山岸伸の「写真のキモチ」
第76回:昔があって今がある
25年振り、桜樹ルイちゃんと再び
2024年8月19日 12:10
約25年前に出会い、2冊の写真集を撮影した桜樹ルイさんと山岸さん。彼女のSNSへの投稿をきっかけに再会し撮影へと繋がった。その撮影の様子と継続された関係性についてお聞きしました。(聞き手・文:近井沙妃)
出発前のルーティン
撮影に行くときの心構えの1つ、どんな服を着てどんな靴を履くか、自分なりにその撮影に合う服装を前夜に決める。そして朝は顔を洗い歯を磨き髭を剃り、家を出る前に必ず植木に水を撒いていく。どうもこのルーティンを崩すと調子が悪くなる。
今夏は厳しい暑さが続いている印象だが、最近は汗をかくことが少なくなった。いつの間にか体温調整がうまく効かなくなったのか真夏でも長袖をいつも1枚着ているくらい。それでも一応汗をかいたときに困らないようTシャツ1枚はバッグの底に必ず入れてある。
昔があって今がある
今回、桜樹ルイちゃんのグラビアやデジタル写真集を撮らせてもらうことになったのは25年前に撮影させてもらった過去が現在に繋がったから。昔がなければあり得なかった。これはもう絶対的に大切なことで人間性も含めて“撮る、撮られるという関係”が成立しているということだ。周りの人たちもその部分を理解して撮影を段取ってくれた。
撮影場所は「どこでも先生が行きたいところで。」とお任せいただいた。フィルム時代に比べると撮影に要する時間はだいぶ減って泊まりでなくとも撮り切れる点やいろいろな負担を考慮し、日帰りで朝から夕方くらいに終われるよう都内のスタジオへ。
予約時間より少し早くスタジオに到着すると、なんとルイちゃんは更に早く到着して私たちを待ってくれていた。車の中から彼女を見たときはマスクをしていたこともあって一瞬誰だかわからなかったが、ドアを開けたらルイちゃんだった(笑)。
タレントや女優さんなどエンターテインメントの仕事をしている人ってこういうギャップがあればあるほどすごいって個人的に思う。オンとオフを上手く使って長生きしている人が多い気がするんだよね。スイッチが入りっぱなしだと疲れてどうにもならないだろうし、電車でスタジオに来るときに「私は女優よ」「私はタレントよ」って格好で来たらそれはそれで大変なんじゃないかな。
このスタジオはよく使っていたんだけど半年振りに来たら部分的にリニューアルされてカフェ風のイメージに変わっていた。1フロアは特別広くないが天井が高く圧迫感がないところ、どの時間でも3階建ての各フロアで違った光が安定して入ってくるところが気に入っている。天気が悪くても絶対に12ページ、30ページと組める自信がある。前々から言っているけどスタジオは光が読めて慣れているところがいい。どこからどれだけの光が入ってくるか分からないスタジオに行って戸惑うよりは知っている光の中を選ぶ。同じところでも少し頭を使えば新しい写真が撮れるし、被写体が違えばほとんど違う写真になるからね。
撮影前のスタンバイ。出版社の編集部はおにぎりなど軽食を用意してくれている。スタイリストは出版社ご指名の菅原恵さん。彼女と仕事をするのもまた何十年ぶりだ。ここ数年でアシスタントの近井が何度かお世話になり話も聞いているし、ずっと活躍し続けている恵ちゃんと仕事ができるということで楽しみにしていた。
ヘアメイクの梅ちゃんこと梅沢えりこさん、この1年グラビアの撮影はほとんど彼女にお願いしている。うちのアシスタントOBたちも結構お世話になっていて評判のいい彼女。柔らかくサラッとした雰囲気、タレントさんとの接し方、大人で多くを語らずいつもニコニコ仕事をしてくれる。私は元々メイクルームに入っていくのが嫌いでメイクが終わるまでは外で待っているタイプ。普段彼女がメイクをしている姿はあまり見たことがなかったが、今回は道具を準備しているときにサっとスマホでスナップしてみた。人の道具を撮ることはあまりよくないのかなとも思いながら、人がどんな道具をどのように扱っているかというのを見ると深く反省するところがあった。
最近カメラのパッキングや用意はアシスタントの2人に任せているが、私はどういう風に仕舞っているかを見たことがない。昔はきちんとパーテーションで仕切られたジュラルミンケースを使っていたので開ければボディーがありレンズがあり何がありっていうのが綺麗に見れるようになっていた。今はちょっとなかなか見づらく、道具の扱い方が悪いのかバッグが悪いのかなど深く反省しなければならないところがある。梅ちゃんの仕事道具を見て感じたのはそういうこと。
Xperiaに搭載されている本格カメラ並みのマニュアル撮影ができるPhotography Proを使ってスナップを撮ってみた。毎度設定を変えるのが少々面倒だけどそれなりに綺麗に写ることは伝わると思う。最新のXperiaはもっといいと聞くが、携帯も1年に1度変えなければいけない時代になってきたのかなと思ったりもする。
あの時代が蘇る
メイクと着替えが完了し、1発目の撮影が始まった。最近買ったサングラスは度が入っていなく、外から見ると暗く見えるかもしれないが私にはほとんど色がついたように見えないので苦にならない。白内障とヘルニアの手術をしてからどうしても朝は目が少し腫れるので不細工な顔をモデルさんに見せないようにちょっと眼鏡で格好つけている。ある意味ひとつの小道具だ。
いきなり25年ぶりにシャッターを押させてもらったが、私の口から出た言葉は「相変わらずダイナミックだね!」。動きが大きく昔のままキレキレでシャープ、なんと言えばいいのか、自分が頭に描いていた「現在の桜樹ルイ」とはいい意味で少し違ったので衝撃を受けた。25年前と同じような動き、これは癖やグラビアの仕事をするときに本人が持っている姿。子どもの頃に乗れるようになった自転車を何十年ぶりに乗っても漕げる感覚に近いかもしれない。
彼女に変化があれば表現の仕方も変わったと思うけど、昔のままの動きをしてくれて時代があっという間に蘇った感覚。一気にテンションが上がり、撮って撮って撮りまくり。2時間程撮影をして昼食をとる。編集部が夏場だからと気を遣ってくれて生ものが入っていないすき焼き弁当、そして部長が差し入れに私が大好きな大福と千疋屋のフルーツゼリーを買ってきてくれた。午後からもバシバシ撮りまくって撮影は楽しく無事終了。
仕事として依頼されているので頼まれた撮影量と内容をこなさなくてはならない。今回は5,000枚ほど撮ったが、それだけシャッターを押せたのはソニーと併用して久々にキヤノンのEOS R5で撮影したから。ここ2~3年はソニーとライカでほとんどの仕事をしていた。アシスタントのマッハ君がスタジオでの肌色表現はキヤノンがいいと言うのでちょっと古くなったけどEOS R5を使ってみた。するとEOS R5は自分にとってストレスが溜まらないということがわかったんだ。シャッターがソフトで押したときに指の力がスコーンとカメラに抜けて伝わっていく。長く毎日のように写真を撮っている私でないとわからないニュアンスかもしれない。シャッター音と感覚が非常に良く、指を酷使しても疲れない。あくまでも個人的な意見なので皆さんは鵜呑みしないでほしい。もう一度キヤノンのカメラを買ってみようかなと思案中。
みんなで火鍋を囲む
今回は撮影後に食事会をすることになり、火鍋をリクエスト。火鍋は台湾に行けば食べるが日本ではなかなか機会がない。鰻も候補にあったが30分もあれば食べ終わってしまう、この季節に生ものはちょっと避けたい。そんな中で思いついたのが火鍋。私がチョイスした夕飯をみんな楽しそうに食べてくれて嬉しかった。
翌日セレクト用の写真を編集部へ納品した。この記事が公開された後にグラビアやデジタル写真集になって世に出ていく予定だ。
あの時だから撮れた写真
沖縄で撮影した当時の写真を振り返る。この年になると海の中に入って写真を撮ることは滅多にないが、この写真を見たら今月末に行く沖縄ロケでまたこうして海の中でも撮ってみようという気にさせられた。
このときの那覇の町は様変わりしてしまって同じようなシチュエーションではもう撮れない。これも歴史に残る1枚だと思う。
虫よけに蚊帳を使って撮影をしてみたが蚊帳に女性を入れて撮ったのはこれが生涯で初めてで最後。妙に気に入っているシーンだ。
いつも撮影に行けば目に留まったものを必ず撮る。偶然撮ったものは珍しく咲いたという「月下美人」。
関係性の継続
25年もの月日を経て再び撮影させてもらうという機会は滅多にない。グラビアなら尚更だ。再会のきっかけは約半年前にX(旧Twitter)でルイちゃんが「今手元にある写真集はこれしかない」と私が撮影した写真集を載せてポストしていたのをたまたま見つけたから。そこからやり取りを経て結果的に今回の撮影に繋がった。
当時に“撮る、撮られるの関係”が成立していたこと、今回きっかけをキャッチできた運、お互いにいい記録と記憶だったことで果たせた再会。関係性の継続を実感し、私のカメラマン人生でまた1つ大きな喜びが増えた。