カメラ旅女の全国ネコ島めぐり

玄界灘に浮かぶ小島で猫の日常に触れ、旅情に浸る(姫島・後半)

福岡県の糸島市に、玄界灘に浮かぶ姫島があります。岐志という港から船「ひめしま」で16分。周囲3kmほどの小さな島には、猫がたくさん暮らしています。

江戸時代から激動の歴史の一端にかかわり、外国船の監視警護をする遠見番所があった島で、幕末期には尊王攘夷派をかくまったとして、幕府に流刑された尼の野村望東尼が投獄された獄舎の跡地もあります。

現在は、ほのぼのとした空気が流れ、平和そのもの。猫たちが自由きままに暮らしている光景も、島の穏やかさの証です。

島の玄関口であるフェリー乗り場付近には、猫たちがたくさん集まるベンチ小屋があり、来島早々、たっぷりと猫たちの写真を撮って、戯れました。

私も姫島は初めて。猫たちはどんな日常を送っているのでしょうか。さっそく集落の中を散策します!


これまでのねこ島めぐり

歴史の一端に触れる

集落の玄関口である大鳥居をくぐるとすぐ、道が二叉に分かれていました。

右側は、姫島神社があり、左側は集落へと道が続いています。

まずは、安産の神様である豊玉姫命、ウガヤフキアエズノミコトなどを祀った姫島神社へと、階段をよっこらとのぼっていきました。

参拝をして、そこからの眺めを写真にパチリ。集落の家並みを上から眺めることができます。

ぎっしりと詰まったような家の並び。猫ならば、屋根伝いに、ぴょんぴょんお散歩できそうです。とはいえ、灼熱の暑さなので、今は木陰で休んでいるはず。

冬にでも来島したら、屋根の上にいる猫を写真に撮れるかも、なんて思いました。

ちなみに、神社の中に、標高187mの鎮山へつづく登山口があります。かなり草木の緑が燃えるように生い茂っていたので、今回は諦めましたが、秋冬にでも山登りには挑戦してみたいです。玄界灘を一望できるというので。

さて、降りてすぐ、さきほどの左側の道へと進み、ひたすらまっすぐ歩いていくと、右手のほうに「野村望東尼獄舎跡」という案内板があり、のぞいてみました。

野村望東尼は、江戸時代、尊王攘夷派の武士たちをかくまったとして、幕府に投獄されていました。後に、高杉晋作の命で救出され、山口県で余生を過ごしたそうです。一説には、高杉晋作が亡くなるとき、「おもしろきこともなき世をおもしろく」という辞世の句に対して、「すみなすものは心なりけり」と下の句をつけたと言われています。

獄中は、心優しい島民に助けられたと、野村望東尼の日記に残っているそうです。有名な歴史の一端をここで感じながら、港のほうへと降りてみました。

なにか視線を感じて、振り向くと、シャム猫のような洋風の猫と目があいました。

シャム猫さんに近付くと、「シャー!」と威嚇されましたが、ひょっこり現れたのは、可愛らしい仔猫です。

シャム猫さんの子供と思えない、サビ柄をしています。猫の柄の遺伝子は、本当に面白い! 私は、秘かに写真を撮る時、柄にも注目しています。

背景に映える柄というのもあって、自然の中では白っぽい猫のほうがいいし、カラフルな家並みの前だと、黒っぽい猫のほうがいいのです。

シャム猫お母さんは、私にお構いなしという感じですが、仔猫は好奇心旺盛で、ちょっとずつ近付いてくれました。そのあどけない顔をパチリ。

漁港で猫とたわむれ!

その後、素敵な木造校舎の「姫島小・志摩中姫島分校」を見にいきました。もともと、野村望東尼獄舎の近くにあったようですが、平成8年に港近くに移転されました。

六角形の美しい校舎は建築が好きな人にも見応えがあるかもしれません。集落へつづくテラコッタのメインストリートといい、どことなく和洋折衷の雰囲気がする島です。

中をちょこっとのぞくと、多角形の廊下や空間がとてもオシャレでした。

ここに猫がいたら絵になりそうですが、おらず。

さて、漁船の停泊している港へと移動中、木陰で休んでいるおばあちゃんとお話をしました。

「素敵な島ですね〜」

「あなた、島好きなの? 私も好きよ」と、にっこりおばあちゃん。

「おばあちゃんは、島生まれですか?」

「そう。もう、島の中はほとんど親戚よ」

「猫ちゃんも親戚ですか?」

「そうねえ。ここは昔から猫がたくさんおると」

「昔から猫島なんですね!」

「そうねえ。今日はお葬式があるから、着替えに戻るとね」

そういって、手押し車を押して、とことこ集落の中へと帰っていきました。

港のほうに行くと、バッチリ目があったのは、茶トラ猫さん。

「し、しまった! 魚を狙っているの、バレたにゃ!」

そんなふうに、タタタタと草むらに逃げます。

そのあとを追いかけると、茶トラ猫さんは慣れた様子で、道をとことこ。

漁師さんたちに「ごはんーー」と言いながら、相手にしてもらえず。

その途中で、おじいちゃんが大きな網で作業をしていたので聞いてみると、

「これは定置網漁につかうと」と教えてくれました。

ほらほらと、ぐいーっと網をのばすと、かなりの大きさ。

さて、そろそろ帰りの船の時間です。

ふたたびベンチ小屋に向かうと、黒猫さんがお休みになっていました。私が来たからか、方々からまた猫たちが集まりはじめまして、喧嘩したり、寛ぎはじめたり。

唯一触れる白茶トラ猫の姫君(♀)とツーショットに挑戦。

姫君は可愛いけれど、人間は汗だくだ……。(夏のツーショットは控えよう)

船に乗り込むと、船長さんが、

「いい写真撮れましたか?」と聞いてきてくれました。

「はい!」

猫と過ごした時間のなかで、島で暮らすおじいちゃんやおばあちゃんともお話ができて、いい想い出ができました。

岐志港に戻ってから、近くのバス停で、筑前前原のほうへ向かうバスを待ちぼうけ。

私以外待つ人はいません。

「遠くまで来たな〜」

たしか朝に東京を出たんだよな、と思いながら、遠く異国へ旅をしてきたような心地よい疲労感に襲われました。15分後、バスが来て、無事に乗車。

美しい玄界灘の海を眺めているうちに、うとうと眠ってしまいました。

小林希

旅作家。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後、『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家に転身。著書に『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』や『美しい柄ネコ図鑑』など多数。現在55カ国をめぐる。『Oggi』や『デジタルカメラマガジン』で連載中。