山岸伸の「写真のキモチ」

第82回:茨城県行方市と写真を通じて

第1弾 写真講座と行方湖上花火大会

(右)OM SYSTEM OM-1 Mark II/OLYMPUS M.8-25mm F4.0/ライブコンポジット(F8、1/2秒、ISO 200)、NDフィルター使用 撮影:近井

あるフォトコンテストで審査員を務めた際に存在を知った茨城県霞ヶ浦の帆引き船。その後縁あって行方市と写真を通してできることを企画していくことに。第1弾として10月26日に写真講座と行方湖上花火大会の撮影会が行われた。どのようなイベントになったのか、そして今後の展開をお聞きしました。(聞き手・文:近井沙妃)

行方市との縁

2023年 富士フイルムフォトコンテストの審査員を務め、約1万枚を超える写真を見た中に3枚ほど変わった帆を立て湖に浮かぶ船が写っていた。ひょっとして地中海で撮ったものかなと一瞬勘違いして写真に添えられたデータを見ると茨城県霞ヶ浦の帆引き船だということがわかった。それからこの船を撮ってみたいとずっと思っている。

今年7月に開催した写真展「KAO」に縁あって行方市長が訪ねて来てくれた。お話を聞くと霞ヶ浦観光帆引き船は土浦市・かすみがうら市・行方市の3市がそれぞれ操業しているとのこと。帆引き船の撮影にご協力いただけることになったが潮の関係やいろいろな問題で1年中出ているわけではなく夏から秋にかけて霞ヶ浦に出るという。30分くらい写真や農業の話をし、行方でも写真講座や写真を通して何かイベントをしてみたいですねと盛り上がった。

後日、市の観光課の方から座学の写真講座と同日に行われる「行方湖上花火大会」(サンセットフェスタIN天王2024)で花火の撮り方を教えて欲しいと依頼を受け、ええ~~っ!?という感じ(笑)。プロのカメラマンとして、花火は撮れません、これはできません、というわけにはいかないよね。

とにかく何でもやってみようと勇気をもってお受けしたが、いざ20名の方に正しく花火の撮り方を教えるとなると私の未経験の知識ではなかなか難しい。花火写真家で有名な金武武さんに声をかけ協力してくれるということだったが、如何せん市の予算が無く彼にまでギャラをお支払い出来ないとうことで申し訳なく断念。2~3日考え、OM SYSTEMのカメラを使えば意外と花火は撮りやすいことからプロサポートの香嶋さんに相談すると協力を得ることができた。

参加者は各自カメラ持参で参加するが、OM SYSTEMからも何台かレンタル機材の用意と香嶋さんから花火撮影の基礎と機材について説明いただけることに。

市や観光協会のHP、カメラ誌やwebで参加者を募集し、定員は先着20名程度を予定していたところ30名を超える参加人数となった。

市や観光協会のHP、カメラ誌やwebで参加者を募集

行方市へ

当日、車で行方市へ。行方がこんなに遠いとは思わなかった。参加者の中には電車とバスを乗り継ぎ来てくれた方もいて、直線距離としてはそこまで遠くないがそこがちょっと不便さを感じるかな。

行方市情報交流センターにて
行方市情報交流センターにて写真講座をした後、花火大会会場である天王崎公園へ移動する

写真についての講演はそんなに苦手ではない。過去に撮影した写真をお見せし、どのような方をどのように撮ったか、どんな感じだったか、モラルの話も含め皆さんの前で1枚1枚時間がある限り話しお伝えする。

(上)私の写真講座の様子(左下)香嶋さんによる花火撮影講座(右下)OM SYSTEMの機材レンタル

講座は無事に終了し暗くなる前に市が私たちの為に用意してくれた場所へ移動、花火が上がるのを待った。始めは正面位置というお約束だったがVIPや関係者の方でいっぱいになり難しく、花火に向かって左端の方に。納得のいく広い場所をご用意いただいたが正面でなかったことがこの後ハンデになると判明した。

写真の中央からやや左に写る湖内の場所から花火が打ち上がる。コーンで囲われたところが私たちに用意された場所

打ち上げ開始

花火は約5,000発、45分から1時間はたっぷり撮れるだろう。近井はOM SYSTEM OM-1 Mark II、佐藤はソニー α1、私はスマートフォンのXperia 1 VIで挑んだ。私がスマホにした理由はいくつかある。三脚が足りない、私の周りには常に人が来る、市の方と話をしたり参加者の皆さんが撮れているか確認する必要があったので花火の撮影はアシスタントに託して私は後ろからスマホで花火を狙うことに。

参加者の皆さんも各々三脚を立てスタンバイ

意外とスマホでも綺麗に写真が撮れるとうことが分かった。ISO 40にしてシャッターを切っただけ、バルブがないのでスマホの持っている性能に任せた。あとはタイミングかな。デジタル故に楽しい写真も撮れるが狙ったようにはなかなか撮れなかった。

湖を入れながら撮れたこの1枚は気に入っている。

Xperia 1 VI(SO-51E)/F2.3、1/8秒、−1.0EV、ISO 40
共にXperia 1 VI(SO-51E)ISO 40(左)F1.9、1/4秒(右)F2.3、1/8秒、−1.0EV
Xperia 1 VI(SO-51E)/F1.9、1/30秒、−1.0EV、ISO 40

花火は横から見ると多少曲がる。やはり正面から撮らないと丸く見えない。これはびっくり。360°どこから見ても丸く見えると思っていたが大間違い。これがちょっと今回1番残念なこと。

5年ぶりの開催で途中花火がなかなか上がらず待ち時間もあったがあっという間に終わってしまった。ということは相当充実している証拠。妙に時間が長く感じるときと妙に早く感じるとき、後者は夢中になっているときだ。

アシスタント2名が撮影した写真。これにもう少し場所選びや部分的に色が飛ばないように撮る工夫などをプラスしていくといい写真が撮れると思う。花火が横に広がるか縦に広がるか読み切れない場合もあるので空間に余裕を持って撮影したり。見切れててもかっこいいときと全体が写ってないと勿体なく感じる花火もある。

ともに OM SYSTEM OM-1 Mark II/OLYMPUS M.8-25mm F4.0/ライブコンポジット(F8、1/2秒、ISO 200)NDフィルター使用 撮影:近井
OM SYSTEM OM-1 Mark II/OLYMPUS M.8-25mm F4.0/ライブコンポジット(F8、1/2秒、ISO 200)NDフィルター使用 撮影:近井
共にソニー α1/FE 24-70mm F2.8 GM II/BULB撮影(F8、ISO 100) (左上・下)3秒(右)7秒 撮影:佐藤
ソニー α1/FE 24-70mm F2.8 GM II/BULB撮影(F8、6秒、ISO 100) 撮影:佐藤

行方市のお話しでは参加者の皆さんが撮影した写真がまとまったら見せていただける、そして公民館に飾るとのこと。まだ写真は届いていないが恐らく近いうちに見れるのを楽しみにしている。

参考書通りに花火を撮ればある程度花火が写るぞ、というのが今回の撮影で私も感じたこと。あとは何でもそうだが経験を重ねる、何発か何回か、雰囲気や場所が違うところで撮ってみる、距離感を掴むことが大切だと思う。

自分は今まで花火といえば隅田川の花火を背景にビルの屋上からモデルさんを撮影したことが2度ほどあるが、それ以外の撮影はしていない。また来年行けたら私もカメラで撮影したいと思う。

隅田川花火大会にて (左)ソニーα7R III / FE 70-200mm F2.8 GM OSS / 絞り優先AE(F2.8・1/100秒)/ ISO 400 モデル:竹内茉音 (右)OLYMPUS OM-D E-M1X / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PRO / 絞り優先AE(F2.8・1/60秒・-0.3EV)/ ISO 800 モデル:アリシア

また、行方市へ

残念ながら1番被写体として惹かれている帆引き船はこのとき姿を見ることが出来なかったが、11月下旬に撮影に行くことが決まっている。それも非常に大変で帆引き船に乗るわけではなく帆引き船と一緒に私たちを乗せて並行に走る船を出してもらわなければ撮影出来ない。一般のお客様と同席になるかわからないが一発勝負。一発勝負のときは2人のアシスタントもカメラを持ち撮影する。カメラは個々に違い、近井はOM SYSTEM、佐藤はソニー、私はライカ。誰が1番良く撮れるのかはわからないが、たまに私を超えるときもあるし、それは楽しみ。またの機会にその写真をお見せしたいと思う。

そしてこの先、今回の撮影会が上手くいったので来年1月下旬には霞ヶ浦に沈む夕日を撮る講座をしたいと市から依頼があった。行方市からトライしてみたいという希望があればどんどん行方へ行き、一緒に写真を撮りながら出来る限りの知識を伝えていきたい。

(やまぎし しん) タレント、アイドル、俳優、女優などのポートレート撮影を中心に活躍。出版された写真集は400冊を超える。ここ10年ほどは、ばんえい競馬、賀茂別雷神社(上賀茂神社)、球体関節人形などにも撮影対象を広げる。企業人、政治家、スポーツ選手などを捉えた『瞬間の顔』シリーズでは、15年をかけて総撮影人数1,000人を達成。また、近年は台湾の龍山寺や台湾賓館などを継続的に撮影している。公益社団法人日本写真家協会会員、公益社団法人日本広告写真家協会会員。