山岸伸の「写真のキモチ」
第84回:スナップとポートレートの掛け算
スナップ撮影会in大須商店街
2024年12月15日 12:00
山岸さんが株式会社コメ兵と企画した「山岸伸氏と楽しむスナップ撮影会in大須商店街」が11月26日に開催された。参加者15名とモデル1名で大須商店街を撮り歩き、どのような撮影会になったのか。お話を伺いました。(聞き手・文:近井沙妃)
人生初、スナップ撮影会
今年の3月頃、株式会社コメ兵(以下 KOMEHYO)の石原社長と「本社のある名古屋市 大須商店街で撮影会などができたらいいですね」と話したことが現実になった。何度かzoomなどで打ち合わせをし、本番近くにフライヤーが出来てきたが、なんとタイトルには「スナップ撮影会」の文字。私は生まれて初めてスナップ撮影会というものを経験することになった。
カメラは車かバッグに常時携帯しているが自分を写したり食事や花を撮るぐらい。若い頃から銀座の歩行者天国やいろんな場所に出向いていてもなかなか街のスナップ撮りはしてこなかった。
今も1つのテーマにぶつかっているのだが、それが夕景。10年分のデータを掘り起こしたが夕景もほとんど撮影していない。人物撮影のロケではモデルやスタッフと行動を共にしていて夕方は帰りのロケバスの中で寝ていたり食事をすることが多かったり、私は早寝早起きが得意で仕事も早めに始まり早く終えるスタイルだからだと思う。50年も写真を撮っていてスナップや夕景を全く撮っていなかった、変わったカメラマンだよね。
撮影会スタート
大須商店街を訪れるのは2度目。1度目は10年前にKOMEHYO本社前で石原社長の「瞬間の顔」を撮影したときで商店街を見て歩くことはほとんどしなかった。
午前中に到着し、まずは商店街をロケハン。ロケハンも言われなければほとんどせずに行き当たりばったりで撮ることが私の真髄だが、今回は撮影会ということでスタッフの方たちに案内していただき歩いてみた。
参加者は定員の15名、名古屋ということで参加者の中には写真家 HASEOさんの口添えで参加してくれた方も。最初にKOMEHYOのカメラコーナーで私が思うスナップの説明を軽くしていざ商店街へ。フライヤーには記載されていないが被写体として女性モデルも1名参加いただいている。加藤凪海ちゃんは初対面なのに人懐っこく親しみのある子だったので、一緒に歩きながらの撮影にマッチしそうな予感がした。
撮影時の配慮
撮り始めて気づいたが最近のカメラマンの方は高確率でリュックを背負っている。後ろに目がついていないので自分と同じ幅の荷物が後ろにあることを忘れて写真を撮ることも多いと思う。私は今まで写真展を開催した際にリュックを背負ったお客様が混雑している状況や人を避けるとき、作品にリュックがぶつかるのを何度も見ている。ときには傷が付くこともあった。
街で撮影するときもリュックは両手が空いて便利だが周りにもっともっと気を遣わなければいけないと思う。今回でいうと15名の方がリュックや大きめの荷物を持てば30名分くらいのスペースを使ってしまう。なるべく荷物は安全なところに預け、身軽に写真を撮りたいなと感じた。
大須商店街は撮るところが多過ぎていい意味で大変。KOMEHYOを中心に1周するのが私の1つのテーマだった。スタッフさんが各お店に挨拶へ行き場所を借りての撮影。やはりこの地域の方々とコミュニケーションがうまくいっている。カメラマンと被写体のコミュニケーションも大切だがお店、通行人、見物者含めてみんなに気を遣いながら撮影することが重要だ。そこまで気を遣って写真なんて撮りたくないよという人もいるかもしれないが、これはそういう機会。もし自分が指導者になったり撮影することになればやはり気を付けなければいけないことだと思う。
KOMEHYOがウィークデーを選び午前中に撮影時間を設定したことも考えられたスケジューリングだと思う。土日は人が多く難しいだろうし、平日でもお店がオープンする前や観光客などで賑わう前に撮影した方がいいよね。少し広がって撮るときはKOMEHYOの壁や迷惑のかからない場所で撮影ができた。
スナップとポートレート
撮影会は自然に「商店街でスナップ&ポートレート撮影」という感じになり、如何に彼女がモデル業を忘れてひとりの可愛い女の子になってくれるかというのもポイントの1つだった。長くモデルをしているとモデルらしいポーズや表情、決まったパターンなどが出てくるが、今回の場合はそうすると少し浮いてしまうかもしれない。それを見せずに本人が商店街で楽しんでいる雰囲気が撮れたんじゃないかな。
他の撮影会ではほとんどシャッターを押すことはないが、皆さんがどんな風に撮っているか、どんな風に写るかを確認しながら私も一緒に撮ってみた。
スナップとポートレート(モデル)をどのように掛け合わせるか、その場所で撮っている意味を考えて要素や雰囲気をどう落とし込むか。ふとした時にモデルさんを入れずに商店街の気になった部分を撮るのもバリエーションが増えるし、選択肢の多さが楽しい撮影会だよね。
撮影している皆さんも一生懸命で笑顔で、このようなスナップを撮ろうという会があるなら私も参加したいぐらい。最後まで見守ってくれた石原社長も非常に喜んでくれていた。
顔を出してくれた知人の土屋敏朗カメラマン。新春ヨドバシ記念撮影会では名古屋松坂屋店を担当するが、少し体調が悪く明日から入院だと明るく話していた。こうして記念写真を撮るだけで気持ちが伝わってくる。彼を思う私、初対面の石原社長が彼の人柄を見ての笑顔、彼が入院する前に私の元気を貰いにきたと言ってくれている顔がしっかりと残っている。
撮影後に昼食をはさんで講評会。各々ベストショットを提出しモニターで見ながら講評する。自分も一緒に撮影をしたので皆さんの写真を同じ目線で見れる。今回それがもの凄く大切だと感じた。
ジャンルを超えて
スナップというと人の顔を多少ぼかしたり真正面から写さないようにしたり人を入れないようにとか気を遣いながら撮るものだと思うかもしれないが、昔は堂々と見知らぬ人も撮っていた。今は意識が変わりそういうことが出来る時代ではなくなったよね。海外へ行き人物を入れながら撮ることはまだ多いような気がするけど。
私は昔海外でお巡りさんが駐車違反を取り締まっているところを撮影して本人にすごく怒られたことがある。当然だがカメラがあるから何を撮ってもいいというわけではない。今一度その意識を皆さんもちゃんと持ってスナップを撮って欲しい。
何がスナップで何がポートレートなのか、私には私にはまだ明確な違いがわからないが初心にかえりジャンルを超えてたくさんのテーマを撮ってみようと思わされた意義のあるスナップ撮影会だった。またいつか2度目のスナップ撮影会を開催したい。