熱田護の「500GP-Plus」

第17回:海外滞在中、2018年を振り返って

EOS-1D X Mark II EF400mm F2.8L III USM(F2.8・1/3,200秒) ISO 200

この原稿を書いているのは締め切り日のギリギリ、2021年6月29日。オーストリアの宿泊先からです。今年のF1をどうしても撮影したくて日本を出発して2カ月半ぐらいが経ちました。次の帰国は8月頭を予定しています。海外の取材は慣れてはいるものの、こんなにも長期の海外滞在は初めてです。

去年のF1撮影は、コロナの影響で4戦しか取材許可が出ませんでした。大好きな日本にいることが出来たという以外は、非常にフラストレーションが溜まる1年を経験しました。今年はHONDA F1の最終年、それと同時に待ちに待った日本人ドライバーの角田選手のデビューイヤーでもあります。取材許可も、今年はなんとかなりそうだという事も確認できたので、ヨーロッパに滞在して取材をすることに決めました。

ここまで7戦の取材をしてみて分かったのは、各国ごとの入国制限が違うので、その申請やPCR検査と移動の算段、経費節減の努力と安全と、コロナに罹患しないように生活することです。日本食への渇望する気持ちの処理の工夫などなど、それを書き始めると大変なことになるので、それについてはまたの機会に譲るとして、とにかく予想以上に大変です。

でも、思い切り写真を撮れるという幸せは、前述の苦労などどうでもよくなる程になってしまいます。要約すると、まあまあ辛いけれど、超楽しいという感じで過ごしています。何より、コロナに感染することだけは避けて、今年の取材を乗り切りたいと思っています。

さて、前置きがとても長くなってしまいましたが、今回も前回に引き続き、2018年シーズンをもう少しだけ振り返りたいと思います。

トップに選んだのはシンガポールGP。パドックに置かれた投光器をバックにハミルトン選手の横顔を撮りました。キャップのスリーポインテッド・スターが辛うじて分かるようにして、ほぼシルエットとして再現されるような露出を選びました。そういえば、シンガポールGPは昨年に続き今年の開催も中止という発表がありました。残念ですね。

EOS-1D X Mark II EF35mm F1.4L USM(F1.4・1/1,250秒) ISO 100

中国GP、レース前のグリッドでマシンの様子をエンジニアに伝える、ガスリー選手。この真剣な表情からF1の緊張感が伝わってきます。

去年からコロナ対策でカメラマンはグリッドやピットレーン、パドックに入れなくなってしまいました。こうした写真を振り返ると、また撮りたくなってしまいますね。

EOS-1D X Mark II EF85mm F1.4L USM(F1.4・1/125秒)ISO 640

この写真、絵的(構図)には、どうということは全くなく。ルノーのガレージにずかずかと入っていく、メルセデスドライバーのハミルトン選手。

各チームのガレージは、各々別々になっていて、トップチームになればなるほど秘密にしたいものがたくさん置かれていますので、他チームの人が入るというのは、基本的にNGなんですけどね……。なんだか、笑顔がちょっと楽しそうですね。ルノーのスタッフからしたら、いい迷惑だったんじゃないでしょうか(笑)。

EOS-1D X Mark II EF35mm F1.4L USM(F1.4・1/100秒) ISO 2000

日本GP、前夜祭でファンにサインするベッテル選手。日本のF1ファンは、世界的にみても熱量が高い。コロナの感染状況などもあるとは思いますが、HONDAの勇姿をぜひ今年は生で見られることを切に願います。

EOS-1D X Mark II EF11-24mm F4L USM(F9・1/2,500秒) ISO 500

鈴鹿サーキットは鈴鹿出身の僕としてもホームレース。たくさんのお客さんに、この場所でF1が走る勇姿を見てもらいたいと思います。ライブで見るF1は、テレビで見るのとは、また違う魅力と迫力があります。

ホンダ参戦の最終年でもありますし、ここまで4連勝と絶好調、ひょっとするとチャンピオンを獲得することになるかもしれません。開催が決まり、お客さんを入れることが出来たら、ぜひ鈴鹿サーキットに見に行って、応援をお願いします!

EOS-1D X Mark II EF85mm F1.4L USM(F1.4・1/2,000秒) ISO 200

レース後のパルクフェルメに置かれたマシン。天空の明るさを受けて、シルバーのメルセデスが鈍く光ります。

EOS-1D X Mark II EF400mm F2.8L III USM(F2.8・1/6,400秒) ISO 400

アメリカGPは超満員のお客さん。このような光景は2年間ぐらい見ていません。早く、普通の世の中に戻ってほしい。

EOS-1D X Mark II EF11-24mm F4L USM(F5.6・1/3,200秒)ISO 500

アメリカGPで優勝したライコネン選手。今から振り返るとフェラーリで優勝した最後のレースとなりました。今年もアルファロメオで走っているライコネン選手。歯に衣着せぬ物言いは今や貴重な存在で、僕の大好きな選手の1人です。

EOS-1D X Mark II EF50mm F1.2L USM(F1.2・1/1,000秒) ISO 500

トロロッソのガレージに入って撮らせてもらった1枚です。マシンのセットアップに時間がかかるので、ヘルメットを脱いでいたガスリー選手の真横に行って撮りました。

この時、近くにいたので、ガスリー選手も当然撮られているのは分かるわけで、バルクラバを鼻にかけたり外したり、いろいろ撮らせてくれました。

EOS-1D X Mark II EF35mm F1.4L USM(F1.4・1/5,000秒) ISO 200

最終戦のアブダビGP、このレースでF1から引退かと言われていたアロンソ選手。マクラーレン・ホンダ時代に、ホンダPU(パワーユニットの略)のことを批判した発言が多数あったことで、日本で多くのアンチファンが増えてしまいました。

でも、僕は大好きな選手という事に変わりはなく、F1からいなくなってしまうのは勿体ないと思ったし、残念な気持ちでした。しかし、今年は復帰して、元気に走っています! 本当に嬉しい!

EOS-1D X Mark II EF400mm F2.8L III USM(F2.8・1/1,000秒) ISO 4000

最終戦の表彰台で、自慢の刺青を大公開したハミルトン選手。いつか、披露したいと思っていたんでしょうね。表彰台で裸になったの選手を見たのは、初めてでした。おじさん的には、よく分かりません……。

EOS-1D X Mark II EF85mm F1.4L USM(F1.4・1/1,600秒) ISO 100

マックス・フェルスタッペン選手。間違いなく、これからのF1でトップを走り続ける選手の1人です。その速さ、強さは多くのファンを獲得していますし、2021年6月現在は、チャンピオンシップの首位を走っています。

EOS-1D X Mark II EF35mm F1.4L USM(F1.4・1/4,000秒) ISO 200

サーキットには欠かせない、重要な仕事をしているマーシャルさんたち。彼らなしにはレースは成り立ちません。コース脇を仕事場にしている、我々カメラマンと同じ場所にいます。

お互いにその仕事を尊重しながらいる感じで、時にはマーシャルポスト脇から撮らせてくださいとお願いすることもあります。毎年会う人もいて、元気だったかという会話も楽しみの1つであったりもします。

最後に嬉しいことがあったので報告させていただきます。

2019年に写真集「500GP」を出版してくれたデジタルカメラマガジン編集部から、2022年のF1カレンダーを発売することが決まりそうです。HONDAのラストイヤーということもあって、2021年前半戦のHONDAの勇姿から写真をピックアップするつもりです。大判ポスターみたいなデザインに仕上げたいと思っています。もちろん、デザイナーは「500GP」を手掛けてくれた福田典嗣さんです。正式に決まったら、この連載でまた報告させていただきますので、こちらもご期待ください。

熱田護

(あつた まもる)1963年、三重県鈴鹿市生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。85年ヴェガ インターナショナルに入社。坪内隆直氏に師事し、2輪世界GPを転戦。92年よりフリーランスとしてF1をはじめとするモータースポーツや市販車の撮影を行う。 広告のほか、雑誌「カーグラフィック」(カーグラフィック社)、「Number」(文藝春秋)、「デジタルカメラマガジン」(インプレス)などに作品を発表している。2019年にF1取材500戦をまとめた写真集『500GP』(インプレス)を発行。日本レース写真家協会(JRPA)会員、日本スポーツ写真協会(JSPA)会員。