インタビュー
開放F0.95の超個性派レンズ「TTArtisan 50mm f/0.95 ASPH」…その魅力をコムロミホさんに聞いてみました
2020年10月20日 12:00
銘匠光学というブランドから登場した交換レンズ「TTArtisan 50mm f/0.95 ASPH」は、開放F値F0.95を誇るフルサイズセンサー対応の大口径レンズです。それでいて8万8,200円(税込)という求めやすい価格になっています。
明るい交換レンズといえばF1.4やF1.8が一般的で、F0.95やF1.0はかなり特殊な位置付けの部類に入ります。そんな中、8万円代で供給されているこのレンズは、一体どのような製品なのでしょうか。
今回は写真家のコムロミホさんに「TTArtisan 50mm f/0.95 ASPH」を使っていただき、作例とともにその印象をお聞きしました。
高品位な外観に「しっかり合わせられる」操作性
——今回、コムロさんには「TTArtisan 50mm f/0.95 ASPH」を使っていただきました。この製品の存在は知っていましたか?
このレンズ、実は以前から気になっていました。カメラ系量販店にも置いてありましたし、F0.95の大口径レンズにしてはとにかく安いじゃないですか。ライカユーザーにとって「NOCTILUX-M F0.95/50mm ASPH.」(税別での実勢価格は146万円前後)は大きな存在ですし、それと同じF0.95をこの値段で味わえるのは魅力的だと思います。
——実際に撮影されて、重さや外径についてはどう感じました?
ライカMマウントのレンズとしてはやっぱり大きくて重いです。F0.95ですし、このサイズになるのは納得感はあります。
でも、いやな重さではないですね。金属やガラスのしっかりした重みが感じられ、この重みが高級感につながっているのではと思います。手触りや質感も悪くないですし、個人的には8万8,000円の外観・質感とは思えません。
かぶせ式のキャップも金属製で化粧箱も重厚。そういったところにこだわりを感じます。
——珍しいことにマウント接合部が金色ですが……
これですよね(笑)
でもボディにつけるとほとんど隠れて、マウントを一周するように金色のリングだけが残るようになっています。金色を活かしたデザインだと感心しました。
今回「Nikon Z 5」での撮影で使用した同じ銘匠光学のマウントアダプターも、レンズにマッチしたデザインだと思います。マウントとマウントアダプターの角度が一致していて一体感がありますね。もちろんガタつきもありません。
——そういえば、最近TTArtisanですべてが金色の特別モデルが発表されました。35mm F1.4ですので今回のF0.95とは別のレンズですが、画像はご覧になりました?
すごいですね。結構反射する仕上げなので、ペイント仕上げのライカボディに合いそう。全身金色なのに、これでも税別12万円なんですね(笑)
——話を戻して、「TTArtisan 50mm f/0.95 ASPH」のフォーカスリングの操作性はいかがでした?
重めで回転角が大きく、しっかりと回す必要がありました。最初は「速写性に欠けるかな」と思ってたのですが、使っているうちに(F0.95の明るさなので)厳密なピント合わせのためには「これくらいがちょうど良いかも」と感じています。絞りリングの操作感も重目です。そのおかげでクリック感はしっかりしている印象です。
——今回は「ライカM10」と「Nikon Z 5」(マウントアダプターを使用)のそれぞれで撮っていただきました。「ライカM10」で撮るときはライブビューを使用しましたか?
被写体との距離があれば被写界深度が深くなるので、レンジファインダーで撮影しました。被写界深度が浅くなる近接はライブビューです。「ライカM10」の良いところは、フォーカスリングを回すと自動的にライブビューが拡大すること。結構撮りやすかったですね。
開放F0.95の画質とは?
——コムロさんの作品には、明るいレンズでボケを活かしたものがよく見られます。
そうですね。ボケを取り入れた表現をしたいので、F値の明るいレンズは好きです。
——F0.95という開放F値ですが、F1.2、F1.4とは違うものですか?
やはり違いますね。例えばこの作例ですが……
ネコの瞳にピントが合ってますが、ほっぺたはもうボケているんですよね。このボケ量はさすがだと思います。おかげで観る人の視線が猫の瞳に吸い付くような写真になったのではないでしょうか。
——大口径レンズには絞り開放とそれ以外で大きく描写が変わるものがあります。それを個性として好む層も存在するわけですが、このレンズもそのタイプでしょうか。
はい、開放と絞った時ではかなり性格が変わります。特に近接で撮影した場合、開放だととても柔らかな描写です。全体的にベールをかぶったような、何か奥ゆかしいような。
一方、同じ近接でもF2.0やF2.8まで絞ると、ピント面がしっかりとシャープになりコントラストのある描写になります。
——絞り開放時のボケはいかがですか?
明るい割には輪郭はざわつきがなく素直に見えます。丸ボケの形ですが、さすがに絞り開放の画面周辺だと歪みがちですね。
でもF2まで絞ると円に近くなりますし、背景ボケのぐるっとなるクセも、ある程度収まるようです。
逆にこのぐるっとなるボケも特徴のひとつなので、使いこなして表現に取り入れるのが良いのではないでしょうか。ぐるっとなるボケ以外にもボケに特徴があり、被写体との距離によってその性格が変わります。背景に二線ボケが見られるときがありますが、個人的にはそれほどうるさくは感じませんね。
——周辺減光は発生していますか?
絞り開放だと目立ちますね。でも、四隅に向けて自然に暗くなっていくタイプなので、いやな出方ではありません。先ほど挙げたネコの作例がそうですね。周辺減光をうまく活かせたと思います。
——どちらのボディで撮った作品もレンズの特徴が出ていますが、「ライカM10」の方がいわゆるオールドレンズの描写に近いように感じました。
そうなんですよ。同じシーンを同じレンズで撮っているのに違ってきますね。このレンズはマウントアダプターを使ってライカ以外のボディでも使えますが、いろんな表現を探せそうです。
——「ライカM」と「Nikon Z 5」とでおなじレンズをつかっていただきましたが、それぞれで撮影の印象など違いましたか?
ライカでマニュアルフォーカスのレンズを使うのは当たり前なのですが、Nikon Zでは初めての経験だったのです。なので、マニュアルフォーカスのレンズで街を切り取る感覚がとても新鮮でした。
まだ試していないのですが、Nikon Zだとクリエイティブコントロールと組み合わせるのも面白いかもしれません。はっきりした特徴のあるこのレンズ、そういう絵を作り込んでいく機能との相性は良いように感じました。
——今回はカラーの作品を撮っていただきましたが、このレンズはモノクロも面白そうですね。
そうですね。柔らかでノスタルジックな表現になりそうです。
個性派レンズは必要?
——撮っていて楽しかったですか?
はい! 1本でいろんな表現ができるレンズだと感じました。どれくらい近づくかで被写体の描写も変わりますし、背景ボケ・前ボケの質感も変わります。もちろんF値でも描写が変わります。とにかくいろんな撮り方を試してみたくなるレンズですね。
いまのデジタルカメラとレンズは、誰にも簡単に綺麗な写真が撮れます。ですから撮るだけで満足してしまいがちです。でもこのレンズをつけて撮ると、「こう撮ったらどうなるのかな」「こっちから撮ったらどうなるのかな」という感じでいろいろと試行錯誤をしたくなりました。
——SNSに写真を上げている方にもお勧めできますか?
できますね。このレンズのボケによる立体感は独特なので、小さな画面や画像サイズで見ても伝わりやすいと思います。何気ないシーンをドラマチックに表現できるので、表現方法を模索している人にもおすすめしたいです。
——撮影後にデジタル処理でボケをつくることが簡単になりましたが、光学によるボケの存在意義ってなんでしょう。
iPhoneやアプリで作ったボケは距離に関わらず一定のボケ感で不自然ですが、光学だと被写体や背景との距離で変わってきます。レンズそれぞれの癖も、自然な描写・味付けに役立ってくれているのではないでしょうか。
——今回はスナップでの作例をお願いしましたが、このレンズで他に撮ってみたい撮影ジャンルや被写体はありますか?
ポートレートでしょうか。ちょうど良い解像感とソフトな描写が同居しているので、女性を撮るのに向いているように思います。だって女性はある程度柔らかに撮ってもらたいものじゃないですか(笑)
——最後にこのレンズの総評をお願いします。
「ドキドキするレンズ、ワクワクするレンズ。これが8万円台で買えるなんて……F0.95の大きなボケを堪能できるので、今までと違った表現を楽しめそうです!F0.95ではふんわりと柔らかな描写を楽しめて、少し絞ればコントラストが出て被写体をシャープに表現してくれます。個性的な描写なので、ちょっとじゃじゃ馬なところもあるかもしれませんが、それが逆に面白いレンズです。
デジタルカメラマガジンでもコムロさんの作品が掲載されています
デジタルカメラマガジン2020年11月号(10月20日発売)において、コムロミホさんが執筆された「TTArtisan 50mm f/0.95 ASPH」の記事が掲載されています。どうぞご一読を!
協力:焦点工房