山岸伸の「写真のキモチ」
第60回:ポートレートと、スナップと
草野綾ちゃんと故郷・北九州市を巡る写真の旅
2023年12月15日 12:00
山岸さんが撮影を重ねるグラビアアイドル 草野綾さん。彼女の熱望により故郷である北九州市で2泊3日のロケが行われた。どのような写真の旅だったのか、そして普段とは一味違うロケで山岸さんが得た気づきとは。(聞き手・文:近井沙妃)
故郷で写真を残したい
昨年と変わらず、一番多くグラビア写真を撮らせてもらった草野綾ちゃん。本連載で今年1月に彼女に登場してもらった記事はアクセスランキングで年間を通し1位の座を長くキープしていた。
また何か一緒に仕事をしようと盛り上がり、打ち合わせを重ねて彼女の故郷である北九州市でロケをすることに。20代最後、そして故郷で写真を残したいという彼女の想い。この2つが重なって断れるわけがないよね(笑)
北九州市は昔々大昔に撮影会で1度訪れたのが最初で最後のような気がする。遠い記憶に残っていたのは山の方に大きな鍾乳洞や岩がゴロゴロと転がっている場所と小倉城くらいだった。今回2泊3日でこの街を車で動いてみるとなんと広い。鉄工業で栄え、昭和の日本経済をリードし「百万都市」と呼ばれたこの地は一流企業と言われる大きな会社が昔からあり、レンガ造りや古い建物が多く見られ驚いた。自分の知識の浅さに恥ずかしくなったが私が想像するにこのまちづくりは相当凄かったと思う。
コンパクトに、ラフに、少し型破りなロケ
今回のロケは綾ちゃんと彼女のマネージャー、私とアシスタントのマッハ佐藤くんの4人でコンパクトなロケに。いつものように仰々しくするとどうしても形が決まって、三脚を立て長玉を使い何をしてってなると非常に古い写真に見えてくるんじゃないかと、ここは一丁少人数で行ってみようと思ったんだ。彼女にも「スナップを撮りながらラフに撮るから大丈夫だよ」と伝え、セルフメイクで衣装も本人のもの。
メイン機材はライカSL2-Sにライカ バリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.とソニーα1にFE 70-200mm F2.8 GM OSS IIとレンズ数本、そしてポケットに忍ばせたリコーのGRⅢ。照明機材はコンパクトなLEDとニッシンのクリップオンストロボだ。
朝の便で羽田を飛び立ち、旅の始まり。
到着後、まずは飛行場近くに車を停めて車内でメイクをしているところから。こんなにすっぴんに近い彼女を撮らせてもらい「あ、草野さんって、こういうお顔をしていたんだ」という発見をしたような気がする。普段女の子のすっぴん姿をまじまじと見ないし、メイクルームにも入っていかないし、綾ちゃんとは撮影を重ねていてもこの雰囲気で撮らせてもらうことは新鮮だったから。
飛行場付近で少し撮影をしてから彼女の案内で門司港へ。到着するとたくさんのレイヤー(コスプレイヤー)さんがいてあちこちで撮影していた。一緒になって私も撮り始めたが何もわからないところでシャッターを切っていく自分にどうも戸惑いがあって、また翌日来ようと軽めに撮影し後にした。
彼女が生まれ育った小倉へ向かい、子供の頃よく行っていたチャチャタウン小倉というショッピングモールに。お昼にフードコートでラーメンを食べ、綾ちゃんとマッハ佐藤くんの2人で観覧車に乗って彼女の生まれたところを説明してもらいながらYoutube用の動画などを撮影した。観覧車から見た景色の中に彼女が通った幼稚園や学校、そして友達の家などたくさんの思い出を見つけたようだ。
夕食の後に部屋で少しイメージ的な写真を撮って初日は終了。
2日目は朝9時に出発して平尾台カルストという結晶質石灰岩がゴロゴロしているところへ。なんともいい雰囲気だが、ここも昔とはちょっと変わったような気がして再びの戸惑い(笑)。風景と一緒に広い画を撮ろうと広角レンズを使っているがあまりそういう撮影には慣れていないので、よく撮れたかな? なんて考えながら撮影していたが、我ながらいい写真を撮ったと思う。
一番綺麗なところは奥へ奥へと行かなければいけなくて、私の弱った足ではなかなか歩いてたどり着けずになんとなく納得をしながら帰ってきた。
そしてリベンジの門司港。普段から暗がりの屋外でクリップオンを使っての撮影はあまり多くしていない。いつもは2人いるアシスタントを1名にし、マッハ佐藤くんがVlogを撮りながら露出を計ってクリップオンを光らせてという行為をしたが、なんとかイメージ通り撮ることができてホッとしている。
この門司港には昼夜問わずたくさんのカメラマンがいて、被写体は女性だけでなく自分の車を持って来たりウェディングの前撮りや本当に多くの人たちが撮影に来ていた。個人的にもう1回自分でここにきて写真を撮ってみたいなと思わせる場所でもあった。
私が北九州にいることをFacebookに書くと、北九州生まれ、北九州育ち、北九州に縁を持っている人たちからリアクションが多くあった。元週刊プレイボーイの編集者や、北九州に住民票があるという方まで。知人のお医者さんが「ここに行って鰻を食べたら美味いよ」って連絡をくれて、それを話すと綾ちゃんも2度ほど行ったことのある場所で夜はその鰻屋さんへ。初日の昼にラーメン、夜に焼肉、次の日の昼にうどんと続いていたがせっかく北九州に来たので美味しいものを食べたいと思い一発奮起して一番高い鰻重をいただいた。東京では味わえない美味しさで、ひょっとすると今まで食べた鰻の中でNo.1かも。彼女もマネージャーさんも美味しい美味しいと食べてくれて、こんな嬉しいことは無いね。
最終日の朝、ちょっと部屋に来てもらって少しだけグラビア風の撮影。不思議だよね、ただ寝た後のお布団を2つ並べて撮っただけなんだけど、これを1枚入れるだけで流れが変わってしまうというかなんとなく雰囲気を左右させてしまう。奥は私、手前はマッハ佐藤くんが寝た布団です(笑)。あくまでもこの連載でネタとして入れているが他所では入れないようにしようと思っている。
今回のロケで一番大変だったのはマッハ佐藤くんだったと思う。走行距離は合計約280km。それも停まっては走り、停まっては走りの行程で駐車場に車を預けロケ現場まで荷物を持って合間にVlogも撮ったりと物凄くハード。今回は本当に頑張ってくれた。
新しいチャレンジと得た学び
今回は新しいチャレンジもたくさんした。特にスナップとポートレートの境目やバランスを考えること。ポートレートだと意識しないで撮る、もしくは意識をしながらでもスナップっぽく撮ったり。私にとってはスナップなのかもしれないが、スナップを撮る人から見ればそれはスナップでは無いと言われるかもしれない。
どこかで少し凝り固まった部分を崩したかったりもして、最近出番が少なくなっていたリコーのGR IIIも使ってみた。イメージコントロールのポジフィルム調にして撮るといい雰囲気が出ている。ただピンは少し甘め。でもそれはしょうがない。私の素早すぎる撮り方が悪いんだと思う(笑)。取り敢えずちょっとピンは甘いけどこの時自分の求めていた質感が表現された写真になっている。
常に撮影というものは1つでもいいから何かを得る。それが一番大切。これはマッハ君が車を取りに行っているのを待っている間、綾ちゃんとマネージャーさんと3人になってあまりに寒く歩道端にしゃがんでいたときに撮ったものだ。特別なライティングをせずにその町の光で撮ることでストレートに雰囲気が出ている典型的な例だと思う。この楽しさに改めて気づけたことは大きな収穫だった。
最後に小倉城に行ってこの町の歴史をまた1つ知ることができた。記念写真を撮って飛行機に乗り東京へ。連載の中であまり写真を多く出しても皆さんが見るのも大変だし、取り敢えずざっと流れが見れればいいかなと思っている。もっとプライベート感があるような写真もたくさんあるが、それはまた発表する機会を作りたいと思うのでお楽しみに。
きっと、また
今回新しく感じた彼女の魅力はとてもクールなところ。幼少期の話を淡々としていたのがとても面白いというかなんとも不思議な感じだった。巡った場所はもちろん全て彼女のゆかりの地。思い出深い場所や行きたいところをピックアップしてくれて、その中で私が撮影に向いている場所の選別とアレンジをして撮影してきた。
彼女が自分自身の節目に故郷で写真を撮りたいと言えるのは、故郷で良い生き方をしてきたからなんだと思う。そしてその写真を自分が残せたことが嬉しい。私もすっかりこの町が大好きになってしまった。出来たら北九州で綾ちゃんと小さな撮影会でもやってみたいね。
草野綾
1994年4月23日生まれ、福岡県出身、T162/B87/W62/H88。
2017年にグラビアデビュー。“最高級のメロンカップ”と称されるGカップバストを武器に、グラビア界を席巻中。2冊目の写真集では、山形県酒田市の元グランドキャバレー「白ばら」などで撮影を敢行。メロンパイはもちろん、女盛りのボディが美しいと評判を呼んでいる。
公式X:@nikunikuhappy
公式Instagram:@kusano_aya