ブランドが生まれる場所

アウトドア向けの軽さとタフさを究める「MindShift」カメラバッグ

“シンクタンク品質”がベースの新ブランド

プロダクトデザイナーのJoseph H. Hanssenさん(左)、マーケティングマネージャーのTed Meisterさん(右)。マインドシフトギアのカメラバッグと共に。

今回は、2012年に設立されたアウトドア向けのカメラバッグブランド「MindShift Gear」(マインドシフトギア)についてレポートする。このブランドは2018年8月からシンクタンクブランドの中に組み込まれ、「MindShift Gear from Think Tank」となった。両ブランドを手がける本社スタッフに、それぞれの違いと共通点を聞いた。

シンクタンクとマインドシフトギアの違いは?

シンクタンクはスポーツやスタジオの分野で定評があり、マインドシフトギアは“シンクタンク品質”をベースにアウトドア向けとした製品開発が特徴になっている。

両者は同じデザインチームが手がけ、ブランドは違っても同様の品質を得られる点がポイント。「シンクタンクの愛用者はマインドシフトの製品も信頼できる」という図式だ。

具体的には、シンクタンクのカメラバッグは被写体の邪魔にならないことと、高価なカメラ機材を盗む目的で目を付けられないように「目立たないこと」が重要視されている。

シンクタンクの代表製品「エアポート インターナショナル」。耐久性と控えめなルックスで人気のローラーバッグ。
シンクタンク製品の色見本。
あらゆるブラックとグレーが揃っている。

いっぽうマインドシフトギアでは、アウトドアシーンでの使い心地が優先される。具体的にはバッグそのものを軽く仕上げたり、手袋をしていても扱いやすいジッパープルを採用するなどが挙げられる。見た目もアウトドア製品らしく、シンクタンクとは好対照にカラフル。愛用している写真家からは「とにかく軽い」という好評を耳にした。

また、アウトドア系にマッチした明るい色だけでなく、移動中に目立たず盗難防止にもなるようなブラック系のバッグも用意している。これはユーザーが他のブランドの機材や衣類を持っていても、それに溶け込むようなイメージだという。

マインドシフトギアの代表的バックパック「バックライト」。シンクタンクにはないカラーリングが新鮮だ。
マインドシフトのバッグ。糸と生地の色のマッチングを見る。
金属パーツの色見本。シンクタンクには見ない鮮やかさだ。

——マインドシフトギアとシンクタンクでは、想定ユーザーにどんな違いがありますか?

マーケティングマネージャーのTed Meisterさん(左)、デザイナーのJoseph H. Hanssenさん(右)。

デザイナーJoseph H. Hanssenさん(以下Joe):マインドシフトのカメラバッグは、アウトドア/ワイルドライフ/アクションスポーツのフォトグラファーがユーザーです。シンクタンクはフォトジャーナリストやスポーツフォトグラファーに使われているので、それぞれのブランドで必要とされるバッグの性能や機能が違います。

シンクタンクの哲学として重要なポイントは、ユーザーが機材に素早くアクセスできるバッグを提供するということでしょう。機材の大小に関係なく、小型の撮影キットから大型レンズまで持ち運べるバッグを提供することで、ユーザーが現場に着いたらすぐに撮影を始められます。これが僕らの謳う「Be Ready “Before The Moment”」という考え方です。

マーケティングマネージャーTed Meisterさん(以下Ted):シンクタンクとマインドシフトに共通して重要なことは、バッグの中の機材がちゃんと整頓されつつすぐに使える状態であり、フォトグラファーが自分流にカスタマイズできるようにすることです。

——シンクタンクとマインドシフトで共通している点は?

Joe:マインドシフトにおいても、高品質が第一条件です。だから最高品質のYKKジッパーを使います。

Ted:YKK製ジッパーは、止水でもスムーズに動きます。アウトドアで使用するにはどういったことが必要か、ありとあらゆる可能性を考えてバッグをデザインしています。

底部も防水ゴムのようなターポリンを使用しているので、岩などのゴツゴツした場所でひきずっても、そう簡単に破れたりはしません。アウトドアフォトグラファーにとって、厳しい環境に耐えられるかどうかはとても重要ですからね。

マインドシフトの「バックライト」シリーズは、バッグを地面に置くことなく背面アクセス可能。両手を使う場合、フラップはゴム紐で首にかけることもできる。

Joe: ジッパープルのような何気ないパーツが最も重要だったりします。ジッパープルは、ユーザーが最も多く接触するパーツですよね? だから、こういった小さいパーツを通じてユーザーはバッグとの関係を深めていくとも言えます。Tedが言っていたように、寒いとき、手袋をしているときでもジッパープルがちゃんと握りやすくて、ジッパーがスムーズに動くことは重要です。

ボディバッグスタイルの「フォトクロス13」は、中型一眼レフカメラ+交換レンズ2〜4本と13型ノートパソコンをミニマムに持ち運べる。
寒冷地などでも使いやすいことを重視したジッパープル。

——この自社デザインのパーツは、他と何が違うんですか?

Joe:例えば、これはアルミ製で軽くできています。重量をとても気にするアウトドアフォトグラファーにとっては、こういった細かいポイントも大切になってきます。また、プラスチックに比べて丈夫で、輪の開いた部分が広いから脱着も容易です。多くの既成品のクリップにはノブがあって、そこが重量になってしまいます。僕らがデザインしたパーツは、その部分をなくして、脱着をより簡単にしました。

バッグの軽さに繋がるのであれば、独自パーツの開発もいとわないのがマインドシフトの個性。

——ほかに、バッグを軽く仕上げる工夫はありますか?

Joe:バッグそのものの軽さは、パターンメイキング(型紙作り)の時点から違ってきます。ジッパー、縫い目、縫い代などは、その1つ1つが重さになんです。だからマインドシフトではなるべくシンプルな構造を心がけて、素材には軽いものを使い、パッドもソフトなものを使ったりします。マインドシフトのバッグは、もちろん機材をしっかり保護しますが、シンクタンクに比べると柔らかく軽いつくりにしています。

例えばコンプレッションストラップのような付属品も、すべては重さになってくるので少なくしています。どうすれば重さを削れるか、細部まで考えているんです。付属品も取り外し可能にしていますから、必要がなければ家に置いていけばバッグをより軽くできます。こういう風に、グラム単位の努力をしています。

製品作りのポリシー

彼らは「ユーザーが必要としているものを作る」という信条から、ときに多くは売れないような製品を作ることもあるという。たとえ年に数百個しか売れないような製品でも、それを本当に必要としている人がいれば、きっとシンクタンク/マインドシフトの高品質を理解してくれるはず、と信じているからだ。

シンクタンク/マインドシフトにはデザイナーとフォトグラファーが一緒にバッグをつくるというカルチャーがあり、彼らにとってユーザーはチームメイトのような存在。誰かが「こんなものが欲しいなあ」と言うと、彼らはベストを尽くす。

——マインドシフトの象徴的な製品は何ですか?

シンクタンク/マインドシフトCEO兼リードデザイナーのDoug Murdochさん(右)、シンクタンク創業メンバーのKurt Rogersさん(左)。

CEO兼チーフデザイナーのDoug Murdochさん(以下Doug):マインドシフトの象徴的なバッグといえば「ローテーション180° プロフェッショナル」だね。Mikeと僕はかつてロープロ(Lowepro。1967年創業のカメラバッグブランド)で働いていました。そこで僕が一番最初にデザインしたOrion AWというバッグにはベルトパックとデイパックがあって、ベルトパックは2つのSRバックル(左右をつまんで解除するバックル。サイドリリースバックル)で取り外しできるようなデザインでした。

でも一度ベルトパックを取り外してしまうと、バックルを元に戻すのが非常に難しかったんです。結果的には、2つのバッグに分かれてしまっていました。なのでそれから常に、どうすればこの問題を解決してアクセス性を高められるかを考えていました。

そしてついに、バックパックに穴を設けてベルトパックが通り抜けられるようにしたらどうだろう? というアイディアにたどり着いたんです。実はこの「Rotationテクノロジー」は国際特許を取っています。

「ローテーション180°」は、バックパックの下部気室(カメラ機材)だけを体の前に持ってこられる独特の構造。マインドシフトの始まりと言える製品。

こういった前例のないアイディアを思いついた場合、最初は実現不可能に思えます。一度できあがってしまえば、みんな「ほら、実現可能だったね!」となりますが、そこにたどり着くまでにとても苦労しました。プロトタイプは20個ぐらい作ったと思います。

Doug:もともとはシンクタンクで「ローテション360」を作りましたが、重すぎてあまりいいバッグではなく、2年ぐらいで生産完了になりました。その経験から得たものが、マインドシフトで活かされることになったんです。

創業メンバーのフォトグラファーKurt Rogersさん(以下Kurt):ローテーション360のファンは今でもいますけどね。WPPIという展示会で僕らのブースに来て、「ローテション360をまだ買えるかな?大好きだったんだ」という人もいましたしね。

——カメラバッグはどのように変化してきていますか?

Kurt:より多くの機材を持ち運びたいというリクエストが常にあります。だから、バッグはどんどん大きくなっていきます。変化という点では、カメラ機材には小さくなるものもあれば大きくなるものもあるので、常に何かしら変化があります。

Doug:機材を小さいものにしていくフォトグラファーに向けて、僕らも小さいバッグを作ります。ただ、例えばボディ2台にレンズを6本持つ人がいるとします。彼はすべてを持ち歩かないといけない場合、シンクタンクの「エアポート コミューター」というバックパックがマッチします。でも、交換レンズを1本だけ持っていくような場合は、同じくシンクタンクでも「ターンスタイル」シリーズがぴったりです。つまり、シーンによりけりで、僕らは常に多くの選択肢を提供できるようにしています。

Doug:とはいえ、さっき言ったように多くのユーザーが5〜15個のバッグを持っているので、例えばペリカンケースやビリンガムのバッグなどを用途ごとに揃えているかもしれません。だから僕たちが常にすべてを提供できるかと言われれば、そうではないときもあります。もしグッチのバッグがほしければ、グッチに行くしかありませんよね?

Kurt:僕たちの本当に初期のWebサイトには「ファッショナブルなバッグをお探しならば、gucci.comへどうぞ」と、グッチのWebサイトにリンクを張っていたこともありました。若かったしね。ハハハ。

社長室にて。Dougさんはシリアスにカメラバッグに向き合うが、ランチタイムなどでは冗談を言ったり、おどけてみたり、素晴らしいムードメーカー。日課はランニング。
Dougさん自ら写真を撮り、Facebookにフォトエッセイとして公開している。

シンクタンク/マインドシフトは「プロのお墨付き」

——これから製品を手にする皆さんにアピールしたいことはありますか?

Joe:製品紹介のビデオで、もっとブランドや製品のことを説明したいと思っていて、より快適に使うためのテクニックや、ユーザーが実際に使ってみて思いついたアドバイスなどを紹介する“Tech Tips”というアドバイスビデオもやっています。僕らのバッグには細かな見どころが沢山あるので、それをぜひ知ってほしいです。

社内のスタジオ。ここで製品写真や紹介ビデオを撮影している。
製品紹介ビデオで使われる小道具のセット。

Ted: 僕らのバッグを初めて手に取る人達に伝えたいのは、シンクタンクはプロフォトグラファー用のバッグを作っていて、少し安くて目立つバッグより信頼性があり、高品質かつ機能性も抜群で、プロのお墨付きであるということです。

たとえあなたがプロでも、プロになりたい人でも、写真が好きなだけでも、何か高品質のものが買いたいという人でも、シンクタンクとマインドシフトの製品を買うときには「このブランドの製品が最高のものであり、それは実際のプロフォトグラファーによって証明されたものであること」と知っていてほしいです。

サンタローザ本社で働くシンクタンク/マインドシフトの皆さん。

Joe:Tedが言ったことに付け加えるとすれば、シンクタンクとマインドシフトの製品は、長持ちするということです。耐久性が高いということは、製品の寿命も長いわけです。

Ted:その通り! 例えば僕らのローリングケースの車輪や脚の部分は交換可能なので、摩耗してしまった時には新しい車輪に交換して(米国内ではThink Tank、日本国内では銀一が対応する)、それもバッグの寿命を延ばします。

実際にひとつのバッグを10年使えたケースもあって、今でも、「シンクタンクの一番初期型のローリングケースを持ってるよ!」と声を掛けられることもあります。だから僕らは新しい車輪を送り続けていますが、これは嬉しいけど複雑な気持ちですね。新しいバッグが売れませんから(笑)。

まとめ:気高さに秘めるパワフルさ

シンクタンクのカメラバッグには、気高さともいえる“プロ仕様の控えめさ”がある。シリーズにより例外はあれど、基本的には黒一色で、とことん目立たずプロのサポートに徹する。マインドシフトもそれを継承しつつ、アウトドアシーンに馴染むようなカラフルさにも挑戦している。2つのブランドが確かな個性を持っているのは、彼らがいかに論理的でユーザー目線のバッグ作りをしているかの現れと言えるだろう。

「良いモノ」の定義は難しい。しかし、時間が経ってふとした瞬間に幸福感や満足感を得られることは、良いモノである素質のひとつだと思う。トラブルやストレスなく機材を扱えるシンクタンク品質のバッグは十分にそれを満たしている。製品自体が長持ちすることまでお墨付きだ。

「ミラーレスカメラのユーザーは持ち運ぶレンズを減らしたい傾向にある」と、彼らの洞察は鋭い。フルサイズミラーレスカメラがプロからも注目される昨今、しかしレンズの大きさが一眼レフカメラと変わらないことは誰もが気付いており、そこで選ばれるバッグも変わらないだろうと思っていた。しかし彼らはユーザーをより深く観察していた。

加えて、たくさんのスケッチ、山と積まれたバッグ素材のコレクションを目にすると、彼らの闊達な商品企画とともに、まだまだ発展が止まらないブランドだと感じられる。そんな彼らの核心に迫った今、今後の新製品にどのように結実するかを目撃するのが楽しみだ。

本誌:鈴木誠