山岸伸の「写真のキモチ」

第62回:3つの写真展、開催までの道のり

帝国ホテル/靖國の櫻/KAO

今年前半で既に3つの写真展開催が決定している山岸さん。ジャンルの異なるテーマのそれぞれへの思いと道のりとは。(聞き手・文:近井沙妃)

写真展開催へ向けて

昨年も多くのテーマを持って写真を撮ってきたが、今年前半には3つの写真展を控えている。現在帝国ホテルプラザ東京で開催中の山岸伸×佐藤倫子写真展「帝国ホテルの記憶~IMPERIAL Legacy~」が形を変えて2月1日(木)から第4期を迎え、2月10日(土)から靖國神社では「靖國の櫻」、そして7月16日(火)からオカムラ ガーデンコートショールームでは「KAO Vol.2」と大規模な写真展が続く。それぞれ写真集を作ることも目標として進めているところだ。

「帝国ホテルの記憶~IMPERIAL Legacy~」

何故私がこの場所の記録を残し、この場所で写真展をしたいのか。それは「近代日本経済の父」と称される渋沢栄一が発起人のひとりであり初代会長であること、世界三大建築家のひとりであるフランク・ロイド・ライトが日本で初めてホテル建築を手掛けた2代目本館「ライト館」が建て替えられた今もその名残が随所にあること。そして数々の「日本初」や「ホテル業界初」を革新的に導入した国を代表するホテルであるからだ。

歴史が詰まっている建築物を写真で残したい気持ちは昔から変わらず持っていた。撮り始めて3年近く経ち、今のところ撮るだけ撮って写真展としてプラザ館内の通路や空いたショップの空間で展示をしていたが、いよいよ大きく発表できるチャンスが舞い降りてきた。1階で新しく写真も大きく展開し、第4期が始まる。皆さんに見ていただいて帝国ホテルの記憶と記録に感動してもらえるような写真展にしたい。

第3期の設営風景。フレームマンと写真弘社の皆さんが設営にあたる
倫子さんの作品は2階の一部と3階で展示されている

現在第3期の展示中だが、最近この写真展がだいぶ浸透してきたようで「帝国ホテルプラザで写真を見たよ」と言う人がいたり、「会議で帝国ホテルへ行ったら写真展案内に山岸さんの名前を発見して展示を見てきましたよ」と電話をくれた社長さんがいたり。私に報告が来ずとも写真展を見てくれている人が増えてきた。

館内の至る所に写真展の案内が掲示されている。2階 特設ギャラリーの展示風景
3階 倫子さんの特設ギャラリーの展示風景
4階 私の展示の1部
本館とタワー館を繋ぐ地下連絡通路のショーウィンドウでも展示が始まった。上はまだテナントが入っている状態で下は展示後の様子
2店舗分を私、1店舗分を倫子さんの作品で飾っている

多くの方に写真展を見てもらうための一環として2度開催したフォトウォークも基本的にホテル内はお客様が最優先なので大袈裟なことは難しいが、またもう一度1月中に参加者を募集して倫子さんと一緒にフォトウォークをできればと考えている。

過去のフォトウォークの様子。私が作品解説や撮影エピソードを話し、作品を見ていただきながら館内を回る
(左)一般のお客様のご迷惑にならない範囲で撮影が可能なエリアでは軽く写真撮影も。(右)倫子さんの特設ギャラリーにて

帝国ホテルを撮らせていただいているということは、写真を撮る人間としてのプライドと喜びを強く感じる。とにかく写真集を完成させるまでは手を休めずに撮影へ通いたい。最近は建て替えの為に本館より先に閉館する帝国ホテルプラザ(タワー館)を思うと、今までは駐車場にしか縁が無かったが愛着が大きくなってきている。本館はまだ時間をかけて撮影する猶予がある分、限りある中でタワー館の撮影に熱を入れている。

昨年のクリスマスシーズン、仕事の合間を縫ってホテル周辺から外観を記録する
クリスマスシーズンの帝国ホテルプラザ東京

昨年末に深夜から早朝にかけて撮影した際にはホテルから「是非ご宿泊ください」とお部屋をご用意くださり1泊させていただいたのだが、夜通しの6時間以上に渡る撮影を終え喉もカラカラに枯れて部屋に入るとみかんがたくさん置いてあった。それはもう美味しくて、このみかんを部屋で食べたことは一生忘れないね。

長丁場の撮影を終え、このみかんの味に癒された

翌朝も「館内でお食事をどうぞ」と食事券をいただいたが、さすがに疲れ切っていたのでルームサービスに。初めて食べる帝国ホテルのリッチなルームサービスに夫婦で感動。

疲れがありつつも上質な時間を過ごし、また帝国ホテルへの思いが深まる機会となった

第1期から第3期とチラシを作っていただいたが、郵送で配布しているわけではなくホテル内に置いたり掲示されているもの。また次のフェーズに入った時には新しく作り、閉館の時が迫るプラザ(タワー館)へ多くの人が足を運んでくれるよう、告知をしたい。

左から第1期・第2期のフライヤー、自分で配布するように用意した第3期の案内

「靖國の櫻」

私が約16年前から10年間撮り続けた靖國神社の桜。病気から回復して「都心で桜を撮りたい。それも誰も見たことがない桜を撮りたい」と靖國神社にお願いをして開門前の朝4時から門が開く6時までを撮りためた「誰も見たことがない桜」だ。その写真展を境内にある記念館「遊就館」で開催する運びとなった。

写真展の開催に至ったきっかけは長年担当している靖國神社の初詣とみたままつりのポスター撮影を昨年秋にしていた際に訪れた。その日はもの凄く晴れていて境内の空気をたくさん吸いたくなり、モデルさんの着付け待ちの間にマネージャーと境内へ。

本当によく晴れてとても気持ちのいい日だった

遊就館にいる部長さんの元へ顔を出すと「写真のギャラリーがあるのですが、御覧になったことはございますか」と案内いただいたのだが、まさかこの建物内にあるとは今まで思ってもみなかった。そして「よろしければ写真展をされてみませんか」というお話に「是非是非!」と軽く乗った後に会場を見てびっくり、ここまで大きなギャラリーだったとは。

遊就館は22部屋の展示室と2つの映像ホールで構成され、展示室では主に英霊の遺書・遺品と歴史記述パネル、映像ホールでは靖國神社や英霊に関する映画が上映されている。右は大戦時に旧日本軍によってタイ(泰)―ビルマ(緬甸、現ミャンマー)間に建設された泰緬鉄道を走り、戦後日本に帰還して奉納された蒸気機関車C56形31号機
常設展示室から周り、進んでいくと1階のギャラリーに辿り着く(展示が無いときはクローズになっている)
初めて見る空間、想像以上に広い
何度か打ち合わせに伺い、作品サイズのイメージを模索

この空間にどう展示するか。この空間にどう展示するか。フレームマンに相談したり、写真集の出版元となる日本写真企画の編集長にお願いしたり、皆さんのご協力のもと制作中だ。中でも今回プリントはすごく冒険をさせてもらった。株式会社小森コーポレーションにご協力いただいて会場が大きい故に印刷の方がいいのではないかと思いデジタル印刷で進めている。B1を50枚均等に並べようと思っているが、その理由はまたギャラリートークや別の機会に。

GW最終日までのロングランということもあり、考えていることがたくさんある。桜が咲き終えた頃には、はとバスとツアーを組んでみたいと企画中だ。撮影会もいいだろうね。100人規模のホールが2つあり、そこでのトークイベントや来ていただいた方には桜の他に私が撮り下ろしたまだ皆さんが見たことのない靖國神社を見ていただきたいとも思っている。もし皆さんをお連れすることができるようだったらお連れしたいという旨を神社にはお願いしているが、とても貴重なものなのでなかなか即答は難しい。なんとか多くの人に見てもらいたい思いで動いている。

トークイベントを開催できるホールを見学

タイトルが少し仰々しく「日本人の心がやどる」と書いているが、やはり富士山や桜は日本人の心に響く被写体だと思う。桜の季節に通い10年、その間にアシスタントも変わりカメラも変わり、写真も変わった。今回選んだ写真はそのほとんどがOLYMPUS(現・OM SYSTEM)で撮影したもの。それもまた大きく印刷するにあたって是非皆さんに見ていただきたい。

令和6年の靖國神社 初詣のポスター。このポスター撮影の時にいい出会いがあった。写真はやっぱり、出会いだ。モデル:井頭愛海さん(オスカープロモーション)

写真展のフライヤーやDM、写真集が段々と形になってきた。桜が咲く前から私の写真で靖國の桜に触れ、開花を喜び、そして散った後も思い思いにこの桜に写ったモノを感じて欲しい。

左は写真集表紙、右は写真展フライヤー

「KAO」

「瞬間の顔」から「KAO」になり、昨年に続きニューオータニ ガーデンコート3階にある株式会社オカムラのガーデンコートショールームで7月16日(火)から12日間開催される。昨年は写真のサイズを大きくして皆さんにあっと驚くような展示を見ていただいたと思うが、やはり空間が大きいので写真も大きくしたい。今も人選と撮影を進めている。

先日は株式会社夢グループの石田重廣社長と歌手の保科有里さんがスタジオにお越しになり撮影させていただいたのだが、撮影終了後に佐藤倫子さんが「夢グループのCMをやってみたいです!」とお願いすると石田社長は「いいよ! やりましょう!」と即興で私の写真を商品としてCMを再現してくれたんだ。撮影前に1時間ほど石田社長とお話しする時間があって、写真とは何かということも把握して話してくださったり、どの話をしていても凄く勉強家な方で驚きと発見の連続だった。

終始楽しい撮影の時間。倫子さんもあのCMを再現する秘訣を教わり楽しそうでよかった

石田社長と倫子さんによる夢グループのCM再現。石田社長の即興力に驚くと同時に、倫子さんの再現度の高さにも注目。

撮影終了後に記念写真

お歳暮には宝くじも一緒にいただいて、残念ながら300円の当選という結果だったが夢をいただいて嬉しかった。どんな大きさでも夢を持つっていいよね。

株式会社夢グループ 石田重廣社長からいただいたお歳暮

「瞬間の顔」の頃から毎回登場いただいている東京消防庁。今回も広報の方に協力いただいてクイック・アタッカーの隊員の方たちを撮影した。事故現場へいち早く到着し、負傷者の救出や救護、車両の消火活動を行う部隊だ。2台1組でⅠ型は可搬式消火器具、Ⅱ型は簡易救助器具、後部資器材収納ボックス及び消火器を積載し、初期消火や救助活動を実施する。

東京消防庁では10か所の消防署所にクイック・アタッカーを配備している

前回は総合指令室の方たちを撮影し、写真展にはご家族の方も多くいらっしゃって「命を懸けて息子たちは働いている」と涙を流されていた方も。年明けの災害などでは東京消防庁から数多くの方々が応援に行かれていて頭が下がる。命懸けで誰かを守る仕事に没頭している姿は美しいとしか言えない。東京消防庁は各地へ様々な部隊を撮影に行かせていただいたが、また来年写真展開催の機会があればご協力いただき、その姿を写真に残したい。

撮影させていただいた隊員の方と記念写真

それぞれ全くジャンルが異なる3つの写真展が順に開催されていく。

是非ともお越しいただき、それぞれの「写真のキモチ」を見て欲しい。

(やまぎし しん) タレント、アイドル、俳優、女優などのポートレート撮影を中心に活躍。出版された写真集は400冊を超える。ここ10年ほどは、ばんえい競馬、賀茂別雷神社(上賀茂神社)、球体関節人形などにも撮影対象を広げる。企業人、政治家、スポーツ選手などを捉えた『瞬間の顔』シリーズでは、15年をかけて総撮影人数1,000人を達成。また、近年は台湾の龍山寺や台湾賓館などを継続的に撮影している。公益社団法人日本写真家協会会員、公益社団法人日本広告写真家協会会員。