カメラ旅女の全国ネコ島めぐり

オープンハートな猫の島”で、オープンしたての「ネコノシマホステル」へ向かう(佐栁島・後半)

瀬戸内海にある島々のいくつかは、猫が多く暮らす島として有名ですが、それぞれに島の雰囲気や猫の暮らし方、猫好き観光客の島での滞在の仕方などは異なります。

【これまでのねこ島めぐり】

とくに、最近猫の数が急増している香川県の佐栁島は、昔から猫の多い島として名を馳せていますが、訪れる観光客は多すぎるわけでもなく、島はのほほんと平常の有様をみせてくれます。

かといって、猫好き観光客に対して、島民が無関心というわけではなくて、「どこから来たんや?」とか「猫かわいいけんのう」とか、オープンハートで接してくれます。

仔猫が生まれ、猫が急増した賑やかな佐栁島の真ん中に、宿兼カフェ「ネコノシマホステル」が今年8月にオープンしました。いったい、どんなところなのでしょうか。

猫にまみれながら、行ってみました!

黒猫隊出動!

佐栁島には、集落が「本浦」と「長崎」と2つあり、その間は2kmほど離れ、海沿いの一本道を30分程歩きます。

宿兼カフェの「ネコノシマホステル」は、その道沿いにあり、本浦と長崎のちょうど間です。どちらから歩いても、だいたい15分くらいでしょうか。

15分も? いえいえ、たったの15分。いえいえ、気付けば30分かかります。

その道には、猫たちがいるからです。

とくに、八幡神社の前の道では、猫隊がわわーっと押し寄せ、「にゃーん」「にゃーん」とご飯をもらいにやってくるのです。

このエリアは、黒猫隊が多い! 島の中ではエリアによって、キジトラ柄の猫が多かったり、シロ色の部分が多い柄の猫が多かったり、わりとハッキリと分かれているなあと思っていました。

カメラを向けると「この黒いのは仲間かにゃ? それともご飯?」と興味がある様子。

黒猫集団にまみれながらも、前に進まなきゃ!と、長崎集落のほうへ向かって、とことこと歩き出すと……。

あれれ?

振り返ると、黒猫集団が「おやぶーん!」という勢いで、タタタタッとついてくるではないですか。

島の可愛らしい佐栁簡易郵便局の前を通り、そこにいる猫まで後をついてくるので、私(おやぶん)につづく猫行列は増すばかり。(もちろん、しあわせ!)

とはいっても、さすがに何分も歩くと追従をやめて、海沿いでの〜んびり毛繕いを始めたりする猫も。さすが自由人(猫)!
そういう猫たちを撮影して歩いていくものだから、「ネコノシマホステル」までなかなか辿りつきません!

オープンハートな島のカフェ兼ホステル

やがて、海が目の前の道沿いに、石垣の上に立つ木造の古い建物が見えました。かつて小学校だったところです。

入口には、「ネコノシマホステル+喫茶ネコノシマ」という黒板のような看板がぽつりと立っていました。数台自転車も置かれ、レンタサイクルができるようです。

入口の石段を7、8段あがり、木造の引き戸をガラガラと開けました。中には天井の高い、開放的な空間があり、さまざまな椅子やテーブルが綺麗に置かれてレトロ感が漂っています。

「こんにちは!」と奥の厨房から声をかけてくれたのは、ここのオーナー村上淳一さんです。想像よりもずっと若くて、雑貨屋さんやお花屋さんが似合いそうな好青年でいらっしゃいます。

「日替わりカレーをお願いします」とオーダーして、立派な革張りのソファに腰掛けました。あ〜休憩できる場所があるって、さいこう〜!

島のカレーというと、島野菜がごろんごろん入った家庭風なのかと思ったら、ルーが優しい感じの上品なカレーで、美味しい。フォトジェニックなカレーとも言えます。笑

食後、オーナーの村上さんにお話を聞くと、もともと彼のお父様が佐栁島出身で、その御縁で宿とカフェを始めたそうです。

「宿も食事するところも佐栁島にはなくて、それでこの小学校の廃校を使えないかなと動き出したら、するすると話がまとまって」

それまで大阪で古本屋さんをご夫婦で経営していたけれど、店じまいをして佐栁島へ移住したのだそう。佐栁島で床屋さんを経営されていた村上さんのおじいさんは、島民から「マンガ」という愛称で親しまれていたそうです。

「なんで“マンガ”っていうあだ名なんです?」

「床屋に、たくさんマンガが置いてあったみたいで(笑)」

こんな些細な会話のなかに、何十年も前の島の人たちの和気あいあいとした日常の風景が1枚の写真のように見えてきます。

建物は、小学校の教室などをそのまま利用して、カフェスペースは元教員室、全室オーシャンビューの客室は元図書室(この部屋だけドミトリー)、元理科室、元資料室など。各部屋にはビーカ−や標本や黒板などがそのまま残っています。

カフェに利用している家具は、元校長室や図工室にあったもの。共同トイレ、シャワーの中は新しく、トイレはウォシュレットタイプです。

奥の大きな音楽室をのぞくと、宿で面倒をみているキジトラの猫たちがいました。ここはイベントスペースにしているそうです。

愛らしい瞳でみつめてきます。普段は外に出しているんだとか。

「島の暮らしに不便はないですか?」と聞くと、

「不便はあっても、みんな助けてくれますよ。佐栁島は、猫もほどほどに多くて、どこを歩いても猫がいてくれるし、島民はオープンハートな人が多くて、ボクらには『とっても暮らしやすい猫の島』なんですよ」

実際に、村上さんが佐栁島に移住すると決めたとき、反対したのは佐栁島出身のお父様だけだったとか。それも、島の不便を知っているからこそ。

「大阪にいたほうがいい、と言われました。でも、結局ボクらが移住を決めたので、父も数十年ぶりに佐栁島に戻ってきて、一緒にここのDIYを手伝ってくれて。張り切ってましたよ。そのうち、島で同窓会なんかやりだして」

島にカフェができて、島の方が自然と集まるような場所になったようです。「マンガの孫がきた」と、島民にとってさぞかし嬉しいことなのでしょう。

15時25分発の船の時間がせまってきたので、本浦港に戻ることにしました。帰り際、ネコノシマホステルを見上げると、キジトラ猫たちが見送ってくれるように、こちらをのぞいてくれました。

港まで、またたくさんの猫に囲まれました。村上さんが、「どこを歩いても猫がいるのが嬉しい」というように、ここは見紛うことなく猫島なのです。

人慣れした猫、多過ぎない観光客、オープンハートな島民。これぞ、猫好き、写真好きの人たちには、「訪れやすい、やさしい猫島」といえます。

本浦と長崎をつなぐ海沿いの道の真ん中にできた新しい島のハート、ネコノシマホステル・喫茶ネコノシマ。今度は、また猫にまみれながら、長崎から行ってみよう。そして、オーシャンビューと波の音を堪能しながら1泊してみよう。

本浦港にでると、「にゃーん(またね)」と帰路に旅立つ者たちを見送りに来てくれる猫たちの姿がありました。ちょうど西に傾いた太陽が、猫たちを優しく朱色に染め始めていました。

撮影協力:ネコノシマホステル・喫茶ネコノシマ

小林希

旅作家。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後、『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家に転身。著書に『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』や『美しい柄ネコ図鑑』など多数。現在55カ国をめぐる。『Oggi』や『デジタルカメラマガジン』で連載中。