赤城耕一の「アカギカメラ」
第105回:カメラではなく、“レンズを買う”という意識にさせたソニー「RX1RII」
2024年11月5日 07:00
写真展を拝見するのが大好きな筆者ですが、時として在廊されている作者から、作品の解説ではなく、撮影に使用したカメラとレンズについて細かく解説をしていただくことがあります。筆者から何も聞いてないですよ(笑)。
アカギが観にきたのだから、カメラ話をしないとマズい、ここはサービスだと思って気を遣っていただいたのでしょうか。
そんなことはないか。でもね、お気遣いは無用ですよー。普通の写真展で機材話になることはまずありません。ちゃんと写真作品を鑑賞させてくださいませ。
とはいえ、ごく稀なことではあるのですが、筆者もトシ食ったカメラヲタクですので、写真作品を拝見し、使用機材に関して質問したくなることもあります。野暮なことはよーくわかっております。
でもね、作品から不思議な雰囲気を感じるとか、喫驚するような鮮鋭な描写とか、モノクロのトーンの繋がりが素晴らしいとか。やはり聞いてみたいすね。
これって、機材の数値上の優劣とかコマ速度とかなどとは別の問題なんですよ。作者が使用した機材をどう使いこなしたのかという興味もあります。
ええ、もちろんこんな失礼な質問をして、作者が怒りだしても困るので、誰にでもというわけではありません。
でも、写真展を開催するような実力派は、プロもアマチュアもだいたい親切に使用機材を教えてくれますね。いつも、ありがとうございます。
ただし、あたりまえですが、写真展はプリントで展示するわけですから、個々の画像処理のレベルに加えて、プリンター性能とか、プリント出力の方法や技術スキル、紙質やサーフェースの違いでも、見た目が大きく左右されますから、そのことも加味して拝見する必要があります。
いまから半年ほど前のことです。具体的に作者や作品名のことは書きませんが、東京で行われた、とある写真展で、その中に1枚の気になる作品が目に留まりました。作品は日常のスナップショットでした。
作品内容に共鳴するというより(失礼!)も、その1枚の写真がえらくヌケがよくて、クリアな画質に驚いたのでした。年寄りの筆者には空気感云々という使い古された言葉が脳裏に浮かびました。すみません語彙の少なさに自分で嘆いています。
ほとんどの作品は、大口径レンズを使用して撮影しているようですが、それでも、少し画角が広めなようで、不思議な雰囲気がありました。
大口径レンズの特性を生かすというより、自分のココロにうまく合うようにレンズの焦点距離を選び、絞りをコントロールしているなと感じました。肉眼で自分が見た世界であることは間違いはないけど、それとはまた異なる魅力ある世界が世の中にあることを世間に示しているかのようでした。
モチーフは作者の日常、身の回り、それと街ですから、写っているものに特別に意味があるものはないのですが、肉眼とは異なる、モノたちの再現性に筆者も関心したわけです。
特に筆者が気になった1枚の写真をどんなカメラとレンズで撮影したのか、怒られそうだけど、どうしても使用機材を作者に聞いてみたくなりました。作者は50代くらいの男性。筆者は、作品を拝見したとき、おそらく“アレ”のカメラかなという予想機種はあったのです。筆者もそこそこに自信があったわけで。
勇気を出して作者に尋ねました。そうしたら作品撮影に使用したカメラの多くは、ソニーRX1Rで撮影したものだというのです。
おー、すげー。なるほど。筆者の予想は見事に外れました。
じつは筆者は作品はリコーGR IIIで撮影したものではないかと予想したのであります。それが“アレ” だったのですが。
言われてみれば、たしかにGR IIIのそれとは微妙に違うような気がする。そう、気がすることがとても大事なのです。
もちろんこの作者の実力なら、同じモチーフをGRIIIで撮影したとしても、同レベルの作品に創ることでしょう。そういう意味ではカメラの種類は重要ではないのですが、でもGRIIIよりも被写界深度がより浅く感じたので、不思議なニュアンスを感じたことは確かです。
これらの作品がミラーレスや一眼レフでは撮影したものではないだろうと予想したのは、モチーフ自体が、カメラを準備してまで撮影はしないであろう、日常の断片というか、ごくあたりまえすぎるモノを撮影対象にしていたからです。
つまり、作者とカメラとの距離が近いというか、作者と共に、常にカメラがある感じなわけです。レンズ交換式のデカめな一眼レフやミラーレス機では日常から、撮影者に常に寄り添うのは難しいでしょう。
普通ならこうした日常はスマホで撮るかなあ。いやスマホならば被写界深度が深すぎて、手を入れないと主題が弱まり印象的な写真にはならないことがあります。だからこそ、単機能である“カメラ” は必要だと考えるわけですが。
ちなみにこの作者ですが、愛用のRX1が壊れたので、修理依頼をしたところ、高額の見積もりが来たので一度は諦めようと思ったそうです。けれど、唯一無二の写りをするカメラなのでやはり手放すことができず、やむなく修理依頼をしたとのことでした。
いやー好きですね、こういう話は。影響を受けやすい筆者は、ここから「RX1への旅」がはじまってしまったのです。
筆者としては登場以来、ライカQシリーズのことを今日までずっと気にしていたのですが、これは価格的にも現実的な存在ではない、自分には分不相応なカメラとして、見送り続けていたのです。
先の写真展での印象やら、使用目的を考えると、おお、RX1があったではないかというふうに割り切ることができたわけです。あいかわらず単純です。
しばらくして筆者のところにやってきたのは、2015年に登場したRX1RIIでした。RX1は探してもよい個体が見つからなかったのですが、RX1RIIもすでに販売終了となっていました。悲しい。そのためか筆者でもなんとか購入することができる価格でした。
RX1RIIは「α7R II」と同等の35mmフルサイズの有効約4,240万画素、裏面照射型のExmor R CMOSセンサーを搭載。画像処理エンジン、光学式の可変ローパスフィルターを採用。なかなか気合いの入ったコンパクトカメラであります。
とはいいながら、RX1RIIも登場からもう10年近くの時を経ておりますから、ぜーんぜん機能的に新しくありませんが、年寄りになると、10年前なんて数日前に感じることがあります。
しかも最近まで現行機種だったわけですから、それなりの存在感をずっと長く示していたのでしょう。
ただねRX1シリーズは孤高の存在ですね。だからいずれの機種も万人受けするカメラではありません。
単焦点レンズだし、どうすんだよこれ、と、旅行に出かける配偶者に貸したら、不便だと、あとで怒られることになる可能性が極めて高いカメラであります。
筆者はいつものとおり、最先端機能のカメラだと使いきれずに持て余してしまいます。単焦点レンズ搭載のRX1RIIにとくに不満を感じませんでした。こんな高画素は必要ありませんけど、これはデバイス選択の問題だから、やむをえないし。
本機はコントラストAFと像面位相差AFを併用する「ファストハイブリッドAF」ですから、こちらが手助けしなくても、よい感じにフォーカシングされて心地よいですね、これで大丈夫です、別にスポーツ撮影するわけではないので。
AFエリアの位置は十字キー中央ボタンを押して決定します。これも高級カメラにはあるまじきまったりした使用方法です。まだこの時代はタッチパネルがなかったのかしら。スティックタイプのAFコントローラみたいなものもなかったんでしたっけ。まあ、筆者の使い方だとさほど困らないので大きな問題ではありません。
MF時には申し訳程度に距離指標が表示されますが、これはあまり実用的ではないですね。ここだけはライカQシリーズを見習ってほしいです。
発売当時のウリだった、可変式の光学ローパスフィルターですが、筆者はナシにして使うことに。どうせ筆者はRAWでしか撮りませんから、モアレが出たら画像処理で修正してしまえという割り切り方で挑むことにしました。
もうひとつ、筆者をRX1RIIに向かわせたのは、ポップアップ式のEVFが搭載されていることでした。筆者にはファインダーが必要なんですよねえ。ここ、けっこう大事です。RX1やRX1Rでスピードライトを内蔵していたスペースに、ポップアップ式のEVFをビルトインした感じですね。
EVFは0.39型約236万ドットで光学系はすべてガラス製。T*コーティングされてます。贅沢です。EVFも光学系は重要なんですよね。
ボディ内に収納することができるのに、アイピース部分も大きく、眼鏡愛用者にもよく見えます。アイカップまで付属してますぜ。ただ、使うのか、コレ。
搭載レンズはRX1から変わらないツァイスのゾナーT*35mm F2です。当初から、プラナーじゃあなくてゾナーなのかよって、気持ち的には少しひっかからなくもなかったのですが、マクロ切り替え時に最短撮影距離が0.14mと知って、納得する筆者でした。
ゾナータイプは至近距離に弱い、というのは昔話なのかなあ、絞りによる焦点移動があることも。これはもっと大口径のレンズに限ってでしょうか。もっともAFを前提にしていますし、昔のゾナータイプといまのゾナータイプレンズを比較してどうするって話もあります。
RX1RIIで撮影した画像をみてみると撮影距離の違いによる性能変化を感じさせない優れものです。本機にようなレンズ一体型のカメラは、センサーとレンズの徹底したチューンができ、画質を追い込むことができるのでしょう。
そういえば筆者はEマウントのゾナーT*35mm F2.8のユーザーでもあります。明るさは1段違い、こちらは最短撮影距離は0.4mですから、かなり差をつけられた感じすらしました。
RX1RII、筆者はカメラを購入するという感覚より、“レンズを購入する” という感覚のほうが強かったように思います。
カメラ全体のデザインを見れば納得ですが、レンズ一体型とはいえ、ボディ本体よりもレンズの巨大さが目につきます。目立つのはレンズだけで、ボディは後ろに隠れているかのようです。
フィルム時代のコンパクトカメラなら、暴れたくなるようなバランスの悪さですが、デジタルになって、妙に納得してしまうのはなぜなのでしょうか。
ツァイスは頑固ですから、レンズを小さく軽量化して、そのトレードオフで光学性能を落とすことは許さなかったのでしょう。それでも35mmフルサイズのカメラを小さいバッグの中に収納できるサイズにしたのは素晴らしいことですね。これこそがコンパクトカメラの王者と思えてくるほどです。
画質はどうでしょうか。レンズが優秀なので、画面中央位置では撮影距離や絞り設定で性能の変化は筆者にはよくわかりませんね。周辺光量も余裕があります。
間違いなく開放から画面中央はビンビンな描写であります。完全に画質の均質性を追求するなら多少の絞り込みは必要なんでしょう。ただ、本機導入のきっかけとなった、あの写真展でみたときの感激はないのですが、それでも個性ありますし、場合によってはブラインドテストしても本機で撮影したことがわかるようになるかもしれません。コンパクトなのに超高画質というパフォーマンスを強く感じます。
筆者が重要視したのは、「35mmフルサイズフォーマット」による高画質ではなくて、35mmレンズのもつ画角とその特性に気持ちを奪われたことであります。フルサイズだからこそ“35mmの真実” を知ることができるわけです。
これは画角の問題だけではないという意味です。マイクロフォーサーズの焦点距離17mmとか、APS-Cでの焦点距離24mmを使えば35ミリフルサイズの35mm判換算の35mmレンズと相当の画角になるから同じ写真になるかといえば、実は微妙にニュアンスが異なる写真にわけです。
極論すると、だからフルサイズが必要だという論理は成り立ちます。強い説得力はありませんが、たしかに違うわけです。
毎度申し上げていますが、筆者がもし職業写真家をやっていなければ、残りの人生はすべて35mmレンズだけでやっていくことができるのではないかと考えています。だとしたら交換レンズのことを考えなくても済むので経済的でいいよなあ。
RX1RIIはレンズ交換することができない。35mm一筋です。
ここに、ユーザー側にも強い覚悟と決心が生まれるわけです。しかも高性能単焦点レンズですよ。カールツァイスなんだぜ。筆者にはそのポテンシャルを生かし切れる自信はないんですけどね。
つまり、それだけ35mmレンズに入れ込んでいるのですから、RX1RIIは間違いなく必要なカメラだと自分自身を納得させることができる次第なのであります。ホントか。
でもね、明日あたりIII型が発表されると困るよなー。ないと思うけどね。