カメラ旅女の全国ネコ島めぐり

日本の秘島に暮らす猫が導いた、世界唯一の絶景旅(竹島・後半)

鹿児島県の離島、竹島を旅して2日目。

竹島は、鹿児島市の南90キロの外洋に浮かぶ、周囲12.8キロの小さな島です。島は一面リュウキュウチクという竹に覆われた、世界で唯一無二の景観をしています。

「昔、まだ港が埋め立てられていない頃、竹島に来た船が、どこから島を見ても竹林しか見えなくて、無人島だと思って通過してしまったと言われてますよ」

そう話してくれるのは、私が今回泊まった民宿はまゆりのオーナー、日高さん。

島生まれ島育ちで、一度鹿児島市に出たけれど、4年前にUターンして、今は民宿を営んでいます。そこには、去勢・避妊手術をした猫たちも、たくさん暮らしていました。

竹島には、猫がいるのかどうか、わからないまま来島しました。

猫に会いたくて旅をしているけれど、猫がいるかわからない島に来て、猫に出会えたときの喜びは、ひとしお。人口約80人の島で、猫は100匹ほどいたこともあったとか。

猫が導いてくれた、冒険の旅は続きます。

【これまでのねこ島めぐり】

竹の音に誘われるように

朝、ざわわ、さわさわと、リュウキュウチクが風でしなり、賑やかな音をたてているなか目覚めました。

島に群生するリュウキュウチクは、大名竹と呼ばれ、タケノコはえぐみがなくて、一度食べると他のタケノコが食べられなくなるほど旨い! らしいです。

ざわめく外界へと、玄関を開けると、猫たちがご飯をもらいに集まっていました。

「小林さん、ちょっと、ご飯あげてもらえます?」

「はいはい、よろこんで〜」

朝食の準備をしている日高さんに代わって、カリカリの袋をもって、猫たちに朝ごはんをご提供。

さささっと、逃げられるものの、次第に距離も近づき、標準ズームレンズでも撮れるように。昨日よりも心の距離が近づいたかな?(猫「いやいや、ご飯がほしいだけにゃあ」)

島の東側を探検

さて、竹島の西側にある籠港とオンボ崎には1日目で行ったので、2日目は東側をドライブすることにしました。

竹島は東西に細長く、フェリーが発着する竹島港がある集落は島の中央にあるので、散策するには、集落から西か東へ約3kmほど歩けば、端っこに辿りつきます。

東側には、どうしても見てみたい場所がありました。

ひとりで行こうと思ったけれど、「いやあ、道がどうかな。ちょっと案内したほうがいいと思うので、僕も行きますよ」と、日高さんが案内してくれました。向かう先は大山神社です。

大山神社がある島の東側エリアには、竹を刈って作った牧草地が広がり、放牧された牛がのほほんと過ごしていました。

島はほぼ平坦ですが、標高220mのマコメ山まで続く竹林の絶景には、日本らしくも、日本ではないような感じがしました。

道なき道を抜けて神社へ

大山神社へ行くには、一本道から鬱蒼と繁る竹林のなかへと入っていかなくてはならず、強靭な生命力で群生する竹は、人がつくった道など、いとも簡単に消し去る勢いで生えています。

「ここですよ、入り口」

「ええ、ここ?」

島の人の案内がなければ、見過ごしてしまうであろう、竹林のなかへと入っていきました。

「あった、これです。この祠」

「これが、大山神社なんですね!」

大山神社は、島の悲しい歴史と深い関係があります。

昔の島生活は、人ひとりが食べて生きていくのがやっとなほど、過酷でした。そこで年老いた老人は、集落から離れた竹やぶの中へと連れられて行き、そこに置き去りにされてしまったのだそう。俗にいう「姥捨山」です。

「こういう場所って、本当にあるとは聞いていたけど、この場所って言われると、なんとも言えない気持ちになりますね」

「でも、自力で集落まで帰ってきた人もいたみたいですよ」

電気も、ガスも、水道もない時代、ここに置き去りにされた老人たちは、さぞ心細かったことでしょう。

日本の離島には、いくつも「終戦を知らなくて、戦後3カ月経ってようやく知った」という人がいた島があったようです。竹島も、そのひとつ。

だけど、ずっと島で生きてきた人たちの培った生きる知恵は計り知れず、今の私たちが見習うべきことは、きっとたくさんあるのだと思います。

ここに置き去りにされた人たちを忘れないために、大山神社はできたのだと、日高さんは言っていました。

手をあわせて、ふたたび竹の中へと飛び込んで、戻りました。

再び集落へ

集落へ戻る帰り、牧草に飲み込まれそうな牛を発見。

「おーい、大丈夫—?」と声をかけながら、パチリ。

竹島の海岸沿いは、ぐるっと絶壁になっています。ぎりぎりまでリュウキュウチクが迫り、圧巻の光景を眺めて、パチリ。

集落では、猫たちが竹の世界とは無関係なそぶりで、のんびりとくつろいでいました。猫には猫の世界があるようです。

民家の軒先で、猫たちはそれぞれが定位置について、まるで写真に撮られるのを待っていたみたいに、絶妙なポジションでいてくれました。

こうして写真に撮ると、竹島は改めて、和の色彩が広がるなぁ、と感じます。

島には、今年できたばかりの商店「竹のいえ」があります。

島生まれ島育ちの山崎晋作さんがはじめた、島で唯一の商店です。現在もなかなか物資の調達が難しい島暮らしで、商店があるのはとても便利で、ありがたいことなのです。

「竹のいえ」は、主に食料と生活用品を揃え、島の人たちの憩いの場所にもなっているよう。

日高さんも、「猫のご飯、ここでいつも買うんですよね」と言っていました。

山崎さんに写真を撮らせてもらいました。島の方ならではの、芯の強さと、物腰の柔らかい人柄が写真ごしに分かる気がします。

「あ、猫のいる神社行きました?」と山崎さんに言われました。

集落にある聖大明神社には、猫がいるそう。

「といっても、本物の猫じゃないですけど、行ってみてください」そう言われて、向かってみることにしました。

そこにいたのは、唐猫とよばれる、狛犬でした。

1715(正徳5)年に、竹島石を使って彫ったものだそうです。「ぐはははは!」と豪快に笑って、瑣末な悩みや願い事など、「たいしたことないわ!」と勇気をくれそうです。

聖大明神社が建立された年は定かではないようですが、昔、大浦(今の東泊)にあった溜池から龍神が現れて、石に化したとか。そのとき神のお告げがあって神社を建てたのだと言い伝えられています。

リュウキュウチクがさやさやとしなり、歓声のようなざわめきが賑やか。

さて、そろそろフェリーの時間がやってくるから、戻らなくては。

「ありがとうございました! また!」

猫たちに挨拶をして、フェリーに乗り込みました。

竹の島がみえなくなるまで、大きく手を振って、愛惜を募らせ、また次の猫をめぐる冒険の島旅へと向かいます。

島に来るたびに、「こんな光景、ここでしか見られない!」という絶景や、「ここに来たから出会えた!」という燻し銀のような島の人たちと、出会い、つながり、また来たいと思う理由がみつかります。

そういうふうに、戻りたい!と思うような場所には、かならず猫がいる気がします。塀や屋根の上に、釣り人の側に、優しい自然の中に。

あ、今度、竹島に来るときは、美味しいタケノコの季節にしよっと。猫たちも、それまで、元気でね。

小林希

旅作家。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後、『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家に転身。著書に『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』や『美しい柄ネコ図鑑』など多数。現在55カ国をめぐる。『Oggi』や『デジタルカメラマガジン』で連載中。