山岸伸の「写真のキモチ」

第75回:「KAO ―日本の顔scene1072-1140―」

12日間の写真展、設営から撤収まで

昨年に続き、オカムラガーデンコートショールームにて開催された山岸伸写真展「KAO -日本の顔scene1072-1140―」では69名の錚々たる顔ぶれのポートレートが展示された。「靖國の櫻」「帝国ホテルの記憶」と共に発見や感謝に溢れた機会だったと振り返る山岸さん。今回は「KAO」にフォーカスを当てお話を聞きました。(聞き手・文:近井沙妃)

3つの写真展を終えて

今年前半は3つの写真展を開催した。まずは2月10日から約3カ月間、靖國神社内の遊就館で展示をした「靖國の櫻」。次にオカムラガーデンコートショールームにて会期を終えたばかりの「瞬間の顔」改め「KAO」の第2弾。そして帝国ホテルプラザ東京で階数や場所を変えながら1年間にわたり展示をした「帝国ホテルの記憶」が8月7日(水)で終了となった。

この3つの写真展は全て写真業界などのタイアップはなく、私にとって各企業や神社で新しい試みとして始めたことだ。今回は写真展「KAO -日本の顔scene1072-1140-」の設営から撤収までをご報告したいと思う。

会場づくりって、楽しい!

昨年と同様、額装と設営は株式会社フレームマンに依頼。ニューオータニガーデンコート3階にあるオカムラガーデンコートショールームは写真展会場ではなく、ホテルの一部なので壁に釘などで穴を開けたり床を傷つけてはならない。如何に69点の顔の写真を安全かつ均等に見やすく展示するか、何度も奈須田社長と相談しながら図面を引いていただき最終的に90度開きのパネルを組み合わせて十字やT字など数パターンの自立する壁を設置することに。

十字やT字など数パターンの壁を設置。壁は倒れないようにワイヤーで引っ張りライティングレールに取り付けて固定する
フレームマンの奈須田社長が陣頭指揮。私の満足したこの顔を見てもらえれば出来栄えがどうだったかがわかると思う

帝国ホテルプラザ東京での写真展もフレームマンさんと組んでいる。建物の建て替えが決定しているため設営方法の自由度は高いが、何よりもお客様の安全が第一だ。写真の大きさや重さも様々。長期間落下せずに耐えられるかどうかを考えながらの会場作りだった。2つの会場を作り来場者の反応を目の当たりにして、写真は会場によって見る人の心が違ってどのように見られるかを考えることが大切だと実感した。

「顔」の題字は以前「瞬間の顔」にご出演いただいた書家の石飛博光先生に書いていただいたもの。カッティングシートを用意してガラス面に貼り、会場の完成。素晴らしい空間に私の写真が映える。

題字のカッティングシートは白と黒を用意
昨年の展示後にショールームの改装もあり、入口付近に大きいデジタルサイネージ、そして会場奥に大きいモニターが設置された

写真展の幕開け

今回は久々にオープニングパーティーを催した。パーティーというよりも内覧という気持ちでご案内は出演者の皆さんを中心にごく内輪なもの。株式会社オカムラ 中村社長のご挨拶から始まり、アナウンサーの武田真一さんに乾杯の音頭をとっていただき、ファミリーソングシンガーの山野さと子さんは歌を、チェリストの新倉瞳さんにチェロの演奏をしていただいた。

株式会社オカムラ代表取締役 社長執行役員 中村雅行様のご挨拶
(左上)アナウンサー 武田真一様による乾杯の音頭(右上)ファミリーソングシンガー 山野さと子さんの歌とウクレレの演奏(左下)山野さんとチェリスト 新倉瞳さんのセッションも
今回ご出演いただいた皆さまと

イリュージョニストのプリンセス天功さんはわざわざマスクを作ってプレゼントしてくださって本当に嬉しかった。来場の様子が東スポさんの翌日の紙面とwebに掲載された。

イリュージョニストのプリンセス天功様と東スポの取材を受け、翌日掲載いただいた。株式会社東京スポーツ新聞社の平鍋社長も今回の出演者だ
夢グループの石田社長、歌手の保科有里様、カルーセル麻紀様、プリンセス天功様
以前「瞬間の顔」に出演いただいた方々や写真業界の皆さまと
写真業界の皆さまと。株式会社シグマの山木社長、元アサヒカメラ編集長の佐々木広人さん、水谷たかひとさんには以前「瞬間の顔」に出演いただいている
(上)尊敬する鉄道写真家 広田尚敬先生による締めの言葉(下)山岸伸写真事務所スタッフ、アシスタントOB・OGと

ここではご参加いただいた方全員のお名前を載せてご紹介することはできないが、想像以上に出演者や関係者の皆さんが来てくださって参加者は当初予定していた100名を超え150名ほどに。おかげさまでとても楽しいひと時となった。

皆さんの発信力とサポート

今回もいくつかのカメラ誌で多くのページを組んでいただいたり、Webや新聞などでも写真展の案内をしたが、今の時代は来てくださる皆さんの力が1番じゃないかと思う。SNSで「山岸伸の写真展に行ってきた」「展示はどうだった」と発信や拡散をしてくれた効果を感じるシーンが多かった。

(左)友人のSさんは動画を撮影してSNSで発信してくれた(右)映像作家の大野さんも細かく動画撮影をして写真展の案内をしてくれていた

俳優の飯島直子ちゃんは私との記念写真やオカムラのショールームを1周しながら撮った写真をインスタグラムに投稿してくれていて、後日「飯島さんのSNSで写真展を知って見に来ました。」という方もいた。

(上)飯島直子ちゃんと(下)彼女のインスタグラムへの投稿

ありがたいことに私の写真展は毎回多くのお花が入り、とても嬉しいと同時に手入れをする必要性が出てくる。正しい水やりや枯れていくものを間引いたりするのは大変な作業だが、今回は12日間ほぼ休むことなく知人の鈴木賀壽代さんが毎日会場に来てお花を綺麗に手入れしてくれた。大手会社の元OLさんで退職された今は恐らく悠々自適だと思うが、草月流の師範である彼女に毎日手入れをしてもらうというのはとても贅沢なこと。きっと贈ってくれた皆さんも喜んでくれていると思う。

12日間よく頑張ったが途中で枯れて撤収したお花は名札だけ会場に残させていただいた。胡蝶蘭も多くいただき、写真展終了後に自宅に持ち帰ってどうしたら少しでも長く持つのか研究中だ
道具を持参し花のお手入れをしてくれている鈴木賀壽代さん

新しい背景、新しい写真

多忙な合間をぬって会場で撮影した花。カメラと光があればどんなところでも写真は撮れる。綺麗に撮りたい、その花を残したいと思えば必ずお気に入りの写真が撮れるはず。多くは撮れなかったが我ながらいい写真が撮れたと思う。

ライカSL3で撮影した花

実は昨年の写真展開催後、オカムラのショールームは改装され少し様変わりしている。新しくこの背景とドリンクを提供するカウンターができたことによってここで撮影できる写真も増えた。花も頂き物も社員さんたちのポートレートもここで撮影した。何を撮るにしても背景は大切。特別変わったライティングはしていないがこの背景で実にいいボケ味が出て楽しい写真が撮れている。

新しく設置されたカウンターの上で花や頂き物を撮る。(下)新しくデザインされた背景

陶芸家の大塚茂吉先生はイタリアでの仕事を終え、写真展にお越しいただいただけでなく作品までプレゼントしてくださり感謝感激。早速作品を会場で写真を撮らせていただいた。

猫は大塚先生の代表的なモチーフ

カメラマンとして写真でできる恩返し

この写真展をサポートしてくれている企業の株式会社オカムラ様。私はカメラマンなので写真を撮ることでしか恩返しができない。今年も社内で私に撮られたいという方を募って70名ほど社員の方を撮影させていただいた。ケンコー・トキナーさんにお願いしてGODOXストロボ(QT400III-M)とランタンソフトボックス(CS-65D)を使用。こんなときに1番便利なのはこういうアクセサリーだよね、天板で光が回って被写体の位置が多少変わってもそんなに大きく露出を変えなくて済む。

GODOXのQT400III-Mとランタンソフトボックス(CS-65D)を天板で使用し光を回す。※この撮影風景はトークイベントにご参加いただいたお客様の中から希望者の方を撮影したときのもの

90分ノンストップのギャラリートーク

20日に行ったギャラリートークでは元アサヒカメラ編集長の佐々木広人さんをゲストに1時間を予定していたが、どうもお互い話すのが好きなようで30分のタイムオーバー(笑)。しかし皆さんは嫌な顔をせずに最後まで聞いてくださって本当に楽しいギャラリートークになった。

佐々木さんはトレードマークである和服姿で。また写真雑誌を作ってとは言わないが佐々木さんには編集者としてまだまだ頑張って欲しいなと思う。

皆さまの来場に感謝

何度写真展を開催しても始まる前は見に来てもらえるか不安でならないが、終わってみると多くの方がお越しくださっている。パーティー同様すべての方を掲載することは難しいが少し振り返る。

出演者の森ビル株式会社 代表取締役社長の辻󠄀様、写真家の織作峰子さん。過去に出演頂いた古河さん、中野浩一さんと

私事だが毎回写真展の図録を作り、お会いできた出演者の皆さんからはサインをいただいている。これは私の一生の宝。今回は会場にたくさんの出演者の方々が来てくださりサインをしてくれた。全てを埋めることはなかなか難しいがまたお会いした時などにお願いをしてサインを増やしていきたいと思う。

図録にサインをしてくださっている柳原尚之様、根岸秋男様、辻󠄀慎吾様
写真業界の皆さんと。(左上)ハービー・山口さんとは田部さん親子も交え写真の撮り合いに
写真家のHASEOさんは初日と最終日に顔を出してくれた

可能性との出会い

「KAO」は現在活躍されている方々のポートレート。その写真を売ることはできないが、今回は会場の奥にショールーム内で撮影したオカムラのオフィス家具や素材のクローズアップのイメージ写真を4点ほど飾らせていただいた。さり気なく見ていただこうかなと思っていたが何名かの方に「すごく気になるいい写真」と評価を受けてホッとしている。この写真を欲しいと言ってくれた方がいただけでも私は今回すごく新しい何かを見つけたような気がする。

空いたスペースに飾ろうと急遽思い立ち撮影したオカムラのオフィス家具や素材のクローズアップ。不慣れなマクロレンズで難しさも感じながら撮影したのを思い出す

撤収、そして原状復帰

そして迎えた最終日、フレームマンさんに搬出と会場の原状復帰をしていただく。写真展が終わればすぐにオカムラさんのショールームはオフィス家具と事務機が並ぶショールーム兼商談スペースになる。元通りにすると言うのは一仕事。照明もこちらである程度戻した後にオカムラさんのスタッフがメジャーを持ち間隔も全て図りながら陳列していく。

床を傷つけないよう搬出口まで養生シートを敷き道具を入れ込む。作品が丁寧に梱包された後、パネルの壁が解体されていく
どの箱にどなたの写真が入っているかわかるように判別用のシールを貼られる
搬入前に撮影しておいたライト位置の写真を確認しながらフレームマンさんが設置したあと、オカムラさんのスタッフが細かく原状復帰をしていく
ガラス面に貼られたカッティングシートを剥がし、跡が残らないようクリーナーで拭き取る。床に掃除機をかける。
(上)奈須田社長と確認しながら無事に撤収完了(左下)写真弘社の川口さんも立ち合ってくれている。無事に終えて奈須田社長と握手。(右下)フレームマンの皆さん、ありがとうございました

撤収を終えた頃、帯広で知り合った猪又さんが自宅で咲いたカトレアを持って来てくれた。包装も全て彼の手作り。またいつか一緒にばんえい競馬を撮りに行きたい。

そしてエスカレーターを降りていると出演者である丹下さんが奥様と会場へ向かう途中でバッタリ。「17時までやっていると思っていました。」とお越しいただいたが残念ながら最終日は15時まで。またこちらからお伺いできればと思う。

写真を撮る人間として大切な機会

写真展に思うこと。たくさんの方に見ていただく、たくさんの方とお話しができる。そして今回はいいお話しを多くいただき写真展はただ見せるだけの自己満足ではないということを実感した。素晴らしい場と機会を作ってくださったオカムラさんに感謝。そして支えてくれた皆さんに感謝。写真を撮るということは常に感謝。それだけは決して忘れてはいけない。この「KAO」シリーズは来年も続く。皆さん、その時はまたお会いしましょう。

(やまぎし しん) タレント、アイドル、俳優、女優などのポートレート撮影を中心に活躍。出版された写真集は400冊を超える。ここ10年ほどは、ばんえい競馬、賀茂別雷神社(上賀茂神社)、球体関節人形などにも撮影対象を広げる。企業人、政治家、スポーツ選手などを捉えた『瞬間の顔』シリーズでは、15年をかけて総撮影人数1,000人を達成。また、近年は台湾の龍山寺や台湾賓館などを継続的に撮影している。公益社団法人日本写真家協会会員、公益社団法人日本広告写真家協会会員。