カメラ旅女の全国ネコ島めぐり

日本の秘島に暮らす猫が導いた、世界唯一の絶景旅(竹島・前半)

日本は6,852の島々で構成される島国であるということを、島旅をするようになってから、ふいに実感する機会が増えた気がします。

島は奥が深くて、行けば行くほど、そこに日本の原風景があって、島を旅しないことには、日本の大切な、厳しくも柔らかな懐に触れられないのではないかという気がしてしまうのです。

それに、日本の国境が、東京や大阪から何百キロと離れた小さな離島だということを、日常生活において忘れていることはよくあります。

今回訪れた島は、そうした国境に指定されている島のひとつである、鹿児島県の竹島です。

6,852の島々はそれぞれ多彩ですが、「ええ、こんな島があったんだ!」という感嘆の声が漏れてしまった島です。

そのきっかけは、猫が招いてくれました。

竹が一面に島を覆う景色は日本唯一。カメラをかかえて、冒険の旅がまた、はじまりました。

【これまでのねこ島めぐり】

竹林に覆われた島

鹿児島県鹿児島市の港からは三島村である竹島、硫黄島、黒島を行き来するフェリーが発着しています。さっそく朝9時半の船に乗って鹿児島市から南へ約90キロのところにある竹島へと向かいました。

もくもくと噴煙をてっぺんに纏った桜島を背に、ゆらーりと約3時間の船旅です。

竹島は、もとはトカラ列島の島々と同じ「十島村」のひとつでした。1947(昭和22)年に、北緯30度以南がアメリカの統治下におかれ、1952(昭和27)年に北緯29度以北が日本に返還された際に、村の区域を北緯30度以北に分け、竹島、硫黄島、黒島を「三島村」としたそうです。

2時間ほど経つと、外洋に出たフェリーはいよいよ揺れ始めます。海は容赦なく、ぐわ〜ん、ぐわ〜んと波をたてて、大きなフェリーも、ゆーら、ゆーら。

そうこうしていると、前方に港が見えてきました。

「ええ? あれが港?」

前方に広がるのは港というよりも、竹林。レンズを広角にして撮っても、写りきらないほどの、竹林の広がり。

それは、そう。三島村はリュウキュウチク(大名竹)という竹が多く群生し、とくに竹島は島一面に鬱蒼とリュウキュウチクが群生しているのです。

「ようこそ!」

迎えに来てくれた、民宿「はまゆり」のオーナー・日高さんに声をかけてもらい、車で宿へと向かいました。

日高さんが民宿だった空き家を使って、Uターンして民宿はまゆりを始めたのが4年前とのこと。

玄関の横には、内地で知り合ったデザイナーの友人に描いてもらったという、"はまゆり"の絵が出迎えてくれました。

そして、猫たちも!

猫たちもお出迎え

「いま、9匹いますよ。ちゃんと名前もあるんで!」

そういいながら、猫のご飯、カリカリをあげはじめる日高さん。

島にはもともと100匹ほどの猫がいて、最近全島の猫を一斉に去勢・避妊手術したそうです。

「だから、こいつらが生きているうちは、ちゃんとご飯をあげようと思って」

人間が飼い始めて、そのうち野生化して猫が増えていきました。今後は、その数も減るだけだろうから、責任をもって猫にご飯をあげていきたいと考えているそうです。

猫たちに向かって走っていきたい衝動を抑えつつ、近づけば逃げてしまうので、ちょっと距離をとって、望遠レンズに持ち変えて撮影。

人見知りの猫たちは、距離をとったほうが緊張した顔にならならず、あどけない表情を撮ることができます。

「4年越しにご飯あげつづけて、やっとキジトラは触れるようになったんですよ〜」と、日高さん。足元に「触って、触って」とやってくるキジトラを撫でながら、嬉しそうに話していました。

あ〜、うらやましい。

「荷物置いたら、さっそく島を案内しましょうか」

今日はお客さんも、鹿児島市から診療所に来ている先生がいるだけで、時間があるからと案内してもらえることに!

「ここ、海が時化るとすぐ船が欠航するから、来島するのが難しいって言われてる島なんですよ」

行くのも大変ならば、お客さんを待つ島の人たちも大変なのです。

昔は、主食も外から船で運ばれてきたそうで、海が時化るとなかなか船が来ずに大変だったそうです。

竹生い茂る道を抜けて

リュウキュウチクの生い茂る道を通り、まず訪れたのは、籠港です。

昔から使われていた港で、今でも東北の風が強い日には、波の静かな籠港に漁船が避難するそうです。

目がくらむような高さの絶壁の岩に囲まれた青く美しい湾で、今でこそ400段の階段を上り下りできますが、階段ができる1956(昭和31)年まで、島の人は竹と茅を編んだ大網を陸からかけて、8貫の荷を背負って軽々登っていたようです。

島の人の生きる強さ、逞しさは、桁外れに凄いとしか、言いようがありません。

現在は立ち入り禁止ですが、日高さんの案内のもと、ゆっくりと階段を下っていきました(必ず島の人の許可が必要です)。

降りても、降りても、なかなか着かないほどの高低差。

「僕、小さい頃に、母親に抱っこされてこの階段をのぼっている記憶がうっすらとあるんですよね」

何度も同じことばかりを思ってしまうのですが、過酷な島の生活は、人を強くするのでしょうか。

写真を撮っていたら、当時の苦労がひしひしと伝わってきたように感じました。

それから、オンボ崎という場所へ。ここから、頭に噴煙をかぶった硫黄島が見えました。

海岸のほうへ降りていくと、溶岩が流れて固まったような隆々たる岩に出会いました。

竹島ふくめ、三島村はおよそ7,300年前に噴火した鬼界カルデラの一部で、日本ジオパークに認定もされています。

自然が生み出した造形美は、どのアングルで撮るのがいいのか。なんだか、大自然に試されているような気がします。

そしてオンボ崎の展望台へと、のぼっていくと、リュウキュウチクに阻まれ、すでに道もなき道状態でしたが、日高さんのあとを追いかけていくと、そこで待ち受けていたのは、「竹の島!」と叫びたくなる、絶景です。

天気が崩れはじめ、風がびゅんびゅんと吹き付ける展望台は、立っているのも少し怖いくらい。

リュウキュウチクのざわめきにも、少し慄いてしまうほど。

竹の島だから、竹島。

その全貌を見るまで、竹をかき分け、かき分け、やって来たからこそ、余計に実感する圧巻の竹の存在感。世界唯一無二の風光!

やっと撮れた1枚に、感動が込み上げてきました。

鹿児島に猫はいない?の真実

「じゃあ、そろそろ、小雨になってきたし、戻りましょうか!」

そう言って、また道なき道を、竹をかき分け、かき分け、戻っていきました。

集落に戻り、ぷらぷら散策をすると、猫たちがちらほらといて、のんびりくつろいでいました。

人に慣れている猫もいて、「猫ちゃーん」と呼べば、とことこ来てくれる猫もいて、ほっこりと癒されます。

集落はとても小さくて、15分程度で散策できますが、猫にはたくさん出会いました。

宿に戻って、日高さんに「そういえば、なんでこの島に来たんですか?」と聞かれました。

実は、鹿児島の友人に、猫がいる島ってあるのか聞いたところ、「鹿児島にはないかなあ」と言われたのです。

だから、猫がいるかは期待せず、行ったことのない島に行ってみようと観光案内のパンフレットを広げたら、一番情報が少ない竹島が気になったのです。

「たぶん、猫が導いてくれたんだと思います」

「なんですか、それ」

あはは、と笑われたとき、ざわわわと、外の竹が大きく騒ぎはじめました。

つづく

小林希

旅作家。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後、『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家に転身。著書に『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』や『美しい柄ネコ図鑑』など多数。現在55カ国をめぐる。『Oggi』や『デジタルカメラマガジン』で連載中。