カメラ旅女の全国ネコ島めぐり

島の人、観光客、ネコ、それぞれに流れる島時間を切り取る(神津島・後半)

伊豆諸島のひとつである神津島の旅、2日目。

神津島は、その昔、伊豆諸島の島々の神々が集まって会議をしたことから、「神集島」と呼ばれていたという神話があります。

会議の議題は、「水」をどう配分するか。会議に最初にやってきた御蔵島の神は、もっとも多くの水を手に入れましたが、最後に寝坊してやってきた利島の神は、僅かな水しか残っていないことに怒り、大暴れしたことから、水が四方八方に飛び散りました。そのため、神津島では島内のあちこちで水が湧き出るようになったと言い伝えられています。

そんな、くすっと笑いたくなるような神話がありますが、実際に神津島では豊富な水資源があり、「シャワーを浴びる時は、水を出しっぱなし」と島民が言うほどです。

私が来島した8月1日、2日は、神津島の例祭があり、水かけ祭りといえるほど、大量の水を使います。

さて、来島2日目の8月2日は、重要無形民俗文化財に指定されている「かつお釣り行事」が目玉です。

そんななか、島のネコたちは、いたってのどか。ゲストハウス「シヨウゴロ」の看板ネコ、ゴマちゃんともすっかり仲良くなりました。
さて、お祭りが終わると、ネコたちは……?


これまでのねこ島めぐり

2日目、夏気分を満喫

神津島には集落がひとつあり、昭和の頃のようなノスタルジックな雰囲気がする街並は、歩いているだけで懐古的な気分になります。暑い日中、ネコたちはどこかの木陰でひっそりと休んでいるようです。

ネコと出会うのは、もっと夕暮れになってから。

その間、島の見所を散策することにしました。

伊豆諸島の中でも、神津島は透明度が高く、美しいブルーカラーの海が印象的な島のひとつです。

白い砂浜が800メートル続く前浜で、まったりとビーチに寝そべっている観光客もいれば、赤崎という火山の島らしい奇岩のような流紋岩の隆起した岩場で、シュノーケリングを楽しむ観光客もいて、島の見所を余すところなく堪能している様子。

赤崎に設置された遊歩道から海にジャンプする子供たちの姿は、うんと夏を謳歌していて、見ている私は写真を撮っているだけで、勝手に夏気分を便乗させてもらいました。

それから温泉保養センターに立ち寄って、大浴場や海辺の露天風呂を満喫!

海の色と岩肌

島の南東側、多幸湾のほうへ移動しました。

湾からは、昔火山が噴火して形成された天上山の切り立った岩肌が見えて、まるで山脈のようです。

この日はガスが上層に立ち込めて、全貌を臨むことができなかったけれど、手前に広がる美しいブルーの海と対比するような岩肌の色合いが魅力的で、とてもフォトジェニックでした。

ちなみに、神津島は、古来良質な黒曜石が採掘でき、島でも黒曜石を使い石器を作っていたそうです。

また、島中には上質な水が湧き、ここでは“多幸湧き水”を飲むことができます。

本当に、美味しい!

その後は、集落のほうへと戻って、船が発着する港のよっちゃーれセンターで、島名物の金目鯛の煮付け定食をぺろりといただきました。千円で金目鯛を一匹どんと出てくるなんて、島だからこそ。

ゲストハウスでお出迎え

一度、ゲストハウスのシヨウゴロに戻ると、ゴマちゃんがお出迎え。

「おかえりなさい」(にゃーん)

「あ〜。ゴマちゃん。今日は暑いからそんなところで、お出迎えなのね」

入り口の木陰で、のび〜っとして、暑さをしのぎながらも、接客対応は抜群。

可愛らしいゴマ柄の手足をしっかりと見せびらかしてくれて、ネコ好きを悶えさせてくれました。

「ゴマちゃん、いいね、そのポージング素敵だよ〜」

と言いながら、調子に乗って写真をパシャパシャ。ゴマちゃんも、期待に応えて、何ポーズもキメてくれました。

(ゴマちゃん、でも、お股全開……だいぶサービス精神旺盛ね……)

お祭2日目、神事の様子

さて、お祭りですが、2日目も1日目と同様、朝から島の中を子供たちが神輿を担いで練り歩いていました。

2日目の目玉は、その後に行なわれる重要無形民俗文化財に指定されている「かつお釣り行事」です。

物忌奈命神社で、漁師の若衆が朝から竹で船に見立てた神具をつくり、カツオ漁の一連を演じるような神事です。

若衆が竹船を持ち上げながら、カツオの人形とカツオの餌にみたてたお菓子を持って、神社のなかを走ります。そして、集まった子供たちにお菓子を投げて、神様に豊漁を祈願するのです。

若い漁師たちの迫力ある真剣な神事は、伝統芸能のようで、アットホームなのだけど、神聖でした。

ちなみに、木の上からもお菓子を投げるのですが、「私も!」と思ったけれど、子供たちに負けてひとつも取れず!

祭事の後、再び島時間に

2日目の目玉も終わり、てくてくと集落をお散歩しました。

集落は神社とはうってかわり、とても静かで、いよいよネコたちの時間が始まったようです。

小径をとことこ歩いていくネコたちを何度とみかけ、それからゲストハウスのシヨウゴロで教えてもらった、片目のネコちゃんにも出会えました。

いつも同じ場所にいる、流人墓地を海側へ歩いていった道にいるネコだそうです。

「だれかがご飯あげているみたいで、いつもいる」と。

片目ネコちゃんのいるところには、ふわふわの毛並みのお友達ネコもいました。

どのネコたちもマイペース。

私が近づこうが、おっとりとして、意に介さずという様子でした。

数日、お祭りで慌ただしい島時間でもありましたが、ネコたちの写真を撮っていると、あっという間に平常の島時間に引き戻された気分がしました。

島の人にとって、年に一度の例祭が始まってから終わるまで盛大な盛り上がりをみせた島時間でしたが、島ではそれに関係なく海でのんびりと遊ぶ観光客もいれば、なんら日常と変わらないネコたちがいて、それぞれの時間があることに気付かされました。

写真にはそれぞれの視点で切り取った景色があって、改めて振り返って眺めると、なんて色彩豊かな美しい時間があり、場所であるのだろうと感じます。

次もまた、違う島色を見つけに、ネコに出会いに、旅を続けたいと思います!

小林希

旅作家。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後、『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家に転身。著書に『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』や『美しい柄ネコ図鑑』など多数。現在55カ国をめぐる。『Oggi』や『デジタルカメラマガジン』で連載中。