熱田護の「500GP-Plus」
第18回:1993年のアイルトン・セナ
2021年8月1日 07:00
今回は、1993年のバトルを振り返りたいと思います。この年はアイルトン・セナ選手を中心に撮影していました。
この文章を書くだけでも悲しいのですが、翌1994年、セナ選手はイタリア(イモラ・サーキット)で旅立っていくことになります。結果的にこの1993年が僕にとって一番、セナ選手の写真がたくさん手元に残っています。
ポルトガルのエストリル・サーキット。このサーキットは、透明感のある光が印象的で、僕も大好きなコースの1つでした(1984年から1996年まで)。ポルトガルは1996年を最後にしばらく脱落していたのですが、2020年に復活。2021年も第3戦に開催、その舞台はポルティマンにあるアルガルベ・サーキットですが、やはりキレイな光が印象的でした。
セナ選手の乗るマクラーレンはホンダエンジンを失い(ホンダがF1から撤退したため)、この年からはフォードエンジンを搭載します。車体はいいんですけど、エンジンに不満があって、実質ウイリアムズの速さばかりが目立つシーズンとなりました。
ホンダエンジンを失ったマクラーレンですが、それでも雨が降ればセナ選手が俄然、その速さを見せてくれます。この、イギリスのドニントンサーキットで行われたレースは、伝説のグランプリとなったので、F1好きであれば、記憶に残っている人も多いのではないでしょうか。
スタートを5番手で1コーナーを回って、再びホームストレートに現れた時にはトップでした。圧倒的なマシンパフォーマンスのウイリアムズに乗るプロスト選手とヒル選手に対して一歩も譲らないセナ選手のスピードは、まさに圧巻でした。
雨により、マシンパフォーマンスの差をドライバーの実力が埋めた展開でした。そういえば、最近は雨で速い選手が勝つという事がめっきり減ってしまったのは何故なんでしょうかね。
セナ選手の横顔。当時、33歳。
独特の雰囲気がありますよね。なんとも言えぬ彼ならではの世界観。僕もその魅力に惹かれた1人です。
F1という最高峰の舞台で、その速さを証明し、もちろん日本でも圧倒的な人気を誇ったアイルトン・セナ選手。僕は偶然、この時期にモータースポーツカメラマンをしていて、彼の写真を撮れたという事に感謝をしています。
もちろん、親しくなって話をするというような関係性ではなく、ただただ、ひたすらにその姿を撮りたくてガレージに行き、その走っている姿を撮りたくてコースに出るという繰り返しでした。
ライトテーブルの光をポジフィルムに透過させて、浮かび上がる写真の中には、確かに彼がそこにいると感じることができました。デジタルカメラの液晶モニターに写るものは何かが違うように思える。いやいや、単にノスタルジーに浸っているだけなのかもしれませんね。
カナダGPの1シーン。マシントラブルでレッカーと共にピットに帰ってくる画面です。自分ではどうしようもない虚しさ。ファインダー越しにも、不機嫌であることが伝わってきました。
大雨が止んで、トップを走るウイリアムズのヒル選手を抜き、勝利に向かってアクセルを踏む。リアが流れてもマシンの勢いは前へ前へと。地元、サンパウロのサーキットで雨を降らせたのは、神様がセナ選手に与えたご褒美だったのかもしれません。
南アフリカGP、開幕戦の序盤のトップ争い。セナ選手とプロスト選手、そしてフル参戦2年目のベネトンに乗るシューマッハ選手。F1を語る上で欠かすことができない豪華な3人が並んでいます。
しかし実際には、ウイリアムズ・ルノーのパフォーマンスが圧倒的でした。セナ選手が奮闘して5勝だったのに対して、ウイリアムズはプロスト選手が7勝、ヒル選手が3勝という結果でした。
次回も1993年をもう少し、振り返ってみたいと思います。