赤城耕一の「アカギカメラ」

第75回:ここまでやるか!? の距離計連動ライカMアダプター

一眼レフ用50mmレンズで実写

酷暑お見舞い申し上げます。とにかく毎日毎日毎日、暴力的な暑さの中で写真を撮影しているとですね、寿命が縮まるんじゃないかと思うくらいです。読者のみなさまも水分をとり、休養をされつつ、ペースを崩さないように健写でいきましょう。

と、いうわけで、今回もスタートしますが、まずは真夏の怪談話であります。一眼レフ用の50mm標準レンズがライカMボディにて距離計連動する? そんなバカな。なかなか信じ難い怪談話のようでした。

いや、これは真実でした。SHOTENから新登場のM42-LM R50とPK-LM R50というマウントアダプターを使用すると、これが可能になってしまうのであります。前者はM42(プラクチカマウント)、後者はKマウントの50mmレンズ専用です。

フランジバックが短いミラーレス機に適宜なマウントアダプターを用いれば、多くの一眼レフカメラ用レンズを問題なく使用できるわけで、すでに多くの皆さまが楽しまれていることとと思います。

ところがこのアダプター、M型ライカの距離計に連動し、二重像合致式でフォーカシングできるという驚きの機能を備えています。本製品が一般的なアダプターと異なるのは外観からもわかります。本体に立派なフォーカスリングが備えられているからです。

アダプターには距離計連動用のカムが設けられており、フォーカスリングの回転に連動し、ライカMボディ側の距離計のコロを押してゆく構造です。Mマウントレンズと同じ連動機能が仕込まれているわけです。

それにしても、距離計に連動してどれだけの意味があるのか、もしかするとそのことに価値を見出す人はそう多くはないかもしれません。ライカ以外のミラーレス機を使用して、必要に応じてライブビュー画面を拡大したり、ピーキングを使って、サクっと撮影するのが現代写真術じゃないのかと。ええ、そのとおりです。

ただ、長いことM型ライカを使用している筆者としては、パンフォーカスに見えるレンジファインダーで被写体を観察、ブライトフレームをでフレーミングを行い、二重像合致でフォーカシングを行うことにまったく抵抗感はなく、逆に撮影手順の楽しみとして使用することができるのです。ええ、この年齢になってもライカの毒は抜けずにしつこく使用しています。このため本アダプターはメカの仕組みとしても興味深い製品に感じてしまうのです。

本アダプターの使用方法は簡単、単純です。マスターレンズ側のフォーカスリングをインフ(無限遠)に合わせて固定します。そして、アダプター側のフォーカスリングを回してフォーカシングを行い、距離計の二重像が合致すれば合焦したことになります。今回は筆者所有のライカM10-Pを使いましたが、カメラ内のブライトフレームは50/75mm表示が出現し、もちろんパララックスも距離に応じて自動補正されます。

アダプター裏面です。工作精度いい感じです。内側の黒い縁が、距離計のコロを押すカムですね。指当てもあります。これ、飾りではなく実用的です
四隅が少々ケラれるようでありますが、これは仕方ないみたいですね。描写は素晴らしくいいです。どこか湿度がある感じがします
ライカM10-P/SMC PENTAX 50mm F1.2/マニュアル露出(F8・1/500秒)/ISO 200
レンズと戯れているようで、そうではないんですよ。M型ライカだと50mmの焦点距離のレンズで脊髄反射的にシャッターを切ってしまいます。周辺のケラれは少々ありますがこの程度なら無視します
ライカM10-P/SMC PENTAX 50mm F1.2/マニュアル露出(F8・1/1,000秒)/ISO 200

ただし、一眼レフ用の交換レンズって、フォーカスリングを回し、インフがドンつきに行かずとも、ファインダー内で合焦してしまえばそれでいいという合理的な考え方が取られている製品もある一方で、オーバーインフにして合焦位置に若干のマージンを持たせているものもあります。

また、標準50mmレンズといってもメーカーや個体により、微妙ですが焦点距離が異なることがあります。古いレンズならば精度的に怪しかったり、経年変化や鏡筒への衝撃でフォーカスに狂いがきているものもあるかもしれません。このような観点から、距離計連動を前提に製造されているレンジファインダー用の50mmレンズとは事情が少々異なるのが前提になります。

一眼レフやミラーレス機ではファインダー内やライブビュー画面上で合焦すれば、インフの位置がレンズ指標と実際の写りでズレていても実用上は問題はないのですが、距離計連動でフォーカシングするとなると、レンズ側の精度は重要になります。ここがなかなかスリリングなのです。

アダプターというのはカメラボディとレンズの間に挟まれるわけですから、ダイレクトにレンズの情報を伝えているわけではなく、運が悪いとネガティブなファクターが重なってしまうこともあります。

ただ、これらはあくまでも理屈であって、あまり神経質になると面白くなくなります。神経質な方はそもそも純正レンズ以外のアダプターなどを使用しないほうが無難です。使用方法も個々の工夫を加えていいと思います。ただしすべては自己責任にてお願いします。

M42-LM R50の外観はタクマー系レンズの仕上げによく似ているんです。このため装着しても他のアダプターのような抵抗感がありませんでした

このアダプターを評価したいところはその工作や加工精度にもあります、マウントの仕上げはとてもよく、カメラボディ、レンズの装着も、少なくとも筆者の手持ちのものはスムーズでした。これ、撮影時のモチベーションにかなり強く影響します。

レンズの装着に抵抗感を感じたり、フォーカスリングの動きにひっかかりがあったり、ギスギスした動きをしたりすると、使用するのがイヤになったりします。カメラのホールディングは、レンズの大きさによってバランスが変わりますが、いつものM型ライカと同じです。

フォーカスリングには撮影距離と被写界深度の指標もあります。いまどきこうした指標を使いこなす人は多くないかもしれませんが、これ自体に製品への気合いを感じますし、デザイン的にも評価したいですね。あまりにもマッチングがよく、純正レンズとは言わないまでも、既存のマウントアダプターのムリヤリ感がないのです。ライカレンズのような指当てもあり、フォーカシングがやりやすいことも評価したいところです。

Nikkor-HC Auto 50mm F2
ライカスクリューマウントのニッコール5cm F2は長いこと使用していて、ゾナータイプらしい個性を楽しんでいますが、焦点移動の怪しさもあります。一眼レフ用のこちらはガウスタイプです。まさかライカに装着して使う日が来るとは。この条件では良好な描写です
ライカM10-P/Nikkor-HC Auto 50mm F2/絞り優先AE(F2・1/250秒)/ISO 400
距離計に連動する最短距離0.7mでの描写です。もともと0.6mまでしか寄れませんので余裕ですね。ただ、背景のアスファルトのボケはあまり綺麗ではないかなあ
ライカM10-P/Nikkor-HC Auto 50mm F2/絞り優先AE(F2.8・1/1,500秒)/ISO 400

理屈は以上にして、本アダプターを実際に使用してみた際の手順と感想を述べてみます。まずマスターレンズの正確なインフ位置を探るために、EVFやライブビューを用いてアダプターもマスターレンズもインフの位置に設定し、無限遠にある被写体を見て合焦を確認します。これで合焦が確認できればそのまま問題なく使用することができます。

もし、インフの位置がズレているようならアダプター側のフォーカスリングはインフのまま、マスターレンズのフォーカスリングを動かし、インフ位置の正確な合焦を確認します。

確認できたらマスターレンズのフォーカスリングをテープなどで固定します。ファインダーを覗きながらですと、ついマスターレンズ側のフォーカスリングに触れてしまうことがあるので、このリスクを少なくしたいからです。

なんというか、理屈はわかっていても一眼レフ用のレンズをライカのレンジファインダーで使うというのは不思議な感覚で、これがスムーズにできてしまうことに驚かされます。

ただ、近距離で絞りを開放近辺にしたり、ここはなんとしてもフォーカスを外せないぜ、という場合は、先に述べたように潔くEVFやライブビューによるフォーカシングに切り替えたほうが確実だと思います。

SMC TAKUMAR 50mm F1.4
エグルストンをは意識していませんが、ボケの感じはよくわかります。少し黄変しているようですので補正しちゃうかなあと思いましたがママにしました
ライカM10-P/SMC TAKUMAR 50mm F1.4/マニュアル露出(F2・1/500秒)/ISO 100
意外と言っては失礼だけどコントラストあります。優秀なレンズですが少し温調か。そういえばF1.8の標準レンズは55mmなんで本アダプターは距離計連動で使用するには適さないんです
ライカM10-P/SMC TAKUMAR 50mm F1.4/マニュアル露出(F2.8・1/350秒)/ISO 200

筆者自身、アダプターの使用に限らず、純正のライカMマウントレンズを使う時も同様ですが、日中晴天下のスナップショットのように絞り込める状態での撮影は、距離計を使用してフォーカシングを行うか、目測による距離設定で撮影することが多くなります。ほとんど標準から広角レンズを使用しているので、被写界深度を稼ぐことができるから距離計をアテにしなくてもさほど気になりません。

絞り開放近辺で確実な結果を残したいという場合は、潔くEVFなりライブビューを使用し、表示画像を拡大するなり、ピーキングを利用することもあります。この二刀流のフォーカシングを使い分けることができるのが現代のM型ライカ使いこなし術でもあると考えています。

Planar T* 50mm F1.4
街角での友への挨拶ってシーンです。ツァイスらしき描写力。ヤシカコンタックス時代のツァイスレンズは正統派の写りをします。ZMとは異なります
ライカM10-P/Planar T* 50mm F1.4/マニュアル露出(F8・1/1,000秒)/ISO 200
条件によってはシャドーが墨っぽい再現をすることがあります。フィルム時代からわかっておりました。絞りが開放近くでもコントラストが良い証ということでしょうか。ライカM10-Pとの相性もいいですね
ライカM10-P/Planar T* 50mm F1.4/マニュアル露出(F2・1/4,000秒)/ISO 100

オールドレンズ愛好家の皆さんは、どのような条件でも絞り開放で撮影し、その欠点だらけのどよんとした画質を楽しんでおられるようです。何をどうして楽しもうが、これは個人の自由であります。ただ、筆者はもうおじいさんのお年頃でありますから、収差だらけの開放絞りの画像が、どよんとしたり、ボケにクセが出てしまうことには正直、強い抵抗があります。インフで撮影するんだから、画像はそこそこにシャープじゃねえとまずいんじゃねえのかという気持ちが根強いわけです。そう、こういうところに年寄りは保守的です。

このため特に風景など遠景の撮影ではある程度絞り込みたくなります。それじゃ、レンズの味わいなんかわからねえじゃねえかよと言われそうですが、でもね、ある程度絞り込めばレンズの個体による焦点距離の違いとかフォーカスリングの動作による多少の誤差は相殺される理屈にもなりますので、M型ライカのレンジファインダーによる撮影を大いに楽しむことができます。

どうしてもそんなのはイヤ、いつ、いかなる時にも、どのような撮影距離ににおいても、開放絞りで撮影して、どよんとした画質が欲しいの。と、いうのならば、これもしつこく繰り返しますが、EVFやライブビューに切り替えフォーカシングするほうが確実です。ただし、本アダプターをあえて選択する意味は薄れてきます。

筆者の本アダプターに対する強い興味は、Mシリーズライカにおける一眼レフ用レンズの距離計連動という一点に尽きるわけですから、電気仕掛けではない、そのストイックともいえるメカニズムの協奏曲的な思想にシビレてご紹介に至りました。

XR RIKENON 50mm F1.4
50mm F2の方が有名なんですが、なぜか締め切りまでに見つからず50mm F1.4を選びました。優れたレンズで驚きです。というかペンタックス50mm F1.4と同じじゃないかな
ライカM10-P/XR RIKENON 50mm F1.4/マニュアル露出(F8・1/1,000秒)/ISO 400
この条件だけ、マスターレンズのフォーカスリングを繰り出して撮影しました。0.3mくらいの撮影距離でしょうか。もう少しピントの芯が欲しいですが、全体としては優秀ですね
ライカM10-P/XR RIKENON 50mm F1.4/絞り優先AE(F2・1/1,000秒)/ISO 1600

筆者は実際にM型ライカを使用する場合、三脚を使うことはほとんどありません。今回もベンチマークテストをするなら三脚の使用は必須だと考えましたが、でも普段行わないことをやっても説得力がありません。手持ちの一眼レフ用の標準50mmレンズも古いものが多いので、正直どこまで精度的な信頼性があるかと問われても困るのです。レンズの個体差がありますし、カメラ側の距離計調整もまちまちです。したがって、あまり連動精度の話をしても意味はないかもしれませんが、実用上は問題のないフォーカス精度が得られたことはここで報告しておきます。

今回は2種のアダプターの他に、試作品のヤシカコンタックスマウントのCY-LM-R50とニコンFマウント用のNF-LM-R50アダプターもお借りしましたが、使い勝手は紹介した2種と同じように上々で、それぞれの代表的な50mm標準レンズで撮影を楽しむことができました。個人的にはライカR用が欲しいですかねえ。純正ライカMとRとの整合をつけてみたいのです。

Super-Macro-Takumar 50mm F4
毎度のご近所風景です。このレンズ、マクロレンズなんですが鏡筒の底にかろうじて小さいレンズが見える感じでフードいらずです。F値は暗いですが、M型ライカならファインダーの明るさには影響されませんから関係ないですね。画面の均質性がよくて感心します
ライカM10-P/Super-Macro-Takumar 50mm F4/マニュアル露出(F8・1/1,000秒)/ISO 400
街中スナップだと、ファインダーの中の世界に遊ぶというか、特別な事件が起こらなくても、肉眼とは異なる世界が形成されているなとなればシャッターを切ります。古いレンズですが色かぶりもなく優秀です
ライカM10-P/Super-Macro-Takumar 50mm F4/マニュアル露出(F8・1/1,000秒)/ISO 400
赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)