カメラ旅女の全国ネコ島めぐり

日本一の猫の楽園 秘境“青島”へ! 遠い道のりの末に猫にまみれる(青島・前半)

今回、猫に出会いに向かったのは、愛媛県の瀬戸内海に浮かぶ小さな孤島、青島。青島は、日本だけでなく、海外からも観光客が訪れます。ただ、これまで訪れた猫島の田代島や伊豆大島と違うのは、観光名所も、宿も、食堂もないということ。あるのは、そこで暮らす15人の島民と、150匹以上いる猫たちの姿。国内外の観光客は、周囲4kmほどの離島で、猫にまみれるためだけに、来島するのです。

これまでのネコ島めぐり

しかし、青島は日本でもっとも行くのが難しい島の1つと言われます。青島を囲む海は海底が深く、少しの風でも波が立ち、すぐに船が欠航します。それゆえ、1日どころか、3日や5日と船が出航しないことも頻繁にあり、島に詳しい人ならば「おお、青島へ! 行けるといいねえ。グッドラック!」なんて言われるほど。

私は1年半程前に運良く来島でき、今回は2度目の来島。東京から遠く、船が出るかどうかはちょっとした“賭け"ではありますが、猫に会いたい気持ちを背負って、いざ青島へ向かいました!

 ◇     ◇      ◇

1日2便の船 果たして出航するのか!?

瀬戸内海の伊予灘、長浜港から13.5kmの沖合に浮かぶ青島へは、松山からJR予讃線に乗って1時間ほどの伊予長浜駅で降り、駅から徒歩5分の港で船に乗ります。そこから35分。

船は朝夕の1日2便のみ。朝8時の便に乗れば、夕方4時15分の最終便で戻れるため、約8時間滞在できますが、午後2時半の便に乗ると約1時間だけ。なので、朝便に乗ろうと、伊予長浜に前泊するほうが無難。猫との時間を長く楽しめます。

ただ、伊予長浜には民宿「漁亭」しかなく、1カ月前に予約の電話を入れても、「もういっぱいよ、ごめんなさいねえ」と言われる始末。ひええ、満室となったら、宿のみならず青島へ向かう船“あおしま"も満席になってしまうのではと、焦ってしまいます。事実、“あおしま"に乗り切れず、泣く泣く諦める観光客もいるほどです。

結局、伊予プリンスホテルを予約して、早朝JR伊予市駅から伊予長浜駅へ向かう予定にしました。

ちなみに前夜は、松山で美味しい鯛飯をいただきました。こだわりの出汁、卵、鯛の刺身がどれも絶品の宇和島式の鯛飯。ご当地グルメは旅の楽しみの1つです。写真を撮るのも楽しくなります。お店の方とも親しくなって、一緒にパチリ。

さて、早朝――。

残念ながら天候はイマイチ。この分じゃあ、船はでなそう……。

実は、前回青島に行ったとき、そこで出会った伊予市在住の大の猫好きおばちゃん(通称猫おば)と、今回島で再会する約束をしていました。

朝、彼女からメールで「今日は朝の便は欠航だと思う。午後便を狙ってみましょう」と連絡をもらいました。そこで、朝はゆっくりして、お昼前に伊予市駅で猫おばと再会。

「わあ! のんちゃん(と呼ばれている)! 久しぶりやん~~! 今日の風やと、船でないかもしれん。でも、行ってみようね」

元気いっぱいの猫おばに再会できて、笑顔がこぼれます。

ふたりでちんたらと、JR予讃線に乗って出発しました。たった1両のかわいらしい電車。一眼レフカメラを携えた鉄ちゃんが数人乗車していました。海沿いを走るので、祈るように瀬戸内海を眺めていました。

「ほら、あそこに見える横長の島が青島よ。そんな波も立ってないけど、どうやろうねえ」

地元の人でも、“船が出るまで、行けるかどうかわからない"あおしま船。ああ、どうか出ておくれ~。真正面に据える青島を見つめ祈り続ける……。

やがて、伊予長浜駅に到着しました。

まさかの……

駅から港に向かい、船があるかを見にいくも見当たらない。

電車に乗りながら、「そんな海に白波立ってないから、行けるかもしれん!」と、猫おばに言われて、一縷の望みを抱きつつ、向かったのですが……。

しかし、待ち合い所にはこんな張り紙が。

「船はドックに出ているため、欠航」

実は、“あおしま"は、ドックからはとっくに戻ってきている予定が、数日続いた強風により戻ってこれなかったようです。

「そんなあ」

思わず声がもれてしまい、落胆。天候よりも、なによりも、船がないだなんて。

「まだわからんよ。午後便の2時半まで時間あるから。戻ってくるかもしれないやん。マリーナで待とうよ。ママさんも待ってるから」

前回、猫おばと青島で出会い、一緒に船で戻ってきたときに、港にある喫茶店マリーナに連れていってもらったのです。

「あ、ミャアちゃん元気かな! 会いたい!」

マリーナには、元捨て猫のアイドル猫がいます。

まだ希望は捨てないぞ! そう思いながら、マリーナへ駆け込みました。

喫茶店マリーナのママとの再会を喜び、さっそくアイドル猫ミャアちゃんに会わせてくれました。箱のまま連れてこられ、愛くるしい姿を見せてくれました。

ミャアちゃんは段ボール箱に入るのが大好きなんだそう。箱の穴からまあるい瞳をのぞかせたり、突然箱から頭だけ飛び出してみたり、カメラが手から離せない状態で、パシャパシャ撮らせてもらいました。

その間、猫おばと、前回行ったときの想い出話に花が咲きました。

前回の青島のこと

前に青島へ行ったのは2016年の春。まだまだ寒く、朝8時の便が出航するのを今か今かと待っていました。やがて、船はたくさんの乗客をのせて出航。

「初めての青島で、船に乗れるなんてラッキー!」と心の中でガッツポーズ。事前に、「4回トライしたけど、4回とも船が出航しなかった」という知人もいて、びくびくしていたのです。

35分後、青島に到着。

船が桟橋に着岸すると、ダダダダっと寄ってきたのは、猫の衆。噂に聞く、猫だらけの光景。写真でよく見ていた、猫軍団!

その時、船からスタスタと1人のおじさん(船長だったのかも)が袋を持って集落のほうへ歩いていくと、猫の衆もぞろぞろぞろ~っと後をついていき、「ニャーニャー」コールがスタート。こ、これは一体!?

すると! おじさんが袋からご飯(カリカリ)を宙にむかって放ちました。それに合わせて、猫たちは飛んだり、跳ねたり、地面に這いつくばったり、てんやわんやとなりました。

おじさんはもはや、猫にまみれています。観光客は羨望の眼差しを向け、一刻も「我も猫にまみれたい!」という観光客は、それぞれ持参のご飯をもって、<エサ場>と指名された場所に向かいます。

そして、1人、2人、3人と、みな、猫にまみれていくのです。

猫の楽園とよばれる所以、この光景にあり。

思わず、私も! と、猫たちにご飯をあげることよりも、この猫にまみれる人間の姿を撮りたいと、せっせとシャッターを切っていました。

そして、足元に気付くと、「ニャーーン」という愛らしい顔で私を見つめる猫。

はいはい、ご飯ね、待ってね。

片手にカメラ、片手にご飯。足元に増えて行く猫の瞳。両手両足に、しあわせがいっぱいじゃないの。

そうして、気付けば私もすっかり、猫にまみれていたのでした。

さあ、2度目の青島。船は出るのでしょうか。後編に続きます!

後編はこちら

小林希

旅作家。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後、『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家に転身。著書に『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』や『美しい柄ネコ図鑑』など多数。現在55カ国をめぐる。『Oggi』や『デジタルカメラマガジン』で連載中。