中井精也のエンジョイ鉄道ライフ「ジョイテツ!」

ポラ鉄!に挑戦

僕はゆる鉄画廊で作品を販売していますが、絵画と違って何枚でも複製できる写真は、「オリジナルの1点もの」という価値をなかなか見いだせません。プリント時にナンバリングして限定○枚というのも、なんか無理矢理感があるし。そこで閃いたのがポラロイドカメラでした。今でこそチェキなどのように気軽なインスタントカメラが登場していますが、どうせ撮るなら、味わい深い描写力を持つ、昔ながらのインスタントカメラで撮ろう!と、ポラロイド社製の690SLRを手に入れました。

このPolaroid 690というカメラは1996年製なので、なんと20年以上前のカメラということになります。もちろんチェキなど現代のインスタントカメラと比べると画質はゆるいですが、それを求めている人にとっては大きな魅力です。

このカメラの画期的なところは、折り畳み式だということ。収納時は1枚目の写真のように、まるで弁当箱のようなスタイルですが、それを手動でパカっと開くと、あの見慣れたインスタントカメラスタイルになるのです。変身後のこのカタチを知っている人は多くても、変身前の姿を知っている人は意外に少ないのではないでしょうか? 古いカメラではありますが、AEだけでなくAFも使えます。さらにマニュアル操作に切り替えることもできるので、インスタントカメラとは思えないほどキメの細かい設定をすることができます。

ただこの手のカメラを使い慣れている人にはわかると思いますが、当時は画期的だったオート機構は、壊れやすい弱点でもあります。何台か下見をしましたが、このへんの動作が故障しているカメラが多く、オークションなどで購入するばあいは、事前確認をしっかりとしておいたほうがいいでしょう。

ポラロイド600シリーズ用のフィルム。右はinstax mini(チェキ)のフィルム

フィルムは現在、ポラロイドオリジナルズというブランドで販売されています。Polaroid 690が対応しているのは600シリーズというフィルムで、ISO感度は640相当。価格にバラつきはありますが、8枚で2,500円前後。ということは1枚の単価は約300円。デジカメでパラパラと乱れ打ちするのに慣れきった僕は、1回シャッターを切るのも真剣になっちゃいます。

向かって右側の白黒のダイヤルは露出補正ダイヤル。左側の黒いダイヤルがピント調整のダイヤルです。ダイヤルの上のスイッチを下に下げることで、AFからMFに変更することができます。一番左側の黒いボタンはシャッターボタンです。ほかのカメラと同じように、半押しすることでAFが作動します。

作例は千葉県の小湊鐵道を撮影しました。ところどころ光線漏れがあるものの、かなりシャープな描写力にビックリです。列車の横のもやもやは画質が悪くなっているのではなく、野焼きの煙です。もちろんポラロイドカメラで連写は無理ですが、田んぼの奥にあるのは駅のホームなので、停車前と停車中の2カットを欲張って撮影します。まずは列車にピントを合わせて1枚。

列車が駅に止まってから、手前の稲にピントを合わせ直してもう1枚。ポラロイドながら、浅いピントを生かした味わい深い写真になっているでしょ? 画面全体に薄く光線カブリがあり、ぼわ〜っと赤くなっていますが、それがまたいい感じです。

続いて訪ねたのは、なぜか飛行機が置いてある線路脇の中古車屋さん。ローカル線と黄色い飛行機という不思議な取り合わせが好きで、何度か撮影させてもらっている場所です。中古車店のおじさんに許可をいただき、撮影開始。

ポラロイドは画質の関係上、列車をあまり小さく写すと存在感がなくなってしまいがちなので、できるだけ列車が目立つように、飛行機の羽と機体で空間を作り、そこに列車を配置して列車を目立たせてみました。実はフィルムを猛暑の車内に置きっぱなしにしてしまい、色が変色していますが、マゼンタかぶりした色が実にいい感じで、ゆる~い雰囲気を演出してくれました。さらに画面上の一部がめくれるように剥離してしまっています。フツーならがっかりするところですが、ポラ作品の場合はウェルカムな事故。さらに味わいある作品になったと大喜びした変態は僕です(笑)

ここで露出補正機能がちゃんと効いているかテスト撮影です。これだけで900円と考えると、気持ちが引き締まります(笑)

白と黒の露出補正ダイヤルを調整すると、写真の明るさが大きく変わりました。1枚目はプラス補正(最大)、2枚目は補正なし、3枚目がマイナス補正(最大)です。ここまで補正ができると、意図にあわせた表現が可能になります。マイナス補正は、かなり大幅に露出が暗くなるので、ちょっと注意したほうがいいかもしれません。

上総鶴舞駅舎の、揺らめきのあるレトロなガラス越しに、改札口を撮影。デジタルカメラやピンホールカメラでも同じカットを撮りましたが、いちばんいい感じに撮れたかも。やはり真四角のフォーマットは、ゆる鉄との相性がいいですね。また、こういうごちゃごちゃした絵柄だと露光ムラが目立たないので、こういう狙いこそポラ向きなのかもしれません。

上総鶴舞駅のベンチとお花。補正なしで撮影したら、少し露出アンダーでした。ケチってプラス補正したカットを撮らなかったのですが、よくよく見ると味わい深いカットだっただけに、撮っておけばよかったと後悔。1枚300円の壁は、はてしなく高い(笑)

こんな感じで、デジタルカメラでの撮影のようにはいきませんが、シャッターを切ってから現像されるまでどんなふうに写っているかわからないところに、とてもワクワクを感じました。次回はた〜くさん作品をお見せしますね。

中井精也からお知らせ

2018年の5月3日、都電荒川線三ノ輪橋電停の近く「ジョイフル三の輪商店街」に、僕のギャラリー&ショップである「ゆる鉄画廊」がオープンしました! まさかこんなことになるなんて思ってもいない笑顔。今見るとちょっと切なく感じます。

新型コロナウイルスの蔓延により3月末からクローズしており、あたりまえですが4月の店頭売上はゼロ。1年でもっとも売上の多かったGWというチャンスを失い、おそらく5月いっぱいはオープンできない状態が続くと思います。

非常に厳しい状況ですが、僕の長年の夢でようやく実現した画廊をなんとか維持していくために、必死でがんばります!

Twitterで展開中の「せいやコンシェルジュ」では、みなさんからいただいたテーマにあわせて僕が作品をセレクトして販売しています。思い出の路線、大好きな車両、誕生日や記念日に撮影した作品などなど、テーマは自由ですので、ぜひご検討いただければと思います。裏打ちしたA4プリントを額装し、サイン入りで1万円+税・送料です。

Twitterをやらない方や、探している作品テーマがない方は、ゆる鉄画廊オンラインショップで作品を見ながらセレクトすることもできます。また、これまでゆる鉄画廊で開催した企画展の作品も以下のようにテーマごとにカテゴリーができております。

作品を見ているだけでも楽しいので、ぜひご覧ください。

その他作品

・代表作品 http://www.foto-nakai.com/shopbrand/ct36/
・国内・海外ツアー http://www.foto-nakai.com/shopbrand/ct41/

記念きっぷのご案内

毎年ゴールデンウィークに配っているゆる鉄画廊記念入場券が、本年も300枚届きました。3年目に突入する日以降に発注された商品に同梱させていただきたいと思っております。あえて入鋏はいたしませんので、自粛解除された暁には、画廊で泣きながらハサミを入れますね(笑)

厳しい状況が続きますが、大切な画廊と社員を守るために、あきらめず前を向いて頑張っていきます。ぜひみなさまお力添えのほど、よろしくお願いいたします。

中井精也

1967年、東京生まれ。鉄道の車両だけにこだわらず、鉄道にかかわるすべてのものを被写体として独自の視点で鉄道を撮影し、「1日1鉄!」や「ゆる鉄」など新しい鉄道写真のジャンルを生み出した。2004年春から毎日1枚必ず鉄道写真を撮影するブログ「1日1鉄!」を継続中。広告、雑誌写真の撮影のほか、講演やテレビ出演など幅広く活動している。株式会社フォート・ナカイ代表。2015年、講談社出版文化賞・写真賞、日本写真協会賞新人賞受賞。著書・写真集に「デジタル一眼レフカメラと写真の教科書」「DREAM TRAIN」(インプレス・ジャパン)、「ゆる鉄」(クレオ)、「都電荒川線フォトさんぽ」(玄光社)などがある。2018年5月、東京都荒川区に鉄道写真ギャラリー&ショップ「ゆる鉄画廊」をオープンした。甘党。https://ameblo.jp/seiya-nakai/

■TVレギュラー:「中井精也のてつたび」/NHK BSプレミアム、「ヒルナンデス!沿線フォトさんぽ」/日本テレビ、「ひるまえほっと てくてく散歩」/NHK総合、中井精也の「にっぽん鉄道写真の旅」/BS-TBS、カメラと旅する鉄道風景/CS各局