カメラ旅女の全国ネコ島めぐり

ネコと祭りに心ときめく、神の集まる島へ(神津島・前半)

火山の島々が織りなす伊豆諸島ですが、島一つひとつは小国のように景観や風習が異なり、そんな違いを探して写真に収めるのも、島旅をする楽しさです。

それに、島々で暮らす愛らしくもワイルドなネコたちも、島によってずいぶんと性格が違うように感じます。

今回、私は東京の竹芝桟橋から東海汽船に乗って、伊豆大島、利島、新島、式根島を通過して、約180キロ南下したところにある神津島を旅しました。

高速ジェット船があり、アクセスの良い島

海外のどこかへ降り立ったような、遥か遠い異国に来たような気分に浸りますが、神津島へは高速ジェット船に乗れば、週末でも来島可能です。

神津島も、火山の島特有の見所が満載です。たとえば9世紀に噴火して形成されたと言われる溶岩ドームの天上山が島の中央に聳え、海中にはふつふっと温泉が湧き、海岸にごつごつとした溶岩の一種である流紋岩などが転がっています。

また、毎年8月1日、2日は、島の伝統行事である祭り「子どもみこし」と、重要無形民俗文化財に指定されている「かつお釣り行事」が開催されます。

私は、この日に合わせて、カメラを持っていざ来島しました!

熱狂する祭りのなか、ネコたちに出会うことはできるのでしょうか。

そして、今回泊まったゲストハウスはなんと……ネコ宿でした!

竹芝桟橋から、揺れない高速ジェット船「セブンアイランド」で3時間40分、神津島に到着しました。

真っ青な空が広がる晴天のもと、海の色は青々として、とても美しいです。

島には、前浜という白砂が広がる浜辺が800メートルほど続き、観光客が海水浴を楽しんでいる姿が見られました。

さっそくネコに

今回泊まる宿は、シヨウゴロというゲストハウス。

港からてくてく歩き、集落のほうへと入っていきました。

神津島の集落は一村だけ。前浜から山の方へ、民家が広がります。半日もあればぐるりと歩ける規模感で、昭和の頃のようなノスタルジックな街並がとても素敵です。

シゴウゴロに着くと、出迎えてくれたのは、オーナーの小林さんと、奥様のユキコさん、そして……。

「わあ、この柄!」

「ゴマという名前なんです」

暑い中、木陰でごろにゃんと休んでいたのは、点々とした黒ごまが手足に散らばったような柄をした、黒白ネコのゴマちゃん。

私が来ると、ユキコさんに促されて、すっくと立ち上がり、お出迎えしてくれました。

「この家を貸してくださったオーナーが飼ったいたネコなんですよ」

気さくで明るいユキコさんが、ゴマちゃんストーリーを聞かせてくれました。

「ここにはもともと3匹のネコがいたんですけどね、オーナーが島を出るときに、ゴマちゃんだけ置いていったんです。最初は寂しそうでしたけど、今は観光客に可愛がってもらったりして、慣れたみたい」

人懐こいゴマちゃんに出迎えられて、写真を撮りながら心を通わせて、すっかり癒されました。

ユキコさん曰く、神津島の集落では、よくネコを見かけるそうです。

「でも今日と明日はお祭りだから……、出てくるかなあ」

その理由は、すぐお祭りを見学しに行って納得しました。

たくさんの子どもたちで活気にあふれるお祭

「こどもみこし」というお祭りは、島で一番大きな神社である物忌奈命神社に、子どもと父兄が集まり、神輿をかついでスタート。神輿は4つ出て、小学生、中学生、高校生が担ぎ、大人がサポートしていきます。

神津島は、私が行ったことにある他の島々のなかで、圧倒的に子供の数が多くて驚きました。「ワッショーイ、ワッショーイ!」と、活気があり、賑わって、元気いっぱいという感じ。

その様子を、カメラを持って追いかけるのは、とても楽しくて、ワクワクしました。

物忌奈命神社を出た神輿は、龍神を祀った竜神社を正面にした港まで担がれます。

驚くのは、鳥居を出たところから、消防用のホースや各民家のホースで、神輿一行に「ぶわーーーっ」と、水をかけるのです。これは、水資源が豊富な神津島だからできる伝統のようです。

皆、あっという間にずぶ濡れ。

私はカメラが濡れないように、うまく移動しながらもついていきました。

港に着くと、神輿を海に浸けてお清めします。

じゃばじゃばと海の中で神輿を回したり、上下に揺すったりと、迫力満点!

その後、神輿は集落の中を練り歩き、山側の上のほうにある神津小学校まで到達。ここで1日目は終了。

お祭の後で

ずぶ濡れのまま、子供も大人もそれぞれに家に戻っていきます。よたよたと、さすがに皆さん、お疲れの様子。

夕方、私はユキコさんと一緒に、小学校の南側高台のほうへと向かい、図書館がある「よたね広場」を目指しました。神津島の集落が一望できるというのです。

「いやあ、普段なかなか歩かないから、実際に歩いてみると楽しいわ」とユキコさん。

いつも車で移動してしまうから、こうして歩くと、旅人の気分を味わえると仰っていました。

よたね広場では、神津島特産の天草が日干しされ、広げられていました。日干し日数により、天草の色が早いほうから紫、ピンク、オレンジ、黄色と変色していて、まるでパッチワークの敷物みたいで綺麗です。

島の方が作業していたので、写真を撮らせていただきました。それをきっかけに天草づくりの話を聞いたりして、最後にツーショットをパチリ。

それから集落を一望。

大海原を前にひしめき合う家々は、一村とはいえ完成された統一感が見事です。太平洋を明るく照らす太陽も西に傾きはじめ、まばゆい光に集落は煌めいていました。

よたね広場には、ブランコがあったので何年ぶりか漕いでみたら、海の向こうまで届きそうで、ぐーん、ぐーんと、このまま空に飛んでいそうな気がしました。

懐かしくて暖かい雰囲気の町なみ

さて、よたね広場を降りて、ゲストハウスのシヨウゴロに戻ることに。

集落の街並は、とてもノスタルジック。

だけど、瀬戸内海のような情緒的な古民家が建ち並ぶというよりは、昭和の頃のような気配が漂い、懐かしく、温かい雰囲気がしました。

歩いていると、迷路みたいに細い小径が多くて、少し日差しが和らいだおかげか、ネコたちの姿をちらほら目撃しました。

途中で、ある民家でご飯をもらっている、人懐こいネコたちがいて写真を撮ろうとすると、やたらとネコ仲睦まじい様子を見せつけてくれました。

ようやくシヨウゴロに戻ると、大変働き者の宿猫ゴマちゃんがお出迎え(たぶん、ベンチでご飯を貰っていただだけ?)!

「にゃーん、にゃーん」と愛想を振りまいてくれて、愛らしさ全開。

日が沈むと、物忌奈命神社で縁日がはじまるので、またシヨウゴロを出ようとすると、ゴマちゃんも一緒にくっついてきました。

「ゴマちゃん、いつも神社まで一緒にお散歩するですよ〜。でも今日はお祭りで、賑やかだから、上までは来ないかな?」とユキコさんがゴマちゃんに話していました。

シヨウゴロは、神社の裏門へ続く階段がすぐ近くにあって、よくゴマちゃんと一緒にそこを上って境内まで行くそうです。

この日は、さすがに普段よりも人が多く、階段のすぐ手前までしかゴマちゃんも着いてきませんでした。

「賑やかしいから待ってる」

そんな意志のある眼差しで「にゃーん」と言ったので、ゴマちゃんとはそこでしばしお別れ。

境内では、神津島の学校の生徒さんたちが和太鼓を披露する、神津島マリン太古フェスティバルが開催されていて、どんどん! と力強い音が、闇夜に鳴り響きました。

毎年8月1日と2日は、島を出た人たちも、一気に帰省するといいます。お盆よりも、この日に集まる島民の数は多いようで、島にとって重要で神聖な例祭だということを感じます。

こういう、皆が同じ場所に生まれたり、育ったりして、同じ日を過ごすために集まることができるのは、なんて尊いことでしょう。

ゴマちゃんも、島ネコとして、島を去った仲間のネコたちとこの日に会えることを、ひそかに楽しみにしているのかもしれません。

(つづく)

小林希

旅作家。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後、『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家に転身。著書に『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』や『美しい柄ネコ図鑑』など多数。現在55カ国をめぐる。『Oggi』や『デジタルカメラマガジン』で連載中。