赤城耕一の「アカギカメラ」

第61回:1億画素で撮る下町の風景

〜ハッセルブラッドX2D 100C

新年あけましておめでとうございます。2023年の幕が開けました。読者の皆さまもステキな新年を迎えられたことと思います。私はお正月も執筆したり作例撮影しておりました。すでに今年の行末までが見えるような新年でございますね。

はい。つまらないことを言うのはこれくらいでやめて本年初回の「アカギカメラ」スタートいたします。

今回はお正月の新春特別企画として、少し大きな夢を見てみようということで、今回は話題の中判ミラーレスカメラ、ハッセルブラッドX2D 100Cの話をしようかと思います。

これは筆者がいま一番欲しいカメラです。そう遠くない将来に、なんとかお迎えできないかと、初詣にて、氏神様にお願いしてきたところであります。お賽銭もいつもより奮発しました。

現実をみてみれば、財力が乏しい筆者が無理して本機をお迎えできたとしても、小商いばかりですから、モトを取るのに相当な時間を要することは明白であります。このため本機導入を見送りをしているわけですね。いけません。お正月だというのに、また夢も希望もない現実を吐露してしまいました。

欲しいものがあったら一晩寝てから再考してみろとも言われますが、今回はなぜX2D 100Cがそんなに魅力があるのか、その理由をつらつらと書いてみます。

ハッセルブラッドX2D 100Cのイメージセンサーは43.8×32.9mmの裏面照射型CMOS。有効画素数は約1億(11,656×8,742)。ISO感度設定範囲はISO 64〜25600。簡単に言ってしまうと超高画素の中判カメラでありますね。

従来のX1D 50Cの5,000万画素から1億画素と、いきなり画素数は2倍に、そして新たにボディ内手ブレ補正機構を搭載しているのが大きい進化です。スペックとしては素晴らしいです。

レンズを外すと剥き出しの、43.8×32.9mm・有効画素数約1億の裏面照射型CMOSが見えます。イケナイものを見てしまった気分になります。ホコリの付着に注意し、すぐにレンズを装着するかボディキャップをしましょう。

でも、申し訳ないのですが、筆者は画素数などはあまり重要視していないものですから、X2D 100Cに関しても、カメラとしての完成度が高まっていることの方に強く注目をしてしまいました。

すでに本連載でも報告はしておりますが、筆者の元にはハッセルブラッド907X 50Cにお越しいただいており、スタンドアローンのカメラとしても、フィルムVシステムカメラのデジタルバックとしても活躍していただいております。

ところが、カメラとしてみるとX2D 100Cが圧勝しちゃうのです。当たり前なんですけどね。昨今では機能的に当然になりつつある被写体認識機能なども搭載されてはいないのですが、それでも“カメラ”としてみると、とても魅力的です。余計なものがついていないというシンプルさ、中判カメラなのに小型軽量であるのが好みです。

記録メディアにはCFexpress Type Bを採用しつつ、内蔵ストレージとして1TBのSSDを搭載しちゃうという、国産のカメラメーカーには見られない機能を備えているのも興味深いことであります。内蔵SSDがあまりにも快適に使えてしまうので、今回の撮影にはCFexpressを用意しませんでした。

そのため撮影画像は付属のUSBケーブルでPCに転送しましたが、デスクトップにストレージがマウントされる感覚って、黎明期のデジタルカメラを思い出して懐かしく感じました。ちなみに転送スピードにも不満はありませんでした。

全体のデザインはX1D II 50Cと変わらないんですが、ガンメタっぽい仕上げが好みです。レンズシャッター方式ですからVシステムの仲間になるのでしょうが、こちらも年寄りのハッセルユーザーですから、なかなかそれを認めるのに時間がかかりました。

X2D 100Cの外観デザインはX1D II 50Cと酷似しています。外観的な一番の違いは、天面のモードダイヤルの代わりに1.08型の液晶ディスプレイを搭載していることでしょう。

これがまたシンプルですが明快な視認性で、撮影モード変更のほか、露出設定やモード選択の選択を素早く行うことができます。USB充電時の電池残量のアイコン表示にもここに表示します。

1.08型の液晶ディスプレイはカメラ上部に。従来のダイヤルよりこちらの方が視認性がいいですね。表示も綺麗です。

ボディはアルミの削り出し、色は渋目のグレーですね。落ち着きと高級感があり好みです。背面のLCDは3.6型で236万ドット。チルトも可能なタッチパネル方式ですが、チルトさせて、上方からLCDを観察すると、気分はおじいさんが好きな、つまり私たちのハッセルブラッドVの撮影スタイルに少しだけ近づくことができます。もっと気分を盛り上げたい方は正方形フォーマットに切り替えて使えばいいわけですね。

EVFは576万ドットのOLEDで視認性は良好です。倍率は1倍あり広大で、眼鏡使用の筆者は画面内を見渡すためにくるくると目玉を動かさねばなりませんが、隅々まで観察したくなります。ファインダーの視度補正は電子視度調節機能を採用しておりまして、この動作も他のカメラに見られない新鮮でユニークなものです。

ボディー背面。操作ボタンが少ないことも嬉しい点で、いつのまにか使いもしない設定になっていたとか、間違えてダイヤル回してしまうとかいうミスもなくなります。カメラをいじくり回して遊ぶには物足りないのかもしれませんが、本機は戯れのカメラでもないですからねえ。
背面LCDはチルトします。撮影ポジションの自由度が得られます。ありがたいことです。縦位置の時はどうするか、少し引いた位置から撮影して縦にトリミングしちゃダメですか。

X2D 100Cのデザインはカッコイイと単純には言えないのですが、それでも不思議な魅力があります。なんだろう、ボディがシェイプされているからでしょうか。不思議なことです。もちろんハッセルXシリーズに共通する雰囲気は踏襲されており、四角い顔に丸い筒をとりつけたような愛嬌も感じます。

手にした印象で感動的なのは右手にある深めのグリップですね。これ、単純なことですが、とても驚きます。手のひらにグリップが吸いつくカメラだなと感じたのはずいぶんと久しぶりのことなので、これだけでも嬉しくなってしまいました。

片手でのハンドリングもいいし、手にしていても指が疲れず長時間保持することができます。もっともレンズと総計して200万円近く、しかも借用したカメラですから貧しい筆者にはビビりまくるセットであります。

撮影時にはストラップの使用はマストで、本機を首から下げ、そろりそろりと狂言師みたいに歩くことにしました。肩から下げるときはレンズを内側にすることも必ず守らねばなりません。

かろうじて残っていた紅葉です。ニュートラルな描写でいいと思います。下手に華美に走るってのは、品がありません。このレンズはボケ味もいいですね。
X2D 100C XCD 2,8/65(F3.2・1/640秒)ISO 400
草履のディテール描写がどうのとか書いてしまいそうですが、そんなことより、日陰の条件ですが落ち着きのあるコントラストと階調の再現性が好きですね。
X2D 100C XCD 2,8/65(F4・1/90秒)ISO 400

もっとも、本機に限らずライブビューの手持ち撮影では、首にストラップをかけたままカメラを前に思い切り突き出し、ストラップをピンと張るようなホールディングをすれば、手ブレを抑制することに役立ちます。X2D 100Cは新たにボディ内手ブレ補正機構も内蔵しましたから、さらに安心感がありますが、過信は禁物です。画素数を意識してしまうとわずかな手ブレも許せなくなりそうです。

軒先の暗い場所にあった熊手ですがISO感度を上げるのを忘れてしまい、そのまま撮影しました。手ブレ補正、バッチリ効いております。信頼度高いですね。斜光線ですが、良い感じの階調の再現です。
X2D 100C XCD 2,5/55V(F8・1/35秒)ISO 200
道端にあるお地蔵さんは必ず撮影してしまいます。おじいさんですから仕方ありません。この条件ではボケがちとうるさめですね。高周波成分が背景に多めだったからでしょうか。でもだからどうしたという感じです。
X2D 100C XCD 2,5/55V(F4・1/1,000秒)ISO 200

オレンジ色のシャッターボタンの中にもHASSELBLADの「H」文字があるのはこだわりですね。もっとも「V」の文字でもいいような気がしますが。どちらでもいいですかね(笑)。ストローク、押下感覚のともによく考えられています。

シャッターボタンはオレンジ色でシャレてます。「H」ロゴが刻まれておりますが、「V」の方が良くないですかねえ。

シャッターはリーフシャッター(レンズシャッター)方式で、今回試用したレンズのシャッター動作音はきわめて小さく、都市の喧騒の中では聞き取ることができないほどです。きちんと撮影されたかどうか不安になることもあり、連続して撮影するような場合には少しだけ不安になります。すみません、年寄りなものですから、ハッセルといえば、あの“バフッ”という空気が抜けるようなバックシャッター音を聴かないと手応えがないような気がするわけです。

本機はフォーカルプレンシャッターを搭載していませんが、電子シャッターに切り替えての使用も可能です。ただローリングシャッター歪みは無視できませんから、手持ちでの安易な撮影では厳しいかと。このため使用目的は限定されてしまいますが、専用のマウントアダプターを使用すれば、旧来のCFやCレンズも装着できますので、レンズの選択や表現によってうまく使い分けてくださいということでしょう。ま、無理をして使うことはありません。

交換レンズも、今回X2D登場に合わせて2,5/55V、2,5/38V、2,5/90VのコンパクトなXCDレンズが登場しました。デザインが刷新され、フォーカスリングを前後してAF/MFの切り替えが可能になっています。これにより、AFに設定していたつもりがMFのままだったという事故は防ぐことができるでしょう。MF時のフォーカスリングは適度に重く、指にも抵抗感があります。

レンズ名に「V」がつく、最新XCDレンズのフォーカスリング部分です。ハッセルがプッシュ&プルと呼ぶ機構の採用により、AF/MFの切り替えはワンアクションです。距離指標と被写界深度指標が現れますが、これだけで、ハッセルのデザイナーと開発者と握手したいくらいです。
新しい3本のレンズには「V」のエンブレムがあります。フィルム時代のVシリーズでも、新型機になるとこのVのロゴはあまり見られなくなりますし、その意味をご存知の方も少ないのではないでしょうか。あえてここでVシステムであることを強調しているのは何か理由があるのかもしれないですね。

フォーカスリングをスライドさせたMF時には、距離指標と同時に被写界深度指標も現れます。グリースの詰まったヘリコイドを回すようなトルク感、フィーリングが維持されていることは、高く評価したいところです。交換レンズの実焦点距離からみれば、35mm判のレンズに近い感覚で使用することができますので、広角の2,5/38VレンズならばMFでの目測撮影や置きピンでの撮影も容易でしょう。

ただしですね、ちょっと矛盾してしまうのですが、本機は画素数が1億あり、合焦位置の緻密な描写性能において、抜きん出てたものがあります。そのポテンシャルを最大限に生かした作品を制作しようと考える時には、慎重なフォーカシングは重要です。レンズは焦点距離によらず、合焦位置は一点にしかないという光学理論の基礎、原則を頭に入れておく必要は出てきそうです。場合によってはフォーカシングの位置の見極めや絞りの選択も、従来より慎重に考えねばなりません。

至近距離で絞りを開きました。55mmという焦点距離ですからそこそこはボケますが、高解像力のためでしょうか、より被写界深度が浅く感じます。フォーカシングは慎重に行いたくなります。
X2D 100C XCD 2,5/55V(F3.2・1/750秒)ISO 400
至近距離でもかっちりスッキリです。シャドーの描写も良い感じです。こうした暗めの色の被写体の場合には、階調の繋がりはとても重要になります。
X2D 100C XCD 2,5/55V(F8・1/480秒)ISO 400

ただ、救いだなあと思うのはX2D 100Cは超高画素、超高級機でありながら、使用にあたって、堅苦しさをまったく感じさせないことです。これはカメラとしてもとても良いことです。筆者も本機で撮影を始めた当初は高画質への追及を意識しすぎて慎重になりすぎてしまいシャッターを気軽に押せなくなりました。大した作例でもないというのに緊張したりするわけです。ええ、気が小さいのです(笑)。

しばらくするとそうした緊張も解けて、1億画素カメラだというのに家の近所の山茶花やら下町にあるヤレた壁なんかも平気で撮影するようになりました。ええ、写真の内容は画素数で左右されるものではありませんので。なんちって。

なんてことはない街角の風景でありまして、1億画素カメラで撮影する必然もまったくないわけですが、お気軽に撮影できてしまうところにX2D 100Cの素晴らしさがあるわけですね。
X2D 100C XCD 2,5/38V(F7.1・1/950秒)ISO 200
工場の煙突とか配管もつい撮ってしまう被写体であります。ええ、1億画素で撮る必然はありません。斜光線で明暗差が大きいのですが、カメラ任せでこの階調の繋がりならば文句なしです。
X2D 100C XCD 2,5/38V(F11・1/500秒)ISO 400
ディテール再現がどうのというより、画像から凄みみたいなものを感じるのは高解像度かつレンズの性能が高いからでしょうか。あえて周辺光量補正をオフにして、周辺からイメージが逃げてしまうのを防いでみました。
X2D 100C XCD 2,5/38V(F9・1/2,000秒)ISO 400

本機は像面位相差AFを採用していることもあり、素早く合焦します。こうした心地よさも写真制作の楽しみに繋がるわけですから、極端に硬直した考え方は捨てるべきでしょう。財力と度胸があれば、フィールドでも街頭でも気軽に持ち出せるカメラであることは間違いありません。

繰り返しますが、ハッセルブラッドX2D 100Cは現時点で筆者が最も欲しいカメラであります。スペックとは関係なく、自分の撮影スタイルに一番合っていると思えるからです。ただ、ボディのみならず、交換レンズの価格をみると、現実を離れた、自分とはかなり遠いところにあります。

そこで提案ですが、カメラ部の仕様はこのままで、画素数を従来通りの半分程度に抑え、可能な限り廉価にしていただいたモデルを用意していただくのは難しいのでしょうか。もっとも最大の問題なのは、1億という超高画質を生かすことができる依頼仕事がこないことです。どなたか仕事ください。新年早々“営業”しました(笑)。本年もどうぞよろしくお願いします。

屋根の質感や、松の描写なども素晴らしいです。さすが1億画素とか書いた方がいいのかもしれませんが、別に写真の内容には寄与しておりません。スタジオよりフィールドで活躍させてあげたくなるカメラです。
X2D 100C XCD 2,5/55V(F8・1/1,250秒)ISO 400
下町の情緒的な風景ですが、X2D 100Cで撮影すると、冷酷なまでに隅々まで描写するのか、シリアスな雰囲気になるわけです。不思議ですね。周辺光量補正は切ってあります。
X2D 100C XCD 2,5/38V(F10・1/2,000秒)ISO 400
赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)