赤城耕一の「アカギカメラ」

第104回:仕事のためのサブカメラを買おう——キヤノン「EOS RP」(5,000台限定モデル)

おはようございます。日曜日の朝です。みなさまいかがお過ごしでしょうか。“カメラを買う理由” をでっち上げる。じゃない、考えるの時間です。

本連載は誰しもが納得することができるカメラ購入のための正当な理由を見つけ出し、道標をつけ、明日へ平和と希望に繋げようという目標がございます。決してムダ遣いの言い訳のためではありませんので念のため申し上げておきます。

さっそくですが、今回のお題は「サブカメラを考える」になります。

ご存知の方もいらっしゃるとは思うのですが、こうみえても当社の定款には、ここでヨタ話を書くほかに、いちおう職業写真家で活動する事業もあるので、作例以外にもまじめに撮影に取り組まなければならないミッションがございます。あたりまえですがかなりこの業務はハードです。

ここからが本題です。先日のことですが、久しぶりに某著名人の撮影がございまして、愛機キヤノンEOS R6 Mark IIを持ち出してお仕事をしました。

ところが現場での撮影直前に、立ち会いの編集者が「できるだけたくさんのバリエーションが欲しい」と突然言いだすわけです。

出ましたよ、左右どちらページになるか見開きか方起こしかわからないので、ヨリとヒキと顔の方向とか、どのような扱いにも対応できるように撮影して欲しいと。

おまえさ、もっと早く言えよ。あとで上司に怒られねえように現場でオレにムリな注文つけんのかよ? 撮影時間は10分もねえし、こんな狭いスタジオでどうすんだよ?

とは言いませんよ、もちろん。筆者は優しいですから。

筆者もムダに長く仕事していますので、イレギュラーな現場対応は得意なほうなのです。さらっとサブカメラを用意して、異なるレンズをつけて、アングル変えて、ライティングをいじって、さくさく撮ればだいたいの案件は時間がなくても解決してしまうので、そんなに問題はないわけです。

EOS Rもそうでしたが、最初に使った時にやけにヌケがいいなあという印象を持ったことを思い出しましたがそんな1枚であります。
キヤノン EOS RP/RF50mm F1.8 STM/絞り優先AE(1/200秒、F10、−0.3EV)/ISO 100
こうした単純な画でもヌケの良さは感じるわけです。Rシリーズになって、ごく薄いベールのようなものが消失した感じがします。
キヤノン EOS RP/シグマ 20mm F1.8 EX DG/プログラムAE(1/500秒、F8.0、±0.0EV)/ISO 400
夜景なんですけど、ビルの壁面の月であります。なかなかの描写です。階調が豊富にみえます。
キヤノン EOS RP/RF50mm F1.8 STM/絞り優先AE(1/100秒、F2.2、−0.7EV)/ISO 400

と言ってもですね、この日のサブカメラとして持っていたのはEOS R7でありました。

いやこれが毎度フツーのことなんで、なんら文句ないんですけどね。ただ、ちょっとこの日は異なりまして、撮影にあたり、少しマゴついたりした自分がいたわけです。周りは気づいてないと思うのですが。

異なるフォーマットサイズのカメラを同じ条件で同時に共用するって、意外と疲れることがあります。時間の余裕あればいいんですけどね。年寄りになったから対応しきれなくなったのかもしれませんけど。

したがって効率がいいのはEOS R7に合わせて、EOS R6 Mark IIをAPS-Cの静止画クロップに設定すれば違和感はなくなるし問題はありません。でもなんかね、それも気持ち的に許せないところがあるわけです。

仮に画角が同じになるレンズを用意したとしても、フォーマットサイズが異なるとレンズの焦点距離が変わりますから、画の雰囲気が変わるのです。これはあたりまえですね。

こういう時は、あー、EOS Rを手放さなければよかったぜー。と一瞬だけ後悔しました。けれど筆者はEOS Rの「マルチファンクションバー」がどうしても体に合わず、きっぱりと別れを告げていたのでした。

結論としては、この時も何も問題なくお仕事は終了しました。でもちょっとした気持ちの問題として、ココロの中では「もう1台フルサイズカメラがないとダメだ」という気持ちが持ち上がりました。

いつも申し上げておりますが筆者は35mmフルサイズセンサー至上主義ではありませんが、仕事となれば効率よくこなしたいものですから、繰り返しますが、同じフォーマットのカメラを使うのが定石であります。

フィルムカメラ時代ならば、同じ機種を複数台揃えるというのはあたりまえのことですけどね、本来ならばEOS R6 Mark IIをもう1台用意するとか、新型のR5 Mark IIとか、まもなく登場するR1とか用意すれば済むことですが、昨今のお仕事の事情とか経済状況がそれを許さないわけです。

で、サブはさ、EOS R8しかありえないだろう、ここはフツー。と早めに結論は出ました。そして、某カメラ店で購入するために向かうわけです。ただ、今回はそこで事件が起こるじゃない予想外の出会いがございました。

お店のウィンドウの棚にEOS R8 によく似ているカメラを見つけたのです。ただ、大きく異なるのが、ボディカラーがシャンパンカラーなのであります。そうですオリンパスOM-4Tiの初期タイプとか、ニコンF3Tiのシルバーモデルとか、コンタックスT2とかに色が似ている色なわけですが、カタチはEOS R8なのです。

はい、カメラ好きな読者はもうおわかりですね。このカメラはEOS RPといいます。

ボディカラーがゴールドで貼り革が明るいブラウンというのも悪くないですね。汚れづらいし。ただ特別に高級な感じもしませんがチープでもないという。女子はカワイイとか言ってくれますかねえ(期待)。

2019年に登場。有効約2,620万画素のCMOSセンサーを搭載したエントリー機であります。

RPのPはポピュレールのことで1959年のキヤノンPに由来と。ま、これはちょっと意味が違うと思いますけどね。

キヤノンP(ポピュレール)のカタログです。伸びゆく若い世代のカメラというキャッチがついております。可愛らしい女性がカメラを持って微笑んでおりますので老人は嬉しくなります。
元祖キヤノンPの実物がコレです。ブラックなところが素直じゃありません。アルバダ式のファインダーにはたくさんのブライトフレームが見えてにぎやかでギラギラします。ライカとは異なります。でもパララックスは自動補正したりします。

連写速度はAF追従で約4コマ/秒、AF固定で約5コマ/秒と。これはコマ速度が高速すぎると、毎度文句を言い出す筆者としては願ってもない仕様であります。あと、軽いですね、500gに満たない重量。すばらしいことであります。

このシャンパンカラー、いや、正式にはゴールドモデルなのかな、限定発売5000台で、棚にあったのは中古ですが、ほぼデッドストック品だったようであります。

このゴールドね、筆者の記憶によればあまり人気なかったみたいですぜ。発売当時、チェーン店にて廉価に売られていたのを見た記憶があります。でも、今だから言いますけどね、筆者は発売時にけっこう気になっておりました。

この種の色のカメラはね、女の子にウケがいいとかいう下心で使うわけじゃあないんですよ。いつも言ってますが、年寄りになってからはブラックよりもシルバーなカメラが好きになったので、この明るいRPは老人のココロに響いたわけであります。

それにしてもEOS RPは2024年10月20日(日)の時点で現行商品ですからね。デジタルカメとしてはロングセラーモデルと言っても過言ではありません。35mmフルサイズセンサー搭載カメラとしては、コストパフォーマンスに優れているからでしょうか。

もう少し具体的にEOS RPとEOS R8のスペックを比較してみますと、EOS RPの約2.620万画素に対して、EOS R8では約2.420万画素となぜか200万画素減少しました。もちろん実際にはそれぞれの画像を比べても画素数の違いを見分けることなどできないでしょう。

常用での最高感度はRPはISO 40000ですが、R8ではISO 102400になり。これはISO 40000ですら使わない筆者としては問題はなく。

画像エンジンはDIGIC 8から最新のDIGIC Xに進化しましたが。DIGIC 8でも、私には十分に綺麗にみえますけど。

連続撮影速度は電子先幕使用時にRPの約5コマ/秒からR8では約6コマ/秒。R8は電子シャッターでは40コマ/秒撮影できますが、この高速連写性能は筆者は使わないのでまったく意味がありません。

あとはR8ではAF機能の測距エリアが広がっているとか、被写体別のAFでは人物、動物、乗り物にも対応ってのはありますが、筆者の仕事では顔にふつうにフォーカスが合えばOKなのです。

光源の再現を見たかったので軽く撮影しましたが、まとまりのよい描写をします。お安いレンズでもよく写ります。
キヤノン EOS RP/RF50mm F1.8 STM/絞り優先AE(1/80秒、F2.2、−0.3EV)/ISO 400
じゃあ、逆光の描写なんかどうですかねえということで撮りましたが、合焦点はシャープだし、光源近くにわずかなフレアがあるだけですね。つまらないじゃないですか。
キヤノン EOS RP/RF50mm F1.8 STM/絞り優先AE(1/2,500秒、F2.8、±0.0EV)/ISO 100

で、連れて帰ってきましたよ、EOS RPゴールドを。ここで書くのもはばかられるくらい廉価な設定だったこともあるのですが。5,000台限定というアドバンテージは、ここではゼロの価値なのであります。貧しい筆者にはありがたいことです。

カメラ選択を機能ではなくて色で選んでしまう筆者にも少々問題があるかもしれませんが、世知辛い世の中ですから、カメラくらい明るい色でいてもよくないですか。

仲間内の酒宴においても目立ちますし、一度くらいなら異端のカラーモデルとして、ネタとして使うことができるでしょう。これもカメラ購入の立派な理由になるではないですか。ダメか。

ギラギラしてモードダイヤルが見づらい条件もあるやもしれませんが、いいんですよ、全体のデザイン優先で。ダイヤル類をできるだけ沈めたレイアウトがまた美しいですね
単純にメインスイッチなんですが、これもまたビルトインっぽくしてあるのでOKです。
RPの背面。特別な高級感はありませんし、アイコンや文字の視認性もいまひとつなのですが、十字キーやボタンの操作フィーリングや押下感からはエントリー機という感触はありません。
背面モニターはバリアングルです。本機では動画撮影はしないと思います。写真撮影でも慣れてしまいましたので問題はありません。

EOS RPにはR6 Mark IIのサブカメラとしてのミッションのほか、その小型軽量さを生かし、日々の筆者に帯同してもらうカメラとして、役割も担っていただくことにいたしました。

実際にRPくんを使用してみると、少し挙動はおっとりしている感じはありますが、ボタンの押下フィーリング、ダイヤル系のトルク感などは決して悪くありません。一部に少々作り込みの安さを感じるところもありますが、全体の印象では、なかなか感じのいいやつなのであります。

うちにあるいちばん小さいカメラバックにすっぽりと入ることも気に入っています。

いつもこの配管を撮影し、レンズの歪曲などを確かめ実直な写りをするかどうか試していますが、想像以上に良好ですね。この条件でのこの階調再現は見事です。
キヤノン EOS RP/タムロン SP 45mm F/1.8 Di VC USD/プログラムAE(1/500秒、F7.1、±0.0EV)/ISO 100
古いシグマの20mmレンズを使用してみましたが、驚くほどよく写りますねえ。普段、描写について騒いでいるのがイヤになり。
キヤノン EOS RP/シグマ 20mm F1.8 EX DG/プログラムAE(1/1,000秒、F10、−0.7EV)/ISO 400
周辺で少し引っ張られるような描写をしますけど、良い描写ですね。昨今は若ぶって、超広角レンズで街に挑むわけです。
キヤノン EOS RP/シグマ 20mm F1.8 EX DG/プログラムAE(1/1,000秒、F10、±0.0EV)/ISO 400

初代のキヤノンPが「大衆高級路線」のカメラと矛盾したコピーがつけられたみたいですが、RPもなんだかそれにぴったりの雰囲気があるのは興味深いですね。

つまらないグリップをつけて、せっかくの小型軽量さを台無しにしてどうするんだよ、とも思ったのですが、うっかりRP専用のグリップであるEG-E1のゴールドをネット上で見つけてしまい、これも購入して装着してみることにしました。ほら、姿とカタチが変わった姿もいちおうは見ておきたいわけです。

EG-E1、最初はどんがらのプレートじゃないかとバカにしていました。昔のペンタックスZ-1Pにつける無意味なグリップ(誰も知らないか)みたいです。

BG-E1。ドンガラのグリップなんですが、何のために用意されたのかよくわからないのですが、デザインを変えたかったのかな。でも、グリップの下に余る小指のレストポジションがあります。もちろんメディアやメモリーカードへのアクセスも楽です。

でもね、見た目も上がり、極端に重量増になるわけでもないので、それなりに具合がいいのです。なによりもグリップを握った右手の小指の置き場所を作ってあげた感じもしますしね。

EOS RPでの1番の残念感はボディに手ブレ補正機構が内蔵されていないことですね。これはEOS R8もそうなんですけど。

筆者の手持ちの交換レンズは、RFレンズよりも古いEFレンズのほうが圧倒的に多いものですから、どうしてもアダプターでの使用が多くなってしまいます。

RFレンズが買えない筆者はコントロールリングつきのマウントアダプターで各種EFレンズを装着して活用しております。動作に関してのストレスはありませんし、デジタルレンズオプティマイザも使えますので安心です。
キヤノン EOS RP/EF40mm F2.8 STM/プログラムAE(1/1,250秒、F11、−0.3EV)/ISO 400

RPは小型軽量ですから、EFレンズの中には、どうしてもバランスが悪くなってしまうものもあり、当然手ブレの危険が増すわけですが、ここさえうまくカバーすることができれば、仕様上の問題はありませんし、デジタルレンズオプティマイザの力を借りれば、実用上の画質に問題は感じません。

ただ、IS(手ブレ補正)なしのレンズを室内や夜間など微量光下の環境で手持ちで使うのは、EOS R6 Mark IIの強力な手ブレ補正に甘えて過ごしてきた筆者には少々不安もあります。だらしないですね。

とはいえ、ここぞというときはEOS R6 Mark IIを使えばいいだけのことではないかと、ここは潔く割り切ることにしました。道具も使い分けですぜ。

EOS RPくんにはさっそく依頼仕事撮影もお願いしてみたのですが、とても好結果でありました。エントリー機で仕事しちゃうのはEOS X7のころから筆者の得意技でもあるのです。それに時おりサブカメラからメインカメラに昇格する時もあるのではないかと。いえ、繰り返しますが決して女子の気を惹くためためじゃないですから。RPくんとは予想以上に今後も引き続きうまくやっていけそうです。

東京の銘酒の酒樽が置いてあったので思わず撮影したり。明暗差があるのにハイライトからディープシャドーへの階調の繋がりの見事さ。
キヤノン EOS RP/シグマ 20mm F1.8 EX DG/プログラムAE(1/800秒、F10、−0.7EV)/ISO 400
再開発地域。明暗差が大きく、後ろの家屋は再現されないだろうなあと思ったら、ちゃんと写ってますねえ。板塀まで完璧です。
キヤノン EOS RP/シグマ 20mm F1.8 EX DG/プログラムAE(1/1,250秒、F13、−0.7EV)/ISO 400
午後のトボけた街の景色なんですが、好天の日こそ露出配分はどうするかとか悩んでしまいます。
キヤノン EOS RP/シグマ 20mm F1.8 EX DG/プログラムAE(1/1,000秒、F11、±0.0EV)/ISO 400
再至近距離で撮影しています。老人は膝が痛いので、バリアングルモニターを活用して適当に撮影したのですが、ちゃんとフォーカスは目に合っています。
キヤノン EOS RP/シグマ 20mm F1.8 EX DG/プログラムAE(1/1,000秒、F11、−0.3EV)/ISO 400
ダリアに蝶がとまっていました。この手のものは弱含みなんで腰が引けた撮影です。モニターをナナメに見ながら適当にシャッター切ったらちゃんと写りました。当たり前か。
キヤノン EOS RP/RF50mm F1.8 STM/絞り優先AE(1/4,000秒、F3.2、−1.0EV)/ISO 400
赤城耕一

1961年東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒。一般雑誌や広告、PR誌の撮影をするかたわら、ライターとしてデジカメ Watchをはじめとする各種カメラ雑誌へ、メカニズムの論評、写真評、書評を寄稿している。またワークショップ講師、芸術系大学、専門学校などの講師を務める。日本作例写真家協会(JSPA)会長。著書に「アカギカメラ—偏愛だって、いいじゃない。」(インプレス)「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)「赤城写真機診療所 MarkII」(玄光社)など多数。