赤城耕一の「アカギカメラ」

第62回:今年もカメラ放蕩宣言! FUJIFILM X20に惚れ直すの巻

このところ富士フイルムのデジタルカメラに関して、個人的にですけど、どうにもよろしくないことばかりが起こります。

長く愛用していたX100Sが昨年お亡くなりになり、もう部品がないから再起不能ですとの一報が入りました。ならば、これからは現行の人気機種X100Vで行こうではないかと、買うことを決めたのはいいのですが、品薄でどこにも売られていないわけです。

ったく、しゃあないなあとコンパクトなXがいいのでX-E4はありますか聞くと「とっくに販売終了していますよ。知らないんですか?」と、これも冷たくあしらわれ。

こうなると諦めが悪く、収まりがつかなくなるのが筆者の悪いところでありまして、ならば思い切ってX-T3から最新のX-T5に買い替えてやるぜ、レビューワーはみんな褒めてるし。と、いうことでこれも在庫を聞くと、「予約されていないとムリです」と、これも冷たくあしらわれてしまいました。

で、もうね最後のダメ押しで、あれほど嫌っていたX-Pro3にしちゃうよオレは、オトナだからいつまでもネチネチ言わないよ、サバサバしているよ、ということで、これも在庫があるかと聞いてみると、「いまブラックならありますけど、先頃、ディスコンが発表されたばかりですがよろしいですか?」とその場で聞かされるわけ。マジかよ。

もうね、手元には佃煮にしたくなるくらいたくさんのカメラがあるのに、欲しいものがすぐに入手できないとイヤな筆者です。予約して買うぜ、って行動をしないわけです基本的に。

とくに「仕事」よりも「私事」での使用を重視するカメラに関しては不要不急なものでありますから、出会いのときめきを大切にしたいのです。嘘です。単なるわがままです。

で一度火がついてしまうと鎮火するのに時間がかかる筆者ですから、悶々とネットで在庫検索とかを始めたりするわけですが、こういうのって意外と虚しいわけです。本当はいらないカメラを買うわけだから(笑)。

まっさら状態のX20ですね。シンプルなんですが、この距離でもファインダーが良い感じのアクセントになっておりますね。

すると視界の端にあった本棚の空きスペースに、小さなカメラが鎮座していることに気づきました。お前、これまで知ってて無視してたろう。はい、そうとも言えるかもしれません。これがですね、FUJIFILM X20だったのです。

しばらく使われずに放置プレイだったのは筆者の気まぐれによるものでありまして、まことに申し訳ないことをしました。そうだ、オレにはキミがいたんだと思い直し、今からでも遅くないからやり直そうということで、すぐにバッテリーをチャージして、同道してもらうことにいたしました。

仕事や移動の合間のスナップでも、スマホとは異なる画像を残すのだという意思を明確にするのに、コンパクトカメラの存在意義は大きいと思うのです。
FUJIFILM X20(F9・1/2,500秒)ISO 400 8.9mm
明暗差大きいのに、なかなかヤルねキミは。と言いたくなる階調のつながりの良さですね。クリアですし、2/3型センサーしかも10年前のカメラですが、なかなか優秀です。あ、カメラの画処理がいいのか。
FUJIFILM X20(F9・1/1,400秒)ISO 400 7.1mm
マクロモードにして撮影。中央が極端に明るく、露出や階調の繋がりなど、どこか破綻するかとみていたのですが、問題のない描写をしますねえ。
FUJIFILM X20(F2.8・1/800秒)ISO 400 13.7mm

FUJIFILM X20は2013年登場ですから、10年を経過しております。デジタルカメラの世界では十分にクラシックですな。イメージセンサーはローパスレスのX-Trans CMOS II(2/3型、1,200万画素)が搭載されています。ファインダーはなんとOVF! そこへデジタルトランス液晶を組み込んで、視野内に各種情報を表示していることも大きな特徴です。

なぜ本機のことを忘れていたかというと、コンパクトカメラに関しては「リコーGR III命」と二の腕に彫りたくなるような日々を、この数年送ってきたからであります。しかし、そこまでしても時おり浮気を(注:カメラに関しては。ここは強調しておきたい)したくなる筆者です。ええ、カメラ放蕩は還暦を過ぎても一向に治る気配がありません。

ふふ、X20には、GRにはないズームレンズが搭載されています。お前、いつも単焦点レンズを推してたじゃねえかよ、ですか。はい、裏切り、寝返り、朝令暮改でこれまでも嫌われてきました。カメラヒールな筆者であります。

X20は1,200万画素と、今では少なめの画素数です。でも、低画素好きの筆者にはピッタリです。これで撮影した画像でB0のポスターとかを作る予定はありませんし、基本はトリミングもしませんので。

普段使いはリコーGR IIIとかGR IIIxなんで、ワイドから標準くらいの目で世の中を見ているんですが、本機では望遠での観察も可能です。やはり気軽に撮影できるのは利点です。
FUJIFILM X20(F3.2・1/900秒)ISO 800 28.4mm
本機にはフラッシュが内蔵されています。これはリコーGR IIIユーザーの前でポップアップして見せびらかすためにありますので、ええ、ムリに使用する必要はありません。

何だか久しぶりに本気で使用したX20は新鮮でした。まずデザインがクラシックで、OVFの窓の位置などは、なんだか昔のフィルム時代のオリンパスPEN D3みたいな感じでいいですね。

電源は沈胴式ズームレンズを繰り出す動作でオンになります。はっきりとした感触があり、起動も速く、ズーミング動作との整合感がとても良い感じです。ズームリングの繰り出しで撮影体制に入るカメラとかレンズはそれなりにあるのですが、このわずかな動作が、「さあ行くぞ」という感じにさせられます。気合いですね。

専用フードを装着してみます。いきなりヤバすな雰囲気です。OVFですから、フードにケラレ低減のスリットが入ってます。正しいです。ミラーレスカメラのレンズにスリットの入りフードを装着することは意味がないので法律で禁じられています。

画像処理エンジンは「EXR Processor II」で、今となっては古めの世代なのでしょうが、使っていてイライラしない動作レスポンスが良いと思います。OVFはズーミングに伴って倍率が変わる仕組みで、凝っています。これを見たさに、つい手慰みにいじくりまわしたりします。

素通しのOVFの中には、シャッタースピード、絞り値、ISO感度、露出補正の警告といった情報が視野内に表示されるのですが、これがなかなかカッコいいのです。フォントもキレイですね。時々、邪魔くさく感じることもあるんですけどね。

OVF内をスマートフォンで撮影。視野の中に大胆に食い込んでくる撮影情報はテクノロジーとして先駆的な印象もあり、こんな小さなカメラでよくぞやってくれましたという感じがします。敬意を表して、今回はマクロ以外はファインダーを覗いて撮影しております。

いずれの表示も、EVFではなんでもないことなのでしょうが、OVFでここまでやるかという印象であります。多くのX20ユーザーは背面モニターでのライブビュー撮影をメインとして使うでしょうから、せっかくの凝ったOVFは遊んでいるのではないかと危惧してしまいました。

でもね、言葉は悪いですが、無駄であっても、こうしたOVFを内蔵しているということだけでもカメラ好きとしては萌えますね。

背面の十字キー周辺。シンプルでいいけど、ダイヤルは指掛かりがあまりよくないですね。誤作動防止のためですかね。タッチパネルは採用されていないので、結構いじるんですけど。
表に出ているAF-S/AF-C/MFの切り替えダイヤル。なんかこの存在だけでレトロ感あり。そんなにしょっちゅう切り替えないすよね。

そんなOVFに敬意を表して、今回はファインダーを積極的に使いました。逆光時のフレーミングや、周囲が明るい場合にはなかなか便利ですが、OVFの宿命としてパララックスはあります。もっともそんなことを気にしていたら面白くありませんぜ。でもOVFを主体的に使用するとバッテリーの消費は抑えられるのではないでしょうか。今回も、「あれ?古いバッテリーなのにけっこう撮れるぜ」という印象なんです。

今回も、年寄りが好きな石仏を撮りました。背景のボケには少しクセがあります。冬だというのに、おでこに筆者が弱含みのムシがついていました。でも頑張って撮影しました。怖いので追い払えませんでした。
FUJIFILM X20(F2・1/600秒)ISO 400 7.1mm
テレ端側で撮影しとります。寒いのにね、菜の花だけに春が来ていました。自然な描写ですね。絞りを開いても実焦点距離は28.4mmなので、そう大きなボケは期待できません。
FUJIFILM X20(F3.6・1/950秒)ISO 100 28.4mm
逆光撮影を試してみます。優れた描写です。ただ、被写体が少し遠いこともあり、拡大すると線の太さがわかります。もちろんむやみに拡大しなければいいだけのことです。
FUJIFILM X20(F9・1/1,500秒)ISO 400 7.1mm

撮影モードは上部の金属削り出しのアナログダイヤルで操作しますが、ここはXシリーズならばシャッタースピードダイヤルにするのが筋なんじゃないかと思うのですがどうなんでしょうか。クリック感もよく考えられていて心地よいだけにもったいないですね。

光学4倍のマニュアルズームレンズは、35mm判換算の焦点距離は28-112mm相当で、開放F値はF2-2.8と結構なハイスペックだと思いますよ。正式名称はフジノン アスフェリカルレンズ スーパーEBC 7.1-28.4mm F2-2.8といいます。これね、かなりの高性能のレンズであることは間違いありません。

露出補正は大好きなダイヤル方式。シャッターボタン中央にはケーブルレリーズ穴も空いております。使わないけど。モードダイヤルの存在が不満で、ここはシャッタースピードダイヤルが似合うでしょう。
天面に「FUJINON LENS SYSTEM」のロゴマークあり、光学レンズのカタチをしています。はい、わかりました。天下のフジノンレンズです。私たちも心して使わねばなりません。

AFは像面位相差を採用しているためか、速度に不満はありません。筆者には十分であります。写りに関しての不満もありません。画素数に無理がないから味わいがある、なんて論評もあるのかもしれないですが、筆者にはいずれにしろ鮮鋭すぎるぐらいで、10年前のカメラとは思えないほどでした。

そりゃ、APS-Cセンサーを搭載した他のXシリーズに比べれば見劣りするでしょうが、風景などロングの被写体を撮影した場合、多少線が太いかなという程度でありますから、よほどの極端なトリミングをするとか、常に高感度で常用するとかでなければ問題ないんじゃないですかねえ。

室内なので、感度をISO 1600に上げました。ノイズを感じさせず、十分に実用になる素晴らしさ。このあたりはさすがです、本当に。
FUJIFILM X20(F2.8・1/350秒)ISO 1600 21mm
季節的に蝋梅とか撮ってしまうわけです。年寄りなんで、これは仕方ありません。マクロモードに切り替えていますから、ワイド端になりますが、ボケ味は悪くないです。ダイナミックレンジも100のままですが、問題ありません。
FUJIFILM X20(F2.8・1/800秒)ISO 800 7.1mm
スーパーマクロに切り替えています。レンズ前1cmまで寄れますが、撮るものがないのです。あと、ワーキングディスタンスが取れないので、カメラの影が写ることがままあります。意外に使うのが難しいのです。
FUJIFILM X20(F2・1/950秒)ISO 800 7.1mm

それよりも、多くのカメラメーカーがコンパクトカメラの扱いを縮小していて、これは富士フイルムも例に漏れずですが、コンパクトカメラを何とか魅力あるものにするぜという意気込みは、10年前の本機にも間違いなく感じられました。今回は、欲しいカメラが買えなかったことをきっかけに、色々と見直すことができたのはよかったなあと。なんせ、使用して楽しみがあるのです。

で、ここまで書いて思い出したんですが、本機の後継機X30が1年後の2014年に出てくるのですが、筆者も当然すぐに飛びついたんですよ。ところが、なんだか面白くなくて、あのカメラ前面にあるマイクの穴が、「もーれつア太郎」に出てくる「べし」に似ているのがイヤなのです。

X30は簡単にいえば本機のOVFをEVFに載せ替えた仕様でしたが、この時のEVFは私の目に合わなかったのでしょうね。結局のところX20のほうが手元に残っていたのは、凝ったOVFを搭載していたからだと思います。これ、筆者にとってはかなり大切なことなのであります。放置していてすまねえX20。これからは、もっと活躍してもらうぜ。

都市の表層をえぐる、などと言ってみたくなりますが、大したことはありません。こうした地味なモチーフでも、確かな色再現が出てくるところがいいですよね。
FUJIFILM X20(F4.5・1/850秒)ISO 400 8.6mm
とあるお店のディスプレーなんですが、ガラスが汚れていたので、シャープな描写は封印され、良い感じの優しい描写になりました。
FUJIFILM X20(F2.2・1/400秒)ISO 800 10.4mm
X20のフィルムシュミレーションにはまだ「ACROS」が入っておりませんでした。通常のモノクロモードで撮影しとりますが、十分な結果であります。
FUJIFILM X20(F3.2・1/200秒)ISO 800 19.5mm
赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)