赤城耕一の「アカギカメラ」

第102回:ニコン「Z6III」+「NIKKOR Z 35mm f/1.4」に感じる絶妙なマッチングの良さ

敬老の日が過ぎるたびに老人であることを自覚しなさい。と言われているような気がする筆者でございますが、みなさまお元気ですか?今回もカメラと戯れようの時間がやってきました。

今回のお題はニコンZ6III+NIKKOR Z 35mm f/1.4という自分にとっては王道すぎるくらいのセットであります。

現在、アカギ家には数本のNIKKOR Zがあるのですが、ニコンZ系カメラボディが不在という状況がとても長く続いております。最後に自分のZに触れたのはZfcでしたか、でもその生活は、1カ月持ちませんでした……。理由は語りません。

先日、先達の同業者から「アカギならニコンZfを枕元に置いて、毎晩、シリコンクロスで磨いているんじゃねえか?」と言われました。んなことはあるはずがありません。磨いているのはライカM3だけです。

何度もニコンZfさんにはお越しいただこうかと考えてはいましたが、いざとなると、いざとなると腰が重くなってしまうのは、筆者がデブであるという理由だけではなさそうです。あ、もちろんフトコロは軽いままであるという根本的な理由はあります。

いま家にはニコンDfは白黒2台あるという重みも見過ごせないのです。

ある意味ではDfのナカーマでもあるZfさんにうちにお越しいただいてもよいのと思うのですが、自分の中ではどうしてもヘリテージデザインとミラーレスのZとの整合性が弱いと感じてしまうわけです。

正直にいえば、Dfもかなりムリしてんじゃね? みたいな印象はあったことは否めないのですが、それでも「一眼レフ」であることは違いありませんから、外観をクラシックなスタイルにしても、同種のカメラである整合性という意味で納得はいくわけですね。

酷暑の新宿です。肉眼では暑そうな空でしたが、Z6IIIくんは少し涼しげな青空に“盛って” くれたような気がします。救われた気持ちになりました。
ニコン Z6III/NIKKOR Z 35mm f/1.4/絞り優先AE(1/640秒、F8.0、−0.7EV)/ISO 100
駐車場の片隅にて。ハードな雰囲気のクルマのボディ、背景のコンクリートなどの描写もたいへんけっこうであります。
ニコン Z6III/NIKKOR Z 35mm f/1.4/絞り優先AE(1/500秒、F8.0、−0.7EV)/ISO 100
噺家。デフォルトだと暗部まで綺麗に描写しすぎてしまう(笑)ので、手を入れてしまおうかと思ったのですが反則なんでヤメました。エッジのボケも自然だし、合焦点の描写もなかなかです。周辺光量はもうちょい落ちてもいいのに(笑)
ニコン Z6III/NIKKOR Z 35mm f/1.4/絞り優先AE(1/160秒、F1.8、−0.7EV)/ISO 1600

ところがZfは最新のミラーレス機にニコンMF一眼レフの着ぐるみを被せた感がどうしても拭えないわけです。はい、こういう杓子定規なところが頑固なジジイであることを証明しています。

そんなにムリして姿形を“一眼レフ”に似せていただかなくてもね、ウチにはニコンDfの他にも、ニコンFヒトケタシリーズの全機種と、FMもFE2もニコマートもあるぜ、という、幸せに満ちた生活を長年送っておりますから、Zfさんにおいでいただくと家庭内の平和を乱してしまう可能性はあります。ちなみに、うちの妻はニコンFとF3の違いは見分けることができますから、極めて危険なリスクを背負うことになります。

どのみち近い将来、なんらかのZは、お越しいただくことになるはずですし、ならば、いちおう職業写真家でもある筆者としては正攻法のZ8を選び、仕事をしつつ、プライベートな時間も楽しめるのではないかと考えておりましたが、そのまま時が過ぎてしまいました。

ええ、予算の問題とか、超高性能のZを活躍させることができるお仕事の依頼がないとか、他のカメラに目移りするとかいう当然の事態もございまして、懸案の事項のまま放置されていたというわけであります。

そうしたら、ちゃんと出てくるわけです、ニコンZ6III。

筆者としてはですね、ニコンZシリーズの黎明期から、ウチもミラーレスにしましたので、ひとつ今後ともどうぞよろしくお願いしますね。という感じをそのままスッと単純に受け入れることができなかったわけです。年寄りは偏屈ですから仕方ありません。

それはとくにデザイン面においていえることなのですが、年寄りの保守的な価値観なんか、そんなものであります。これはですね、交換レンズのデザインなんかも含まれています。

ただ、不思議なことにZ6IIIに関しては何か見た印象、手にした時のバランスがこれまでと少し異なるように感じました。発表会で最初に手にした時も、これだろ、これ。とか思いましたもん。

具体的になかなか説明しづらいのですが、デザイン面では前機種と大して変わらないのに、「Nikon」のロゴの傾斜の具合とか、凹みがなくなったこと。コマンドダイヤルが上面とツラ位置が前機種と変わらず同じとか、実直に感じるLCDの正方形が、品格を高めたように思えるのです。ええ、年寄りはねちねちとつまらないことに細かいんですよね。

ボディ上部の四角いディスプレイが好きです。デザインのバランスも良好であります。

筆者の嫌いなモードダイヤルが少々強い主張をしているのは変わらず残念ですが、左肩にあるので許せてしまうレベル。またグリップ感が、筆者の小さい手のひらでも貼りつく感じがするのは評価せねばなりません。

えーと読者のみなさんがお好きな、スペック関連ですが、筆者としてはFX(35mmフルサイズ)フォーマットであること、有効画素数は約2,450万というところがもっともバランスがよくて気に入っております。正直、“部分” 積層型CMOSセンサーがどうのとか、EXPEED 7は前機種よりも約10倍速い高速処理が可能だとかいうのは、他の優れたレビューワーさんの評価のほうが正しいと思いますので、そちらを参考にしてください。

最大約120コマ/秒の高速連写、FHDでの240p動画撮影、6K/60pのN-RAW動画のカメラ内収録は筆者にはデブに真珠な感じがします。

ただね、筆者がカメラの評価でもっとも厳しいファインダーの性能に関しては驚きましたね。

ついにここまできたぜ的な印象はあります。約576万ドットということですが、これは精細さもあるけど、ファインダーが見やすいというとは、光学系が優れた設計であり、しっかりしていることに他なりませんね。いかにもEVFを見ています的な感覚がさらに薄らいでおります。ミラーレスカメラ史上最も明るいという輝度というのは、よくわからないのですが、ミラーレス機では、撮影時の答え合わせをリアルタイムで行うことができ、動画ならなおさらですが、アサインメントの撮影ではとても助かるわけです。

ファインダーがしっかりしていると、カメラ中央が少々盛り上がって、一眼レフみたいだなーと考えていても、まー許しちゃうかなーという筆者でございます。優柔不断といえばそうなんですが、これはどうしようもないですね。

ったく、おまえに許されても嬉しくねえよ。というニコンのエンジニアの声が聞こえてきそうです。年寄りの戯言ですから許してください。すみません。

少々コントラストの強い条件ではどうなるかということで撮影したけど、何事もないように写ります。あたりまえですね。
ニコン Z6III/NIKKOR Z 35mm f/1.4/絞り優先AE(1/800秒、F4.0、−0.7EV)/ISO 100
雨が降ってきたので木陰に避難したらざくろの実がありまして。撮影してみました。背景ボケはよい感じですね。
ニコン Z6III/NIKKOR Z 35mm f/1.4/絞り優先AE(1/160秒、F1.4、−0.7EV)/ISO 400

それにしても約20コマ/秒の連続撮影時にも滑らかなファインダー像が得られるのはリフレッシュレートに優れるからでしょうけど、筆者は高速連写はしないので重要視はしていませんが、それでも低速の連写撮影では余裕の見え方になるはず。

あとね、メカシャッターの搭載ですね。これがあるだけで、年寄りは気持ちが上がります。

いえ、メカシャッターを使用する必然を感じる場面は、スピードライト撮影くらいなのでしょうが、筆者は高速連写をすることはありませんから、メカシャッターを使用しても耐久性は問題ないわけです。

あの電子シャッター設定の時のインチキなシャッター音は、高周波音が聞こえない年寄りには時としてノイズめいて聞こえることがあるほどです。振動や動作音はカメラの敵ではあるのですが、これもモチーフや撮影条件によります。撮影時の手応えや快楽は、動作音によるところも大きいということです。

筆者はフィルム一眼レフカメラにモータードライブを装着して自室の中で空シャッターを切るだけで、ハイボール2杯はイケますので。機能だけではない“何か” がメカシャッターにはあるんですね。

背面モニターははバリアングル。スチル撮影派の中には極度に嫌う人がいますが、もう慣れましょうよ。タッチパネルの3.2型TFT液晶、約210万ドットという仕様。どうでPCで見るんだから割り切りでいいんじゃないですかね。

もちろんローリングシャッターの歪みが小さいことは、とても大切なことです。

筆者も静粛な場所での撮影では積極的に使いますからね。電子とメカと選択ができるハイブリッドさは機能だけではなく、情感的にも必要だと思うことありますもん。これプライベートな時間には評価対象になります。

質量は約670gということで前機種よりも少しだけ重たいみたいですけども、グリップ感がよいためか気になりません。前機種と大きさも大して変わらないのに、なんとなく全体のイメージとしては「締まった」雰囲気が感じられたことも評価対象であります。

「Z6III」の検出被写体は「人物」「犬」「猫」「鳥」「車」「バイク」「自転車」「列車」「飛行機」の9種類ということで、面倒くさがりの筆者ですから、今回の試用でも「オート」を多用しています。ま、アサインメントではないから、手を抜いた、じゃない肩の力を抜いて撮影したというわけですが、ほとんど不満は感じることはありませんでした。とても素晴らしいことです。

もちろんカメラ任せになんかできるかというウルサイ人は、オートを外し、具体的な被写体検出のアイコンを選ぶとか、マメに測距点を選択して、確実に納得がゆくまで測距し、追い込んでゆくことで自身の写真に賭ける姿勢と存在意義、意思を強く示すということもひとつのあり方です。ただし、残念ながら周りの人は誰も褒めてはくれないと思いますけどね。

Z6IIIもたいへんよろしかったのですが、もうひとつ、筆者の血糖値じゃない、気分をあげたのはNIKKOR Z 35mm f/1.4の登場であります。同じ焦点距離のS-Line「NIKKOR Z 35mm f/1.8 S」とほぼ同等のサイズでありますからね驚きですね。

F1.8がデカすぎたという、いじわるな見方もできるのかもしれないけどね。それでいてf1.8よりも廉価設定だったり。年寄りはここで暴れますね。年金の使いみちをムダにしちゃだめです。

Fマウント用の「AF-S NIKKOR 35mm f/1.4G」を上回る描写とアナウンスされていますけど、筆者は黄変した古いNIKKOR AUTO35mm F1.4も使用していますから、3世代の隔絶の感がありますが、それぞれに存在意義はあると思います。

それにしてもなぜS-Lineにしなかったのか、これが本レンズ最大の謎であります。ニコン自らが周辺部までの高い描写性能を求める場合は「NIKKOR Z 35mm f/1.8 S」が適するとアナウンスしちゃう正直さも好きですけどね。

S-Lineじゃないし、開放絞り値では使いものにならないのか。と言われると、これは真逆ですね。

開放絞りから絞り込むにつれ次第に収差が変化する、そのコントロールしてゆく匙加減に萌えませんか? 開放時のわずかに軟らかみのある描写は、そう、年寄りの目に優しく感じます。でもね、もっとポヨっとした描写してもいいんだぞ。

どうなんですか、若い読者さんはこういう描写だめですかね。でもね安心してください。少し絞るとギンギンになります。

最短撮影距離0.23mで絞り開放。手前のシーサーが奇妙なボケかたをしていますが、他はツッコミどころありません。ものすごく拡大するとわずかなハイライトの滲みあるけど、粗探しに近いです(笑)
ニコン Z6III/NIKKOR Z 35mm f/1.4/絞り優先AE(1/4,000秒、F1.4、−0.7EV)/ISO 200
夏が大嫌いな筆者ですから、向日葵のこの姿をみると嬉しいのですが、気温は35度ありました。コントラスト高いけど、よい描写です。
ニコン Z6III/NIKKOR Z 35mm f/1.4/絞り優先AE(1/160秒、F8.0、−0.7EV)/ISO 100

レンズ構成は9群11枚で十分に贅沢です。非球面レンズも2枚入っています。色収差が心配な仕様ですけど、今回の試用ではまず問題なかったですね。不満なのは、開放からシャープすぎることと、周辺光量が多すぎることです。もうね、手を入れたくなったのですが、必死で自分を止めました(笑)

それにしても同じ単焦点で焦点距離も同じレンズなのに、大口径のほうを廉価設定にしているなど特殊用途のレンズじゃないとありえませんでした。年寄りはこういうことに納得できないので、この経緯というか、意図はぜひニコンにお伺いしたいところです。

ちなみに鏡筒は金属リングを非S-Lineレンズとして初めて採用したとあります。フォーカスリングとコントロールリングで異なる形状のローレットパターンを採用して、指の感覚だけで使い分けろということらしいです。指の感触が鈍い筆者には無理ですけど、もうちょいデザイン面には凝りたいかなあ。

距離指標入れろとかむちゃぶりはしないから、このレンズの性格上、デザインはSEタイプも欲しかったですねえ。そのほうが、さまざまな意味で伝統を重んじるニッコールという感じがより高まるんじゃないのかなあ。なんで出さないのかなあ。

ニコンZ6III+NIKKOR Z35mmF1.4って、Zシリーズの中でいちばん佇まいがいいのではないかと筆者は思うわけですよ。正直なところ、Zfより自然でいいと思いますもん(個人の感想です)

本レンズ登場に喜んでいたら先ごろ続けて「NIKKOR Z 50mm f/1.4」が登場しました。やりますねえ最近のニコンは。でもこのレンズは鏡筒が35mm F1.4にも似ているから両者を携行すると現場では取り違えがおきそうでイヤかなあ。鏡筒の共有などコストダウンはほどほどにお願いしたいところです。

ふだん使いのレンズは無理のない明るさの標準ズームでも高倍率ズームでもいっこうにかまわないと思うのですが、このZ 35mm F1.4かZ 50mm F1.4も同時に携行したりすると、「写真をわかっているヤツ」の称号があなたに冠せられることになるのは間違いありません。仲間内の撮影会の後の打ち上げだけかもしれませんが。

ニコンZ6IIIとNIKKOR Z 35mm F1.4、久しぶりに両方が欲しくなりました。さて、どうするかなあ。 筆者はこのセットを入手しさえすれば今後の残りの人生、カメラとレンズを買わなくてもいいんじゃないかと思ったくらいです。

ええ、ほんの一瞬ですけど。

順光の状態で絞りを開いたらどうなるかしらということで試してみると、ものすごく高画質な描写をします。光線状態がもう少しよろしくないほうが雰囲気は出るようです。
ニコン Z6III/NIKKOR Z 35mm f/1.4/絞り優先AE(1/12,800秒、F1.4、−0.7EV)/ISO 100
先ほど開放絞りでもスルドク撮れていましたが、このカットではわずかにハイライト滲みますね。このカットだと手前のボケも自然です。
ニコン Z6III/NIKKOR Z 35mm f/1.4/絞り優先AE(1/640秒、F1.4、−0.7EV)/ISO 400
赤城耕一

1961年東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒。一般雑誌や広告、PR誌の撮影をするかたわら、ライターとしてデジカメ Watchをはじめとする各種カメラ雑誌へ、メカニズムの論評、写真評、書評を寄稿している。またワークショップ講師、芸術系大学、専門学校などの講師を務める。日本作例写真家協会(JSPA)会長。著書に「アカギカメラ—偏愛だって、いいじゃない。」(インプレス)「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)「赤城写真機診療所 MarkII」(玄光社)など多数。