赤城耕一の「アカギカメラ」
第84回:コンパクトで高画質。ソニーα7CRが呼び覚ます“35mmカメラ”の原点
2023年12月20日 07:00
ソニーαとは少し距離を置いていた時期がありましたが、2020年のα7C登場後にこれを使い始めてからは再び距離がぐっと縮まりました。
その大きな理由は、新たに上面がフラットになったデザインと、小型軽量であったことです。王道のα7シリーズは初代の登場時から35mmフルサイズ機としての性能と小型軽量を両立させ、維持してきたことを高く評価していました。
筆者はかなり前より、システムカメラの主力が一眼レフカメラからミラーレスカメラに移行するにあたり、一眼レフよりも機材が重くデカくなることは許しがたいと、ずっとしつこく言い続けておりました。エンジニアのみなさんに対しても「不可能を可能にするのが技術の発展である」と、常に小型化を要求するという超ド素人の意見を述べてきたので、ものすごく嫌われていると思います。
大きく重量級になるのは高画質の追求ということからくるものですが、このためにカメラやレンズのサイズを小さくすることを放棄してしまうと、35mmフォーマットカメラの特性、すなわち“小さなネガから大きな画像”のライカをベースとした35mmカメラのコンセプトが崩れてしまうと考えていたからです。
デザインの根幹を変えずに機能を積み上げてゆくと、最新機能を必要とする撮影をほとんど行なっていない筆者ですから、じわじわとカメラが太ってゆくように見えました。醜い自分を見るようです。α7シリーズの進化を追うのはII型で止まってしまいました。それでもなんら問題なかったこともありますが。こうしたイメージを覆すように登場したのがα7Cだったわけです。
もっともデジタル化以降は、筆者自身も35mmフルサイズというフォーマットに対して強いこだわりはなくなってしまい、条件や目的に応じて、マイクロフォーサーズやAPS-Cフォーマットのカメラをあれこれと使い分けております。ええ、浮気性であることも事実ではあります。
αに関してもAPS-Cのα6000シリーズに強い関心がありましたが、手元にあるEマウントレンズをみてみるとフルサイズ対応のものが多く、わずかですが、一眼レフ用のAマウントレンズも生き残っています。これらもアダプターによって使用できるならそれを生かしたいわけです。でも、レンズのすべてを知るならば35mmフルサイズのαを使うのが責務ではないかと考えていました。
コンパクトで35mmフルサイズセンサー搭載のカメラとなれば、一時期集中的に使用していたシグマfpがあるのですが、機能的に簡略化されている部分も多いので、街中でのスナップに使うということで考えると、ちょっと違うのではないかと思い始めまして、再びα7Cに戻っていた矢先にα7C IIとα7CRが登場したというわけです。
以前から「α7Cの後継機が出たら、間違いなく購入することになりますぜ」と公言しておりましたので、これは見過ごすことができなくなったわけです。発言の責任はとりますよ。
今回選んでみたのはα7CRです。同時に登場したα7C IIと外観はほぼ同じ、重量も大差なく6,100万画素のセンサーを積んだという部分に、画質への期待以上にシビれたわけであります。ボディカラーはシルバーです。シルバー世代に突入したのでこれは当然の選択です。
機種名の“CR”ってなによと、軽く調べてみましたら「Compact」と「Resolution」という意味だそうで、小型だけど高画素(高解像度)なんだぜというのがウリということであります。
開発者のみなさまには怒られてしまうかもしれませんが、筆者にいわせれば35mmカメラならばこのコンセプトは当たり前なんだぜとは思います。もっとも、すごく頑張っているという印象はありますよ。
前機種α7Cはどことなくホールディングした印象が頼りなく、作り込みもいまひとつに感じておりました。α7CRがそこから劇的によくなったとは申しませんよ。けれど評価したいのは、そのグリップ感でしょうか。
手はあまり大きくない筆者ですが、フラットタイプのカメラを街中で使う場合はストラップをつけて首から下げるというよりも、握りしめて歩くことが多くなるのでグリップの深さは重要なのです。
そこでα7CRの元箱を開けたところ、ケーブル類やチャージャーはないのにヘンなグリップが同梱されていることに気づきました。エクステンショングリップ「GP-X2」と呼ぶようです。ここにはバッテリーも入るわけでもないので、いわゆる“縦グリ”とは違いますね。
装着するとホールディングがさらによくなるとかなんとか、とくに長焦点レンズの場合は有用ということですが、長焦点レンズにあまり興味がない筆者としては、せっかく小型軽量のカメラを作ったのにムダにカメラをデカく重くしてどうすんだよ、ったく。と当初は思いました。
ところが、装着して手にしたところ、すぐに喫驚しました。GP-X2を装着するとかなりイケます。広角レンズをでも安定感増しますぜ。全体のバランスがよいのでしょうか、極端に重たくなるということもなく、最初に疑念を持ったことを撤回し、いま深く反省しとります。
GP-X2を装着したままでもバッテリー室にアクセスできますが、この時の二重扉のような感じもなんだか萌えてしまいますねえ。
「おまえは『小さいカメラであればあるほどエラい』と言ってなかったか?」。ええ、たしかに言いましたが、GP-X2は装着して損のないものかと思います。それにね、つけたり外したりできるのが、またいいわけですよ。大事ですこの趣味性。カタチを変えることができるって筆者の中では大切なんですよ。
そういえば昔のペンタックスZ-1には、リストストラップをつけるためにボディ下部に装着するエクステンショングリップが用意されました。これ、シャッターボタンもなく、バッテリーも入らないという無駄なドンガラですが、それを思い出しましたよ。ちなみにGP-X2はこのアクセサリーの1万倍は実用的でありますね。
ボディ外装はマグネシウム合金が採用されています。材質的には重量を増す要因になりますが、モノ的な魅力を高めることに貢献しています。質感が乏しいと、忘年会でのインパクトが弱まり、見せびらかすことができないので、きわめて重要な点といえるでしょう。
カメラ上部はフラットですが、右手側に向かう途中に段があり、筆者の嫌いなモードダイヤルやコマンドダイヤルの突出を抑える効果があります。モードダイヤルの上部と左側上面のツラ位置が同じだったりすると、たぶん筆者は喜びのあまりむせび泣いていたと思います。次機種ではお願いしたいところでありますね。
本体にはネックストラップアイレットと三角環があります。三角環にはプラスチックのキズ防止用のアテがあります。この三角環は標準サイズよりもやや小さく、手元にあった市販のストラップが通りませんでした。もちろんソニー純正のストラップは問題ないのですが、ここも小型化するのは何か意味があるのでしょうか。デザインのバランスなんですかねえ。筆者は仕事場の机の上に投げてあったストラップを使いたかったのですけど。
もっとも本機は肩からぶら下げて歩くというよりも、先に述べましたように、手にして歩くとか、木村伊兵衛みたいにストラップを腕に巻き付け、胸のあたりに抱えて歩くほうが粋な携行の仕方かもしれません。もしくはカメラバッグを使わずに普通の小さなショルダーバッグから、ここぞという時にさりげなくとり出して、さっと撮影するという方法が、デキる人に見られるかもしれませんね。
取り回しに優れた小型のボディであり、アングルの自由度に優れたカメラだから、内蔵のEVFはあまり使わないかなあと当初は考えていましたが、撮影をはじめてみると、使用頻度はかなり高くなりました。
α7Cよりも少しだけファインダー倍率が大きいからということもあるでしょうし、正直、背面のLCDは天気の良い日だと視認性はあまりよろしくありません。屋外で撮影画像のフォーカスを確認する場合は、EVFを使ったほうが良いのではないかと思います。
ファインダーアイピースの位置は左に寄っていますが、フラットタイプのカメラならこれでいいわけです。両目を開けての撮影も容易ですね。慣れない人はカラダと目を合わせてゆきましょう。
AFは想像以上に素晴らしいですね。被写体認識もよく機能します。まれに機能しない場合は、筆者のほうに何か操作設定上の問題があるのではないかと自分自身を疑いたくなるくらいですが、冷静にタッチAFを行うなどして落ち着いて対処すればいいわけです。これがカメラの使いこなしというものであります。
α7Cの時は背面にグリグリがねえぜとケチつけたような記憶があり、後継機には装備せよと騒ぎましたが、なるほど、AFが高性能、かつ小型のボディだと、グリグリでフォーカスポイントを移動させるほうが操作的にやりにくくなるかもしれませんね。
動作の感触も、高級なモデルを使うという印象は希薄なものの、α7Cよりはいくぶん向上しているようです。シャッターの振動は強くは感じませんがカッタンカッタンという安っぽい音がします。耳障りではありませんが、もう少し落ち着いた動作音になるようにするのは難しいのでしょうか。筆者は低速の連続シャッターに設定することが多いのです。
シャッタースピードのレンジは30秒から1/4,000秒です。電子シャッターにすると1/8,000秒も選べますが、筆者は明るい場所で大口径レンズを無理やり開放絞りで使用するなんてことはしませんから、これでとくに問題はありません。
「コンパクトなボディから生み出される息をのむほどの解像力」、「被写体の持つ繊細なディテールを精緻に描き切ります」。
なんていう文言をソニーのWebサイトで見つけてしまうと、そこらにある塀とか、手入れの悪い庭の山茶花なんかを喜んで撮影しているこちらが恥ずかしくなってしまうのですが、画質に関しては、拡大してゆくと凄みを感じさせるものがありますね。高解像度を無駄とは感じさせない説得力は間違いなくあります。高画質を追求するにはデカいカメラボディでなければならぬというステレオタイプな印象を間違いなく覆しています。
とはいえ、筆者の一般的な使用状態では、精緻な描写に感心するというより、階調の豊富さ、つなぎ方が巧みだという印象を強くもちました。
つまり、全体として、どこかでゆとりを感じさせる画像なのです。小型のボディなのに、7段分の手ブレ補正機構を内蔵していることも高く評価したいところで、肉眼よりもはるかに高性能な目によって、見たものを簡便かつ確実に定着させる新しい道具が登場したという印象なのです。
本機の高解像度がフルに生かせる場面は、特大のプリント制作など限られた用途になるでしょうけど、ちょっとしたトリミングにはビクともしないことや、レタッチの耐性の強さなどの特性をうまく利用するという発想も、頭の片隅に置いておきたいところです。
α7CRのポテンシャルを最大限に引き出すには、超高性能のG Masterレンズを使用せねばならないのでしょう。でもね、うちにある廉価版のフツーのレンズやサードパーティ製のレンズでも十分に凄さを感じることができました。
今回は筆者の好きな焦点距離である35mmの、カール ツァイス銘を冠したSonnar T* FE 35mm F2.8 ZAだけで押し通してしまいました。年末は仕事以外に夜も予定が多いので、大きな荷物を持ち歩きたくありません。レンズを交換するのも面倒。それこそ必要ならトリミングしちゃえという。あ、こちらでの作例は全てノートリミングでありますから念のため(笑)。得られた画像に、問題は感じませんでしたぜ。
お正月には、うちにある廉価なEマウントの交換レンズとか、かろうじて生き残っているAマウント交換レンズ数本でもう少し真面目に遊んでみようかと考えております。このご報告は来年初回の「アカギカメラ」でお伝えすることにします。
読者のみなさま。今年も「アカギカメラ」ご愛読ありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いします。よいお年をお迎えくださいませ。