赤城耕一の「アカギカメラ」

第76回:X100Vに見つけた“愛されカメラ”の様式美

発売から3年以上を経るカメラをお迎えするのは、スペックを重視しない筆者らしいとか言われてしまいそうですが、いやいや筆者だって、昔のように仕事が流れていれば、ちゃんと次々に新しいものに買い替えてますよ。

でもね考えようによっては、それだけデジタルカメラは成熟してきたといえますね。以前のようにモデルチェンジのたびに買い替えるなどということもほとんどなくなりました。物欲が全開状態にならないのは加齢ということもあると思いますけど。

本連載のように“カメラとの戯れ”をサブテーマにしていると、新しいモデルに目移りすることは確かです。ただアサインメントに使用しているカメラやレンズは、筆者の仕事にスーパースペックのカメラは不要なため、モトをとるためもあってシツコク長く使用するという商売上の問題があります。

で、今回取り上げるのは富士フイルムX100Vでございます。コンパクトカメラの趣味の代表みたいなカメラであり、多くのメーカーがスマホに押されてという理由でコンパクトカメラの分野から撤退しようとしているのに気を吐いています。

X100Vは発売から気になっておりました。ずっと使用してきたX100Sがお亡くなりになり、もうサービスでは手当てができないということもあり、ならば後継機を迎ねばと考えておりましたのでなおさら気になっていたものであります。

ただ登場時期とコロナ禍が重なっていたりして、気勢が削がれた感がありました。それに、どういうわけかどこにも売っていないのであります。そういえば本連載で紹介したX-E4もそうでしたねえ。理由はよくわかりませんが、富士フイルムXシリーズの品薄状態は今なお続いており、中古でもタマ数があまり多くない感じがしますし、今回よく調べてみましたら、中古が新品よりも高く値付けされていたりいささか異常な事態であります。

で、3年の間、秋波を送りつつも、コロナのこともあり、かつ、こうみえてもお仕事機材拡充のほうを重視したことや、X100V自体どこにも売られていない状態でしたので、お仕事には役立たない、不急に入手すべきカメラではないということで見送り続けてきました。このため平和な日々を送っていたのですが、つい先日、ひょんなことから行きつけのカメラ店で偶然残されていた1台を見つけてしまいお越しいただいたわけであります。

X100シリーズに筆者が肩入れしているのは、Xシリーズの初号機であり、X-Pro1の元祖的なモデルだからです。フラットなカタチ、クラシカルデザイン、撮影には関係ない無駄とも思えるハイブリッドビューファインダー、イメージセンサーとレンズのベストマッチングを追求していること、一台完結的なカメラということも評価対象です。

カメラとしての佇まいは、ライカと勝負できるとか書くとライカユーザーは怒るんだろうなあ。シルバーボディの塗装が素晴らしくて、メッキみたいですよ。真鍮素材じゃなくてもここまでできるんですね

X100シリーズは2011年のデビュー以来、よくわからないモデルチェンジを繰り返しており、筆者などはスペックのわずかな違いなどにはほとんど関心もなく、ぼーっとしているものですから、個々のモデルの違いなどアタマも入らずでした。なぜそんなにリニューアルが必要なのか今もわからないくらいです。気づいたら5代目になっていました。

ところがX100Vは本気度が高いというか、搭載レンズにも手を入れてきました。それになんだろう、ブツとしての存在感がこれまでと違う感じがしました。

上下カバーはアルミニウムを採用し、ボディ角のぴしっとした直角の雰囲気は手が切れそうです。そんなはずはありません、あいかわらず大袈裟に表現しておりますが、表面をいつまでも撫でていたいと思わせてしまうデジタルカメラはそう多くはありませんがX100Vにはそう思わせる何かがあります。

入手したのはシルバーボディです、あれほどカメラはブラックでなければいけないとしてきたのに、年寄りになると白いカメラが欲しいわけです。ブラックなんか陰湿でダメですね。

表面処理がまた非常に美しく、なんちゃって金属のマグネシウム合金とは根本的に違うんだぜ。という主張があります。シャッタースピードダイヤルもアルミの削り出しですから、無駄なコストをかけています。が、ここでもX100シリーズの本質を貫いております。

背面モニターはX100シリーズ初のチルト式、タッチパネル対応。これはもう当然ですが、筆者はこうみえてもデジタルカメラには意外とフレキシブルな操作性を望んでしまうので嬉しい進化でありました。

ISO感度ダイヤルはシャッタースピードダイヤル外周リングを持ち上げるアナログなやり方。でもね、このリング持ち上げると固定されるんです。「持ち上げながら回す」んじゃないんです。これね、何気にすごいす
背面モニターはチルトも可能なんですが、素晴らしいのは、ボディ本体に対してツライチに収納できることです。デザイナーと握手したいです

ちょっと意外でしたのがレンズのモデルチェンジでした。歴代ずっと採用されてきた23mm F2レンズがII型となっております。いやあ、これは以前のヤツのほうがよくね?とも思いました。なぜなら旧レンズの方が昨今のレンズにはめずらしく、絞りと撮影距離の設定で描写に違いがあったからです。6群8枚と構成枚数は変わらないのですが、II型では非球面2枚を採用し、現代感覚の描写になりました。

イメージセンサーはX-Trans CMOS 4、画像処理エンジンはX-Processor 4ですから、X-T5あたりと比べると登場後3年の経過を感じるのですが、筆者などの技術レベルですと、1世代くらいの違いでは、改良点があまりわからなかったりします。非常に単純に結論づけてしまえば、いずれも、ものすごくよく写ります。

筆者の大好きな配管モノであります。夏の強い日差しが照りつけておりまして。魅力的でした。ハイライトのピシッとした再現も魅力です。
FUJIFILM X100V/絞り優先AE(F8・1/1,250秒)/ISO 200/Velvia
マニュアル露出にして意図的にアンダーな露光にしてみました。シャッターダイヤルも絞りも常に見えるところにあると工夫はしたくなるものです。
FUJIFILM X100V/マニュアル露出(F13・1/2,000秒)/ISO 400
コインパーキングにクルマを停めたら、周辺の景色に不思議なニュアンスを感じたので軽く一枚。X100Vは気配を写せるかもしれないと妄想したり。
FUJIFILM X100V/マニュアル露出(F10・1/1,000秒)/ISO 400/PROVIA

シルバーボディですから街中で目立つかなあと思う人は考えすぎですからね。街ゆく人はみんなスマホを見るのに忙しくてカメラなんか気にしてませんから、スナップでも大丈夫です。

エッジが鋭めなので小さいボディなのに存在感を感じます。じつに素晴らしい。ボディを握って存在を感じる思いをしたのは久しぶりでした。カメラなんか、そんなに手に馴染まなくても大丈夫ですぜ。

筆者は重い「フード病」も患っておりますので、これもきっちり用意しましたが、なんだかフードの締めというか止まりが甘い感じですね、これは近いうちに落とすな、間違いなく。栄光のフジノンレンズに、つまらないプロテクターフィルターをつけて描写性能を落とさせないようにするためにフードは用意されているのかもしれないですね。

動作感触はどうでしょうか。以前、使用していたX100Sと比較しますと、レスポンスが良くて、フォーカスも決まるし、さくさく撮影できますね。このあたりの進化は大きいようです。スタイリングや機能はレンジファインダーカメラっぽくみせてますが、ライカのそれとは当然違います。年寄りの感覚だとミノルタCLEが進化したみたいで心地いいわけです。

背面がスッキリしているのも美しい要因ですが、これは背面のボタンを少なくしてしまったからかな。基本はタッチパネルでやってね、ということらしいです。これは慣れてしまうと不便ではないですね。

グリップ感は弱めですが、これはデザインを重視するとやむを得ないところです。サードパーティからグリップは出ているようです。でもねーX-E4ではグリップがあった方が良かったけどX100Vはどうなのかなあ。要らないですね。つまらないアクセサリーをつけてデザインを乱してはいけません。

実直とも思えるほどの歪曲収差の補正がリアリティを増しますね。モノクロの階調も優れています。
FUJIFILM X100V/マニュアル露出(F9・1/1,000秒)/ISO 400/ACROS
古いペンキの剥がれとか好物でありまして、必ず撮影しちゃうのですが、カラーだと汚さが際立ってしまうのでモノクロで撮りました。
FUJIFILM X100V/絞り優先AE(F8・1/400秒)/ISO 400/ACROS

ファインダーはOVFとEVFを相互に行き来できて、X100シリーズならではの相変わらずの楽しいパフォーマンスを見せてくれます。見え方は、それはX-Pro3の方がいいんでしょうが、コンパクトカメラにそんなに高い性能を求めてはいけません。

ただね、EVFに切り替えると、ファインダー窓のシャッターが閉まるのが前面からよく見えてしまって、これがいただけません。

せっかくのレンジファインダースタイルのカメラを使用していると周りに見せかけつつ、姑息にもEVFを使い、じつはきっちりと正確なフレーミングを心がけているワタシということが周りにバレてしまう可能性があるからです。フツーのミラーレス機と同じじゃねえかってツッコまれますね。すると筆者のX-E4との差別化が難しくなってしまいます。

「レンジファインダーはその適当な見え方が良い」などとうそぶいているのに普段言っていることと違うじゃねえか? あ? と突っ込まれてしまいそうです。まったく粋ではありませんね。

OVF設定時にも小さなEVFを表示し、フォーカスポイントの確認もできますね。ハイブリッドビューファインダーも進化しています。多少不安でも見づらくてもOVFを主に使おうじゃありませんか。だって、自動的にパララックス補正している仕事ぶりをみただけでもエンジニアの努力と製造に携わる皆さんの真摯な仕事に落涙しそうになる筆者です。はい、そこのあなた! 真面目に反応しないでください。

絞り環は網目削り出しローレット。指の腹に優しく、クリック感も極上です。絞りを操作したくて、Aモード使いたくなります

で、実際の撮影画像を見てみますと。悪いわけがありません。開放至近距離では少し軟らかいイメージですが、旧レンズと比較すると、絞りや撮影距離による性能変化がないように感じました。いや、条件によって揺らがないのです。少しキレ込みが良すぎませんか?

数値性能的にはX100シリーズの中で本レンズが際立っていることに間違いないと思いますが、個人的にプライベートで使うには旧レンズのほうが楽しかったかも。などと余計なことを言いたくなりました。ごめんなさい。

冬の晴れた青空じゃなくて、先日撮影したももの。ヌケがよくシャープなことに驚いています。アングルによってはかなりのワイドにも見えますね。実焦点距離が短いので少し絞っただけでもすぐにパンフォーカスになります。
FUJIFILM X100V/絞り優先AE(F8・1/2,400秒)/ISO 400/PROVIA
最短撮影距離+絞り開放。線は少し太いかなという程度です。ピシピシにしたければ、少し絞ると解決します。筆者的には開放絞りではもう少しゆるい描写でもいいくらいです。
FUJIFILM X100V/絞り優先AE(F2・1/2,000秒)/ISO 400/Velvia
カメラ任せにしたら、一番手前の顔とこちらに近い側の目に瞳認識しました。それが当たり前なことなんでしょうが、ポートレート用機としても非常に優れています。短い焦点距離のレンズなのにボケ味も優れています。
FUJIFILM X100V/マニュアル露出(F2.8・1/2,000秒)/ISO 160/ACROS
とても線が細くて素晴らしい画質です。シャドーの立ち上がる感じも良くて驚きます。
FUJIFILM X100V/絞り優先AE(F8・1/800秒)/ISO 400/PROVIA

シャッターボタンの感触は少しぐずぐずしている印象ですが、ここはライカみたいにスパッと落ちる感じにするのは難しいのでしょうか。

筆者はX-Pro3のUIがどうにも納得できず、導入を見送ったのですが、X100Vで撮影してみると、UIは素直にしたほうが、みんなに長く愛されて、今後も気持ちをラクにして生きていけるんじゃないかとあらためて思いました。

来るべき“X-Pro4”ではココロを入れ替え、X100Vを見習って、“真カメラ”になって再登場してもらいたいものです。なんてバカ書いてたら、明日あたり“X100VI”とか出てきたりしてね。そんな可能性もないとは言えません。どうなることやら。

くすんだ黄色い壁の色の年季の入った家に出会いましたが、フィルムシュミレーションをVelviaにして、少々色を盛ってポップな感じにしました。
FUJIFILM X100V/マニュアル露出(F5.6・1/1,000秒)/ISO 160/Velvia
絞りを開放にしてしまうと花びらだけにしかフォーカスは合わないので、F4としてみました。バランスいいです。よしずのぼけも自然です。優秀なレンズです。
FUJIFILM X100V/絞り優先AE(F4・1/1,250秒)/ISO 400
赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)