Photographer's File

 #6:田中博

取材・撮影・文  HARUKI



田中博(たなかひろし)
1963年 兵庫県神戸市生まれ。1986年 関西学院大学法学部卒業後、ミノルタカメラ株式会社へ就職。2004年転職し、現在オリンパスイメージング株式会社に勤務。写真展、1997年「トンボたちの夏」(フォトアート銀座ギャラリーアートグラフ)、2009年「尾園暁×田中博 トンボの世界」(オリンパスギャラリー東京、大阪)。そして、2011年7月〜8月柏崎市立博物館にて「トンボ日記「水辺の詩」〜田中博の世界〜」を開催中。著書に「花撮影のレンズワーク」、「デジタル一眼レフ ネイチャーフォト撮影入門 花撮影編」、「あなたも撮れるきれいな花写真」など、すべて学習研究社より発刊。光学メーカーに勤務しつつ、ネイチャー写真家としても精力的に活動。




 田中博さんはまわりの人たちから「トンボさん」と呼ばれ親しまれている人気者だ。

 トンボさんの呼び名は、ご自身のホームページ、通称「トンボ日記」からきているのだけど、このホームページがスゴいのだ。2002年からスタートしたトンボ日記には、その日あった出来事や田中さんの交友録などが、いつでも持ち歩いているデジカメによる写真と文章で克明かつユーモラスな、まさに“日記”として毎日更新されており、現在では総アクセス数100万をとっくに超えてる人気日記だ。

 写真と文章を使って毎日アップするっていうのは、ボクもかつて短期間だがやっていた経験があるのでわかるけど、以外と時間もかかるし大変な作業だ。昼間の稼業である勤務仕事を終えて、帰宅後の寝る前の僅かな時間や、早朝の出勤前に日記更新の作業を行なっているトンボさん。そんなトンボさんの昼間の顔は、オリンパスのブランドで有名な光学機器メーカーのプロサポート部門という、我々ユーザーであるプロのカメラマンとカメラメーカーとのパイプ役であるコミュニケーターとして重要な役割を担った仕事である。

 プロサポートでの田中さんは、ひとりあたり30分から1時間、毎日5〜10人の接客にあたっているという。

 変人が多いカメラマンという超厄介な職業の人間ばかりを毎日相手にしてるなんて、本当に大変だと思う。もしかしたら、ボクもその一員なのかも? ですが……(笑)

ベッコウトンボ♀&♂(c)Hiroshi Tanakaノシメトンボ♂(c)Hiroshi Tanaka
リュウキュウハグロトンボ♂(c)Hiroshi Tanakaオオハラビロトンボ♂(c)Hiroshi Tanaka
ルリボシヤンマ♂(c)Hiroshi Tanakaアオモン&アジアイトトンボ♀(c)Hiroshi Tanaka
コナカハグロトンボ♂(c)Hiroshi Tanakaオキナワチョウトンボ♂(c)Hiroshi Tanaka

 「平日は会社員」であり「休日は写真家」でもあるトンボ田中さん。

 いったいどんなタイムテーブルで生活しているのか気になったので、トンボ田中のスケジュールと生態観測をしてみた(笑)


【田中さんの平日】(展覧会パーティーがある1日)

6:00起床、朝食(ロールパン2個と野菜ジュース)、トンボ日記更新、8:00入浴、8:30出勤。9:15会社近くでコーヒーを買ってオフィス到着、午前中は主にメールチェックや連絡作業など。12:00〜12:45昼食(健康のため大抵は魚ランチ)。18:15終業。19:00〜オリンパスギャラリーでのオープニングパーティー。21:00二次会へ出席。23:00帰宅、シャワーを浴びて。24:00就寝zzz。

 自社ギャラリーでのパーティーがない日でも、他所のギャラリーへ顔を出しているので、他の日でも月〜金はほぼ同じスケジュールみたいだ。うーん、まさにハンコをついたようにキッチリしていて会社員のお手本みたい。


【トンボさんの休日】(トンボなど日帰り撮影の1日)

6:00起床、朝食(同じく、ロールパン2個と野菜ジュース)、トンボ日記更新、入浴。7:00出発〜撮影。19:00帰宅、画像処理やデータ整理、トンボ日記更新、シャワー。24:00就寝zzz。


 コレもまた撮影場所の行き先によって多少の時間のズレはあるものの、たとえ雨の休日だからといっても家でゴロゴロなんて皆無で、必ず何処かへ出掛けるというアウトドアな動きであった。

 生態観測結果:田中さんとトンボさんでは、曜日によって行き先と行き先でのカメラ機材などの扱い方や目的は若干違うものの、また見た目もスーツから脱皮してジーンズへと変態したりカモフラージュするのだが、ほぼ同じような時間配分で行動しており、学術的、行動学的には同一種類の生き物である可能性が高いとみられるが証明された。


 内科の勤務医として働く父、専業主婦の母の元に神戸で生まれた田中博さん。幼い頃から父親の仕事の関係で転勤が続いた。そして幼稚園の頃に移り住み、高校を卒業するまでの少年期を過ごしたのが和歌山県の新宮市。太平洋に面したこの町は、美しい海と山に挟まれ川もあり、台風も多く、歴史的な神社や、それらに纏わる神話も多く残っている。自然と人間が創り出した日本の昔からのあるべき要素をギュッと凝縮したような場所である。

 自然が多く残るこの土地で、子ども時代は、山や川へ行き昆虫採集をしていた、ちょっと内気な昆虫少年だった。中学生の頃に地元にジャイアント馬場率いる全日本プロレスが巡業にやってきた。大好きなミル・マスカラスがいたので、家にあった110カメラ(「ポケットフィルム」とも呼ばれるカートリッジ式の小さな企画のフィルムおよび、それを使うタイプの小型カメラの呼び名)で撮影したけど、暗いし遠いしで全然ダメだった。

 近所のカメラ屋さんに相談したら一眼レフじゃなきゃ無理ってことで、親に買ってもらったのが、今では残念ながらカメラの生産を終了してしまった光学メーカー、トプコンのIC-1というカメラ。レンズは標準の50mmとプロレス撮影に欠かせない200mm望遠。デジタル時代の今では300mmや400mmなんて当たり前だが、20世紀には一般的な望遠レンズと云えばせいぜい200mmまでで、300mmなどは超望遠と呼ばれていた時代。その一眼レフを持って、中学高校の時は神戸や大阪のプロレス公演に出掛けて行き撮影していた。撮影を重ねるうちに2階席から望遠で狙う方が有利だと気がつき、大学生になってキヤノンAL-1というカメラに100-300mmのズーム付きを買い、当時出始めたばかりの、ISO1600のネガカラーフィルムを詰めて撮影していた。この機材によって遠くからでもアップ気味の写真が撮れるようになったので、プロレス研究会の会報誌を作っていた学生時代はプロレスの写真を撮ってレポートしていた。

 その頃、親戚に皇室アルバムという写真集を作るための撮影を請け負っているカメラマンの人が居ることを知り、写真やカメラの話しを聞きに通っているうちに、その会社でアルバイトをすることになった。そして天皇陛下の行幸に同行取材させていただくという大変な任務の撮影を任されることになり、それがきっかけで技術的なことを真剣に学び、当時の一眼レフ最高機種だったニコンF3に露出のラチチュードが狭いリバーサルフィルムを使っての撮影練習。しかも失敗の許されない被写体。テスト撮影ではなかなか的確な露出が得られずに失敗の繰り返し。逆光時の撮影方法やマニュアル露出での測光の仕方など、本格的な実践写真修行のスタート、その時が大学3年だった。

 同じ時期、少年時代に興味を持っていたトンボとの再開もあった。撮影済みフィルムなどを現像に出しに持って行った写真屋の店頭にあったプリント見本が、偶然にもトンボの写真だった。それを見て幼い日の想い出が甦り、自身でトンボ写真を撮るきっかけになったという。少年期には網を抱えていたが、今はそれをカメラに持ち代えているのだが、そのスタートも同時期だったわけだ。


マルタンヤンマ♂(c)Hiroshi Tanakaマダラナニワトンボ連結産卵(c)Hiroshi Tanaka
ホソミイトトンボ♂&♀(c)Hiroshi Tanakaオオアオイトトンボ♂&♀(c)Hiroshi Tanaka
オニヤンマ♀(c)Hiroshi Tanakaクロイトトンボ♂(c)Hiroshi Tanaka
コシブトトンボ♂(c)Hiroshi Tanakaチョウトンボ♂(c)Hiroshi Tanaka
カトリヤンマ群飛(c)Hiroshi Tanakaムスジイトトンボ♂(c)Hiroshi Tanaka

 大学も4年になり、その会社にそのまま就職するのも悪くはないなと考えたが、社会人のスタートから親戚の会社というのも甘い環境だと思い直し、写真関係の就職先を探していたらカメラ関係の会社に決まった。最初に就職したのがミノルタカメラだった。ミノルタでは国内営業の販売促進、商品企画などさまざまな職場を経て、ショールームを担当する部署へ。その後転職して入ったのが今の職場であるオリンパス。現在の仕事内容はミノルタ時代の最後の部署と似ている部分もあるが、大きな違いは前述のようにプロサポートという部門なので一般のユーザーではなく、プロの客(カメラマン)相手であることだろう。


勤務先へは地下鉄で通勤。月曜〜金曜が一般的だが田中さんの部署は行事などによって土日に仕事の場合も少なくない。いつでもバッグには分厚い手帳やパソコンなどがギッシリと詰め込まれていてパンパンに膨らんでいる。そして会社のロゴが入った丈夫な紙袋も資料でいっぱい、肩からはカメラも

 社内で田中さんへのコメントをいただいた。

「彼はウチの部署にはかかせない存在です。就業後の時間や休みを利用して自分の写真も撮りトンボ日記の更新もやっているので大変だと思いますが、会社本来の職務に影響しないようにちゃんとこなし、公私をキチンと分けて仕事していますので彼に任せておけば安心です。そういった日頃の活動があってこそプロの写真家の皆さんたちとの強いパイプ役としても活躍してくれる、得難い人材ですね」(上司のOさん)



 この日は写真家の大山謙一郎さんの個展パーティー。オリンパスギャラリーでのパーティーの時のアテンドも重要な役目だ。そしてこの時の様子もトンボ日記に紹介される。

「田中さんは写真家としても活動してらっしゃって社内の他部署でも人気者ですし、同じ職場でも技術的なことを含めて全面的に尊敬できる頼れる存在です! 時にはトンボ講座で教わる時間なども作って頂けたら嬉しいです」(同僚女性Iさん)


 プロサポートの窓口には、毎日たくさんのカメラマンが機材の点検や清掃、部品交換などに訪れる。田中さんは、毎日5〜10人ほどの対応を担当。取材中もカメラマンの方が訪ねていた。ボクもこの日の取材用に買ったばかりのカメラE-P3を使用したのだが、わからない部分を田中さんに教えてもらった(笑)。

「田中さんとは同い年なんですが職種的には真逆で、私はカメラの機械的なことや修理などの技術畑のいわばハード面の専門なので、写真の撮り方や見方などは正直あまり知らないんです。田中さんはご自分で写真を撮られていてその辺が詳しい方なので、ソフト面の話しをきいたり相談してお互いに補い合っているよい関係ですね」(同僚男性Kさん)



 プロサポートの窓口業務の他に、ショールームやギャラリーをまわって確認や意見交換したりするのも仕事だ。

「入社して間もないので、田中さんの呼び名に最初は“なんでトンボさん?”って思ってました(笑)。第一印象はソフトな方だけど、お仕事が本当に忙しそうでメールのタイピングなども速くて驚いています!」(後輩女性Tさん)

「ホームページを拝見していても毎日ちゃんと更新されていて、GIFとかも駆使されてすごいな、と思っています。客観的にですか? うーん、話しやすい人です(笑)」(ショールーム女性Tさん)



 プロサポートに来客予定が入っていない場合には、他所のギャラリーへまわったりもするのも仕事。取材の移動中にも、ひっきりなしに問い合わせの電話がかかってくる、忙しい仕事だ。ランチはやはり焼き魚定食だった(笑)。


 そんなトンボさんのトンボ撮影に2回にわたって同行させていただき、個人的には「トンボ写真教室・特別実習・初級編」を体験させてもらった(笑)。

 トンボ写真教室、第1回目は6月中旬に神奈川県の山あいにある隠れた小川が流れる場所へ連れて行ってもらった。最寄り駅でレンタカーを借りて走ること○○時間で到着、早速水辺に入れるようにウェーダーという長靴に防水ズボンがついたモノに着替えて、機材も臨戦態勢に準備を整える。

 新潟県にある柏崎市立博物館で7月から8月まで開催される「トンボ日記『水辺の詩』〜田中博の世界〜」という、博物館の開館25周年事業で開催される大きな展覧会を直前に控えている。トンボがメインだが、花など他の題材も含めてネイチャーフォトを撮影してきたトンボさん。しかし今回の展覧会のためには、この2年間は被写体をトンボだけに絞って集中して撮影をしてきたらしい。当たり前だが、それだけ真剣に取り組んできているわけだ。どうしても追加で入れたい写真があり、そのギリギリの期限がこの休日だった。その写真とはカワトンボと呼ばれる一種のアサヒナカワトンボの半水中産卵という難しい条件のシーン。ボク自身は普段の仕事は主にネーチャンを撮ったりしていてネイチャーはまったくのド素人なので、半分遠足気分でウキウキドキドキなのだが、トンボさんとしては大きな展覧会のための大事なカットが撮れるかどうかという、〆切り直前の大切な緊張撮影の日なのだ。そんな中でも快く写真教室をやっていただき恐縮なのだが、取材は楽しくスタートした。


駐車場へクルマを停めて、すぐに準備開始トンボさんはウェーダーに着替えて、ボクは長靴を貸していただいた。機材もチェックして準備完了!駐車場から離れてどんどんと水辺の方へ向かっていく
秘密地帯の入口へ到着地面が濡れているので、ビニールシートでカメラバックなどの機材置き場を作るトンボさん、E-5に50-200mmレンズとストロボを装着してスタート
ボクが小川の流れと戦いながら歩いてるうちにも、どんどん奥へと進んだトンボさんは「ここにトンボいますよー!」って、早速撮影開始していた(驚!)
水の中でも常に正しい構え方の教本のように安定したカメラの持ち方で撮影を進めていくストロボに付けたデュフューザーに留まったままのトンボ。トンボさんのことを仲間だと安心しているのかまったく逃げる気配もない(笑)
自然がある場所へ行くのが珍しいボクの脳裏には「分け入っても 分け入っても 青い山」という種田山頭火の俳句が浮かんできたカメラを構えるトンボさんは動きに無駄が無く、望遠ズームを扱っても自然に溶け込んで見えるから不思議だ
昼食はコンビニで買っておいたパンとおにぎりで簡単に済ませるが、自然の中で食べると味が倍くらい美味しく感じられた。食事中もいつ現れるかわからないトンボを探していた美味しいなーってゆっくりと食べようと思ってたら、おにぎりを頬張ったままカメラを持ちいきなり駆け出してしまったトンボさん!素早い!! ボクは食べかけのパンを川に落としそうになってしまった(汗)
必至になってトンボさんを追うが……やっと追いついた時、水中産卵をしそうなトンボが水面を飛翔していてトンボさんは実行するのを観察中えー? どこどこ? ボクには彼ら(彼女かな?)の姿がどこだかさっぱりわかりません(涙)
水中ハウジングを手にして、いつでも撮影できるようシャッターチャンスをうかがう腰を屈めてそろーっとじわーっと獲物に近づいていく半分水中に沈めたE-5に装着したズームレンズのワイド側(24㎜相当)で淡々とシャッターを切っていき、撮影完了
この至近距離でもトンボさんの前ではトンボが逃げない。やはり一体化しているんだろうなあ撮影は無事終了でよい笑顔だ本日の獲物。半分水中での撮影のベストショットを拡大して見せてもらった。ブラボー!!

 初体験のトンボさんのトンボ撮影の現場取材。今日はミヤマカワトンボの水中産卵を狙っているらしい。種類にもよるが多くのトンボは、天気が良くて気温も高い時のほうがたくさん見られるらしい。この日は朝からあまりよい天気とはいえず、昼くらいからは雲が多くなってきて気温も下がってきた。少し心配していたが、時間帯もあり午後になるとあんまり姿を見せないとの事で、ずっとねばっていてもダメなので条件から外れたらすぐに撤退するというのも重要な判断基準らしい。初めてなので多い場合がどの程度かわからないが、今日はまあまあの出現だったのではないだろうか。ボク自身はピンボケ、ブレブレ、構図も決まらない情けないくらいの駄作のオンパレードだったが、トンボ撮影は難しいけどとても楽しかった。

 そして肝心のトンボさんにとっては、残念ながらミヤマカワトンボの水中産卵シーンには出会えなかったけど、アサヒナカワトンボが尻尾の先を水中の植物につけて産卵するシーンを半水中撮影でとらえた素晴らしい1ショットが撮れたようだ。

 下の上列横位置写真右側がその時の完成作品だ。


ハグロトンボ♂(c)Hiroshi Tanakaアサヒナカワトンボ♀(c)Hiroshi Tanaka
コノシメトンボ♀(c)Hiroshi Tanakaアキアカネ&ノシメトンボ(c)Hiroshi Tanaka
ハッチョウトンボ♂(c)Hiroshi Tanakaコシアキトンボ(c)Hiroshi Tanaka
アサヒナカワトンボ♂(c)Hiroshi Tanakaマユタテアカネ♂(c)Hiroshi Tanaka

この日のトンボ機材。オリンパスE-5とZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8-3.5 SWDをメインに、ZUIKO DIGITAL ED 12-60mm F2.8-4 SWD、ZUIKO DIGITAL ED 50mm F2 Macroなどの交換レンズ。カメラバッグの上はF1.8の明るいレンズを搭載しているコンパクト機のXZ-1。水中撮影用のハウジングもこの日の撮影機材の主役のひとつ
コンパクトストロボとSDHCメモリーカードなどカメラによって違うタイプのメモリカード類がごっそりと。光を拡散して柔らかい発光をさせる、取り外しが容易なデュフューザーを付けたクリップオンストロボ。真っ直ぐな体勢が難しい場合などに有利な、角度を変えて覗けるアングルファインダー。ちょっとした貼り付けなど、何かと便利なパーマセルテープ。2種類の小型デュフューズレフ板など
蚊が多い場所や蜂などの虫から顔を守るモスキートヘッドネットと呼ばれるグッズや手袋。虫除けスプレーや痒み止めの薬。炎天下の撮影も多いので水分は必ず携帯しておくなど、ココには写っていないが自然相手の撮影現場では自分の身を守るために携帯していくものは多い

 トンボ写真教室、第2回目〜。今回は撮影目的のトンボの種類も違うので、ガラッと場所を変えて埼玉県の湿地帯での撮影。

現地へ着いたら早速準備開始。荷物置き場兼、着替えのためにビニールシートを広げるのはどうやら儀式みたいだ(笑)そうこうしてると代休の日だというのに、機材の相談電話が数本かかってくる。あらためて、頼りにされてるんだなーって思った
場所は違うが、初夏の自然を満喫しながら歩いていると前回同様に「青い山」を思い出したなんてノンビリしてたら、立て看板に、「危険!! マムシ(毒蛇)がいます。注意してください。」ブルブルっ
早速、シオヤトンボを発見して撮影開始しているトンボさんだが、ボクは逃げない獲物のオタマジャクシを撮影していた(笑)湿地帯なので地面が濡れていて座る場所がない。トンボさんは木の杭に腰掛けての食事中もカメラは臨戦態勢。流石だ
逆光時や薄暗い場所ではトンボの色を出すために、クリップオンストロボの日中シンクロが威力を発揮するハイカーの人たちとすれ違う時、あいさつするのは常識なのだ白い蝶が数匹、何かに集っていた。ちなみに虫業界ではトンボやチョウは「匹」じゃなく「頭」と数えるらしい
田中さんも、いやトンボさんもチョウさんを撮影(笑)。 こんな時はアングルファインダーやバリアングル液晶モニターが便利だと思った炎天下で暑い中、本日の撮影、終了〜!戦いの後、汗でグッショリの衣類を脱いで日光で乾かしてから着替えたら帰路へ。オツカレサマでした♪
この日の撮影機材。ミラーレス機もやコンパクト機も使い分けるが、現在のメインカメラは一眼レフのE-5前回のと同じ機材セットに加えて、E-PL1に8mmのフィッシュアイレンズ。そして両サイドに装着したツインストロボシステム。見てるとボクもなんだか欲しくなってきた(笑)実際に撮影する時にはこのようにカメラ本体の内蔵ストロボも発光させて使用する

 2回に渡ってのトンボ撮影の現場取材&トンボ写真教室での、ボクの初トンボ写真の結果を恥ずかしながらこの場を借り、トンボ田中先生のお言葉と共に発表させていただく(小さな声で)。


「作品拝見しました。HARUKIさんは非凡な才能で『普通の人びと』を撮られてきましたが、トンボ撮影においては『普通の人』でした(笑)。はっきり言って選ぶのに苦労しました。どれも甲乙……いや、乙丙つけがたい作品でした(失礼!)。以下、ベスト3です。

「ミヤマカワトンボを正面からアップで狙っていますが、 目にしっかりピントが合っています。 背景のグリーンが美しく、トンボを引き立てています。 よくここまで寄ることができたなぁ…と思っていたら、 この日は天気が悪く、トンボの動きが緩慢でした。 ラッキーでしたね!」「ハラビロトンボの背景に太陽の反射を取り込んでいます。昆虫写真を撮っている人は撮らないアングル(ハラビロトンボの特徴がわからない)なので新鮮です。マクロレンズでもっと近寄ることができればもっと印象的な写真になったと思います」「アオハダトンボが羽根を開いた瞬間をとらえています。一瞬のことなので、なかなか撮れないのですが、羽根の脈が綺麗に描写されていて美しい作品です。でも、なんとなく躍動感に欠けるので3位にしました」


 これからも童心に帰りたいときは、是非、ご一緒しましょう!

 足手まといでしょうが、また連れて行ってくださいね♪ 力及ばずでしたが、次回はもっとガンバリます。トンボ先生、ありがとうございました〜!!



 そして、トンボ田中さんには意外な(失礼!)側面もあった。もうひとつの趣味というか、学生時代からかなり真剣に打ち込んでいたのがバンド活動でのギタープレイだった。ギタリストになるというまででは無いものの、人前でのライブ演奏なども行なってきた腕の持ち主だ。写真を真剣にやるまではどちらかというと音楽の方の比重が大きく、楽器メーカーやレコード会社など音楽関係の会社への就職も秘かに考えていたらしい。今でも写真以外で、趣味と云えるのはギターという田中さん。今回のスタジオポートレート撮影の時にも、たまたま流していたエアロスミスのCDを聴いた田中さん、初めての知らない曲だったらしいが即座に合わせてギターソロを弾いていたのをファインダーから見ていて、お主ヤルなっ! て思った(笑)。


「中学2年で井上陽水の『夢の中へ』を聞いてフォークギターを始めました。中学3年でディープ・パープルの『ハイウェイスター』を聞いてエレキギターを購入。その後、ギターが上達するにつれ、ロック→フュージョン→ブルース→ベンチャーズ(ジャンルとしはてGS?)と、どんどん時代を遡り、最近では、再びロックを聞いています。でも、いま一番演奏したいのはブルースですね。曲を覚えて練習する時間がないので、パッと集まって、フリーセッションみたいな……。最近、よく聴くのはクイーンのベスト盤。学生時代はクイーンの良さがわからなかったのですが、今になってなぜか興味を持っています」


 柏崎市立博物館でのパーティー&トンボツアーの様子。メーカーや出版社、そしてトンボ田中さんを応援している人がたくさん集まった素晴らしい展覧会、講演会、そして楽しいパーティーの旅となった。



 最後に、田中さんと交流のある写真家仲間からのコメントをいただいたので、紹介したいと思う。

海野和男さん
「昔から田中さんとは妙に縁があり、ボクの展覧会の担当者だったんだけど、実はファンだってきいてて(笑)。嬉しいのはドンドンのめり込んでいく姿です。ちょっと危険なのはオタクっぽくもなっていることかな?(笑)。今回の写真、どれもすごくよいんだけど、特に5点くらいはずば抜けてる写真があったね!この間、田中さんに言ったんだけど、一日没頭して撮影に打ち込める時間が作れるなんてうらやましいと。今の体制、サラリーマンカメラマンでよいんだと思うよ。彼の持ってる美しい芸術性を磨いて、トンボマニアを唸らせていって欲しいですね」

赤城耕一さん
「田中さんには旧ミノルタ時代からお世話になっています。白状しますと、ボクは本当は虫とか、昆虫が苦手です。でも、田中さんのトンボの写真には艶と造形美、光の美学があるので惹かれます。それほどトンボを愛しているんでしょう。私が安心してみることができる唯一の昆虫写真ではないかと(笑)」

斉藤巧一郎さん
「田中さんがプロサポートに来られてからのお付き合いなのですが、新製品の発表イベントやズイコーアカデミーの展示会などに使う写真についてのやりとりなどももの凄く丁寧に気を使っていただいています。写真家の著作権利や作品に対するデリケートな部分も、田中さん自身が写真家でもあるので痛みを解ってくれて細やかな配慮をしてもらってます。今回の柏崎での展示作品はトンボに対する愛情が感じられる、よい意味で心躍る図鑑みたいな写真ですね。写真を見立ててくれる貴重な存在ですので、今後もサポートをお願いしたいです」

鶴巻育子さん
「オリンパスのアートフィルターを使うという頃からのお付き合いですが、田中さんはとにかく真面目。その真面目さが心地よいのかなあ(笑)。そしてなんといっても「トンボ日記」を完成度高く維持しているところ。あっそれも真面目さなのか。根本的にわたしは虫ダメだから、今回の展示は遠くから眺めていたけど、それでも楽しめたので行って良かったです(笑)」

川北茂貴さん
「私と田中さんとの最初の出会いは、田中さんが日々ご自身のサイトで綴られている「トンボ日記」の、私が一読者だった数年前に遡ります。そしてJPSの先輩会員でありトンボ写真家の田中博さんとして尊敬しております。今回の柏崎市立博物館での講演会では、長年のトンボ撮影の様子などを丁寧に解説されて、そのトンボに対する知識と愛情を間近で知る機会にも恵まれました。今後ともトンボ写真家として益々のご活躍と、トンボ日記の更なる発展を楽しみにしております」



 会社員としての田中さん。そして写真作家としてのトンボをはじめとするネイチャー写真はもちろんだが、趣味のギターもトンボ田中さんを形成している大事な要素で、彼自身のいろんなバランスをとっているんだと思った。

 一見すると優しくてマジメなだけにも見えるが、実は彼の中に潜んでいるエネルギーの勢いやカッコ良さを今回の取材を通して見させてもらった。

 今度バンドやる時はボーカルで呼んで欲しいなー。あ、要らない? やっぱり……失礼しました(笑)




(はるき)写真家、ビジュアルディレクター。1959年広島市生まれ。九州産業大学芸術学部写 真学科卒業。広告、雑誌、音楽などの媒体でポートレートを中心に活動。1987年朝日広告賞グループ 入選、写真表現技術賞(個人)受賞。1991年PARCO期待される若手写真家展選出。2005年個展「Tokyo Girls♀彼女たちの居場所。」、個展「普通の人びと」キヤノンギャラリー他、個展グループ展多数。プリント作品はニューヨーク近代美術館、神戸ファッ ション美術館に永久収蔵。
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2011/8/12 00:00