クルマとカメラ、車中泊
星景写真にも最適!フォーカスメモリー搭載レンズ「SAMYANG V-AFシリーズ」
2025年9月21日 12:00
なんでしょうね、どうも惹かれるんですよ、こういう風景に。
鉄塔やら電信柱やらが空に向かって屹立しているのを見かけるとつい、車を止めてしまうのであります。月が出てきただけじゃ、車は止めないんですけどねえ。ほぼ満月なんだけど写真撮ってみると意外に星が写ってるもんです。
左隅にカシオペア座が写ってるの、わかりますか? 肉眼でも見えていました。満月前後で水蒸気多いと星は全然見えなくなっちゃうんだけど、あれ、意外に見えてるって思った時ちょ〜っと嬉しくなるんですな。
仕事帰りに家路を急ぐ途上でありましたが、ここで秋の虫の音と行き交う飛行機の灯りを楽しみました。夜はすこし楽になってきたけど相変わらず暑いですね、いつになったら涼しくなるんでしょう。どうぞご自愛くださいまし。
今回は株式会社ケンコー・トキナーさんからSAMYANG「V-AF」という単焦点レンズをお借りできたので、レポートをお届けします。
SAMYANGは韓国のレンズメーカーですが国内ではケンコー・トキナーが取り扱っています。一般のカメラユーザーで使っている方はそれほど多くないかもしれませんが、高性能でリーズナブルなレンズを多数ラインアップしています。プロユーザーの中でもSAMYANGレンズを絶賛する人を何人か知っています。
このごろは中国製レンズにも良いものが増えてきていますが、その多くがまだMF(マニュアルフォーカス)ですよね。この点サムヤンは抜かりがありません。AFレンズをラインアップしているのです。ただAFであるだけでなくフォーカスメモリーを備えた単焦点レンズがあるっていうのが大きな特徴と言えるでしょう。
国産レンズでもフォーカスメモリーを備えたものが少しずつ出てきていますが、それらは全てズームレンズです。星景写真ユーザーやボケ表現を大切にしたいユーザーにとっては単焦点レンズにこそフォーカスメモリーが欲しいわけです。ここではフォーカスメモリーと表記しましたが、SAMYANGでの正式名称は「フォーカスセーブ」です。
いずれにしても任意のフォーカス位置を記憶しておく機能ですね。例えばニコンではボディ側にフォーカスメモリーの機能を組み込んでいますが、レンズ単体に、かつ単焦点レンズに組み込まれているのはSAMYANGだけだと記憶しています。
さて、このV-AFシリーズは動画撮影向けとして設計されていますが、もちろん静止画撮影にも使えます。ラインナップは20mmから100mmまで6本。今回お借りしたのはV-AF 20mm T1.9とV-AF 35mm T1.9の2本です。名称に「T1.9」と入っていますが、「T」はTナンバー或いはT値と言われ、実効的なレンズの明るさを示すレンズの透過率を考慮した値です。
通常レンズの明るさはF値で表記されますよね? F値は単純に焦点距離とレンズの実効的な口径(大きさ)の比率を示す数値ですが、Tナンバーでは構成されるレンズの透過率やコーティングなども考慮され、実際にセンサーに届く光の量を示しているんです。
動画というか、映画用のレンズは昔からこの値が使われていたりします。当然、レンズの構成枚数の多いズームレンズなどでは総合的な透過率は低くなるのでF値とT値の違いは大きくなる傾向です。とはいえ、現代のレンズではコーティングによる光量の損失も大幅に少なくなったし、レンズの透過率自体も良くなっているので、F値とT値の差は小さくなっています。
V-AFシリーズはT1.9で統一されてますが、F値ではF1.8です。カメラに取り付けるとF値での表示になるので、絞り開放にするとF1.8と表示されるんです。
V-AFシリーズは、大きさ・重さが統一されていること(20mmのみ若干重い)、フォーカスセーブ機能が実装されていること、オプションのマニュアルフォーカスアダプターが使用できること、タリーランプが搭載されていることが特筆すべき特徴です。カラーバランスも統一されているので厳密な色合わせが必要な時にもありがたいのです。
それぞれ見ていくと、大きさ・重さが統一されているので、ビデオ雲台やジンバルにカメラを乗せ、レンズ交換をしても改めてバランス調整をする必要がなく、撮影効率が上がります。
フォーカスセーブを使うと、アウトフォーカスから一気に主要被写体にピントを合わせるなんてことができます。これ、通常のAFでやろうとすると意外に上手くいかないんですよ。
タリーランプは録画中を知らせるランプですが、動画撮影待機中にはグリーン、録画中にはレッドに点灯し、録画忘れを防いでくれます。カメラ側に装備したものもありますが多くのカメラには装備されていないので、とても助かりますね。
マニュアルフォーカスアダプターは、外観上でも大きな特徴になります。ガジェット心を刺激して、いいですよね〜、これ。そそります(笑)。これを使うと、大きな回転角で精密にピントを合わせることができるほか、ギアが付いているため、動画撮影で使うフォローフォーカスも加工なしですぐに使えるんです。
またマニュアルフォーカスアダプターを取り付けるとレンズ本体のフォーカスリングが絞りリングとして機能するので、これまたスムーズに絞りを変更できるんですよ〜。これらの特徴は動画撮影に必須ではないですけど、備えていると動画撮影の効率を高めるとともに撮影失敗を大きく防いでくれます。
マニュアルフォーカスアダプターは単体でも販売されていますが、アマゾンではシリーズ各レンズとのセットでお得に販売されています。ただ、セットの組み合わせは在庫によって変わるようなので、希望の組み合わせがない時はしばらく待ってみてくださいね。
ここまで読んで、お! と思った方、そうなんです、これらの特徴こそ、星景写真ユーザーにもおすすめできる理由なのです。1番はフォーカスセーブ機能ですね。MFにしてから無限遠にピントを合わせてボタン長押しでセーブ。短押しすれば、そのピント位置をいつでも再現できます。ボディは無関係なのでレンズごとに個別に設定できるから、レンズ交換をしてもばっちり無限遠をキープできるわけです。
ただし星景写真ユーザーにとってはちょっと残念なことがありますよ……タリーランプは静止画モードでは点灯しません。まあ、当たり前なんですが。静止画でもタリーランプが点灯したらありがたいなぁと思うんです。
星景タイムラプス撮影中とか長時間の露光中に、今、露光しているのかどうかが分からなくなってしまう時があるのです。なので、長時間露光中にもタリーランプが点灯してくれたらありがたいのになあって思うわけです。ま、最近のカメラは動画でもよく星が写るので、動画機能を活用してタイムラプス動画作りましょう。
そして、マニュアルフォーカスアダプターにはフィルターネジが切られていません! なのでフィルターワークができないってことになるんですがそこはそれ、いくらでも工夫のしようがありますね。そうしたDIYが好きな方にはものすごくおすすめです。いずれにしてもメーカーには改善をお願いしたい点です。
残念の連発で申し訳ないんですが、今回お借りしたV-AF20mmもフィルターネジが切られていません。V-AFシリーズの他の5本は全てフィルター径58mmで統一されているんですが……。そのかわりリアフィルターが使えるようになっています。
だけれども、これも工夫次第です。かぶせ式のフィルターネジを作っちゃえばいいんです。僕は余っていたステップダウンリングと黒テープ、あとフェルトで作りました。ねじ込み式フードなんかでも作れますね。これでケラれることもなく、快適にフィルターが使えます。
こうしたネジ付きの短い筒を作る時は、ステップダウンリングを使うと簡単なんです。いくつか組み合わせる必要があるので、僕はセットでいくつか買ってキープしています。今回は77mm→72mmのステップダウンリングを3枚使っています。
さて工夫をもう1つ。現在V-AFシリーズがラインナップされているのはソニー Eマウントのみです。ぼくはね、ニコン派なんですよ。ソニーはジンバル用に使うのがメイン。ニコンのカメラは、ジンバルには少々載せにくいのです。大きくて……。
ちと少し話が逸れてしまいましたが、このレンズ、ニコンでも使いたいじゃないですか。そこで登場するのがMegadapマウントアダプター。
僕が使っているのは1つ前の旧型ですが、ソニーEマウントレンズをニコンZマウントに変換するだけではなく、CPU信号をしっかりボディに伝えてくれます。つまり、AFやら電磁絞りやらレンズの機能をしっかり使えるわけです。
V-AFをつけてみるとフォーカスセーブ機能も含めて全く問題なく動作します。ニコン派の方はこのアダプター買ってみてはいかがでしょうか? レンズの選択肢がかなり増えますよ。
ただ、これも使い方に注意があります。カメラ電源オンのままレンズを脱着するとレンズのCPUが壊れることがあります。これは僕がこのアダプターを使っていて体験した事例です。
特にそうした注意書きは取扱説明書には書いてありませんでしたし、稀な事例ではあると思いますが、念の為レンズ脱着時は電源をオフにしましょう。それさえ忘れなければ、快適に動作します。
作例も掲載しましょう。20mm、35mmそれぞれ2点ずつですが、20mmの1点のみニコンZ8、その他3点はソニーα7cで撮影しています。2本の描写傾向は同じでした。まず星景写真の時ですが絞り開放のとき、周辺部に非点収差が見られるものの、かなり少ないほうです。けれど同心方向にフレアは発生していないので解像感は高いものです。F2.8まで絞るとほぼ非点収差の影響がなくなりますが、若干放射方向に非点収差が残っています。これは多くの高性能単焦点レンズと同様の傾向ですね。
スナップ風景ではピントが合っているところはシャープ、前ボケも後ろボケも輪線ボケ傾向は少なく、結果として柔らかみのあるボケになっています。特筆すべきはゴースト、フレアの少なさでしょうか。
ひまわりのスナップでは左後方に西日を入れ込んでいますが、ゴーストは認識できず、フレアも些少です。これらの表現力はカメラメーカー製の純正レンズの中でも高性能なシリーズの単焦点レンズに比肩するもので、高性能かつリーズナブルなものであると言えます。
しかし、やや欠点もあります。星景写真の水平線を見てわかる通り、樽型の歪曲収差はやや多めです。建築写真には不向きですね。ですが、建築写真は業務で撮ることが多いので、一般的な写真表現において問題になる点ではないかもしれません。
ただし単純な樽型であるので補正は容易です。V-AFは本来動画向けレンズなわけですが、動画においては歪曲収差そのものが気になることはないので、一般的な静止画、動画撮影においてはとても良い選択肢になると思います。
もしこの描写傾向がシリーズ6本で共通したものであるなら、後処理も含めてとても使いやすいレンズとなること請け合いです。機会があれば他の4本もテストしてみたいと思います。
以上でレポートは終わりです。いかがでしたでしょうか、V-AFシリーズ。ガジェット感あふれるデザインと実用性、そして良好な描写。かなりの実力です。僕はシリーズ6本、揃えてみたくなりました。