富士山の撮影はとても寒いので、カメラに霜がつくことがあるんですよね。もちろん気温が上がればとれますけど、霜がついても気にしなくていいのは安心して使えます。その信頼感は絶大です。
――三脚、雲台は使われていると思いますが、他に何かアクセサリーは使いますか?
ケーブルレリーズの「リモートコード MC-36A」ですね。大きいですけど、一番使い勝手が良いです。それとフィルター各種。特に雲の流れを表現したいときなどに角形のNDフィルターはよく使いますね。
――撮影時にはどんな服装なのでしょうか?
防寒対策は必須です。夏でも寒いくらいなので、ダウンは持っていきます。これは登山グッズですね。冬は-20度まで気温が下がることもあるので。
――それだけ寒いとバッテリーも早く無くなりそうですが……。
D850のバッテリーは持ちがいいです。残量を気にしたことがないほどで、ストレスはまったくないですね。以前はバッテリーの減りが寒さに影響されることがありましたが、D850はそれがあまりない気がします。一晩通して撮影しても1回変えるかどうかです。
――記録メディアはXQDカードですか?
そうです。メインが128GBのXQDカードです。風景なので連写はしませんし、書き込み速度はあまり気にしませんが、XQDカードでストレスを感じたことはありません。PCへの取り込みも速くていいですね。
――D850はボタンイルミネーション機能があります。
これは重宝しています。朝方など暗い時にはやはり便利です。もちろんボタンの配置は把握していますが、確認のために目視したいときにいちいちライトを取り出さずにすむのはとても助かります。
AF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VRを愛用
――レンズについてお聞かせください。成瀬さんが使われているのは「AF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VR」。70-200mmという画角でこういった撮りかたができるものなんですね。
山中湖、河口湖などは富士山の「麓まわり」と呼ばれていて、そこから撮るにはぴったりの画角です。富士山の撮影となると山全体を写してしまいがちですけど、雲や空のグラデーションなど、一部を切り取ってフォーカスするのが僕の作風です。富士山の表情を読み取るには最高の画角だと思います。
――このレンズは開放F値がF4で、同じ画角のF2.8のレンズもあります。明るさは重視されないのでしょうか。
明るいことに越したことはありませんが、山登りでは機動性が大事です。F4とF2.8を比べると約600g違うので、F4の写りの良さと軽さを考えるとそちらになるかなと。このレンズはコントラストも階調も出るし、精彩感などにも満足しています。
――操作性はいかがですか?
ストレスなく使えるというか、何かを気にしたことがないです。AFも速いですし。
――描写はいかがでしょう?
自分の使い方だと、ゴーストやフレアが出て困ったことはありません。完全な逆光でも遮光は必要なく、レンズフードで十分です。このレンズはD810時代から使っていて、D850になってから作品のシャープさが若干増した気がします。階調の出方もまったく問題なく、長く使えるレンズだと思います。
――これからも富士山を追いかけていくことになりそうですか。
富士山の撮影に終わりはないと思っています。どれだけ「いい」と思った写真が撮れても、もっといい風景が必ず出てくる。それをずっと追いかけていたいですね。
成瀬亮さんの使いこなしテクニックがデジタルカメラマガジンで読めます!
発売中のデジタルカメラマガジン2019年1月号に、成瀬亮さんによるD850 & AF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VRの使いこなし方について掲載しました。こちらもぜひご覧ください!
制作協力:株式会社ニコンイメージングジャパン