赤城耕一の「アカギカメラ」
第62回:今年もカメラ放蕩宣言! FUJIFILM X20に惚れ直すの巻
2023年1月20日 09:00
このところ富士フイルムのデジタルカメラに関して、個人的にですけど、どうにもよろしくないことばかりが起こります。
長く愛用していたX100Sが昨年お亡くなりになり、もう部品がないから再起不能ですとの一報が入りました。ならば、これからは現行の人気機種X100Vで行こうではないかと、買うことを決めたのはいいのですが、品薄でどこにも売られていないわけです。
ったく、しゃあないなあとコンパクトなXがいいのでX-E4はありますか聞くと「とっくに販売終了していますよ。知らないんですか?」と、これも冷たくあしらわれ。
こうなると諦めが悪く、収まりがつかなくなるのが筆者の悪いところでありまして、ならば思い切ってX-T3から最新のX-T5に買い替えてやるぜ、レビューワーはみんな褒めてるし。と、いうことでこれも在庫を聞くと、「予約されていないとムリです」と、これも冷たくあしらわれてしまいました。
で、もうね最後のダメ押しで、あれほど嫌っていたX-Pro3にしちゃうよオレは、オトナだからいつまでもネチネチ言わないよ、サバサバしているよ、ということで、これも在庫があるかと聞いてみると、「いまブラックならありますけど、先頃、ディスコンが発表されたばかりですがよろしいですか?」とその場で聞かされるわけ。マジかよ。
もうね、手元には佃煮にしたくなるくらいたくさんのカメラがあるのに、欲しいものがすぐに入手できないとイヤな筆者です。予約して買うぜ、って行動をしないわけです基本的に。
とくに「仕事」よりも「私事」での使用を重視するカメラに関しては不要不急なものでありますから、出会いのときめきを大切にしたいのです。嘘です。単なるわがままです。
で一度火がついてしまうと鎮火するのに時間がかかる筆者ですから、悶々とネットで在庫検索とかを始めたりするわけですが、こういうのって意外と虚しいわけです。本当はいらないカメラを買うわけだから(笑)。
すると視界の端にあった本棚の空きスペースに、小さなカメラが鎮座していることに気づきました。お前、これまで知ってて無視してたろう。はい、そうとも言えるかもしれません。これがですね、FUJIFILM X20だったのです。
しばらく使われずに放置プレイだったのは筆者の気まぐれによるものでありまして、まことに申し訳ないことをしました。そうだ、オレにはキミがいたんだと思い直し、今からでも遅くないからやり直そうということで、すぐにバッテリーをチャージして、同道してもらうことにいたしました。
FUJIFILM X20は2013年登場ですから、10年を経過しております。デジタルカメラの世界では十分にクラシックですな。イメージセンサーはローパスレスのX-Trans CMOS II(2/3型、1,200万画素)が搭載されています。ファインダーはなんとOVF! そこへデジタルトランス液晶を組み込んで、視野内に各種情報を表示していることも大きな特徴です。
なぜ本機のことを忘れていたかというと、コンパクトカメラに関しては「リコーGR III命」と二の腕に彫りたくなるような日々を、この数年送ってきたからであります。しかし、そこまでしても時おり浮気を(注:カメラに関しては。ここは強調しておきたい)したくなる筆者です。ええ、カメラ放蕩は還暦を過ぎても一向に治る気配がありません。
ふふ、X20には、GRにはないズームレンズが搭載されています。お前、いつも単焦点レンズを推してたじゃねえかよ、ですか。はい、裏切り、寝返り、朝令暮改でこれまでも嫌われてきました。カメラヒールな筆者であります。
X20は1,200万画素と、今では少なめの画素数です。でも、低画素好きの筆者にはピッタリです。これで撮影した画像でB0のポスターとかを作る予定はありませんし、基本はトリミングもしませんので。
何だか久しぶりに本気で使用したX20は新鮮でした。まずデザインがクラシックで、OVFの窓の位置などは、なんだか昔のフィルム時代のオリンパスPEN D3みたいな感じでいいですね。
電源は沈胴式ズームレンズを繰り出す動作でオンになります。はっきりとした感触があり、起動も速く、ズーミング動作との整合感がとても良い感じです。ズームリングの繰り出しで撮影体制に入るカメラとかレンズはそれなりにあるのですが、このわずかな動作が、「さあ行くぞ」という感じにさせられます。気合いですね。
画像処理エンジンは「EXR Processor II」で、今となっては古めの世代なのでしょうが、使っていてイライラしない動作レスポンスが良いと思います。OVFはズーミングに伴って倍率が変わる仕組みで、凝っています。これを見たさに、つい手慰みにいじくりまわしたりします。
素通しのOVFの中には、シャッタースピード、絞り値、ISO感度、露出補正の警告といった情報が視野内に表示されるのですが、これがなかなかカッコいいのです。フォントもキレイですね。時々、邪魔くさく感じることもあるんですけどね。
いずれの表示も、EVFではなんでもないことなのでしょうが、OVFでここまでやるかという印象であります。多くのX20ユーザーは背面モニターでのライブビュー撮影をメインとして使うでしょうから、せっかくの凝ったOVFは遊んでいるのではないかと危惧してしまいました。
でもね、言葉は悪いですが、無駄であっても、こうしたOVFを内蔵しているということだけでもカメラ好きとしては萌えますね。
そんなOVFに敬意を表して、今回はファインダーを積極的に使いました。逆光時のフレーミングや、周囲が明るい場合にはなかなか便利ですが、OVFの宿命としてパララックスはあります。もっともそんなことを気にしていたら面白くありませんぜ。でもOVFを主体的に使用するとバッテリーの消費は抑えられるのではないでしょうか。今回も、「あれ?古いバッテリーなのにけっこう撮れるぜ」という印象なんです。
撮影モードは上部の金属削り出しのアナログダイヤルで操作しますが、ここはXシリーズならばシャッタースピードダイヤルにするのが筋なんじゃないかと思うのですがどうなんでしょうか。クリック感もよく考えられていて心地よいだけにもったいないですね。
光学4倍のマニュアルズームレンズは、35mm判換算の焦点距離は28-112mm相当で、開放F値はF2-2.8と結構なハイスペックだと思いますよ。正式名称はフジノン アスフェリカルレンズ スーパーEBC 7.1-28.4mm F2-2.8といいます。これね、かなりの高性能のレンズであることは間違いありません。
AFは像面位相差を採用しているためか、速度に不満はありません。筆者には十分であります。写りに関しての不満もありません。画素数に無理がないから味わいがある、なんて論評もあるのかもしれないですが、筆者にはいずれにしろ鮮鋭すぎるぐらいで、10年前のカメラとは思えないほどでした。
そりゃ、APS-Cセンサーを搭載した他のXシリーズに比べれば見劣りするでしょうが、風景などロングの被写体を撮影した場合、多少線が太いかなという程度でありますから、よほどの極端なトリミングをするとか、常に高感度で常用するとかでなければ問題ないんじゃないですかねえ。
それよりも、多くのカメラメーカーがコンパクトカメラの扱いを縮小していて、これは富士フイルムも例に漏れずですが、コンパクトカメラを何とか魅力あるものにするぜという意気込みは、10年前の本機にも間違いなく感じられました。今回は、欲しいカメラが買えなかったことをきっかけに、色々と見直すことができたのはよかったなあと。なんせ、使用して楽しみがあるのです。
で、ここまで書いて思い出したんですが、本機の後継機X30が1年後の2014年に出てくるのですが、筆者も当然すぐに飛びついたんですよ。ところが、なんだか面白くなくて、あのカメラ前面にあるマイクの穴が、「もーれつア太郎」に出てくる「べし」に似ているのがイヤなのです。
X30は簡単にいえば本機のOVFをEVFに載せ替えた仕様でしたが、この時のEVFは私の目に合わなかったのでしょうね。結局のところX20のほうが手元に残っていたのは、凝ったOVFを搭載していたからだと思います。これ、筆者にとってはかなり大切なことなのであります。放置していてすまねえX20。これからは、もっと活躍してもらうぜ。