カメラ旅女の全国ネコ島めぐり

今、もっとも勢いがある猫島で、島唯一の老舗猫宿に泊まる(相島・前半)

いま、もっとも観光客で賑わっている猫島の1つと言われるのが、福岡県の相島です。新宮町の沖合8kmほどの玄界灘に浮かぶ三日月形の島です。もちろん、観光客の多くは、猫に会うために来るのです。

【これまでのねこ島めぐり】

猫島として有名になったのは、遡ること2013年。アメリカのニュース番組CNNが取材に来島して、「世界6大猫スポット」の1つとして紹介しました。その後ジャパンタイムズや、そのほか日本中のメディアがこぞって取材をはじめ、最近では、NHKの「ダーウィンが来た!」でも紹介されました。

気付けば、あれよ、あれよと、たくさんの猫に出会える“猫島”として知られるようになって、今、減少傾向にあった船の乗客は年間で1万人増しとなり、ついに黒字になったというのです(島民談による)。

しかし、実際に宿の数は減ったまま、島には一軒の老舗宿があるのみ。そこで、この勢いのある相島へ行き、島唯一の老舗宿に泊まってみることにしました!

いざ、船で相島へ!

14時3分、福岡県の福工大前駅からコミュニティバス“マリンクス”に乗って約10分、新宮港へ到着。すぐに新宮渡船待合所で片道460円のチケットを買い、乗船しました。

生憎の雨で、空はどんより暗く、これでは猫たちもどこかに隠れていないかも? と、少し気持ちが下がりますが、晴天日和では観光客で溢れかえり、船に乗れなかったかもしれないので、のんびりと雨の猫島を楽しむことにしました。

やがて、船は14時40分に出航。

約20分ほどの船旅で相島に着きました。雨はほぼ止んでくれましたが、猫はお迎えに来てくれません。猫島では、たいてい船が着岸すると、猫たちがとことこと出迎えにきてくれるところが多いのですが、やはり雨だからでしょう。

ひとまず、島唯一の宿“丸巳屋旅館”へと向かうことにしました。

すると、雨の中をトトトトトと、やってきてくれた黒猫ちゃんが。荷物にまとわりついて、「いらっしゃ~い」と上出来のご挨拶。一気に心がほわっと満たされました! 島の第一猫さんを写真にパチリ。

船着き場から海を背にして右手のほうへと歩き、宿に向かいます。

その間、目を凝らして見れば、あちこちに猫たちが雨宿りしています。みんなで身を寄せ合っていたり、段ボールの中におさまっていたり、特等席の椅子に座っていたり。

それぞれの方法で、雨の時間を過ごしていたようです。その模様を写真に収めながらなので、なかなか宿にも着きません。

仲良くごはん

ようやく、レトロな雰囲気の二階建て宿“丸巳屋旅館”を発見(港から直行すれば5分もかかりません)。

そこでも、宿主よりも先に出迎えてくれたのは、宿の守衛さんたち。猫隊です。

「キミは怪しいものではないかね?」

「まあスーツケース持ってるし、お客さんでしょ?」

「でも、この客はいい(食べ物の)ニオイしないにゃあ」

そんな台詞が彼らの鋭い眼差しを通して聞こえてきます。

その時、ガラガラっと扉が空き、中から宿主のおじさんが現れました。

「いらっしゃい。ここの猫がね、また最近増えたの。まあ、おあがりなさいよ」

「はい! お邪魔します!」

猫の間をすり抜けて、二階の部屋へ荷物を置いていると……下から猫の「ニャーニャー」大コールが聞こえてきました。部屋の窓から外を見下ろすと、猫たちのご飯時間だったようです。

宿のおじさんがご飯を等間隔で塀の上に並べています。

なんて、幸せな猫ちゃんたち! ひと猫にひとご飯をしっかりともらって、ご飯を奪い合う必要がないのです。そのせいか、とってもおっとりとして、ご飯をぜんぶ食べ切らずに「ごちそうさまでしたにゃん」と塀を飛び降りていく猫も。

ニャーンとおねだりすれば、ご飯をくれるお父さんがいると、猫たちはわかっているようです。

後でおじさんに、「猫が好きなんですねえ」と伺うと、

「こないだ3日用事があって島を出てたら、帰ってきて猫たちがギャーギャーないて、すっごく怒られたの」と笑いながらお話してくれました。

NHKで紹介されたコムギくんが!

この宿にはもう何十年も前から猫が住みつき、一緒に過ごしてきたそうです。

それからすっかり雨が止んだので、少しだけお散歩にでかけました。

船着き場のすぐ近くの「島の駅 あいのしま」へふらっと入ってみると……。

NHK「ダーウィンが来た!」で紹介された巨体の茶トラ猫コムギくんがいました!

道の駅は、お土産や食堂があって、島の小さな観光スポットです。コムギくんはここに常駐しているわけではないので、出会えてラッキー。

常駐していないのは、コムギくんが立派な島のオス猫であり、日中はいそいそと島の中をパトロールをしているからなのです。(それか、どこかでお昼寝?)

お店の方に、「抱っこした写真撮りましょうか?」と声をかけていただき、すかさずカメラを渡して、ツーショットを撮ってもらいました。改めて写真をみると、コムギくんの巨体っぷりにびっくり! でした(笑)。

猫と過ごす静かな時間

それからまた、ふらっと薄暮の時間、島の中で猫たちと出会いながら、写真を撮りながら散策。お願いせずして、フォトジェニックな構図やポージングの猫の写真が撮れて、うれし、たのし。

さて、丸巳屋旅館へと戻ることにしました。ちょうど、最終の船が新宮町へ向かったところでした。

しーんと静まり返る港。私はこの島の夜の静かな時間が好きです。

宿で、ふたたびおじさんにお話を伺うと、

「実はね、もうねえ、体を壊してしまって。宿をたたもうか迷ったの。でも島ではここしか泊まるところなくなっちゃったからね。うちがやめたら、猫好きで遠くから来る人も、釣りが好きで泊まりたい人も、困るから。もうちょっと、がんばることにしたよ」

そんな彼の気持ちを後押しするかのように、外から、波の音に重ねて「ニャーン、ニャーン」と猫たちの声援が聞こえてきました。

後編はこちら

小林希

旅作家。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後、『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家に転身。著書に『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』や『美しい柄ネコ図鑑』など多数。現在55カ国をめぐる。『Oggi』や『デジタルカメラマガジン』で連載中。