カメラ旅女の全国ネコ島めぐり

なかなか行けない猫の楽園で、猫と人の愛おしい関係に出会う(青島・後半)

なかなか行けない猫の楽園で、猫と人の愛おしい関係に出会う(青島・後半)

猫が多く暮らす瀬戸内海の青島。愛媛県の瀬戸内海(伊予灘)に浮かぶ孤島です。周囲4kmほどの小さな島に対して、猫の数は多く、猫密度なるものは日本で1、2を争うのではと思います。人間に対する警戒心のなさ、人懐こさでいえば、日本一と言っていいかもしれません。

これまでのネコ島めぐり

なかなか行けない猫の楽園で、猫と人の愛おしい関係に出会う(青島・後半)

この猫の楽園に行きたいのは、日本人の猫好き観光客ばかりではなく、外国人も同じ。海外からも来ます。ただ、前回書きましたが、青島周辺の海は海底が深く、白波が立つとすぐに船が欠航するため、高確率で船に乗れないことが多いのです。

それも、当日乗船場に行ってみないとわからない。海外から来た観光客にも、容赦ない審判“本日欠航”がくだされ、泣く泣く諦める場合もたくさん。

私は、1年半前に幸運にも来島できて、今回2度目の来島にトライしようと港まで来たのですが、船のトラブルにより、ギリギリまで行けるか、行けないかが解らない状態。前回島で出会った猫好きおばちゃん(通称猫おば)と再会し、港にある喫茶店マリーナで待機。果たして、行けるのでしょうか。

◇ ◇ ◇

猫の検問所が出現!

青島へ行く船“あおしま"が出航する港にある喫茶店マリーナで、アイドル猫ミャアちゃんと触れ合いながら、前回青島で出会った猫おばと島の話で盛り上がりました。

ちょうど1年半前に、初めて行ったときは、猫にまみれる観光客の姿をパシャパシャ写真に撮りながら、自分自身も猫にまみれました。

猫島は日本にいくつかありますが、これほどの数の猫たちが、のほほんと、しあわせそうに寛ぐ姿は、まさに楽園と呼ばれる理由でしょう。猫にとって、ライバルは同じ猫しかいない世界。猫ワールドに人間が訪れてしまうような感覚といえます。

青島は人口15人で、ほとんどが空家ですが、猫がいるだけで集落は活気づいているように見えます。それに、朽ちて行く古民家と猫の光景は、情緒的で、ちょっぴり芸術的かも。いかにも、絵になる、という感じです。

なかなか行けない猫の楽園で、猫と人の愛おしい関係に出会う(青島・後半)
なかなか行けない猫の楽園で、猫と人の愛おしい関係に出会う(青島・後半)
なかなか行けない猫の楽園で、猫と人の愛おしい関係に出会う(青島・後半)
なかなか行けない猫の楽園で、猫と人の愛おしい関係に出会う(青島・後半)

青島には、恵比須神社や青島神社がひっそりと存在していますが、観光名所というようなものはなく、船がつく港から左右に広がる集落があるだけ。

てくてく、同じところをぐるぐる歩き、どこかで猫たちにまみれ、またぐるぐる歩き、という散策になります。

どこにでも猫はいますが、歩けば突如として猫検問に出くわします。

「キミ、ここを通りたいならば、ご飯があるのか調べさせてもらうにゃ」

と、あれよあれよと猫調査隊は増えていきます。

なかなか行けない猫の楽園で、猫と人の愛おしい関係に出会う(青島・後半)
なかなか行けない猫の楽園で、猫と人の愛おしい関係に出会う(青島・後半)

猫おばとの出会い

ある民家のところで、猫をおんぶしているおばあちゃんがいました。

「この子ねえ、背中に飛び乗ってきて、おんぶされるのが好きなんよ~」

そういって、おんぶされたキジトラ猫は、「ぜったい降りにゃいもん!」としがみついています。

「もう、重いけん、降りてな」といって、降ろされると、今度は別の猫を抱っこ。

抱っこされた猫は、「やっとアタシの番だにゃん」と嬉しそう。

このおばあちゃんは、青島の方。猫が大好きで、猫の管理もだいたい彼女がしているそうです。

猫たちが子供のようにおねだりする姿、たっぷり写真を撮らせてもらいました。

なかなか行けない猫の楽園で、猫と人の愛おしい関係に出会う(青島・後半)
なかなか行けない猫の楽園で、猫と人の愛おしい関係に出会う(青島・後半)

「島の人たちは、猫が好きなんですか?」と伺うと、

「だいたい好きよねえ。でもあんまりという人もおるよ。けど、これだけ人が来てくれるからねえ。猫のおかげで賑やかなのはいいことよ」

おばあちゃんの話を伺っていると、ある女性がやってきました。

「今日も来たよ~! ご飯いっぱい持ってきたから! あードキンちゃん。元気~?」

そういって、足元にいるドキンちゃんと名付けられた猫をなではじめました。

「あら、あなた、東京からきたん? 猫かわいいよねえ。この猫の柄、ドキンちゃんみたいやろう?」

なかなか行けない猫の楽園で、猫と人の愛おしい関係に出会う(青島・後半)

彼女こそ、大の猫好きおばさん、猫おばとの出会いでした。週に2、3回は青島に通うという愛媛の方です。

なかなか行けない猫の楽園で、猫と人の愛おしい関係に出会う(青島・後半)

島のおばあちゃんや島外から通う猫好きおばさんと出会い、可愛らしい猫たちにまみれながら、「最近あの猫は元気がないんよ」「あの猫、子供うみよった」なんて会話を聞いて、ご近所さんの話をするように、あるいは子供のいない島で、子供代わりのように猫の話をする時間に、猫と人の愛おしい関係が見えたような気がします。

島を出る時間、猫おばと一緒に船にのり、海風にあたりながら約束しました。

「次回は一緒に船に乗って、またこようね」と。

この約束があるだけで、私とあの日の青島の時間はずっとつながっているような気がするのです。

なかなか行けない猫の楽園で、猫と人の愛おしい関係に出会う(青島・後半)

簡単には行けないからこそ

「あれから1年半かあ。時間が経つの早いなあ」

喫茶店マリーナで、ママに抱っこされたミャアちゃんを撮りながら、船が出るのを待つこと、2時過ぎ。

「もう、ダメだねえ。船がこない。今回は諦めよう」

なんと。ギリギリまで粘りましたが、船が来ないのならば仕方がありません。

でも、2回目もすんなり来島できていたとしたら、「また一緒にいこうね」という約束はなかったかもしれない。

「のんちゃん、次はリベンジだね。一緒にいこうね」

猫おばにそう言ってもらい、また約束ができたことが嬉しくもありました。

「うん! 次は必ず!」

ミャアちゃんとママに挨拶をしてマリーナをでて、猫おばと一緒にJR予讃線に乗りました。途中、海がもっとも近い駅と知られる下灘で降りて記念撮影。これもいい想い出です。

簡単に行けない島だからこそ、行けたときの喜びはひとしおでしょう。同時に、厳しい環境で暮らす島民と、猫たちの姿を思い浮かべました。

その想像の中に浮かぶ島民と猫の顔は、しあわせそうに寄り添っていました。

なかなか行けない猫の楽園で、猫と人の愛おしい関係に出会う(青島・後半)

小林希

旅作家。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後、『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家に転身。著書に『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』や『美しい柄ネコ図鑑』など多数。現在55カ国をめぐる。『Oggi』や『デジタルカメラマガジン』で連載中。