赤城耕一の「アカギカメラ」
第61回:1億画素で撮る下町の風景
〜ハッセルブラッドX2D 100C
2023年1月5日 09:00
新年あけましておめでとうございます。2023年の幕が開けました。読者の皆さまもステキな新年を迎えられたことと思います。私はお正月も執筆したり作例撮影しておりました。すでに今年の行末までが見えるような新年でございますね。
はい。つまらないことを言うのはこれくらいでやめて本年初回の「アカギカメラ」スタートいたします。
今回はお正月の新春特別企画として、少し大きな夢を見てみようということで、今回は話題の中判ミラーレスカメラ、ハッセルブラッドX2D 100Cの話をしようかと思います。
これは筆者がいま一番欲しいカメラです。そう遠くない将来に、なんとかお迎えできないかと、初詣にて、氏神様にお願いしてきたところであります。お賽銭もいつもより奮発しました。
現実をみてみれば、財力が乏しい筆者が無理して本機をお迎えできたとしても、小商いばかりですから、モトを取るのに相当な時間を要することは明白であります。このため本機導入を見送りをしているわけですね。いけません。お正月だというのに、また夢も希望もない現実を吐露してしまいました。
欲しいものがあったら一晩寝てから再考してみろとも言われますが、今回はなぜX2D 100Cがそんなに魅力があるのか、その理由をつらつらと書いてみます。
ハッセルブラッドX2D 100Cのイメージセンサーは43.8×32.9mmの裏面照射型CMOS。有効画素数は約1億(11,656×8,742)。ISO感度設定範囲はISO 64〜25600。簡単に言ってしまうと超高画素の中判カメラでありますね。
従来のX1D 50Cの5,000万画素から1億画素と、いきなり画素数は2倍に、そして新たにボディ内手ブレ補正機構を搭載しているのが大きい進化です。スペックとしては素晴らしいです。
でも、申し訳ないのですが、筆者は画素数などはあまり重要視していないものですから、X2D 100Cに関しても、カメラとしての完成度が高まっていることの方に強く注目をしてしまいました。
すでに本連載でも報告はしておりますが、筆者の元にはハッセルブラッド907X 50Cにお越しいただいており、スタンドアローンのカメラとしても、フィルムVシステムカメラのデジタルバックとしても活躍していただいております。
ところが、カメラとしてみるとX2D 100Cが圧勝しちゃうのです。当たり前なんですけどね。昨今では機能的に当然になりつつある被写体認識機能なども搭載されてはいないのですが、それでも“カメラ”としてみると、とても魅力的です。余計なものがついていないというシンプルさ、中判カメラなのに小型軽量であるのが好みです。
記録メディアにはCFexpress Type Bを採用しつつ、内蔵ストレージとして1TBのSSDを搭載しちゃうという、国産のカメラメーカーには見られない機能を備えているのも興味深いことであります。内蔵SSDがあまりにも快適に使えてしまうので、今回の撮影にはCFexpressを用意しませんでした。
そのため撮影画像は付属のUSBケーブルでPCに転送しましたが、デスクトップにストレージがマウントされる感覚って、黎明期のデジタルカメラを思い出して懐かしく感じました。ちなみに転送スピードにも不満はありませんでした。
X2D 100Cの外観デザインはX1D II 50Cと酷似しています。外観的な一番の違いは、天面のモードダイヤルの代わりに1.08型の液晶ディスプレイを搭載していることでしょう。
これがまたシンプルですが明快な視認性で、撮影モード変更のほか、露出設定やモード選択の選択を素早く行うことができます。USB充電時の電池残量のアイコン表示にもここに表示します。
ボディはアルミの削り出し、色は渋目のグレーですね。落ち着きと高級感があり好みです。背面のLCDは3.6型で236万ドット。チルトも可能なタッチパネル方式ですが、チルトさせて、上方からLCDを観察すると、気分はおじいさんが好きな、つまり私たちのハッセルブラッドVの撮影スタイルに少しだけ近づくことができます。もっと気分を盛り上げたい方は正方形フォーマットに切り替えて使えばいいわけですね。
EVFは576万ドットのOLEDで視認性は良好です。倍率は1倍あり広大で、眼鏡使用の筆者は画面内を見渡すためにくるくると目玉を動かさねばなりませんが、隅々まで観察したくなります。ファインダーの視度補正は電子視度調節機能を採用しておりまして、この動作も他のカメラに見られない新鮮でユニークなものです。
X2D 100Cのデザインはカッコイイと単純には言えないのですが、それでも不思議な魅力があります。なんだろう、ボディがシェイプされているからでしょうか。不思議なことです。もちろんハッセルXシリーズに共通する雰囲気は踏襲されており、四角い顔に丸い筒をとりつけたような愛嬌も感じます。
手にした印象で感動的なのは右手にある深めのグリップですね。これ、単純なことですが、とても驚きます。手のひらにグリップが吸いつくカメラだなと感じたのはずいぶんと久しぶりのことなので、これだけでも嬉しくなってしまいました。
片手でのハンドリングもいいし、手にしていても指が疲れず長時間保持することができます。もっともレンズと総計して200万円近く、しかも借用したカメラですから貧しい筆者にはビビりまくるセットであります。
撮影時にはストラップの使用はマストで、本機を首から下げ、そろりそろりと狂言師みたいに歩くことにしました。肩から下げるときはレンズを内側にすることも必ず守らねばなりません。
もっとも、本機に限らずライブビューの手持ち撮影では、首にストラップをかけたままカメラを前に思い切り突き出し、ストラップをピンと張るようなホールディングをすれば、手ブレを抑制することに役立ちます。X2D 100Cは新たにボディ内手ブレ補正機構も内蔵しましたから、さらに安心感がありますが、過信は禁物です。画素数を意識してしまうとわずかな手ブレも許せなくなりそうです。
オレンジ色のシャッターボタンの中にもHASSELBLADの「H」文字があるのはこだわりですね。もっとも「V」の文字でもいいような気がしますが。どちらでもいいですかね(笑)。ストローク、押下感覚のともによく考えられています。
シャッターはリーフシャッター(レンズシャッター)方式で、今回試用したレンズのシャッター動作音はきわめて小さく、都市の喧騒の中では聞き取ることができないほどです。きちんと撮影されたかどうか不安になることもあり、連続して撮影するような場合には少しだけ不安になります。すみません、年寄りなものですから、ハッセルといえば、あの“バフッ”という空気が抜けるようなバックシャッター音を聴かないと手応えがないような気がするわけです。
本機はフォーカルプレンシャッターを搭載していませんが、電子シャッターに切り替えての使用も可能です。ただローリングシャッター歪みは無視できませんから、手持ちでの安易な撮影では厳しいかと。このため使用目的は限定されてしまいますが、専用のマウントアダプターを使用すれば、旧来のCFやCレンズも装着できますので、レンズの選択や表現によってうまく使い分けてくださいということでしょう。ま、無理をして使うことはありません。
交換レンズも、今回X2D登場に合わせて2,5/55V、2,5/38V、2,5/90VのコンパクトなXCDレンズが登場しました。デザインが刷新され、フォーカスリングを前後してAF/MFの切り替えが可能になっています。これにより、AFに設定していたつもりがMFのままだったという事故は防ぐことができるでしょう。MF時のフォーカスリングは適度に重く、指にも抵抗感があります。
フォーカスリングをスライドさせたMF時には、距離指標と同時に被写界深度指標も現れます。グリースの詰まったヘリコイドを回すようなトルク感、フィーリングが維持されていることは、高く評価したいところです。交換レンズの実焦点距離からみれば、35mm判のレンズに近い感覚で使用することができますので、広角の2,5/38VレンズならばMFでの目測撮影や置きピンでの撮影も容易でしょう。
ただしですね、ちょっと矛盾してしまうのですが、本機は画素数が1億あり、合焦位置の緻密な描写性能において、抜きん出てたものがあります。そのポテンシャルを最大限に生かした作品を制作しようと考える時には、慎重なフォーカシングは重要です。レンズは焦点距離によらず、合焦位置は一点にしかないという光学理論の基礎、原則を頭に入れておく必要は出てきそうです。場合によってはフォーカシングの位置の見極めや絞りの選択も、従来より慎重に考えねばなりません。
ただ、救いだなあと思うのはX2D 100Cは超高画素、超高級機でありながら、使用にあたって、堅苦しさをまったく感じさせないことです。これはカメラとしてもとても良いことです。筆者も本機で撮影を始めた当初は高画質への追及を意識しすぎて慎重になりすぎてしまいシャッターを気軽に押せなくなりました。大した作例でもないというのに緊張したりするわけです。ええ、気が小さいのです(笑)。
しばらくするとそうした緊張も解けて、1億画素カメラだというのに家の近所の山茶花やら下町にあるヤレた壁なんかも平気で撮影するようになりました。ええ、写真の内容は画素数で左右されるものではありませんので。なんちって。
本機は像面位相差AFを採用していることもあり、素早く合焦します。こうした心地よさも写真制作の楽しみに繋がるわけですから、極端に硬直した考え方は捨てるべきでしょう。財力と度胸があれば、フィールドでも街頭でも気軽に持ち出せるカメラであることは間違いありません。
繰り返しますが、ハッセルブラッドX2D 100Cは現時点で筆者が最も欲しいカメラであります。スペックとは関係なく、自分の撮影スタイルに一番合っていると思えるからです。ただ、ボディのみならず、交換レンズの価格をみると、現実を離れた、自分とはかなり遠いところにあります。
そこで提案ですが、カメラ部の仕様はこのままで、画素数を従来通りの半分程度に抑え、可能な限り廉価にしていただいたモデルを用意していただくのは難しいのでしょうか。もっとも最大の問題なのは、1億という超高画質を生かすことができる依頼仕事がこないことです。どなたか仕事ください。新年早々“営業”しました(笑)。本年もどうぞよろしくお願いします。