山岸伸の「写真のキモチ」

第61回:カメラマン 山岸伸の1年

2023年総集編

2023年最後の連載記事。いつになく盛り沢山だったというこの1年を山岸さんに振り返っていただきました。(聞き手・文:近井沙妃)

北海道遺産 ばんえい競馬

2023年最後の山岸伸の「写真のキモチ」、今回は今年1年を振り返りたいと思う。今年も精力的に多方面で数多くの撮影をしたが、まずは北海道遺産 ばんえい競馬。2月と7月に十勝帯広へ訪れたが夏に撮影するのは実に7年振り。雪が無く緑が青々とした背景に加え、競馬場周辺には農協連ビルが建っていたりとばんえい競馬場が少しずつ変わっていく姿を残させていただいた。

ばんえい競馬の2024年カレンダー、左から卓上とA3縦。加えてA4横の3種類を作成した

ばんえい競馬の写真で2024年のカレンダーを作成したが、そのセレクトを進めているとどこか物足りなさを感じた。その理由は私がレースの写真をあまり撮影せず、朝調教を中心としているところにある。もしまた行くことができたらレースをしっかりと撮ってみたい。そして強い馬を撮ってみたい。ばんえい競馬を撮り続け約17年、撮影を積み重ねてきたが故に心残りが浮き彫りになったり新しい着眼点が見えてくる。まだまだばんえい競馬を撮り続けたい。

帝国ホテルの記憶

撮り始めて3年近くになる。やっと形になってきた帝国ホテルの記憶と記録。建て替えを予定している帝国ホテル東京 タワー館内の帝国ホテルプラザにて形を変えながら開催されている山岸伸×佐藤倫子写真展「帝国ホテルの記憶~IMPERIAL Legacy~」は現在第3期のフェーズに入っている。2人で共に撮影し展示をしているこの写真展では、同じ場所でも見る目が違うとこうなるんだという典型的な写真の持つ芸術性を感じられるものだと思う。

山岸伸×佐藤倫子写真展「帝国ホテルの記憶~IMPERIAL Legacy~」の第1期・第2期のフライヤー
展示の一部。特設会場以外に2~4階各フロアの廊下やコーナーに作品が飾られている
少人数で私が作品を説明しながら写真展会場と帝国ホテルプラザ内を歩くフォトウォークを2度開催した

自分で撮りたいと申し出て、この建物の怪物のような力に負けないよう必死に頑張っている。帝国ホテルへ1度撮影に行くと普段は歩かない私が5,000歩くらい歩いてしまうほど魅力的な撮影場所に溢れているんだ。今も年末に撮影した写真のセレクトをして心が舞い上がっている。とにかくこの機会は私がいただいた宝物。いつかは写真集ができればと望みながら向き合う。

この記事が公開された直後には新年を迎え、また新しい撮影に臨む年になる。写真展も第4期に入り1月中には1階まで展示スペースが拡大されてもっと大きく皆さんに作品を見ていただける機会ができると思う。そして私と倫子さんの写真を見ながらプラザ棟を隅から隅まで見ていただければ嬉しい。まずは帝国ホテルの記憶と記録、第1歩の始まりの年だった。

瞬間の顔からKAOへ

ライフワークの1つである「瞬間の顔」は出演者に女性も加わりタイトルを「KAO」に変え、会場もニューオータニ ガーデンコートにある株式会社オカムラのショールームをお借りして大きな写真展を開催させていただいた。あまりにもスケールの大きい写真展になり最初は戸惑いがあったが会場に通っているうちにいつの間にかその大きさも馴染み、この場所で開催できて心からよかったと思えた。2024年も7月に同会場でもう一度開催させていただくことが決定している。カメラメーカーや写真関係のギャラリーとは違い一般企業のショールームをギャラリーにさせていただいている分、まだまだお客様に認知が行き届いていないと感じた。次回は前宣伝などにも力を入れていきたい。

写真左は今までのデザインから一変した「KAO」図録の表紙、右は展示風景の一部

KAO Vol.2の為の撮影に精を出し、人数的には約半数を撮り終えているが現在撮りたい方々にアタックしているところだ。

賀茂別雷神社

私は企画から撮影に入っていくのが大好き。第42回式年遷宮の撮影から始まり、上賀茂神社は私にたくさんの事を教えてくれた。宮司様には今でも本当にお世話になっている。そのような背景があり、今年は久々に賀茂別雷神社(通称:上賀茂神社)で8年振りに賀茂祭(葵祭)を撮影させていただいた。

葵祭は例年5月15日に行われる
写真上は「走馬の儀」を走り終えた直後。写真下は「東遊(あずまあそび)」の舞を奉納する舞人たち

今年は大手写真メーカーやカメラ雑誌のフォトコンテストの審査を手掛けたのだが、なんとその中でお祭りの写真を撮る方が多いこと多いこと。その理由を私なりに分析したが、やはりコロナ禍で自粛していたお祭りが再開されたことで生まれた勢い、人物を撮ることができ、そしてお祭りは日本中にあるということだ。それでおそらく多くの方がお祭りを撮っているんだと思う。加えてお祭りは民族的なことや伝統や文化含めてたくさんの表現方法があるよね。

その中でも葵祭は京都三大祭りの1つと言われているくらいの大きなお祭り。総勢500名以上が平安貴族の姿で、京都御所~下鴨神社~上賀茂神社へと向かう行列が有名だ。最終地点の上賀茂神社で私はオフィシャルカメラマンとして誰よりもいいポジションで撮影できるという贅沢をさせていただいている。喜びも大きいが、その分いい写真を撮らなければと身が引き締まる。上賀茂神社の写真を皆さんにもう一度見ていただけるようにまた今年も機会があれば伺いたい。

ヨドバシカメラ 舞妓さんの撮影会を上賀茂神社で開催することが叶った

今年は神社にお願いをして舞妓さん撮影会を上賀茂神社で開催させていただくことも叶った。世界文化遺産の中で撮影会を出来てお客様にとってもとても良かったと思う。またこのような機会を作ることができたらと思う。

キセキの写真集

華彩なな写真集「キセキ」(太陽図書・2023年7月14日)

このご時世、写真集はなかなか作れなくなった。過去に400冊以上の写真集を撮ってきた私でも年間2冊が限界。まして女性グラビアアイドルの写真集は年に1冊ぐらいのペースでしかここ数年撮っていない。

その中で今年奇跡的にできた写真集、モデルは長年お付き合いのあるアラフォーグラドルの華彩ななさん。約10年間撮らせていただいたななちゃんでもこの写真集が2冊目。そういう思いも込めて一生懸命撮影した写真集が「キセキ」だった。彼女の要望で写真展もNine Galleryで開催できてとてもいい刺激になった。今後は私の事務所の上にあるギャラリーも上手く活用してこういう企画をどんどんやっていこうと思う。是非その時は私のギャラリーまで足を運んでほしい。

それぞれの連載

カメラ誌やWEBでいくつか連載をさせていただいている。カメラ誌『CAPA』では「世界の光の中で」、カメラ誌『フォトコン』では「新 農業女子に会いたい」、そしてデジカメ Watchでは本連載である山岸伸の「写真のキモチ」。このように3つの連載を毎月出している。特にWEBは細かくページビュー数が出てわかりやすく、お陰さまでこの連載はとても好評だということで1年を通してアクセスランキング上位にランクインしている。来年も頑張っていこうと思うが、月2回記事を書くのはなかなか大変でネタも尽きてくる(笑)。負けないくらい写真を撮ってますます濃いカメラマン人生にしたいね。また楽しい記事が書けるように頑張ろう。

「新 農業女子に会いたい」左から小島有貴さん、石井由貴さん

「新 農業女子に会いたい」は現在も日本中を飛んで撮り歩いている。現在45名近くの農業女子の方々を撮影したが、将来100名近く撮り終えたら1冊の本にまとめたいと思い一生懸命撮影中。働く農業女子の方々は日に焼けたり手が荒れたりと大変だと思うが、皆さんそれぞれに本当に頑張っている姿に対面してきた。撮影した農業女子の方々にはスイカをいただいたり何をいただいたりと、とても良くしていただいて本当に嬉しい。貰うことではなく、そういう気持ちが嬉しいんだ。2024年もそれぞれの連載を是非皆さん応援して欲しい。

約4年ぶりの台湾

久しぶりに海外へも行った。海外といっても自分にとって距離も気持ちも近い台湾。実は台湾での撮影でとてもやり残した気持ちがあったんだ。その1つは龍山寺というお寺で撮影を重ねた人々の祈り。たくさんの祈りを撮ってきたがコロナ禍では行けなくなり、最後の詰めの写真を撮っていない感覚だった。もう一度願いを込めて祈っている龍山寺にいる皆さんに会いたいと思い久々に台湾へ。

台湾 龍山寺(2016年12月撮影)
台湾 龍山寺にて、いつも優しく私を迎えてくれる人たち(2016年12月撮影)

しかし私の思っている龍山寺の祈りはなんとなく薄れていったような気がして、今回は残念ながら写真をほとんど撮っていない。何が物足りないと感じさせるのか明確ではないが、なんとなくこの企画はこれで終わったのかなとちょっと寂しい気持ち。もう少し時間を置いてもう一度訪ね、シャッターを押してみたいと思う。ここに写っているのはいつも優しく私を迎えてくれる人たち。

2023年11月、龍山寺にて。アシスタントの近井がメイキングを残す
タクシーの車内から撮影した台北賓館。この石塀の向こうには立派な建物が建っている

タクシーで通りがかった時に「あ、台北賓館だ」と車内から台北賓館をパチリ。台北賓館も前の館長さんが勇退されてからいつの間にか撮影的には終わったという気持ちになっていたがその写真の発表はほとんどできていない。私は古い建物や昭和の建物に惹かれる性分だが、ここもその1つ。台北賓館の中の中まで撮影させてもらった日本人は私だけだと前館長はおっしゃっていた。確かに資料を見てもそんなに多くの写真は出てこない。私が撮った台北賓館を皆さんに見ていただけるようにもう一度向かい合ってみたい。

台北賓館は1899年に着工が始まり、1901年に落成。現在の建物は1911年に改修された後のもので、百年以上の歴史がある(2017年11月撮影)

台湾に行くと必ず行動を共にしてくれる方がいる。黄さんは台湾で本当によく写真を撮っているアマチュア写真家の方だと思うが、彼が海や写真が撮れる場所に連れて行ってくれたりと良くしてくれて台湾に行く度に一緒に写真を撮ったりしている。4年前にも台湾のモデルさんを紹介してくれて撮影させてもらい、今回も1日だけ付き合ってもらって午前中はモデルさんの撮影、午後は海沿いの方へ撮影に。

倫子さん、黄さんと一緒に宋さんを撮影
今回撮影させていただいたモデルの宋さん

佐藤倫子さんも同行し、台湾のモデルさんのポートレートを撮りたいということで一緒に撮影。この写真は私が撮ったものだが倫子さんもたくさん撮っているのでどこかで発表してくれるんじゃないかな。私が写っている写真はほとんどアシスタントの近井沙妃が撮ったもの。メイキングを撮ってくれるのはありがたいことで、私の人生はこういうことをして生きているという証。

靖國神社

4年ぶりに靖國神社の初詣とみたままつりのポスターを撮影させていただいた。コロナでポスターも自粛になり、しばらく作っていなかったが今年待望の復活。撮影ができたことをとても嬉しく思う。

令和6年の靖國神社 初詣のポスター

撮影日、天気と神社の空気があまりにも気持ちよかったので境内を散策。遊就館という宝物館へ部長さんを訪ねていってみた。なんとそこで遊就館の中のギャラリーで写真展を開催するお話をいただいた。私が10年間撮影した誰も見たことが無い開門前の靖國神社の桜を見てもらおうと桜の咲く季節の2月から5月の3カ月間、写真展を開催する。合わせて写真集も制作するがまだ刷り物は上がっていない。正月明けにDMやフライヤーが出来上がったら友人・知人に郵送したり、いくつかのギャラリーに置かせてもらうので是非靖國神社の遊就館のギャラリーへ私の撮った桜を見に来てほしい。

制作中の写真集「靖國の櫻」のデザイン案

2024年も、もっと濃く

2023年もたくさん写真を撮らせてもらったがこれから益々写真を撮っていきたい。自分でもテーマを持ちすぎて結局テーマ倒れになっているところが多々あるので(笑)。テーマに沿った写真を追求して撮って1つずつ完成させていきたい。2024年もデジカメ Watch、山岸伸の「写真のキモチ」をよろしくお願いいたします。

(やまぎし しん) タレント、アイドル、俳優、女優などのポートレート撮影を中心に活躍。出版された写真集は400冊を超える。ここ10年ほどは、ばんえい競馬、賀茂別雷神社(上賀茂神社)、球体関節人形などにも撮影対象を広げる。企業人、政治家、スポーツ選手などを捉えた『瞬間の顔』シリーズでは、15年をかけて総撮影人数1,000人を達成。また、近年は台湾の龍山寺や台湾賓館などを継続的に撮影している。公益社団法人日本写真家協会会員、公益社団法人日本広告写真家協会会員。