山岸伸の「写真のキモチ」
第83回: 第10回ドールアート展2024 in うつくしま
福島から発信する創作人形の豊かな芸術性
2024年11月30日 12:00
2024年11月16日(土)~11月21日(木)、福島市にあるMAXふくしま4階「A・O・Z(アオウゼ)」にて「第10回ドールアート展2024 in うつくしま」「第9回全国創作人形コンクール」が7年ぶりに開催されました。2010年よりコンクールの審査員を務める山岸さん。展示と審査の模様をお届けします。(聞き手・文:近井沙妃)
大竹京先生との出会いとこれまで
私の写真人生が一変した出来事は2008年に慢性骨髄性白血病と診断されたこと。入院中に京都の出版社が送ってくれた雑誌・書籍の中で人形の本が目に留まり、球体関節人形と出会った。退院したらどんな写真を撮ろうか、どんな生き方をしようか、恐らく今までのようにあちこち飛び回ってグラビアやハードな撮影は出来ないなと思いながら病室のベッドでその本を何度も見返していた。
退院してから人形を撮影したいとお願いし、球体関節人形作家の大竹京先生を紹介いただいた。自分の思いをお話しすると「いいわよ、つくってあげるわよ」と言ってくれて、それから今日まで写真分野のブレーンとして関わらせていただいている。
ここ数年はコロナ禍の影響もあり、先生も東京や地方で個展などをされているが今までのような撮影依頼は減っていた。私が人形を人間として、グラビアのように撮ることも理由の1つだと思う。人形作家の方からすれば合点がいかない部分があるかもしれない。大竹先生は私の写真を気に入ってくれているが、若い方たちは自分で作った人形をスマホやカメラで自分の思うように撮れる時代になってきて先生の生徒さんの半数以上はそうしているんじゃないかな。5年前には依頼を受けて皆さんにライティングや基礎的な撮影講座をしたことも。
今後も先生が球体関節人形の魅力を世界に発信するにあたって私のような撮影手法がウケるかウケないかは分からないが、きっと役に立てると信じている。
今まで撮影した中で特に気に入っているのは私のスタジオでの1枚。
1冊目の写真集で使用されているこちらもお気に入り。先生も年齢を重ねられると共に趣向などが変わり、今はこのような顔の人形はあまりお作りになっていないように感じる。
2枚とも同じ人形で名前はB子。きっと全ての人形に名前があるのだと思うが、送られてくるときに記載が無かったので順にアルファベットの名をつけていた。今回のコンクールで文部科学大臣賞が授与されることになり、記念といったらおかしいがきちんと名前をつけようと思い「珠」と名付けた。
この夏には先生に「温泉にいらしてはどうですか」とお声がけいただいて山岸事務所一同で福島へお邪魔した。福島稲荷神社に飾られている先生の人形を撮影させていただき、そのまま小倉邸をお借りして別作品と生徒さんの作品1点を撮影。
私たち婦人を撮るカメラマンは被写体が仰向けになって寝ている写真を撮ることも多々ある。その時の寝顔の美しさ、私はこれが1番好き。寝顔は誰でも見れるものじゃない分、カメラマンとして必要不可欠な撮影方法。本当に女性の寝顔は美しいと思う、そして先生の人形の寝顔も負けずに美しい。
大竹先生の生徒であるあおばさんは私に湿布をくれたりと本当に優しい方。彼女に限らず大竹京教室の方は皆さん優しい。その優しさで十数年もの間、先生と人形と写真を通してお付き合いさせていただいている。
搬入と審査
今回7年ぶりに開催された「ドールアート展2024 in うつくしま」そして「第9回全国創作人形コンクール」では初めて文部科学大臣賞が授与される。以前から審査員を務めていたが、久々の開催と大きな賞に感慨深い気持ちになった。
搬入日、皆さんが準備している姿を撮らせていただいた。大竹京教室や創作人形作家の粧順(しょうじゅん)先生の教室の生徒さん、招待作家の方々の人形が国内外から約500作品集まり会場は溢れていた。皆さんのエネルギーと人形に対する想いがひしひしと伝わってくる。
撮影した展示作品の一部。
コンクールでは100点近い作品の出展があり、作家名を伏せた状態で審査される。審査員10名それぞれの持ち点を割り振っていく形だ。
何を基準で見ているか、そこは皆さん違うと思う。何がこうでなければいけないなど私は球体関節人形について詳しくない。第一印象で「あ、この人形が欲しい」「この人形を撮ってみたい」と思う作品を選ばせていただいている。どこか大竹先生の作る人形に顔が似ているものを選んでしまうのは仕方ないよね。えこひいきなどではなく、それだけ長く先生の作品を見続けてきた。
オープニングと表彰式
審査を終えた翌朝、私は次の日に撮影があったのでアシスタントの佐藤君と2人で先に東京へ。マネージャーとアシスタントの近井は表彰式・祝賀式まで残ってもらい、その様子と受賞者上位3名の写真を撮って帰ってきてもらった。
コンクールの結果
第9回全国創作人形コンクールにて、受賞された上位3名にお話しを伺った。
【特別大賞 及び 文部科学大臣賞「麝香宮」あを】
(あをさんコメント)
2001年から大竹京創作人形教室に入り23年。先生の言うことを聞いてまっすぐ行けば近道なのに「私はこうしたい」みたいな、ちょっと寄り道をする部分も多かったように思います。今回の作品はカーネーションのようなイメージで作品名は「麝香宮(ジャコウキュウ)」。カーネーションという音の響きがしっくりこなかったので和名の「麝香撫子」からとった「麝香」に西洋占星術や星座占いの用語で用いられる「宮」を合わせました。関節全てが動く人形なので可動域を強調する飾り方に。身体も同様にせっかく作りこんでいる分、ある程度見せたい気持ちで衣装を縫いました。浮いているような演出をしたく透明な球体の上に置くことも考えていた中で偶然ぴったりの木をいただき、目線がどこにいくか考えながら高さを調節して落ちないようリボンで結んでいます。
記念すべき初の文部科学大臣賞、この賞を作るために大竹先生が奔走されているのを見ていて「絶対1番を獲ってやる」と思っていたので念願が叶いとても嬉しいです。先生にも「やっと、やっとだよ」と言えるというか。
常に「可愛くなれ」と思いながら人形を作っています。これからも自分が1番美しいと思うものを作りたいです。
【大賞 及び 福島県知事賞「虫」花森あん】
(花森あんさんコメント)
10年前に三重でドールアート展が開催されたときに皆さんの作品を見て「こんな世界があるんだ、自分もやりたい」と思い教室に入りました。作品名を「虫」にしていますがこの子は本の虫です。私自身が人形制作を始めて何かに熱中する楽しさを知ったので何かに熱中している子を作りたい、何かの虫になっている子を作ることで表現できたらと思い制作しました。今まで20体ほど制作しましたが、表現するにあたって好きを押し付けるのではなく作っている過程でこの子はロングヘアじゃなくてショートヘアかな、服はレースじゃなくて制服っぽい方がいいかな、と生まれていく要素を見つけ削り出していくスタイルです。
今後はもっと作りたいものを明確に表せる想像力と技術を高め、自分の中の物語を表現していきたいです。
【準大賞 及び 福島市長賞「プラハの少女」加藤文目】
(加藤文目さんコメント)
教室に入って13年になります。それ以前は布人形作家である与勇輝先生の技法を元とした人形づくりを2~3年やっていました。
この子は大竹先生と昨年プラハのドールアート展に行った時に会場に現れた女の子という実際のモデルがいるんです。シルエットが綺麗な子で是非人形で作りたいと思い衣装もこだわりました。ブーツから作り、アンダースカートは家にあった古い着物の生地、ブラウスは義母が残した着物用の下着です。ストライプの生地は探して探してやっとたどり着いて、この生地があったからこの人形が出来上がったと思います。人形作りにおいて、こだわりはシンプルイズベスト。色数も3色までと決めています。
今回初めて立つ人形を作ってみたのですが、もっとシルエットを重視していきたいと思います。